物語の育て方
この記事では、誰でも簡単に物語の種を育てる事が出来る方法の一つを紹介します。
ここでは、例として「このマンガがすごい!」でも話題になった「ダンジョン飯」を想定して、前回に引き続きシミュレーションしていきます。
この記事を読まれる方は、創作者であれば自身の作品に当てはめたり、創作中の物語や、新たな物語を想像しながらお読み頂ければ幸いです。
創作者で無くとも「ダンジョン飯」や、ご自身の好きな作品を思い出しながらお読み頂きたく思います。
※本記事は、あくまでもシミュレーションなので「ダンジョン飯」が実際に作られた工程とは一切関係ありません。
その点は、ご了承ください。
前回まで
世界観
- ローグライクRPG的、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界
- 舞台は、ダンジョンで栄える島
- 地下墓地の下にある滅んだ古代王国のダンジョン
- 王国をダンジョンに変えた魔術師を倒せば財宝が手に入る噂が冒険者達を呼び込んでいる
登場人物1
- パーソナル情報:ライオス、ファリンの兄
- フィジカル情報:男性、金髪、人間
- メンタル情報:優しい、実はモンスター料理に興味がある、図々しい
- キャリア情報:冒険者、戦士、剣が得意、戦いが強くリーダーシップもある、モンスター料理本を持っている
登場人物2
- パーソナル情報:マルシル
- フィジカル情報:女性、金髪、エルフ
- メンタル情報:優等生、実はポンコツ、潔癖症
- キャリア情報:冒険家、魔法使い、攻撃魔法が得意、パーティーの中で唯一蘇生魔法が使える
登場人物3
- パーソナル情報:チルチャック
- フィジカル情報:男性、茶髪、小人
- メンタル情報:皮肉屋、実はツンデレ、ビジネスライク
- キャリア情報:冒険家、盗賊、飛び道具が得意、罠を解除するスキルがある
登場人物4
- パーソナル情報:センシ
- フィジカル情報:男性、黒髪、ドワーフ
- メンタル情報:達観、実はこだわり屋、頑固
- キャリア情報:冒険家、戦士、斧が得意、モンスター料理に詳しい
登場人物5
- パーソナル情報:ファリン、ライオスの妹
- フィジカル情報:女性、金髪、人間
- メンタル情報:ほんわか、実は有能、自己犠牲的
- キャリア情報:冒険家、魔法使い、回復魔法が得意、パーティーで唯一転移魔法が使える
登場人物6(最後の壁)
- パーソナル情報:レッドドラゴン
- フィジカル情報:竜
- メンタル情報:狂暴
- キャリア情報:ダンジョンにいるモンスター
1幕プロット
- ライオス達冒険者パーティーは、仕事で島にあるダンジョンに潜っている。
- 「だから」ダンジョン内で仕事中に、空腹が原因で事故が起き、ドラゴンから転移魔法で逃げる中、仲間の一人でありライオスの妹でもあるファリンがドラゴンに食べられてしまった。
- 「だから」食べられたファリンを魔法で蘇生出来る可能性がある内に助けに行かなければならない。
- 「だから」それには、時間も金も無い為、食べ物を現地調達でダンジョンに潜るしか手段がない。急がないとファリンが完全に消化されてしまう。
2幕必要要素
- 「2幕必要要素」モンスターを倒し、我慢しながらも、レシピに従い料理して食べ、時には他の冒険者に食べ物を譲って貰ったり、交換したりしながら、ダンジョンを急いで潜っていく。
- 「2幕必要要素」ダンジョン探索の中で、ライオスは剣のモンスター(食材)を、センシは鍋の盾を、チルチャックは包丁を、マルシルはモンスターから作った魔法のスープを手に入れ、その過程で戦闘を経験し、食事を囲み、チームワークや絆が深まった。
2幕進行パターン(物語全体のダウンサイズ、スモールスケール版)
- 2幕の中の1幕 登場人物達は、仲間救助の為、ダンジョンのどこどこに潜っている(場所指定でスケールダウン&進行具合を提示)
