物語の種の育て方
この記事では、誰でも簡単に物語の種を育てる事が出来る方法の一つを紹介します。
ここでは、例として「このマンガがすごい!」でも話題になった「ダンジョン飯」を想定して、シミュレーションしていきます。
この記事を読まれる方は、創作者であれば自身の作品に当てはめたり、創作中の物語や、新たな物語を想像しながらお読み頂ければ幸いです。
創作者で無くとも「ダンジョン飯」や、ご自身の好きな作品を思い出しながらお読み頂きたく思います。
※本記事は、あくまでもシミュレーションなので「ダンジョン飯」が実際に作られた工程とは一切関係ありません。
その点は、ご了承ください。
その1:ネタ出し
物語を書き始める始点で以前も触れましたが、物語を作るには最低限、
- 世界観
- キャラクター
- キャラクターの行動
の3点が必要となります。
「どこで」「誰が」「何をする」
この3点の内の、どれかを考え始める始点に据えて、今回は、そこから物語作りを始めましょう。

世界観
まずは、どういう世界を舞台にするかです。
- 現実
- サイエンスフィクション
- ファンタジー
ザックリと、この3つを選ぶだけで、世界観の方向性は見えてきます。
現実的か、空想科学的か、超自然的か。
これらを合わせる事も勿論可能です。
他にも「時代」や「場所」を指定すれば、世界観は更に固まります。
ダンジョン飯では、もちろん「ファンタジー」を選ぶ事になります。
キャラクター
これは、物語の登場人物のイメージが先行して思い浮かんでいる場合です。
これが決まっていると、同時に世界観も見えて来る事もあります。
登場人物を構成する要素について以前に書きました、4つのキャラクターを構成する要素があります。
- パーソナル情報:個人を特定する情報。名前とか誕生日とか。
- フィジカル情報:肉体の情報。金髪碧眼とか中肉中背とか。
- メンタル情報:優しいとかズボラとか。人生で培った価値観とか。
- キャリア情報:今まで何をしてきたか。
この4要素から、まずは難しい事を考えず、どれかを選んで大まかな登場人物を考えましょう。
一番イメージが湧きやすく、おススメしたいのはキャリア情報です。
登場人物ですが、ダンジョン飯では「冒険者」とします。
つまり、キャラクターは冒険者として生きて来た、またはこれから冒険者を目指す人物と言う事になります。
ここで冒険者を選ぶと、自動的に冒険者が存在出来る世界観をイメージする事となります。
これがフィジカル情報になれば、例えば主人公をエルフやヴァンパイアにしたいなんて考え始め方も可能です。
行動
登場人物達に何をさせる物語なのかが、先に決まっている場合です。
- 恋愛(ラブストーリー)
- 友情(バディ)
- 推理(ミステリー)
- 試合(スポーツ物)
- 旅(冒険物)
- 対決(ヒーロー)
他にも選択肢は、実に膨大です。
ですが、行動の方向性が決まると言う事は、ネタ出しに置いては、重要な事です。
行動が決まると、使える物語の構造の種類が一気に限定されるからです。
つまり、一番描きたい行動に「恋愛」を考えている場合、物語カテゴリーは当然ながら「恋愛物」になります。
「恋愛」を描きたいのに「推理」を選ぶ事は、出来ません。
「推理」の中で、サブプロットとして「恋愛」を選ぶ事は出来ますが、それならば「推理」を一番描きたい行動に選ぶべきと言う事になります。
行動ですが、ダンジョン飯では「冒険」とします。
行動は、先に決めても後に決めても登場人物や世界観には左右され難い要素ですが、物語のカテゴリーやジャンルを決める重要な要素ですので、ここで描きたい行動を出来るだけしっかりと選びましょう。
ここまで来ると、ネタ出しの段階で順番は問いませんが「世界観」「キャラクター」「行動」が決まった筈です。
それでは、ここから先は、それらのネタを育てていきましょう。
その2:ネタをアイディアへ
ここまでで、これから作る物語に使うネタを出しました。
ネタ出しの時点で、作品に使う材料の大まかな部分が決まった訳です。
ここに来るまでに、悩む人は大いに悩む筈ですし、悩まない人はあっさり決まるでしょう。
人によっては「〇〇みたいな話を書きたい」と考え始め「その3」にいきなり飛ぶ場合もありますが、それは人それぞれです。
ネタ出しは、土台作りでさえなく、設計図に何を入れるかと言う準備段階です。
物語作りが特に面白くなるのは、多くの人は、ここからとなります。
現状、シミュレーションで後に「ダンジョン飯」にまで育てる為のネタ、物語の種として、
- 世界観「ファンタジー」
- キャラクター「冒険者」
- 行動「冒険」
と言う、作品の方向性しか決まっていません。
このままでは、殆んどのファンタジー物に当てはまる作品になってしまいます。
これらの決定だけでは、まだ本当に大事な事は、何も決まっていないのと同じです。
では、ネタと言う物語の種を育てるには、どうすれば良いでしょうか?
