ミクスチャー・メソッド?
乾いている所には、火が付く
不満が溜まっている、潤っていない所でこそ、炎上する
ヒットするのも、同じなのでは無いか
漫画家で、ニコ動配信者やユーチューバーとして活躍されている山田玲司先生の動画が非常に面白かったので、今回は下調べついでに掘り下げてみました。
前提
- 週刊漫画の場合、単行本発売まで半年かかる。
- 週刊誌の場合、順調なら3ヶ月に一冊ペースの発行だ。
これをおおよその基準に考える。
構想や執筆は当然、掲載以前しかありえない。
なので、掲載以前に世間で何があったのかを見ながら「ハンター×ハンター」と「世間、世相」の相関関係を見てみたい。
分析
冨樫義博 『HUNTER×HUNTER』〈ジャンプ・コミックス〉、既刊36巻(2019年1月現在)
- 1998年(平成10年)14号掲載開始
◆1997年のブーム
- 1996年発売の「ポケットモンスター」大ブレイク
- 「たまごっち」「デジモン」大ブレイク
- プレイステーション黄金期「FF7」等が発売
- 「ドラクエ7」開発発表
- 「ハイパーヨーヨー」ブーム
- 「エヴァ」ブーム、劇場版公開
- 「もののけ姫」公開
ハンター試験編~
- 1巻「出発の日」1998年6月9日発行(6月4日発売)
- 2巻「霧の中の攻防」1998年9月7日発行(9月2日発売)
- 3巻「決着」1998年11月9日発行(11月4日発売)
- 4巻「最終試験開始!」1999年2月9日発行(2月4日発売)
1~5巻までは、ライセンス(資格・免許)を取得する物語だ。
山田玲司先生の分析では、ポケモンに置いてのジムをクリアして資格(バッジ)を取得していく作りを、同じ物語構造として捉えていると言う事だ。
「ポケモンマスター」=「プロハンター」と言う感じ。
ちなみに、ポケモンは元々「虫取り遊び」の競争やコレクションをモチーフに行動設計されている。
そこにライセンス的要素を足したのがポケモンであり、ライセンス要素を残して虫取り遊びをハンターと言う概念に入れ替えのが、ハンター×ハンターと言う見方と考えていいだろう。
山田先生は、1997年開始の「ワンピース」を外(未知)の世界への旅の物語と分析しているのに対して、「ハンター×ハンター」はライセンス取得と言う主題故に、くじら島(主人公であるゴンの育った故郷)から外の世界に旅立ったが、その先は社会的に見て未知ではなく、管理下に置かれた世界であり、管理下に置かれた世界(現代社会)で目的を達成するにはライセンスが必要と言う、時代の価値観に合った表現を、読者に気付かれない様にしていると言う分析をしている。
面白くも鋭い。
現代社会で成功する為には、特殊な免許を持っていた方が有利だと言うのは、現実でも納得の出来る設定だ。
ただ、モチーフの与える影響と言う見方では正しいが、物語構造として見ると、必ずしもそうではないので、補足させて貰う。
最終的には変化して(ライセンス取得して)元の世界(くじら島)に戻る、物語構造的にも美しい一区切りを入れ、そこから物語を継続させる形をとっている。
その点を考えると、実社会に寄せた内向きな描写で共感を呼ぶ手法ではあるが、物語構造的に見ればゴンは、外に旅立ち目的を達成して帰還しているスタンダードな旅物語だ。
◆1998年のブーム
- メタルギアソリッド発売
- ドリームキャスト発売
- ゼルダの伝説時のオカリナ発売
~ゾルディック家編・天空闘技場編~
- 5巻「ジン=フリークス」1999年5月5日発行(4月30日発売)
- 6巻「ヒソカの条件」1999年10月9日発行(10月4日発売)
- 7巻「これから」1999年12月27日発行(12月22日発売)
5~8巻までは、念能力(超能力)を取得する物語。
まだライセンスを得るための物語が続いている。
場所を変えて、修行と天下一武道会(ドラゴンボール以降のお約束)が行われる構成だ。
連載当時は、学校内(学園)バトルブームが起きていた。
ちなみに、1999年連載開始したナルトは、忍者の学校が舞台で、上忍試験編等ではやはり天下一武道会が行われていた。
それを考えると、ライセンスと言う要素を残して、ハンターを忍者と言う概念に入れ替えた物語がナルトと言う見方も出来て面白い。
