行動デザイン事例集
部分的なネタバレが含まれた記事です。
ポジティブ要素とは、物語の中で登場人物が「したい」「やらなければならない」目標や目的に向かう為の動機となる要素。
ネガティブ要素とは、物語の中で登場人物が「したい」「やらなければならない」目標や目的に向かう為の行動に付いて回る、「出来ればしたくない」行動や、伴うリスクを指します。
●恋愛・友情(相棒・バディ)●
このカテゴリー物語の場合、ポジティブ&ネガティブは分かり易い。
二人の人間が一緒にいる理由と、一緒にいると発生する問題が近くに設定されている事が多いからだ。
カテゴリーとしてポジティブが全面に出ているので、ネガティブの捻り方が多彩で、その手があったかと思う作品と出会う事も多い。
具体例を見て行こう。
やがて君になる
- ポジティブ:特別(好きになる感覚)を知りたい
- ネガティブ:特別になると、相手が離れて行ってしまうかもしれない
ヒロインは才色兼備だが、とある理由から自分自身の事が好きでない。
そんな自分を特別扱いしないと言う理由で、主人公に居心地の良さから思いを寄せる様になる。
一方で、他者に寄せる特別な感情を知りたい主人公だが、自身を好いてくれるヒロインに対して特別な感情を抱く様になれば、いずれ別れる事になりかねないので、特別になっても特別である事を伝えられないと言うジレンマを恋人関係の構築時点で抱えている。
そんな特殊な二人だからこそ起きる、好きになりたいのに好きになれない、好きになっても好きと伝えられない、そんなジレンマを抱えながら進行していく物語は、控え目に言って素晴らしい。
とらドラ!
- ポジティブ:恋の応援をしたい
- ネガティブ:応援している内に、好きになって行く
ヒロインの、自身の親友への恋を応援する為にヒロインと共に行動する内に、好きになったら傷つくのに惹かれてしまうジレンマを抱えた関係。
●冒険(旅)●
旅物語には、幾つか種類がある。
物理的に目的地が設定されている旅と、概念的な目的地が設定されている旅だ。
このカテゴリーもポジティブが前に出ている物が多く、ネガティブのバリエーションが多彩で面白い。
まずは、物理的な目的地の方から見て行く。
ダンジョン飯
- ポジティブ:ダンジョンに置いてけぼりにした仲間を助けに急いで戻る
- ネガティブ:金も装備も無いので、急いで探索するには、ダンジョンにいるモンスターを食べざるを得ない
ハウツーでも題材に使わせてもらっている、お馴染み「ダンジョン飯」。
状況的にしたい事としたく無い事が自然に噛み合っていて、かなりの好例。
マルシルが駄々をこねるのが毎回楽しみ。
メイドインアビス
- ポジティブ:母親にもう一度会いたい
- ネガティブ:超危険なアビスの大穴の底にいるらしい
と言う行動デザインで、アビス制覇は元から目標でもあるからと無謀ながらも計画を実行に移します。
ちなみに、別記事で例に出したナナチメインだと、カテゴリーは「禁忌」。
- ポジティブ:人間性を失って不死身になった親友を救いたい
- ネガティブ:不死身の親友を苦しみから救う方法は、殺す事
これも、他の記事で例に出した好例。
ナナチは、可愛いし泣ける。
>進撃の巨人
- ポジティブ:親や仲間の仇を駆逐したい
- ネガティブ:超危険、失敗=破滅
バトル物全般に共通する「したい」事自体が、それだけで「超危険」と言うパターン。
巨人化能力を手に入れてからは
- ポジティブ:巨人化で巨人を倒せる
- ネガティブ:何故か敵に狙われる様になる
と言う風に、行動に課せられるネガティブのベクトルが話の途中で変化し、物語を魅力的に彩っています。
なぜ狙われるのかが判明してからは、また行動デザインが変化し、違った読み味に変化しています。
ベルセルク
- ポジティブ:使徒を見つけて、殺したい
- ネガティブ:超危険
ベルセルクの設定で上手いのは、使徒への生贄の印を刻まれた主人公が、印を利用して敵を感知し、自分を餌にして接触を図り、復讐の為に殺していくと言うお膳立てがしっかり出来ている事でしょう。