世界観をネタから育てる
まずは世界観の「ファンタジー」をベースに考えて見ましょう。
ポイントですが、そこは、どんなファンタジー世界なのか、です。
中世ヨーロッパ風、ファンタジーRPG、オリエンタルファンタジー、アラビアンファンタジー。
ファンタジーと単に言っても、様々なイメージがあります。
全くのオリジナルなファンタジー世界の構築を目指しても良いです。
ネタ出しの段階で選んだ世界観が「現実」でも「SF」でも、同じ事です。
これから作る物語の舞台となる世界を想像して見て下さい。
ダンジョン飯では「ローグライクダンジョンRPG風のファンタジー世界」とでもしましょう。
その決定で「ダンジョン」「モンスター」「種族」「職業」「魔法」等のイメージが同時に浮かんできます。
世界観を育てると、その世界の詳細が見え始める訳です。
ここで一つ、注意して欲しい事があります。
こう言ったネタをアイディアへと育てる作業は、誰にでも簡単に出来て、非常に楽しい物です。
設定にこだわる人であれば、この時点で細部を決めたくなるでしょう。
ですが、あまりにも細部には、まだ触れないで下さい。
細部に最初にこだわり過ぎると、アイディアの先で身動きがとりづらくなります。
最初は、抽象的で、大まかな方が良いのです。
キャラクターをネタから育てる
世界観と同じ様に、キャラクターである「冒険者」をベースに考えます。
- パーソナル情報:個人を特定する情報。
- フィジカル情報:肉体の情報。
- メンタル情報:優しいとかズボラとか。
- キャリア情報:今まで何をしてきたか。
先にも上げました4要素を簡単に決めます。
ここでのポイントは、どんな人物か考える事です。
「冒険者」なら、一人で冒険しているのか、パーティを組んでいるのか等を想像しましょう。
種族、年齢層、見た目の特徴、性格、より詳しい職業や歩んできた人生の情報を想像します。
ダンジョン飯では「パーティを組んでいる冒険者達」と言う事を決めたとします。
それが決まれば「戦士」「盗賊」「魔法使い」と言う職業のイメージ、そこからキャラクターの見た目、種族、年齢が決まり、どんな性格で、仲が良いか悪いか等も考えやすいと思います。
世界観と同じく、細部を決めるのは楽しいですが、こだわり過ぎると後で動かしづらくなりますので、大まかに、ですがイメージしやすい程度にまで決めます。
行動をネタから育てる
行動である「冒険」をベースに考えます。
冒険をすると言っても、色々あります。
ここでのポイントは、劇中に一貫して何をするか、しようとするか、そして「なぜ」するのかを考える事です。
「なぜ」と言う冒険の目的が決まれば、冒険に必要な物が見えてきます。
ここで「世界を平和にする為に、魔王を倒す事」が冒険の目的と目標と決まれば、目的地は「魔王の城」なり、「魔王のいる場所」でしょう。
そうなれば、冒険は一貫して魔王を倒す為の行動が中心の行動となる筈です。
行動のネタがアイディアになると、登場人物達の行動動機や世界観に影響を与え始めます。
ネタの時点では、何の影響も与えなかった行動が、アイディアの段階になると世界観やキャラクターに影響を与える重要な要素となるのです。
ダンジョン飯では「ダンジョンに潜り、宝を発見する」事が行動の目標で、冒険をしていると、この時点で決めるとします。
まだこの段階では、冒険の目的は、手に入れた宝によって何かをしたいと言った感じでしょう。
すると、世界観に置いて「ダンジョンがあるファンタジー世界」である必要が出ると同時に、キャラクターも「ダンジョンに潜る冒険者」と、イメージが更に固まり始めます。
その3:アイディアをコンセプトへ
ここからは、アイディアを更に育てる作業となります。
コンセプトは以前の記事でも触れています。
その中で、3つのポイントがあるとしました。
- 「普遍性」と「新規性」があるか?
