プロローグの役割について
ここでは、パラダイムのパート毎に深く役割を語っていく。
今回は「プロローグ」について。
もしかしてプロローグの事、漠然と書いてない?
プロローグとは?
言い方は、何でもいい。
- プロローグ
- イントロ
- イントロダクション
- 序奏
- 序章
- 序幕
- 冒頭
- 導入部
- 序文
- 序説
- 紹介文
- 本編開始前
- オープニング
- オープニングイメージ
と、様々な表現が出来る。
図、ブレイク・スナイダーの脚本パラダイム「ビートシート」ではオープニングイメージのパートだ。
だが、ここで呼び方は重要ではない。
各呼び方で意味合いが微妙に変わる所もあるが、大事なのは物語に置いて「構造的に見て、どの様な役割や機能があるパートなのか」と言う事だ。
一般的には「本編の概略」や「知っていて欲しい前提・背景」を予め説明するパートだ。
そのまま物語に適応するなら「これから始めるのは、こういう話です」や「こういう世界観や登場人物が出ます」を説明するパートに思える。
しかし、それだけで良いプロローグは作れない。
たかがプロローグと思うかもしれないが、プロローグを決して侮ってはいけない。
プロローグは、言わば玄関だ。
プロローグと言う玄関は、先入観を人に与える物なのだ。
プロローグの役割
プロローグは、先入観を人に与える。
玄関が汚い家は、家の中まで汚い可能性が高いと考えがちな事と同じだ。
プロローグを玄関と考えれば、その役割は、「家(本編)に入りやすくする為の説明」と言う一般的な物と同時に、そこに「印象操作」もある事が分かる。
印象操作と聞くと、悪いイメージを持つ人もいるだろう。
しかし、印象操作が上手に出来ないと、プロローグは役割を果たしているとは言えない。
人を家に招く時、人を通して目につく所だけ綺麗に掃除する事は無いだろうか?
誰でも、大なり小なり玄関、廊下、部屋、トイレあたりは、掃除をして恥ずかしく無い状態にすると思う。
それは、立派な印象操作であり、家の場合は「見栄を張る」行為である。
「いつもその状態」であるかの様に、自分が「綺麗好き」であるかのように「思ってもらいたい」からこそ、掃除をしてでも綺麗にする。
これが物語の場合は、見栄を張るのとは、少し違ってくる。
むしろ、見栄を張れば、自分の首を絞める事になる。
物語のプロローグがしなければならないのは、「本編に入りやすくする」と同時に「読者に期待をさせる」事である。
期待させるのは、見栄を張るのとは、結構違うのだ。
「期待させる」と「見栄を張る」の違い
見栄を張るのは、プロローグでは自殺行為と言って良い。
見栄を張るとは「本来よりも良く見せる」為の、他人を偽る行為だ。
言ってしまえば、嘘であり、騙す行為である。
これは、あなたが作品を作るのが「これ一回キリ」であれば、プロローグで読者を騙す為に使う事が出来るかもしれない。
だが、長期的に見れば「中身がない」事がバレて、見栄っ張りと信頼を失う事になる。
中身が伴わない嘘のプロローグで、期待を悪戯に高めてしまったからだ。
そうなると、二度と誰もあなたの物語に対して正しい期待を寄せる事が無くなる。
一方で、期待させる事はプロローグに必要な要素だ。
期待をさせてから、その期待に十分に応えれば、信頼を勝ち取る事に繋がるからだ。
つまり、見栄を張る事で本来より良く見せて期待させる場合は、期待に応えられない可能性が大きくなるので、失敗の確立が跳ね上がる。
見栄を張れば、嘘を本当にする無理をする事になってしまう。
最初から身の丈に合った期待をさせる場合は、期待に応えられる可能性が大きくなるので、成功する確率が上がると言うわけだ。
フック
突然だが、フックと言う言葉を聞いた事はあるだろうか?
ストーリーテリングでは、フックと言えば「つかみ」を指す。
どちらも簡単に説明すると、魅力的なフックで心を引っ掛ける様に読者に物語に興味を持ってもらったり、魅力的な導入で心を鷲掴む意味で使われる。
プロローグは、本編に入りやすくする為の説明をすると同時に、強烈なフックである必要がある。
だが、見栄を張る事は出来ない。
しかし、期待をさせる必要はある。
では、どうやって魅力的なフックを設置すれば良いのだろうか?
鍵は、「謎」や「疑問」である。
謎や気になる事を設置すれば、それが自然とフックになる。
と言っても、ただ謎を提示したり、疑問を浮かばせればいいと言う訳ではない。
そこには、きちんとした手法が存在する。
これからどうなる?