それだけでも物語の構造上は良いのに、その状況に至るまでの重厚な過去編を描き切っている事が、また凄い。
更に、過去編終了後から
- ポジティブ:あらゆる危険からヒロインを助けたい
- ネガティブ:守れるのは自分だけだが、近くにいるとヒロインが傷つくかもしれない
と言う行動が柱になり、物語を更に面白く魅力的な物へと変えています。
●スポーツ(旅)●
物理的な目的地より、概念的な目的地寄りな物が多いのが、スポーツ物。
優勝、勝利等を求めて、登場人物達は成長の旅をします。
ラブライブ
- ポジティブ:アイドルになりたい
- ネガティブ:奇異の目で見られる。責任を負う事になる
アイドル物の皮をかぶったスポコン部活モノ。
弱小チームが仲間を増やし、一つになって、目標に向けて優勝を目指す王道パターン。
優勝しないと学校が廃校と言う設定によって、物語上に設置された壁がただの部活に比べて一段高く設定されている事で、危機感や臨場感が増している。
また、九人いるメインキャラクターを順次登場と、1・2・3年生を三人ずつと言うユニットにする事で、キャラクター同士の関係を分かり易く覚えやすくしている点は、見習うべき良い点。
ガールズアンドパンツァー
- ポジティブ行動:友達の為に戦車道に復帰する
- ネガティブ行動:戦車道を辞めたトラウマと戦う事に
戦争物のふりをしたスポコンモノ。
ラブライブと似ているが、主人公が戦車道(スポーツ)経験者と言う点で少し違う。
こちらも、優勝しないと廃校と言う壁によって、物語の魅力をアップさせている。
ラブライブと似ているが、搭乗戦車毎にユニットにし、ユニット毎に特性(バレー部、歴女等)をつけ、更には学校毎にカラー(ドイツ軍、ソ連軍等)をつける事で、膨大なキャラクターの識別率が確保されている点では、ラブライブ以上に有能。
しかも、みんな魅力的。
ガルパンは良いぞ。
ちはやふる
- ポジティブ:かるたで勝ちたい
- ネガティブ:幼馴染や友達がライバル
競技かるたと言う、室内スポーツモノ。
対戦時の描写の熱量が高く、サブキャラの戦いでも手に汗握る。
チーム戦でも個人戦でも、敵方の人物描写がしっかりしていて、どっちにも負けて欲しく無く思わせてくれるので、どちらも応援しながら最後まで読める。
原田先生がめちゃくちゃカッコイイ(個人的に)。
弱虫ペダル
- ポジティブ:自転車レースで勝ちたい
- ネガティブ:ライバルがいる
自転車レースモノ。
対戦中の駆け引きや、登場人物毎のレースに挑むまでのバックボーンが丁寧に描かれていて熱いが、ややマンネリ。
少年漫画らしくバックボーンはあっても敵を分かり易い悪者に描写したり、圧倒的なライバルが存在しないのが原因かと思われる。
やはり、物語に設置される立ちはだかる壁は、大きい方が面白い。
主人公の一年生編は最高に面白かった。
御堂筋君が悪役ながら美学があってカッコ良かった(個人的にね)。
●特別な力●
このカテゴリーでは、手に入れた特別な力について回るリスクが分かり易いネガティブ要素になる事が多い。
ガンスリンガーガール
- ポジティブ:安全にテロリストを倒せる
- ネガティブ:義体の寿命は減るし、記憶は飛ぶし、死ぬかもしれない
不幸な境遇の少女達に機械の身体「義体」と新しい記憶「条件付け」を与えて暗殺者にし、テロリストと戦って行く本作。
少女達はパートナーとなる担当官の言いなりになって、進んで暗殺任務を遂行していくが、義体手術と条件付けは、強くなる代わりに副作用で大幅に寿命が削られると言う設定。
これによって、新しい人生を与えられた少女達には、更に過酷な人生が待つ事になっている。
洗脳を受けている少女達は、比較的穏やかな雰囲気で生活しているが、少女達のパートナーである担当官は、それぞれ、倫理的な葛藤や、少女を長生きさせられないか、少女が生きた証を残せないか、等と言う、別の戦いを繰り広げる事になる。
アニメ2期は、出来が今一つだったけど漫画は名作。
ぼくらの
- ポジティブ:地球を救う為に敵ロボットと戦わなければならない
- ネガティブ:ロボットを一回操縦すると必ず死ぬ、とんでもシステム