- 2幕の中の1幕「だから」ピンチに陥る(コンセプトに従い、ドラゴンより弱いモンスター、罠、ダンジョン由来の障害、空腹等の、物語全体のテーマに沿った問題提起)
- 2幕の中の2幕「必要な要素」2幕の中の1幕で提示された2幕の中の3幕の壁を超える為に、必要な物を得る行動を起こす(2幕で揃えなければいけないクライマックスに必要な要素を一つ、直接でも間接でも消化する)
- 2幕の中の3幕「クライマックス」仲間と協力したり、特技を生かしてモンスターと戦う(ドラゴンからスケールダウン)
- 2幕の中の3幕「壁」モンスターを倒す事に成功した(ドラゴンから大幅に難易度ダウン)
- 2幕の中の3幕「結果」食べたくないモンスターを料理して、食べる羽目になったが腹が満たされ、今回学んだ事だったり教訓や皮肉をメッセージに話を区切る(嫌な事一回分、得る物も一回分)
2幕イベントプロット(マルシル)
- モンスターの料理を食べながら進む
- 「だから」モンスターを狩るたびに魔法を使い、魔力切れを起こす
- 「だから」魔力を回復する為に仲間達が魔法使い抜きで、魔法使いの為にモンスターを狩りに行く
- 「だから」絆が深まり、無事にモンスターのスープを手に入れて魔力を回復できる
- 「だから」ドラゴンを倒す為に魔法を使える
2幕イベントプロット(ライオス)
- モンスターの料理を食べながら進む
- 「だから」モンスターを狩る中で、使っていた剣が壊れた
- 「だから」新しい武器を手に入れて、この先もモンスターを倒さなければならない
- 「だから」ダンジョンの中で剣の代わりを探した
- 「だから」剣に擬態しているモンスター(食材)を見つけたので、使う事にした
- 「だから」ドラゴンを倒す為にも使える武器を手に入れた
2幕イベントプロット(センシ、チルチャック)
- モンスターの料理を食べながら進む
- 「だから」その為には、鍋や包丁と言った調理器具があった方が良い
- 「だから」ダンジョンの中で鍋や包丁を手に入れた
- 「だから」ドラゴンを倒す為に盾や投げナイフとして使える
3幕プロット
- 「クライマックス」ファリンを助ける最後の戦い。ドラゴンに対して「チルチャックが包丁で目つぶし」をして作った死角に「スープで魔力を回復させたマルシルの爆発魔法」と「センシの鍋の盾」を利用して一気に近づき「ライオスが剣のモンスター」でドラゴンの弱点を攻める「チームワーク」を見せる。
- 「最後の壁」ファリンを助ける為に、ライオス達はドラゴンを倒す事に成功した。
- 「その結果」無事救助に間に合い、ドラゴンの胃袋からファリンを無事に見つけ、蘇生する事が出来た。
- 「その結果」しかし、道中、食べたく無かったモンスターを沢山食べる羽目になってしまった。
ここまで育てて来ました。
実際に試された方は、恐らくですが、これ以上の分量になっていると思います。
今回は、この段階から更に、物語を育てたいと思います。
その1:プロットをストーリーへ
ここまで決めて来たプロットや設定ですが、更に細かく決めて行く事も出来ます。
必要なら、更に細かく決めるべきでしょう。
地図や年表、用語集、今後の為のアイディア表等を作るのも、有効な手段です。
ですが、ある程度、必要な事が決まったら、今度はプロットをストーリーへと成長させましょう。
プロットは因果関係を「だから」で繋いでいきました。
ストーリーは出来事を「それから」で繋いでいく事になります。
それは、つまり出来事の因果関係では無く、時系列に従って描く事になります。
少し見て行きましょう。
1幕プロット
- ライオス達冒険者パーティーは、仕事で島にあるダンジョンに潜っている。
- 「だから」ダンジョン内で仕事中に、空腹が原因で事故が起き、ドラゴンから転移魔法で逃げる中、仲間の一人でありライオスの妹でもあるファリンがドラゴンに食べられてしまった。