本編に入りやすくする説明として、過去を描く手法がある。
ただ過去を描くのでは無い。
過去にあった、本編の状況を作り出す切欠となった出来事を描くのだ。
その多くは、事故や事件として描かれる事になる。
それが「これからどうなる?」だ。
過去の出来事を簡潔に描く事で、その後の世界で「これからどうなる?」かと言う期待を持たせる事が出来る。
映画「スターウォーズ」では、文字が流れて世界観の概要が説明されてから、帝国軍と反乱軍の争いが描写される。
この短いプロローグによって、本編が始まって場面が別の場所に変わっても、戦争が起きていて、帝国軍が恐ろしい、等を始めとした設定が視聴者には知れ渡っている。
アニメ「コードギアス」では、日本がブリタニア帝国に占領された事件、ナイトメアフレームと言う強力なロボット兵器の存在が提示され、本編が始まっても舞台がブリタニア支配下の日本である事等の設定に視聴者はついて行く事が出来る。
これらの様に、本編への入口として機能しつつ、何らかの出来事の後である事を提示する事で、その世界で「これからどうなるのか?」と言う期待を持たせる事が可能な訳だ。
また「これからどうなる?」は、
- これから失う、取り戻すべき物
- 必要になる、手に入れるべき物
- 事件、悪い事が起きる予兆
- 主人公に関わる大きな変化が起きる予兆
等を暗示するパターンもある。
海外ドラマ「フラッシュ」では、母親が殺され、父親が冤罪で刑務所に入れられてしまう。
主人公のバリーは、母を殺した犯人を捜しつつ、父親を取り戻そうと奮闘する事になる。
海外ドラマ「スニーキーピート」では、主人公のマリウスが刑務所にて相室の囚人ピートからピートの家族の話を聞く。
ピートの家族こそが、マリウスの手に入れるべき物であると同時に、仮想の家族と言う形であってもマリウスが求めている物が家族である事を暗示しているわけだ。
どうしてこうなった?
もう一つの手法が、未来を描く方法である。
それが「どうしてこうなった?」だ。
これも、出来事を描く必要がある。
多くの場合、本編中の劇的、あるいは象徴的な出来事を切り取る形で冒頭に持ってくる事によって、本編の雰囲気や、どういう話になるのかを提示すると同時に「どうしてこうなった?」と言う期待を持たせる。
海外ドラマ「ブレイキングバッド」では、砂漠を激走する銃創のあるキャンピングカーと謎の死体、ビデオカメラに向かって家族への遺言を残し、拳銃自殺しようとする裸エプロンにガスマスク姿の主人公と言う、素晴らしい「どうしてこうなった?」が提示される。
海外ドラマ「リミットレス」では、FBIに追われている主人公が捜査官の静止も聞かずに地下鉄が迫る線路に飛び降りて自殺を図る様なシーンから物語が始まる。
ゲーム「ファイナルファンタジー10」では、衝撃の事実を知ってしまったタイミングの主人公達が美しくも儚い景観の中、過去を思い出す形で物語が始まる。
どれも、物語の中でインパクトのあるシーンから始まる事で、視聴者はシーンの直後にどうなるのかを期待するし、本編が始まればプロローグに至るまでの流れにも期待をする事になる。
プロローグの選択
気付いた人もいるかもしれないが、「これからどうなる」と「どうしてこうなった」を組み合わせる事も可能だ。
前置きの必要な物語であれば「これからどうなる」は必要だ。
本編への期待を高めたり、地味な出だしを乗り越えさせる為には「どうしてこうなった」は有効に機能する。
どちらかだけでも良いし、どちらも使っても良い。
では、どちらも使わないと言うのは、可能か?