ここまで分かり易く、極端な設定も無いと思う。
巨大ロボットに乗って、敵ロボットと戦って勝たないと、地球が滅ぶ事になっている。
なのに、例え敵に勝ったとしても、パイロットは必ず死ぬ事になっている。
その特殊な状況下で、パイロットに選ばれた人々の葛藤が描かれる。
ジレンマしかない。
ジアースはカッコいい。
●組織の問題●
このカテゴリーは、主人公がコミュニティを支配している腐敗した支配者と戦う事で起きる事が、ネガティブ&ポジティブに係わっている事が多い。
乙嫁語り
- ポジティブ:結婚によってコミュニティに加わったり、加わる準備をする
- ネガティブ:家同士の問題、苦手な花嫁修業、等
結婚をテーマにした本作では、家同士の問題が発生したり、花嫁修業に苦戦したり、と言った問題と向き合う花嫁が複数描かれる。
恋愛では二人の問題(相棒)の方が要素として大きかったが、結婚になると家族同士の問題やコミニティのしきたりがより大きくなる。
作者の別作品「エマ」でも、劇中の問題が恋愛から結婚に移る事で、社会との係わり方が壁となっていた。
嫁達がみんな魅力的。
●変わり者(変人)●
このカテゴリーは、主人公だけが「変」か、主人公以外が「変」である事で起きるコミュニティとの摩擦がネガティブを生み出す。
人は、社会の異物に対して、様々な反応を示すからだ。
よつばと
- ポジティブ:子供視点で、日常の中の楽しい事をする
- ネガティブ:怖い思いとか、嫌な思いもする
日常系コメディ漫画。
主人公が、幼い子供で、リアルな子供目線の描写が魅力的で面白い。
先入観が無い子供の視点と言うフィルターで世界を見る事で、何でも無い日常の一つ一つが事件や思い出と言うイベントになる。
ダンボーの元ネタ。
●禁忌(タブー)●
このカテゴリーは、社会的なタブーに触れざるを得ない主人公が、触れる事で受ける社会的反発や、触れてはいけない精神的抵抗感自体をネガティブとして受け取る。
エマ
- ポジティブ:恋愛
- ネガティブ:身分の差による弊害多数
先にも乙嫁語りで軽く触れた。
階級社会の中で繰り広げられる身分の差を超えた恋愛劇を、出会いから結婚まで丁寧に描き切った名作。
身分差による分不相応を扱う物語全般に言える、社会のルールを破る事で起きるネガティブな事に対して、当事者達がどうやって向き合って行くかがちゃんと描かれている。
●人生の岐路●
このカテゴリーは、主人公が目的を達する為に間違った手段を使う事で起きるジレンマがネガティブに働く事が多い。
幼女戦記
- ポジティブ:生き延びたいので戦う
- ネガティブ:戦場で活躍すると、それだけ出世して前線に送られる
出世すればするほど首を絞めて行くスタイル。
神への信仰を獲得したら負けだが、それまで神は邪魔をして来る。
出世と言う、本来であれば主人公にとってプラスな事がマイナスに働く状況も、面白い。
侵略!イカ娘
- ポジティブ:地上を侵略したい
- ネガティブ:やり過ぎると怒られる
ゆるいギャグマンガ。
イカちゃんが基本的にアホの子だが、自分なりの侵略を模索する様は、非常に面白い。
居候する家の長女に逆らえず、侵略は進まないと言うヘタレなのが、可愛い。
こち亀の両さんと部長も、大体同じ関係。
カグヤ様は告らせたい
- ポジティブ:恋人になりたい
- ネガティブ:恥ずかしい、素直になれない、フラれるのが怖い
だから、相手に告白させる為に全力を尽くすと言うギャグマンガ。
物語の基本は、ハイスコアガール、高木さん、上野さんに似ていると感じた場合、それは物語構造が近いからだ。
もどかしい付かず離れずが心地良いタイプの作品。
●超人(スーパーヒーロー)●
ヒーローが抱えるネガティブは、危険と孤独が王道だ。
自分と周囲を守る為に二重生活をする中で孤独になり、秘密を明かせば危険まで共有する事になってしまう。
フラッシュ、スパイダーマン、等
- ポジティブ:大事な人を守りたいから悪と戦う
- ネガティブ:活躍する程に目の敵にされ、正体がバレた時には大事な人が狙われる事に
ヒーローは、正義の象徴になる事で悪に注目される。
