どんな本か?
ピクサー、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ、ILMにて、ストーリーをテーマとしたセミナーの人気講師であるブライアン・マクドナルド氏による脚本構成に関する本です。
タイトルの「インビジブルインク」とは、「ビジブルインク(見える言葉)」と言うセリフや文体、文章ではなく「見えない言葉」の事です。
この本では「インビジブルインクの法則」を紹介する事で、ストーリーテラーに対して、サブテキストに始まる「様々な見えない言葉の使い方」を10章に渡って教え、同時に全ての読者に対して物語の中にある見えない言葉の拾い方を指南しています。
見えない言葉が見える様になれば、視聴者や読者は、無意識で感じていた作品のテーマやメッセージをハッキリと認識出来、物語創作者は自分の描く物語にインビジブルインクを適応する事で深みを持たせることが出来る様になります。
良い物語の完成品はシンプルだが、その作成は困難。
インビジブルインクの前に一つ。
著者は、創作もスポーツと似た所があると語っています。
例えば、素人がスポーツをすると動きがぎこちなく、上手くいく事もあれば、あらぬ事になる事もあります。
ですが、名プレーヤーになればなるほど、最小限の動きで、安定した成果を挙げられます。
これは物語作りでも同じ事で、素人的である程、複雑な事をしようとします。
それは、創作者の意識の有無問わず「難しい事の方が優れている」と考えている時に陥る罠です。
トッププレイヤーに成れば成る程、動きに無駄が無くなり、洗練された最小限の動きで成果をモノにします。
時々飛び出すスーパープレイに、人々は目を奪われがちですが、それだけを目指していてはトッププレイヤーにはなれません。
トッププレイヤーを支えているのは、完成されたシンプルな動きです。
複雑な程、優れていると言う考えは素人には危険です。
「見た目は複雑だが、洗練されていて理解するとシンプル」を目指しているのでしょうが、最初からそんなスーパープレイはハードルは高すぎます。
大抵は「無駄が多く、悪戯に混乱する何か」が出来て終わります。
それに、シンプルでも面白い物は面白く、シンプルな物を面白く出来ない人が、複雑さで面白くさせようとする事には無理があります。
作りたい物語が「やたらと複雑で難しい物語」ではなく「見た者を楽しませる物語」であるなら、シンプルである事は「良い事」だと受け入れる事が始まりとなります。
そうすれば、本書のテクニックを身に着けて行けば、望んでいた複雑性にも辿り着く助けになるでしょう。
様々なインビジブルインクの法則
シンプルさを受け入れ、いざ本編が始まれば、法則の例と使い方の解説が始まります。
本書の各章は、1~8の表題で分かりやすく解説され、その全てがインビジブルインクと言う切り口でテクニックを語る事に終始しています。
クローン(対比となるキャラクター)や修羅場(主人公が追い詰められる状況)なども、インビジブルインクと言う切り口で語られ、見えないが(見えているが意識しないで)感じる意味や役割が読めば分かる筈です。
その中で、著者は「なぜ」そうする方が理にかなっているか、有益なのか、をしっかりと明言してくれる為、既にテクニックとして知っていた法則や技術でも、学びが深まる内容となっています。
幾つか例を挙げると
- 物語のテーマと論理、どちらを優先させるべきか?
- 何を基準に物語をブラッシュアップすれば良いか?
- 主人公が死ぬとしたら、どのタイミングが最も良いか?
これらの疑問に明確に答え、自信を持って自分の物語に適応できますか?
他にも読めばインビジブルインクへの理解も深まると共に、物語創作者が疑問に思う事への著者からの例を使った解説と明快な返答が、本書には幾つも詰まっています。
まとめ
本書ですが、日本では2018年9月25日初版発行、ハードカバーで230項のボリュームです。
セリフやサブテキスト等を取り扱った解説書は見かける事がありますが、インビジブルインクと言う切り口の本は、読んだ事が無かった為、面白く、すぐに読み終わってしまいました。
文体も固く無く、専門用語も解説がされ、誰にでも読みやすいです。
値段が定価2800円と専門書らしく多少お高めですが、ストーリーテラーとしてワンランク上を目指していて本書を読むステージに立っている人や、純粋にインビジブルインクを学びたい人にとっては、価値ある良書となっております。
物語の裏に隠されたメッセージを知りたい人や、書いている物語にしっかりと深みを持たせたいとお考えの方などは、まずは本書を覗いて見てはいかがでしょうか?