- 「だから」食べられたファリンを魔法で蘇生出来る可能性がある内に助けに行かなければならない。
- 「だから」それには、時間も金も無い為、食べ物を現地調達でダンジョンに潜るしか手段がない。急がないとファリンが完全に消化されてしまう。
これをストーリーに成長させると、この様になります。
1幕ストーリー
- ライオス達冒険者パーティーは、仕事で島にあるダンジョンに潜っている。
- 「それから」仕事中に、罠により食料を失ってしまった。
- 「それから」パーティーは空腹なので、一度地上に戻ろうと考えていた。
- 「それから」そんな時、ドラゴンと遭遇してしまい、戦う羽目になった。
- 「それから」空腹が原因で、本領発揮が出来ず、戦線が崩れてしまった。
- 「それから」このままでは全滅してしまうので、逃げようとした。
- 「それから」ファリンが転移魔法を使おうとしたら、運悪くファリンがドラゴンに食べられてしまった。
- 「それから」ファリンを除く全員がダンジョンから帰って来られた。
- 「それから」ファリンに助けられた仲間達と、ファリンを助けに行く相談をした。
- 「それから」今のパーティーと装備では、難しい事が分かった。
- 「それから」無謀でも助けに行くために、仲間達とアイディアを出し合った。
- 「それから」食べ物を現地調達すれば、食費を考えなくて良いし、装備が軽くて済むと言う話になった。
- 「それから」ファリンを助ける為に、最低限の装備とパーティーで、ダンジョンに再び潜る事にした。
内容的には、細かな描写が無く、まだまだスカスカです。
それでも、プロットよりは物語中に実際に描かれる出来事がハッキリしてきたと思います。
こうして見ると、具体的に出来事を描く上で必要な設定や描写が、見えてきます。
プロットと言うガイドラインがある為、話がそれる事も無く、クライマックスや「そもそも」の前提も考えている為、追加出来る設定と出来ない設定も迷う事無く分かります。
ここでストーリーを描く上で気をつけたいのは「リアリティ」と「納得性」になります。
第4回で登場人物を「変」にする説明をしました。
その中で、魅力的にするのに必要な要素として挙げたのが「リアリティ」と「納得性」です。
ここで、登場人物達の出来事に対する「反応」を、出来るだけ「リアリティ」と「納得性」を持って描いて見て下さい。
事故があった時の「反応」、仲間を失った時の「反応」、助けるのが難しいと分かった時の「反応」。
良い事があれば喜び、悪い事があれば怒ったり、悲しんだり、必ず登場人物毎に違う「反応」を返してくれる筈です。
「反応」が想像つかないなら、登場人物の設定を深めて見ましょう。
登場人物に「君はどんな人?」と質問するのも有効な手段です。
自分の作った登場人物の人格と会話をしてみれば、登場人物の人となりが分かる筈です。
登場人物同士が、行動し、会話し「反応」しあう事で物語は前へと進みます。
ストーリーをイメージしやすい様に、更に「セリフ」を持って登場人物達を交流させてみましょう。
1幕ストーリー
- ライオス達冒険者パーティーは、仕事で島にあるダンジョンに潜っている。
- 「それから」仕事中に、罠により食料を失ってしまった。
- 「それから」パーティーは空腹なので、一度地上に戻ろうと考えていた。
- 「それから」そんな時、ドラゴンと遭遇してしまい、戦う羽目になった。
ライオス「このドラゴンを倒したら一時撤退だ!」
- 「それから」空腹が原因で、本領発揮が出来ず、戦線が崩れてしまった。
- 「それから」このままでは全滅してしまうので、逃げようとした。
ファリン「兄さん、逃げて!」
- 「それから」ファリンが転移魔法を使おうとしたら、運悪くファリンがドラゴンに食べられてしまった。
- 「それから」ファリンを除く全員がダンジョンから帰って来られた。