◆1999年のブーム
- 携帯電話ブーム
- 警察の不祥事の報道増加
- 非正規雇用の増加
- 学級崩壊が社会問題に
- 流行語「リベンジ」等
- 世紀末ブーム
- アニメ「ハンター×ハンター」開始
- 「ポケモン金銀」「FF8」「スマブラ(一作目)」発売
- 日本でヤフーオークション開設
- 遊戯王カード発売
~くじら島への里帰り編・ヨークシン編(幻影旅団編)~
- 8巻「オークション開催!!」2000年4月9日発行(4月4日発売)
- 9巻「9月1日」2000年7月9日発行(7月4日発売)
- 10巻「9月3日」2000年11月7日発行(11月2日発売)
- 11巻「9月4日」2001年3月7日発行(3月2日発売)
- 12巻「9月4日 その2」2001年7月9日発行(7月4日発売)
旅団編では、ゴンとキルアは、ゴンの父親の手掛かりであるゲームソフトを求め、クラピカは復讐の為に本格的に動き出す。
高機能の携帯電話が登場したり、ヤフオク上陸の翌年にオークションをモチーフにした物語と言うのも時代の波に乗っているのが分かる。
◆2000年ブーム
- 警察不祥事に加え、食品事故、医療ミスの隠蔽と多発が問題化
- 児童虐待、ストーカーも問題化
- 17歳の凶悪犯罪多発
- ミレニアムブーム
- 「プレイステーション2」発売
- 「IT革命」等が流行語に
- 「デジモンアドベンチャー僕らのウォーゲーム」公開
- 「ドラクエ7」「FF9」発売
- Amazon開設
~グリードアイランド編~
- 13巻「9月10日」2001年11月7日発行(11月2日発売)
- 14巻「島の秘密」2002年4月9日発行(4月4日発売)
- 15巻「躍進」2002年10月9日発行(10月4日発売)
- 16巻「対決」2003年2月9日発行(2月4日発売)
- 17巻「三つ巴の攻防」2003年6月9日発行(6月4日発売)
富樫先生は今でこそ有名になったが、大のゲーム好きだそうだ。
RPGツクール等も好きらしく、オンラインゲームも凄いとの噂だ。
そうして始まったのが、念能力で作られたゲームの中に入り、攻略をしながら修行したり、爆弾魔を倒したりしながらクリアを目指すGI編だ。
ドリキャス・PS2等の家庭用ゲームでオンラインプレイが当たり前になりつつある時代に、ぶつけて来た命がけのゲーム設定。
ちなみに、ゲームに入る系の物語で有名なドットハックが発売、テレビ放映されていたのは2002年。
ソードアートオンラインは、2002年に執筆されている。
また、カードを集めるタイプの携帯電話ゲームは、まだ全然登場していない時期である。
マジックザギャザリングや遊戯王カード等の方が発想の源に近いだろう。
◆2001年
- 新世紀ブーム
- 狂牛病が問題化
- ドメスティック・バイオレンスの問題化
- 「ハリー・ポッターと賢者の石」公開
- 「千と千尋の神隠し」公開
- アメリカ同時多発テロ(911)発生
- 「ドリキャス」市場撤退決定
- 「ゲームキューブ」発売
- 「どうぶつの森(1作目)」「ピクミン」「スマブラ(2作目)」発売
- 「FF10」発売
◆2002年
- アゴヒゲアザラシのタマちゃん、チワワのくぅ~ちゃんブーム
- 刑法犯認知件数が戦後最悪の年、以後改善していく
- 政治家の逮捕・辞職が相次ぐ
- 北朝鮮の拉致問題への関心が高まる
- 「ハンター×ハンターヨークシン編」OVA発売
- 「XBOX」上陸
- 「キングダムハーツ」「FF11」「ポケモンルビサファ」発売
◆2003年
- スローライフ、セカンドライフブーム
- SARSが中国で流行
- 「トリビアの泉」ブーム
- 「ハンター×ハンターグリードアイランド編」OVA発売
- スクウェアとエニックスが合併、スクエニに
~キメラ=アント編~
- 18巻「邂逅」2003年10月8日発行(10月3日発売)
- 19巻「NGL」2004年2月9日発行(2月4日発売)
- 20巻「弱点」2004年6月9日発行(6月4日発売)
- 21巻「再会」2005年2月9日発行(2月4日発売)
- 22巻「8-(1)」2005年7月9日発行(7月4日発売)
- 23巻「6-(1)」2006年3月8日発行(3月3日発売)