- 「解決すべき問題」が連想出来るか?
- 「テーマ」と共に「感情」を表現出来るか?
この条件がコンセプトに育てる為には必要となります。
条件をクリアにする為、アイディア化したネタを順に見て行きましょう。
今出て来ている物語のアイディアは、以下の通りです。
- 世界観「ローグライクダンジョンRPG風ファンタジー世界」で
- キャラクター「パーティを組んでいる冒険者達」が
- 行動「ダンジョンに潜り、宝を発見する」話。
ネタの段階では、
- 世界観「ファンタジー世界」で
- キャラクター「冒険者」が
- 行動「冒険する」話。
だったので、種から芽が出たのは感じられます。
では、アイディアをコンセプトにするとどうなるか、また、どうやってするのかを順に見て行きます。
「普遍性」と「新規性」
アイディアの段階では、あえて「新規性」と言う要素を、今回は避けました。
これは「新規性」をベースに考え始める事も出来ますが、今回は「普遍性」をベースに話を進めさせて貰います。
現状のアイディアは「普遍性」しかありません。
凡庸で平凡なアイディアの域を出ていないと言う事です。
地味で、目を引かず、面白くありません。
つまり、ここに「新規性」を掛け算してやる必要があります。
それは、なぜか?
単純です。
新しい要素が無いと、新しい物語として、価値が無いからです。
「普遍性」は、物語の受け取り手側に「知っていて好きな物」を提供する為の部分です。
ファンタジーと言う物語世界観の「普遍性」が好きな人に向けるから、ファンタジーを選んだ訳です。
「普遍性」が無いと、受け取り手側は、物語がどういう物か事前に推測できず、物語を選んではくれません。
ですが逆に「普遍性」だけでは過去、無数に作られた数多のファンタジー作品と差別化出来ません。
そうなると、その物語は、共通している部分に置いては、過去作品の焼き直しになってしまいます。
つまり「普遍性」に「新規性」を足して、作品にオリジナリティを付与する必要があるのです。
では、どの様に新規性を獲得すれば良いでしょうか?
新規性の産み出し方
- 世界観「ローグライクダンジョンRPG風ファンタジー世界」で
- キャラクター「パーティを組んでいる冒険者達」が
- 行動「ダンジョンに潜り、宝を発見する」話。
と言うアイディアに対して、新規性を足すには、アイディアに何かを足したり変えたりして「変」にする必要があります。
アイディアを「変」にするのです。
「変」なんて嫌だと思われるかもしれませんが、ここで言う「変」は、何も悪い意味ではありません。
「普通じゃなくする」事を指して「変」と表現したに過ぎません。
それでは、試しに「変」にしてみます。
それには、様々な手法がありますが、ここではオズボーンのチェックリストを紹介します。
オズボーンのチェックリストとは、アイディアの幅を広げる為の基本的な思考ツールです。
- 転用/他に使い道を探してみる
- 応用/類似物を探してみる
- 変更/変えてみる
- 拡大/拡大してみる
- 縮小/縮小してみる
- 代用/置き換えてみる
- 再利用/配置や並びを換えてみる
- 逆転/逆にしてみる
- 結合/組み合わせてみる
この9項目を当てはめる事は、アイディアを「変」にする手助けとなります。
アイディアにチェックリストを試しに当てはめて、色々と「変」にしてみましょう。
ここでは、現状出ているアイディアの要素のどれを、または、どの部分を当てはめるかによって変化に違いが出てきます。
ここは、発想の勝負ですので、色々と考えてリストにしてみましょう。
以下、試しにアイディアを「変」にしてみます。
- 転用/ダンジョンを別の事に使えないか? 墓や迷宮と言った本来なら行きたくない場所として他に利用できないか? 生息しているモンスターを利用できないか?
- 応用/戦士と料理人は刃物を使う点で似ていないか? 魔女と料理人は窯を使う点で似てないか?
- 変更/パーティの職業や種族をテンプレからスライドさせたら?
