同じ物を説明しているのに、全部違う
ここでは、様々な物語の構造を説明した有名な脚本パラダイム(模範・専門図式)を比較をしたいと思います。
どれも「物語の構造」と言う一つの事を説明した物ですが、説明量や切り口が違います。
興味が湧いた方は、自分に合った(分かり易い、とっつきやすいと思った)文献から知識を吸収すれば良いと思います。
1:序破急
3幕構成と同義語で使われる事もある概念。
基礎的な考え方ですが、これだけで物語を構築出来る人は、初心者になればなるほど、少ないでしょう。
これで何かを作ると言うよりは、知っている者同士で意思疎通する為の概念に近い気がします。

2:起承転結
日本では、3幕構成よりも有名な概念。
3幕構成や序破急と同じく、これだけで物語を構築出来る人は、やはり初心者になればなるほど少ないです。
漢詩で使われていた理論を転用した概念ですので、必要最低限は揃っていても、これだけで十分ではありません。
この概念に振り回されて、物語をちゃんと作れないでいる創作者に会う事も多いので、理解できていない人にとっては「毒」としても機能しています。
これも、これだけで何かを作ると言うよりは、知っている者同士で意思疎通する為の概念に近い気がします。

3:「新井一」流脚本パラダイム
東宝系作品を中心に映画の脚本約300本、ラジオ・テレビドラマの脚本約2000本を執筆した名シナリオライターです。
1971年にシナリオ・センターを設立した人でもあります。
起承転結の欠点に気付いていて、およそ下記の様なパラダイムを提唱しています(著作の中では、もう少し曖昧ですが)。
起承転結で、必要十分を満たすには、この様な分量調整と構成が必要と知っていて、広めようとしていた訳ですね。
物語の大半は、承で構成されているんです。
著作の中では、事細かに幅広い基礎知識や技術が書かれていますので、古い本ですが今読んでも十分参考になると思います。

4:「ジョーゼフ・キャンベル」流脚本パラダイム
1949年に「千の顔を持つ英雄」を発行された、物語構造を解き明かした偉人。
神話学者で、比較神話学や比較宗教学の権威です。
当時まだ30歳だったジョージルーカスが、この理論を下敷きに作ったのが「スターウォーズ」と言う事でも有名で、脚本術の世界で言えばウォルト・ディズニーか手塚治虫クラスの人と言っても言い過ぎじゃないと思います。
序破急、起承転結、3幕構成、等の単純な概念でそれまで考えられていた物語の構成に、人が好むパターンを見つけ普遍的な言葉を与えた訳です。
凄い。

5:「クリストファー・ボグラー」流脚本パラダイム
クリストファー・ボグラーはディズニーの「美女と野獣」「ライオンキング」にも関わっている著名なストーリーコンサルタントです。
上記のジョーゼフ・キャンベルとロシアの物語研究者であるウラジミール・プロップ(大半の人が挫折しそうなやつ)、そしてユングの心理学を組み合わせ、より物語作りに向いた構成にパラダイムをアレンジしています。
この辺から、初心者でも挫折する事が少なく、物語の基礎知識を学べるようになってくるでしょう。

6:「シド・フィールド」流脚本パラダイム
ジャン・ルノワール、サム・ペキンパーに師事し、教え子に、あのジェームズ・キャメロン等がいるシナリオ講師として超有名な脚本家です。
ロジカルに洗練された3幕構成は、ようやく具体的な必須要素が誰の目にも明らかになってきます。
いよいよ実用的になってきました。

7:「沼田やすひろ」流脚本パラダイム
ここまで見て来た物を、まとめ、発展させている事が分かります。
著作を読めば、他にも独自の理論展開をしていて、参考になると思います。

8:「キム・ハドソン」流脚本パラダイム
ジョーゼフ・キャンベル、クリストファー・ボグラー等の理論を発展させ「男性的、女性的」と言う切り口で分けたのが、この発展型です。
ヴァージン(女性的)、ヒーロー(男性的)と言う風に、構造的に正反対な性質を持った物語を創作しやすい様に手を貸してくれます。
また、著書の中ではキャラクターのアーキタイプ(原型)にも触れていて、非常に面白いです。


9:「ブライアン・マクドナルド」流脚本パラダイム
ここまで情報を増やす方向でしたが、別のアプローチもご紹介します。
恐らく、人によっては、ここまでの説明の中で、最も物語創りとして分かり易く感じた人もいるかもしれません。
著書の中では、こういった、とっつきやすい切り口で、物語の質を上げる助言や思考を提供してくれます。

10:「ウェルデン・ウェルマン&ピーター・フラッド」流脚本パラダイム
3幕構成のWikipediaに載っていたので、面白いので載せました。
こう言う切り口もあるんですね。

11:「ブレイク・スナイダー」流脚本パラダイム
ブレイク・スナイダー先生です。
このブログでは、セーブザキャットやビート・シートでお馴染みですね。
先述したキム・ハドソン先生が「男女」と言う切り口で物語を2つに分けたのに対し、ブレイク・スナイダー先生は更に細かく構造で分け、10種類に分類した事でも話題になりました(当ブログでは、更に発展させて12種類に分類しています)。
著書の中では、ここまで紹介して来た脚本パラダイムの中で「長編映画」と言う括りの中で、恐らく最も分かり易い解説がされていると思います。

おわりに
今回は、様々な人、世代、切り口で、脚本構造の見取り図とでも言うべきパラダイム(模範・専門図式)を紹介し、見てきました。
そのどれもが、物語を構成する要素を表した物で、殆んど同じ事を表しています。
知ってみると「序破急」「起承転結」「3幕構成」は同じ物で、その中身を知らずに物語を理解して創作する難しさが分かったと思います。
パラダイムや書籍・教科書に書いてなくても、良い物語には普遍的な必須要素があり、満たす必要があります。
なのに、あえて情報の少ない参考書を使うなんて、どう考えても非効率的ですよね。
でも、世の中の多くのシナリオの専門学校やセミナーは、必須要素が記入されていない古い教科書を平気で使い続け、昔ながらの教えに固執している所がある事も事実です。
基礎は学べますが、下手な教室で学んでは時代遅れの技術しか身に付きません。
新しい書籍は、全く違う事が書かれている訳ではなくアップデート版に近い存在が殆どなので、無理に古い本を選ぶ意味はありません。
また、日本とアメリカでは、残念ながらアメリカの方が遥かに脚本術については進んでいます。
抵抗が無いなら、フィルムアート社をはじめとした出版社から出ている最新のハリウッド式脚本術を勉強する事が、物語理解への近道になるでしょう。
おまけ
パラダイムは、110分から120分の長編映画を製作する事を基本とした構成ですが、それ以上の尺で物語を創りたい場合は、下記図の入れ子構造が参考になるかもしれません。
2幕の前半部を積み重ねる事で、小さな苦難と成功を重ねるタイプの物語構成(連続ドラマ・アニメ、連載マンガ・小説、ゲーム等)になります。

また、物語の時間的尺のおおよそのイメージですが、
- 脚本120ページ=120分
- 小説1冊×原稿用紙300枚=120,000文字(読書毎分600文字平均なので200分かかる)
- マンガ3冊×180ページ=540ぺージ(本編のみ)
- ドラマ3話×40分=120分(OP・ED次回予告を除く)
- アニメ6話×20分=120分(OP・ED次回予告を除く)
- 長編映画1本=120分(OP・EDを除く)
もちろん誤差はありますが、物語の量としては、これらは媒体が違うだけで、ほぼ同じになります。
あくまでも目安ですが、参考になればと思います。
おススメ書籍一覧も、よろしければ合わせてどうぞ。
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