手段や目標に振り回される罠
噛み合っていた歯車が止まったり、空廻ったり。
誰でも必ず、行動していれば失敗をします。
その中でも大勢が陥り、大半が気付く事も出来ない大失敗。
「手段の目的化」を今回はお話します。
手段の目的化
手段の目的化と聞いて、何を連想するでしょう?
身に覚えがある人も、多いと思います。
良くある失敗が、万全の準備を整えてから新しい事を始めようとするパターンです。
例えば、全くの初心者が漫画を描こうと思った時……
- 漫画の描き方本を買って来て、読破するまで動かない。
- 描きたい作品のモチーフ資料を、大量に集めていく。
- 徹底した基礎練習によって、技術をマスターしてからが本番。
- 完璧な世界観を構築する為に、膨大な設定をまとめていく。
- 必要そうな画材を、一通り揃えるまで始められない。
準備が終わったら始めようという姿勢でいると、いつまで経っても作品を作り始められない。
こう言う事態に、陥りがちです。
私自身、この落とし穴には、しっかりと落ちた事があります。
形から入ったり、技術的に何でも出来る様になってから始めようとするのは、一見正しいように思えるでしょう。
ですが、これは初心者が手を出すには、あまりにも効率の悪いアプローチです。
「準備」とは本来「創作する為に必要な準備」ですよね。
つまり、必要以上の準備は、創作する上で「必ずしも必要が無い物」と言う事が言えます。
例えば、極端な話。
漫画のスクリーントーンが全種類手元に無くても、漫画は完成するでしょう。
漫画制作ソフトが全機能把握出来て、完璧に使いこなせなくても、漫画は描けます。
紙とペンがあれば、描き始める事は可能な筈です。
もちろん、紙とペンだけで描き始めれば、足りない物が出てくる事もあります。
しかし、完璧な準備が目的になってしまっては、目的と手段の逆転になってしまう恐れがある、と言う事です。
手段の目的化は、創作の進行を著しく妨げる物です。
始める前に万全の準備を目指せば、始める事がいつまで経っても出来ません。
それは、創作の始めだけでなく、途中であっても同じです。
細部にこだわり過ぎて苦労する事もあります。
どうでも良い箇所を、必要以上のクオリティで創作するのは、労力の無駄遣いです。
必要なこだわりは、作品のクオリティを上げます。
ですが、必要以上の細部へのこだわりは、必要がありません。
陥る原因
手段の目的化に陥る原因は「目標設定が出来ている状態で、目的が見えていない事」です。
絵であれば、目標は「上手い絵を描けるようになる」事かもしれませんが、それは目的として「絵による自己表現」を実現する為の物かもしれません。
その場合、目的が見えていないと、目標の「上手い絵を描かないといけない」と言う思い込みを、無意識に目的化してしまい、いつまで経っても「絵による自己表現」を始める事が出来ません。
ですが、目的が見えてさえいれば「上手く無くても、絵で自己を表現出来ていれば良い」と、絵を描き始める事が出来ます。
そうすれば、描いている内に絵は上手くなり、目標達成にも自然に近づいていきます。
他に例えば、「プロの作家になる」事は目標であって、目的は「作品で読者を楽しませる」事かもしれません。
目標とは、目的に到達する為の通過点の一つに過ぎない事を意識しましょう。
旅で言えば、目的地が富士山ならば、目標地点はあなたのいる場所と富士山の間にある「寄っておきたい場所」に過ぎません。
寄っておきたいですが、すぐに行けるかどうかは別です。
遠回りになる様なら、目標地点に必ずしも寄る必要は無いわけです。
例えの場合、目的地は、あくまでも富士山であり、あなたは富士山に行かないといけない事が一番優先するべき事です。
なのに、行くのが難しい目標地点にどうにかして行くために、延々と準備をしてしまい出発も出来ないのでは、富士山との距離が変化しません。
お金がなくて初登山なのに、富士山を一合目から一人で登りきる気で準備をするよりは、必要最低限でも登れるか試す方が初動が速くなります。
必要なのは「必要を見極める力」なんです。
解決策
「○○になる」「○○する」と言う様な「なる」「する」等で表現出来る事は、目標です。
「有名になる」「金持ちになる」「漫画家になる」「準備をする」「上達する」等々です。
目標で自分が考えていると気付いたなら「何のために?」と自分に質問を重ねて見ましょう。
どこかで「なる為」「する為」では無い、それ以上聞いても理由が多い浮かばない答えが引き出せる筈です。
「より目的に近い目標」を経由して「目的」を探しましょう。
- 「絵が上手くなりたい」→「漫画家になりたい」→「金持ち・有名、人気者になりたい」→「ちやほやされたい」
- 「絵が上手くなりたい」→「美しい作品を作りたい」→「自分の中の美を表現したい」→「自分の理想を誰かと共有したい」
等と目的が見えれば、その目的に対して目標が適切か考えましょう。
もしかしたら、あなたは目標や目的を、そもそも間違えていると言う事があり得ます。
「手段の目的化」から脱するには、まずは自覚が必要です。
自分を客観的に見たり、誰かに指摘される事で自覚する事が出来るでしょう。
では、手段を目的としていない状態の丁度良い準備とは、どの程度の準備でしょうか?
それは、あなたが作りたい作品のプロトタイプを作ってみる事で、効率よく見えてきます。
それが面倒であれば、作りながら必要な物を順次準備するか、信頼の置ける経験者に「何を作りたいか」を提示し、助言を求めるのが良いでしょう。
また、試作が難しく感じるのであれば、それこそプロトタイプから完成させる事が有効です。
プロトタイプを作れないのであれば、本番の制作も難しいからです。
おわりに
手段の目的化状態に陥って、夢を諦めたり、始める前から挫折する人は、非常に多いです。
創作の途中でも、手段の目的化は、いつもあなたを狙っています。
あなたが目的を見失えば、あっさりと飲み込まれてしまうでしょう。
また、世の中には「目的の意識」をした事が無い人が、結構います。
そういった人は、手段の目的化によって被害を受けている事が非常に多いです。
これは、創作に限った事ではありません。
例えば、政治は住む人々が幸福である事が目的の物です。
ですが、多くの国では国や政権の維持の為に、国民は我慢を強いられる政治によって不幸になります。
他に、ルールは守る事で人々が公平に暮らせる事が目的に決められます。
ですが、多くの場合、ルールを守る事が目的になってしまい、状況に合っていない古いルールによって多くの人が不公平の被害に遭います。
これらは、典型的な手段の目的化です。
「目的」を常に意識しましょう。
そうすれば、手段や目標に支配されず、目的に向かって行動し続ける事が出来ます。
大事なのは「目的」を認識する事です。