- 拡大/ダンジョンが広がっていったら?
- 縮小/冒険者の身体が縮んだら? ダンジョンが縮んでいったら?
- 代用/宝を発見するのでは無くモンスターや冒険者を発見するのを目的にしては?
- 再利用/同じダンジョンが繰り返されたら?
- 逆転/ダンジョン脱出? 冒険者をモンスターに代えたら? 宝を返しに行ったら?
- 結合/ダンジョンと遊園地? 冒険とダンス?
以上、「変」にしてみました。
すぐに玉石混合ながら、色々な「新規性」が生まれました。
どれも新たに生まれた「新規性」ですが、見ていて「なんか知っている」と思った物があれば、それは既に他の人にやられている物の可能性があります。
だからと言って、避ける必要も現状はありません。
既存の作品を知っているのなら、それを避ける事で別の物語を作る事も十分に出来るからです。
ですが、この状態では新規性を獲得した物語になりそうですが、どの新規性を足したアイディアをコンセプトへと育てるのが良いか分かりません。
そこで、次の段階へと進みます。
「解決すべき問題」の連想
物語のコンセプトでは、物語の中で「解決すべき問題」をこの時点で連想出来るか否かが重要となります。
アイディア群を見て、物語の中にある「解決すべき問題」が見えるでしょうか?
まだ見えないからこそコンセプトでは無く、アイディアなのですが、ここでアイディアから「解決すべき問題」を想像してみましょう。
「解決すべき問題」とは、登場人物達が遭遇する葛藤やジレンマも含みます。
段々と慣れない作業に困惑されているかもしれませんので、まずは実際に見てみましょう。
世界観
- ダンジョンと遊園地?
- ダンジョンが広がっていったら?
- ダンジョンが縮んでいったら?
- 同じダンジョンが繰り返されたら?
登場人物
- 冒険者をモンスターに代えたら?
- 戦士と料理人は刃物を使う点で似ていないか?
- 魔女と料理人は窯を使う点で似てないか?
- 冒険者の身体が縮んだら?
- パーティの職業や種族をテンプレからスライドさせたら?
行動
- ダンジョンを別の事に使えないか?
- 墓や迷宮と言った本来なら行きたくない場所として他に利用できないか?
- 生息しているモンスターを利用できないか?
- 宝を発見するのでは無くモンスターや冒険者を発見するのを目的にしては?
- ダンジョン脱出?
- 宝を返しに行ったら?
- 冒険とダンス?
まずは変にしたアイディアを整理しました。
世界観に対してのアイディアでは、変になったダンジョンを攻略や脱出しないと大変な事になる設定が出来そうです。
登場人物では、変になったキャラクター達が個人や仲間の問題を解決しなければならなくなりそうですね。
行動では、その行動をしないとどうなると言う設定、なぜその行動をとらなければならないのかの設定が出来れば、解決すべき問題が見えてきそうです。
仮に、ダンジョン飯では行動を変にするアイディアの一つを選びます。
- 宝を発見するのでは無くモンスターや冒険者を発見するのを目的にしては?
と言うアイディアを整え「はぐれた仲間を発見する為にダンジョンに潜る」と言う事にしましょうか。
これで「宝を発見する」と言う目標が「ダンジョンでの仲間の救助」と言う「新規性」に変わります。
仲間を探す為のダンジョン攻略と言う「解決すべき問題」の一部が見えて来ました。
- 世界観「ローグライクダンジョンRPG風ファンタジー世界」で
- キャラクター「パーティを組んでいる冒険者達」が
- 行動「ダンジョンに潜り、はぐれた仲間を助けに行く」話。
となり、アイディアが成長したのが分かります。
文章だけを見て、キャラクター達が行動をしなければならない事が伝わってくると言う事は、「解決すべき問題」が見えていると言う事です。
ですが、まだコンセプトとして弱い気もします。
「解決すべき問題」は、あるにはありますが、そこから強い葛藤やジレンマが、まだ伝わって来ません。
そこで、このアイディアに葛藤やジレンマを、足す事にします。
葛藤やジレンマとは、目的や目標が定まっているのに、それを困難にする要素。
つまりは、壁です。
登場人物達の行動に「したくない事」や「出来無さそう」な要素を足してやるのです。
例えば、安易にダンジョンを「危険」としたり、仲間が生きている内に、と言う「タイムリミット」を足すと、困難さが上昇します。
この辺で、とりあえず次のステップへと進みましょう。
「テーマ」と「感情」の表現
アイディアをコンセプトに育てるには、
- 「普遍性」と「新規性」があるか?