親切な設計では無いが、当然それも可能だ。
例えば、カートゥーンに属するアニメーション作品の中には、かなりの数のプロローグを用いない作品が実際にある。
そういった作品は、玄関が無い、外から入ったらいきなりリビングの家と同じだ。
そんなに困らないが、きっと困惑ぐらいするだろう。
長編作品を途中から見ても、ちゃんと分かるのと同じで、プロローグが無くとも物語を楽しむ事は出来るのだ。
プロローグの様々な役割
プロローグは印象操作の役割があると言う話だった。
つまり、プロローグで表現する物によって本編への先入観を持たせる事で、効率的に本編へ入っていける様に基礎知識を付ける役割がある。
登場人物
プロローグに主人公が登場するとは限らない。
だが、必ず本編に関わる重要な人物がプロローグには登場する。
そして、読者や視聴者は、そのパターンに慣れているので、無意識にプロローグに登場する人物が重要だと期待している。
いや、知っていると言った方が良いかもしれない。
その期待は、裏切ってはいけない。
玄関で迎えてくれた人が、その家の住人である必要がある。
それが偶然鉢合わせた泥棒では、悪い意味で期待を裏切ってしまう。
主人公、恋人、相棒、ライバル、時には黒幕や犯人、等の、そういった重要人物を登場させる必要がある。
舞台
舞台となる世界、世界観は、強烈な印象が残る。
プロローグで宇宙戦争をしていたのに、本編がお菓子の国だったら読者は大混乱する。
出来事
この「出来事」と言うのは、実はとても重要だ。
雰囲気、空気感、トーン、スタイル、タイプ、スケール、ムード、フィーリング、等々の作品の印象を登場人物と舞台を絡めて決定付けてしまう要素だ。
例えば、宇宙戦争の印象と、ボクシングの試合の印象では、作品に持つ先入観に大きな差が生まれる。
当り前に思えるが、この「出来事」が決める印象が、作品本編の印象を決めてしまう事は、認識しておかなければならない。
プロローグで宇宙戦争が描かれるなら、本編でも宇宙戦争から発生する様々な印象や要素が登場する必要がある。
その上で、本編において世界と主人公に対して影響を与える事でなければならない。
テーマの提示
物語のテーマを簡潔に伝えられなければ、プロローグとしては不完全だ。
出来の良いプロローグでは、暗喩、メタファー、シンボル等を用いて、一番最初にストーリーテーマを提示してしまう。
名作と呼ばれる作品のプロローグを見れば、作品の最初から最後まで一貫したストーリーテーマを、暗に宣言している事に気付く筈だ。
エピローグとの対比
エピローグは、物語のクライマックス後、フィナーレからラストシーンにかけるパートで、パラダイムではプロローグの真反対に位置する。
出来の良いプロローグは、エピローグとの対比構造を持って作られる。
エピローグは、物語では本編での事件などの出来事が解決した後の世界の描写だ。
一方でプロローグは、本編の事件などの出来事が起きる前の世界の描写だ。
つまり、プロローグとエピローグに挟まれた本編の中で、出来事が起きて収束する事で、世界が何かしらの変化をして元の状態に戻ったと言える。
だから、シーンとして対の様に作られる事が多い。
大雑把に言えば、スターウォーズでは戦争から平和へ変化したし、コードギアスでは日本占領から日本解放へ変化した。
そのビフォーアフターを効果的に描写する為の手法として、対比描写を用いるわけだ。
主人公の活躍によって、世界がどう変化したのかを描写する、そのビフォアがプロローグと言う事だ。
対比するには、同じ物の時間やイベントの経過を比べるのが効果的だ。
なので、プロローグとエピローグでは、同じ場所、同じシチュエーション、同じ人物、等で対比構造を作るのが一般的だ。
対比が成立すれば他にもあらゆる表現が可能なので、そこがクリエイターの腕の見せ所でもあり、面白い所でもある。
プロローグを作るタイミング
あなたが物語を最初から書いていくなら、プロローグは最初に書くだろう。
だが、それが最善かどうかは、人によりけりだ。
「これからどうなる」で書く際、本編の事件が起きる切欠の出来事として描く必要がある。
つまり、本編の出来事から作る方が良い時も、実際は沢山ある訳だ。
むしろ、本編の出来事を描く為に、必要な過去を逆算した方が、良いプロローグを考え付く事も多い。
「どうしてこうなった」で書く際は、本編の盛り上がったり印象的なシーンが判明していないと、書く事さえ難しい。
本編で一番盛り上がるシーンを想像して最初に書いて、そこに繋がる話を積み重ねると言う手法もあるが、多くの場合プロローグを辻褄を合わせる為に書き直す事になる。
単純な効率と言う点で言えば、ちゃんとしたプロローグを書くのは、実は最後の方が圧倒的に効率が良い。
もちろん、物語の雰囲気を自分で掴んだり、気持ちを盛り上げてから書きたい人は、最高のプロローグ作りから入るのも良いだろう。
終わりに
プロローグを考えてみて、どうだったろうか?
この記事で、あなたのプロローグ観が何かプラスに変化したのであれば、嬉しい限りである。
「これからどうなる&どうしてこうなった」を使いこなせば、適当に書いていた時よりはワンランク上のプロローグを構築出来る筈だ。
次回は、セットアップについて解説したい。
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