- 「それから」ファリンに助けられた仲間達と、ファリンを助けに行く相談をした。
マルシル「ライオス目が覚めた? 魔法で脱出したみたいなんだけど、どこにもファリンの姿が無いの」
ライオス「ドラゴンに食われたんだ。それで魔法が効かなかった」
マルシル「うそ、そんな」
ライオス「すぐに助けに戻る」
マルシル「待って、装備の殆どをダンジョンに置いてきてしまったみたいなの」
ライオス「なんだって!?」
- 「それから」今のパーティーと装備では、難しい事が分かった。
- 「それから」無謀でも助けに行くために、仲間達とアイディアを出し合った。
ライオス「武具を安い物に買い替えて、資金にして、それで装備を揃えられるか?」
マルシル「全然足りない」
ライオス「それなら、一か八か、俺が一人で潜る」
マルシル「死ぬ気なの!? ファリンは親友よ。絶対付いて行くわ! 他に策を考えましょう! 何でもするから!」
ライオス「なんでも?」
- 「それから」食べ物を現地調達すれば、食費を考えなくて良いし、装備が軽くて済むと言う話になった。
マルシル「ムリムリムリ!」
ライオス「何でもするって言ったろ? 他に策が無いんだ。代案でもあるなら言ってくれ?」
マルシル「そ、それは……」
- 「それから」ファリンを助ける為に、最低限の装備とパーティーで、ダンジョンに再び潜る事にした。
と言う風に、ストーリーを膨らませます。
今のままだとセンシとチルチャックが絡んでいないので、状況をイメージしてマルシルやライオスの会話に自然な形で混ぜ、登場人物達に自然な「反応」をさせてストーリーを構築していきます。
その2:壁を出来るだけ高く見せる
物語を面白くする要素である「壁」ですが、壁は超えられない高さでは問題がありますが、超えられるのなら高い程、物語が盛り上がります。
ここまでで、物語に必要な要素は、出揃っています。
つまり、超える壁の高さと、超えるのに必要な要素は、おおよそ決まっている訳です。
超える必要のある壁の高さを変えずに、出来るだけ高く見せて描く手法があります。
それは「足してから引く」と「引いてから足す」です。
いつもの様に「ダンジョン飯」で例えます。
まずは「足してから引く」です。
クライマックスで4人でドラゴンを倒す事は、決まっています。
冒頭、7人パーティーで、ドラゴンに負けた事にしたら、どうでしょうか?
1人がドラゴンに食われ、ダンジョンから地上に戻ったパーティの内の2人が、救助は無謀だとパーティーを抜けてしまうと、7人で勝てなかった相手に4人で挑まなければならない事になり、壁の高さが際立ちます。
超える壁の高さは変わっていないのに、壁が高く感じる訳です。
次は「引いてから足す」です。
クライマックスで、4人でドラゴンを倒す事は、何度も言いますが決まっています。
つまり、クライマックスまでに4人集まれば良い訳です。
冒頭を6人パーティーにし、1人ドラゴンに食われ、2人が抜け、3人が残ったとなれば、6人から3人と戦力が半分になった事になります。
4人で始まるより3人で始まる方が、戦力も心もとないです。
これも超える壁の高さを変えずに、壁が高く感じる事になります。
物語の創作者は恐れる事無く物語を描け、物語の受け取り手は、高い壁に立ち向かう登場人物達により一層ワクワク出来ると言う訳です。
この手法は、登場人物以外にも、特技でも、アイテムでも、何にでも適応出来ます。
これを適応してストーリーを構築すると、もう、ほぼ「ダンジョン飯」の冒頭部分と似た状態になってきましたね。
終わりに
プロットをストーリーへと成長させ始め、いよいよ終わりが近づいてきました。
今回も物語創作の一手法でしたが、いかがだったでしょうか?
以上、物語の種を更に育てる方法の紹介でした。
次も育てた物語をベースに、物語を更に成長させる方法を紹介したいと思います。
※この記事は、加筆や修正をする可能性があります。