- 24巻「1-(4)」2007年10月9日発行(10月4日発売)
- 25巻「突入」2008年3月9日発行(3月4日発売)
- 26巻「再会」2008年10月8日発行(10月3日発売)
- 27巻「名前」2009年12月30日発行(12月25日発売)
- 28巻「再生」2011年7月9日発行(7月4日発売)
- 29巻「記憶」2011年8月9日発行(8月4日発売)
キメラ=アント編からは、凶悪な外来生物の脅威が描かれている。
2001年の同時多発テロ、2002年の北朝鮮拉致被害への意識の変化、等は意識しているのかもしれない。
「外から来た敵に襲われ、喰われる恐怖と戦う物語」の先駆け、と言う分析もある。
ちなみに、その設定で今や代表格の「進撃の巨人」は2009年発表だ。
進撃の巨人が影響を受けたと言われる「マブラブオルタナティブ」は2006年発売である。
北朝鮮の核実験報道、東北大地震等も連載中に遭遇しているのも興味深い。
キメラ=アント編後半の閉鎖国家と言う舞台や、勝敗を決めた一手に少なからず影響があると見る方が自然な分析に思える。
◆2004年
- オレオレ詐欺が問題化
- イラク日本人人質事件が問題化
- 政治家の年金未納問題で混乱しながらも年金法案強行採決で政治不信に
- NHK放送の「冬のソナタ」から韓流ブームに
- 日本の総人口がピークに、以後減少し続けている
- 新紙幣発行
- ライブドアが話題に、ホリエモンが有名人になる
- 「超気持ちいい」「気合いだ」「ハッスルハッスル」等が流行
- 自然災害が多い年だった
- 「世界の中心で愛を叫ぶ」「ハウルの動く城」公開
- 「エルフェンリート」放送
- 「メタルギアソリッド3」「ドラクエ8」「ポケモン赤緑リメイク」発売
- 「ニンテンドーDS」「PSP」発売
- Mixi開設で徐々にSNSブームが始まる
◆2005年
- 鉄道事故多発
- 小泉首相が劇場型政治で大勝利
- クールビズ推進
- ロハスブーム
- ライブドアのメディア買収騒動
- スイーツと言う言葉が女性誌等から広がり始める
- 少女漫画ブーム
- 電車男ブーム
- 萌えが徐々に一般化し始める
- お笑いブーム
- 愛知万博開催
- 「トリビアの泉」ゴールデンに
- ○○カワイイが一般化(きもかわ、えろかわ等)
- ブログがブーム
- 「XBOX360」発売
- 「キングダムハーツ2」発売
- YouTube開設
◆2006年
- ホリエモン逮捕
- ○○王子ブーム(ハンカチ王子等)
- 携帯小説ブーム
- 北朝鮮が地下核実験を成功したと発表
- 「品格」「格差社会」「エロカッコいい」等が流行語に
- 脳トレブーム
- 「ゲド戦記」「時をかける少女」公開
- 「フェイト」「デスノート」「涼宮ハルヒ」アニメ放送
- 「モンハン2」「マザー3」発売
- 「PS3」「Wii」発売
- ニコニコ動画開設
◆2007年
- 「鈍感力」「そんなの関係ねぇ」「食品偽装」「ネカフェ難民」「消えた年金」等が流行語に
- 「ヱヴァ新劇場版」公開
- 「グレンラガン」「らき☆すた」「スクールデイズ」「クラナド」テレビ放送
- Pixiv開設
◆2008年
- 「アラフォー」「名ばかり管理職」「後期高齢者」「蟹工船」等が流行語に
- 「ポニョ」公開
- Twitter、Facebook日本語版開設
◆2009年
- 1991年リバイバルブーム
- 「政権交代「事業仕分け」「新型インフルエンザ」「草食男子」「派遣切り」「歴女」等が流行語に
- 「エコカー減税」「オバマ政権」「婚活」「女子力」等もノミネート
- 「ヱヴァ新劇場版2」「サマーウォーズ」公開
- 「けいおん」ブーム
- 「モンハン3」「シュタゲ」「トモコレ」「ラブプラス」「ドラクエ9」「ポケモン金銀リメイク」発売
◆2010年
- AKBが一般にまで流行り始める
- 「女子会」「なう」「無縁社会」等が流行語に
- 「借りぐらしのアリエッティ」公開
◆2011年
- スマホブームに
- 東日本大震災(311)発生
- 「どや顔」「帰宅難民」「風評被害」等が流行語に
- 「コクリコ坂から」「映画けいおん」公開
- 「まどマギ」「あの花」「シュタゲ」「タイバニ」「アイマス」「フェイトゼロ」テレビ放送