- 「解決すべき問題」が連想出来るか?
- 「テーマ」と共に「感情」を表現出来るか?
の、最後の要素「テーマ」と「感情」の表現が出来るか否かがあります。
物語の「テーマ」と「感情」
テーマが決まっていると、物語は安定感を増します。
テーマとは、主題です。
その物語が、主に「何」を題しているのか。
つまり、物語を通して「一つ」の「何」を表現するのかと言う事です。
それが「主題が決まっている状態」つまり、テーマが決まっている状態です。
多くの脚本術のハウツー本や指南書、あるいは教室で「テーマを探せ」「テーマを決めろ」と、お決まりの様に言われます。
これが、分かる様で分からない(と思いながらも、曖昧なままの人が多い)抽象的に感じられる創作活動における一つの壁です。
最初の方にあって、多くの人がつまずくポイントが「テーマ」の決定なのです。
テーマなんか無くても良いと考えている人がいる程です。
ですが、テーマの有無は物語の強さに関わります。
テーマを決めずとも、結果的にテーマ性が芽生える事もありますが、曖昧なまま終わってしまう事も十分にあります。
今、アイディアをコンセプトに育てている段階で、物語の「テーマ」が分かるのでしょうか?
書き始めてから、描きたいテーマに気付く事もあります。
その為、ここまで決まった段階でプロトタイプを書いてみる事で、書きたいテーマを認識する方法もあります。
それぐらい、テーマを認識するのは、人によっては難しい事なのです。
ですが、すでに物語のアイディアがここまで決まっています。
この段階で、本当にテーマの決定が出来るのか、試しに実際やってみましょう。
- 世界観「ローグライクダンジョンRPG風ファンタジー世界」で
- キャラクター「パーティを組んでいる冒険者達」が
- 行動「危険なダンジョンに潜り、はぐれた仲間が生きている内に助けに行く」話。
このアイディアの上で、一貫したテーマとして何を伝える事が出来るでしょうか?
物語のテーマとは「行動」で表現される物です。
「世界観」でも「キャラクター」でもありません。
確かに、世界観にもテーマがあったり、キャラクターにもテーマがあります。
ですが、世界観のテーマやキャラクターのテーマは、物語のテーマではありません。
物語の種を育てる上で必要なテーマは、そこには無いのです。
これが、物語のテーマを決める上で、混乱を生み、分かりにくくさせるポイントでしょう。
それぞれにテーマが存在している訳ですから、作品のテーマを決めるとなると、どうしても分かりやすく見える「世界観」や「キャラクター」をベースに考えてしまいます。
ですが、物語を作る上で必要なテーマとは「行動」にあります。
だからこそ、実際に書いてみる、つまり、キャラクターを実際に動かして行動させる事でテーマが見えてきて認識出来ると言う手法がテーマ探しに有効なのです。
ここまでで決めた行動を見てみると、「はぐれた仲間を助けに行く」と言う行動が一貫した行動である事が分かります。
「はぐれた仲間を助けに行く」と聞いて、登場人物が何を考えていると思いますか?
私は、「友情」や「愛情」を想像しました。
危険を冒してまで、仲間を助けに行かなければならないなら、何らかの「情」が係わると思ったと言う事です。
なるほど「友情」や「愛情」がテーマで、それを一貫して表現すれば良いのか、と思いましたか?
残念ながら、足りません。
テーマを決めて書いている人でさえ、そう言う勘違いをしている人は、実に多くいます。
「友情」も「愛情」も、それだけでは物語の「テーマ」になりません。
物語のテーマを表現する為の、要素に過ぎないのです。
物語の「テーマ」とは、物語を通してキャラクターが行動する事で伝えようとしている「メッセージ」の主題でもあります。
これから作る物語全体を通して著者が読者に伝えたい「メッセージ」は、何でしょうか?