だから、正体を隠し、人生の半分を孤独に過ごす事を強いられる。
ヒーローとは、人々の憧れの存在であると同時に、常に危険や孤独を抱える事を強いられた存在でもある。
孤独を解消させると、自動的に周囲への危険度が増す立場だ。
大いなる力には、大いなる責任が伴う。
●謎(ミステリー)●
このカテゴリーでは、誰かにとって不都合な真実を暴露しようとする事で摩擦が起きる。
ゼノギアス
- ポジティブ:自分の正体を知りたい
- ネガティブ:知りたくない事実までついて来る
1998年に発売された不朽の名作。
ファンタジー×SF×巨大ロボットと言う、みんなの好きな物が全部詰まってる。
主人公が記憶喪失系の物語にあるパターンは、失ったままの方がマシだった衝撃の過去まで一緒に暴露されるリスクが常にある事だ。
ゼノギアスでは、主人公のフェイが背負っていた過去は、あまりにも情報量が盛りだくさんで重すぎる。
極一部を記すが「研究の実験台」「母殺し」「虐殺者」「二重人格で仲間を殺していた」等が次々と判明して落ち込むのだが、そりゃ落ち込むのも納得の過去である。
だが、これらの過去を乗り越え、自身の運命に打ち勝ったからこそ、ディスク2がアレでも、物語としてみれば記憶に残る大傑作であった。
FF7みたいなリメイク出ないかな……版権で難しそうだけど……
やった事が無くて興味がある人は、プレイステーションのオンラインストアでDLしよう。
●革命●
革命とは、現体制を覆す事で、大小こそあるがクーデターである。
コミュニティや環境をガラリと変える事は、そこに所属する人々からすると、すぐには受け入れがたい変化である事が多い。
そう言った人々からの反発が、このカテゴリーでは、主なネガティブ要素となる。
仁
- ポジティブ:人を助けられる
- ネガティブ:歴史が変わるかも
革命カテゴリーながら、タイムスリップ要素が強い仁では、周囲の抵抗以上に、タイムパラドクスと言うネガティブ要素に気を付ける必要がある事で葛藤を生み出していた。
目の前の人を助けると、それ以降の歴史が大きく変わってしまうかもしれない事の責任は、一人の人間が負うには重すぎる物だ。
●モンスターパニック●
このカテゴリーでは、容赦なく襲い来る怪物の対処自体が、本来ならしたくない事だろう。
Re:ゼロから始める異世界生活
- ポジティブ:味方を助けたい
- ネガティブ:時間を戻すには死ぬしかない
アニメ化で大ヒットしたリゼロ。
死に戻りと言うタイムリープ能力を獲得した主人公は、悲惨な1巡目の世界に突入すると、悲劇を回避する為に試行錯誤を強いられる事になる。
暗殺者にモンスターに謎の教団にと、危険がいっぱいの異世界だ。
大事な人が皆生存している未来を模索して、主人公は時に自殺までして時間を巻き戻し、トライアンドエラーを繰り返していく。
悲劇前の状態に戻すには、死ぬしかないジレンマ。
助けたいから死を選ぶと言う行動デザインが上手い作品。
ヒロインの一人であるレムの
- ポジティブ:姉への罪滅ぼしをしたい
- ネガティブ:自分を犠牲にしている
と言う、やがて君になるのヒロインと似たジレンマから、主人公によって解放されてからが、レム無双。
●難題解決●
このカテゴリーでは、降りかかる難題をいかに乗り越えるかそれ自体がモンスターパニックと似て、本来なら避けたい事だ。
君の名は
- ポジティブ:会いたい
- ネガティブ:実際に会うには、どうにかして悲劇的な過去を変えないとならない
変人カテゴリーの入れ替わりモノの皮をかぶって、実はタイムスリップ物だった事でも話題を集めた名作。
全体的に見るとタイムスリップ物なのに、表面的に見ると入れ替わりモノで、どちらの必須要素も満たしている事で構造的には調和がとれている。
隕石の落下地点から人々を非難させる為の戦いがメインの後半戦は、多少シナリオとして粗い所もあったが完成度は非常に高い。
物語構造から見れば、十分納得のヒット作品だ。
※カテゴリーは、現在網羅出来て無いので12分割で載せています。
※この記事は、加筆・修正する予定です。