- 「3DS」「PSVITA」発売
~会長選挙編・アルカ編
- 30巻「返答」2012年4月9日発行(4月4日発売)
- 31巻「参戦」2012年12月9日発行(12月4日発売)
2009年以降毎年恒例となったAKB選抜総選挙がまだ熱い時期に、ハンター×ハンターでは会長選挙が始まる。
キメラ=アント編で瀕死になったゴンが復活し、ようやく望んでいた父親との再会をする事で1巻から目指し続けていた目的を一つ達成した物語の節目でもあった。
◆2012年
- 「iPS細胞」が話題に
- 政党乱立で第3極と呼ばれた
- 「終活」等が流行語に
- 「おおかみこどもの雨と雪」「ヱヴァ新劇場版3」公開
- 「ガルパン」「SAO」テレビ放映
- 「WiiU」発売
- 「パズドラ」リリース
◆2013年
- 2020年の東京オリンピック開催決定
- 「今でしょ」「倍返し」「アベノミクス」「ブラック企業」「ご当地キャラ」「特定秘密保護法」「ヘイトスピーチ」等が流行語に
- 「風立ちぬ」公開
- 「進撃の巨人」「ラブライブ」テレビ放送
- 「艦これ」「スクフェス」リリース
- 「FF14」発売
◆2014年
- スタップ細胞騒動
- 「ありのままで」「壁ドン」「マタニティハラスメント」「妖怪ウォッチ」「集団的自衛権」等が流行語に
- 「思い出のマーニー」公開
- 「フェイトUB」テレビ放送
- 「PS4」「XBOXONE」発売
◆2015年
- 「一億総活躍社会」「(オリンピック)エンブレム(問題)」「ドローン」等が流行語に
- ドラゴンボール再始動
- 「バケモノの子」公開
- 「おそ松さん」テレビ放送
- 「刀剣乱舞」「FGO」「デレステ」リリース
◆2016年
- 「聖地巡礼」「盛り土」「ポケモンGO」「PPAP」「VR」「エモい」「食レポ」等が新語・流行語に
- イギリスのEU離脱が決まる
- 「スターウォーズ7」「君の名は」「この世界の片隅に」公開
- 「このすば」「リゼロ」テレビ放送(なろう系のアニメ化が当たり前に)
- 歩きスマホが社会問題に
- 「PSVR」発売
- 「FF15」発売
- 「ポケモンGO」リリース
- AmebaTV開局
◆2017年
- 最年長のひふみん引退、最年少で藤井4段がプロに、羽生さんは永世7冠達成で将棋業界が過熱
- トランプが合衆国大統領に
- 「インスタ映え」「忖度」「フェイクニュース」「○○ファースト(アメリカファースト等)」等が流行語に
- 「けものフレンズ」ブーム
- 「Switch」発売
- 「ドラクエ11」発売
- 「ガルパ」「アズレン」リリース
◆2018年
- 「eスポーツ」「おっさんずラブ」「スーパーボランティア」「奈良判定」「半端ないって」「MeToo」等が流行語に
- 「未来のミライ」「ボヘミアンラプソディ」公開
~暗黒大陸編~
- 32巻「完敗」2012年12月31日発行(12月28日発売)
- 33巻「厄災」2016年6月8日発行(6月3日発売)
- 34巻「死闘」2017年7月1日発行(6月26日発売)
- 35巻「念獣」2018年2月7日発行(2月2日発売)
- 36巻「均衡」2018年10月9日発行(10月4日発売)
体調の悪化による休載で刊行スピードが大幅ダウン。
暗黒大陸編では、主に王位継承争奪戦が行われているが、今までと違うのは連載スピードが遅い事で世の中のブームに合わせて行っているのかは不明な点か。
それとも、連載直前の世相を鋭く切り取っているのか?
終わりに
一般世間的なブームの1~2年後にヒット要素を作品に反映させる事で、時代の波に乗りながら狙ってヒットを連発しているのでは無いかと言う山田玲司先生の「ミクスチャー・メソッド」分析の裏付け記事でした。
情報の大半はwikiやgoogle検索ベースですので、間違いがあるかもしれない点は、ご了承ください。
ピックアップした流行は、目についたものと関係がありそうなもの、それと個人的に興味があった物です。
最後に。
富樫先生は、やっぱり天才ですわ。
体調回復と連載再開を心待ちにしてます。
※この記事は、加筆・修正する可能性があります。
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