「愛」は要素ですが、例えば物語の終わりに行動によって「愛は全てに勝る」と描かれれば、それはメッセージです。
そして、テーマは「愛があるなら~?」と疑問文になります。
物語の受け取り手に問いかける疑問、それが「テーマ」となる訳です。
だから「友情」も「愛情」も、それだけではテーマになりません。
ここで一つポイントがあります。
例えば、「友情」や「愛情」と言う要素は、ポジティブなイメージがありますよね。
ポイントと言うのは、ポジティブな行動を描く時は、ネガティブな要素を足すのが良く、反対に、ネガティブな行動を描く時は、ポジティブな要素を足す事が、テーマの決定には効果的と言う事です。
そうする事で、描くテーマに強烈な葛藤が生まれます。
つまり、物語を通して一貫して行動する事で表現する事に、ポジティブな面とネガティブな面の両方を持たせる事になり、それは行動の度に葛藤を産む事になります。
すると物語は道徳的、あるいは反道徳的な内容となり、倫理観に訴えかける事ができます。
それが優秀なテーマの条件なのです。
そう言ったテーマは、受け取り手の感情を動かします。
そうする事で、そこに「テーマ性」が生まれ、物語を通して伝えたい「メッセージ」が見えてきます。
良く分かりませんか?
では、どういう事か、見てみましょう。
「はぐれた仲間を助けに行く」と言うポジティブな行動に、相反する要素を合わせてみます。
どんなネガティブな要素が良いでしょう。
仮に、ダンジョン飯では抽象的に「はぐれた仲間を助ける為に、どこまで道を踏み外して良いか?」とします。
仲間を救う為には、人として道を踏み外す必要がある。
道を踏み外すでなくても、犠牲を払うでも構いません。
「仲間を救う為には、人として、どこまで道を踏み外しても良いか?」これが、この段階で決められる物語のテーマとなります。
どうでしょうか、ちゃんとテーマが見えましたね。
そう言う状況に置かれ、目的の為に選択を迫られる登場人物達を見ると、人は物語に引き込まれます。
そう言ったネガティブな要素が行動に加わると、葛藤が生まれますし、倫理観にも訴えかけますよね?
仲間は助けたいが、道は踏み外したくない。
ポジティブな行動の為に、ネガティブな行動を取らざるを得ない。
それでは、ここまでで少し形を整えて見ましょう。
- 世界観「ローグライクダンジョンRPG風ファンタジー世界」で
- キャラクター「パーティを組んでいる冒険者達」が
- 行動「危険なダンジョンに潜り、はぐれた仲間が生きている内に助けに行く中で、道を踏み外していく」話。
となりました。
ここまでで、
- ファンタジー世界、ダンジョン、冒険者と言う「普遍性」はあります。
- はぐれた仲間が生きている内に助けに行く中で、道を踏み外すと言う行動の「新規性」も獲得しました。
- 危険なダンジョンの攻略と言う「解決すべき問題」も見えます。
- 仲間の為に、道を踏み外して良いのかと言う「感情」を動かす「テーマ」には葛藤が見られ、良い感じです。
この時点で、物語としては、それなりに想像が湧いて来る筈です。
この時点で面白そうであれば、それは優秀なコンセプトを備えた物語の可能性があります。
想像が湧かなかったり、面白く無さそうであれば、色々と試行錯誤して何度でも練り直しましょう。
その4:コンセプトをハイコンセプトへ
- 世界観「ファンタジー世界」で
- キャラクター「冒険者」が
- 行動「冒険する」話。
と言うネタ出し段階から、
- 世界観「ローグライクダンジョンRPG風ファンタジー世界」で
- キャラクター「パーティを組んでいる冒険者達」が
- 行動「ダンジョンに潜り、宝を発見する」話。
と言うアイディア段階を踏まえ、
- 世界観「ローグライクダンジョンRPG風ファンタジー世界」で
- キャラクター「パーティを組んでいる冒険者達」が
- 行動「危険なダンジョンに潜り、はぐれた仲間が生きている内に助けに行く中で、道を踏み外していく」話。
と言うコンセプト段階に来ました。
これから、コンセプトをハイコンセプトにしたいと思います。
ハイコンセプトとは、「新しいが、理解しやすく、聞いただけで想像出来て、感情を掻き立てる」コンセプトの事です。
要は、優秀なコンセプトと言う事ですね。
アイディアをコンセプトに育てた時点で、新規性を足しました。
その時点で、ハイコンセプトに出来ていれば良いですが、毎度そう上手くはいかないのが現実です。
そこで、更に新規性を足して、ハイコンセプト化する必要があります。
ここで、注目すべきは「行動」にあります。
また行動です。
「危険なダンジョンに潜り、はぐれた仲間が生きている内に助けに行く中で、道を踏み外していく」話。
これを具体的にする訳です。
なぜなら、この物語の肝は「仲間を助けに行く」中で「道を踏み外していく」過程にこそあるからです。
ここに面白いアイディアを入れる事が出来れば、コンセプトはハイコンセプトになります。
あなたは「道を踏み外していく」話を想像して、何を考えるでしょう。
犯罪に手を染める、仲間以外を犠牲にする、すぐにいくつか思いつくでしょうか。
その道を踏み外す行動を、物語を通して一貫して、し続ける事で、仲間を助けられる可能性が出て来るから、葛藤しながらも行動し続ける。
そう言う物語になるわけです。
犯罪に手を染めるなら、仲間を助ける為に必要だと物を盗んだりと、色々考えられるでしょう。
仲間以外を犠牲にするなら、他人を騙して利用したり、他の冒険者狩りや、罠に陥れるかもしれないし、交換や生贄が必要と言う設定も考えられます。
とにかく、登場人物達がしたくない行動を考えて見て下さい。
- 世界観「ローグライクダンジョンRPG風ファンタジー世界」で
- キャラクター「パーティを組んでいる冒険者達」が
- 行動「危険なダンジョンに潜り、はぐれた仲間が生きている内に助けに行く中で、救助に必要な物を盗み続ける」話。
と仮にした場合、物語の中で登場人物達は、仲間の為だからと葛藤しながらも物を盗みまくる物語となります。
ここで、ダンジョン飯の場合「道を踏み外していく」と言う所に「必要に迫られモンスターを料理して食べていく」と言うアイディアがハマっています。
- 世界観「ローグライクダンジョンRPG風ファンタジー世界」で
- キャラクター「パーティを組んでいる冒険者達」が
- 行動「危険なダンジョンに潜り、はぐれた仲間が生きている内に助けに行く中で、必要に迫られモンスターを料理して食べていく」話。
この「モンスターを料理して食べる」と言うアイディアのポイントは、ある種のゲテモノ食いの様に、しっかり「道を踏み外している」事にあります。
悪い事よりも、恥ずかしい事や、やりたくない事への葛藤がメインとなっています。
また、食事と言う生存や基本的な欲求を満たす為の行動がメインに据えられている事で、非常に共感しやすい事もハイコンセプト化を助けています。
目的の為に、同時にどんな「したくない」行動を足せるか、これを出来るか出来ないかで、物語の質は大きく変わります。
その5:ハイコンセプトをログラインへ
ログラインとは、プレミス等とも呼ばれる短い文章で物語を表した物です。
どんな話かを物語を知らない誰かに聞かれ、ログラインと言う形で簡潔に答えられる事は、それだけ物語が固まっている証拠でもあります。
ここでも使うのは「行動」です。
ここまでで、しっかり種を育てたのであれば、ログラインとして機能するでしょう。
「ダンジョンに潜って、はぐれた仲間が生きている内に助けに行く中で、倒したモンスターを料理して食べていく話」
簡潔で、どんな話なのかも分かりますよね?
「ダンジョン飯ってどんな話?」と聞かれたら、この一文で説明できます。
ダンジョン飯を読んだ事が無くても、内容が分からない事は無いと思います。
終わりに
ネタ→アイディア→コンセプト→ハイコンセプト→ログラインと物語の種を育ててみました。
いかがだったでしょうか?
行き当たりばったりでなく、計画的に新しい物語を創作する手法の一つとなりますので、工程を細かく分けての説明でした。
多少、面倒だと感じたかもしれませんね。
ですが、丁寧に育てると、創作過程でこそ差が生まれます。
以上、物語の種を育てる方法の紹介でした。
次は、ここまで育てた物語をベースに、物語を更に成長させる方法を紹介したいと思います。
今回で強固な物語のコンセプトが出来ているなら、ここから先はもっと楽しい創作になると思います。
※この記事は、加筆や修正をする可能性があります。
“第1回 ゼロから面白い物語の基礎を作る方法 アイディアをログラインにする5つのステップ” への11件の返信