ストーリーパラダイム解説「きっかけの時」とは?

きっかけの時の役割について

ここでは、パラダイムのパート毎に深く役割を語っていく。

今回は「きっかけの時」について。

きっかけの時とは?

言い方は、何でもいい。

  • きっかけの時
  • きっかけ
  • 引き金
  • トリガー
  • 冒険への誘い
  • 認識の高まり
  • 事件
  • 最初の事件
  • 輝くチャンス
  • 問題の表面化

と、様々な表現が出来る。

図、ブレイク・スナイダーの脚本パラダイム「ビートシート」では、きっかけのパートだ。

しかし、ここでも呼び方は、やはり重要ではない。

パラダイムの他のパートと同じく、各呼び方で意味合いが微妙に変わる所もあるが、大事なのは物語に置いて「構造的に見て、どの様な役割や機能があるパートなのか」と言う事だ。

一般的な認識では「変化のきっかけとなる出来事」を描くパートだろう。

この「きっかけの時」と言うパートだが、直前のセットアップと密接に関わりがあるパートであり、物語にとって必要不可欠な物だ。

セットアップで提示した要素が、「きっかけの時」の到来によって一気に動き出すからである。

きっかけが無ければ、物語は動き出す事すら無いのだ。

きっかけの時の役割

セットアップで提示された複数の要素。

それらが、きっかけの時が訪れるタイミングで、急に仕掛けとして噛み合い始める。

セットアップ時点ではバラバラに見えていた要素が、全て意味があった事が明示されるのが、きっかけの時が訪れるタイミングだ。

つまり、セットアップまでに出た要素の大半は、きっかけの時に合流すると言う事だ。

そして、良い日常と悪い日常がセットアップにある話を前回したが、それがきっかけの時の種類に影響してくる事になる。

  • セットアップ時に良い日常を描く場合は、きっかけの時には、必ず悪い出来事が主人公を襲う。
  • セットアップ時に悪い日常を描く場合は、きっかけの時には、必ず良いチャンスが主人公に舞い込む。

つまり、きっかけの時には、セットアップ時とは反対の要素が物語に波を起こす。

それによって、感情的にも波立つ様に物語自体がなるので、読者や視聴者は面白くなってきたと感じる事になるわけだ。

きっかけの時とは、最初のイベントであると同時に、最初の大きな感情の波を起こすポイントでもあるのだ。

アニメ「コードギアス」では、主人公が、事故を起こしたレジスタンスの逃走車両とは知らずに救助に向かってしまい、レジスタンスとブリタニア軍の争いに巻き込まれる。

退屈だが平和な日常が、一気に壊されるわけだ。

アニメ映画「ヒックとドラゴン」では、出来損ないのヴァイキングだった主人公がナイトフューリーと呼ばれる最強のドラゴンを偶然撃ち落としてしまう事で、汚名返上のチャンスを得る。

これは、悪い日常を変えるチャンスを得るパターンである。

きっかけの時に必要な物

セットアップが良い日常か悪い日常か、それが分かっていれば必要な要素は分かったも同然だ。

  • 良い日常なら、悪い出来事が主人公を襲う。
  • 悪い日常なら、良い出来事がチャンスとして主人公に舞い込む。

繰り返しになるが、この原則は大事なので忘れてはならない。

その上で、セットアップ時に仕込んでおいたタイムリミットが、主人公が認識できる形で提示される。

それまでは、日常を生きていた主人公にとって、タイムリミットの時計は見えていなかったり、自分には関係がない物なのだ。

きっかけが訪れ、制限時間のカウントダウンが明確に始まる。

その後で、主人公は自分にとって必要な物に気付き、それをカウントダウン終了までに手に入れなければ、悲惨な未来が待っている事を認識する。

それは、悪い出来事はもちろん、良い出来事でも同じ事だ。

もし、カウントダウンが始まらなかったり、必要な物を既に持っていたり、カウントゼロに悲劇が待っていない、そういった場合は、きっかけの時が機能していない事になる。

機能していない場合は、どうなるか?

絶対に、物語が動かない筈である。

足りていないのに動く物語には、大きな違和感が生まれる。

きっかけの時が機能不全を起こした作品では、

  • 主人公の動機が弱い

と誰もが思う事になる。

物語に限らず、人は何か「きっかけ」が無ければ、それまでの行動を変化させる事が出来ない。

そして、きっかけとは、必ず動機を与える物だ。

物語の主人公が、きっかけの時に動き始めるのは、悪い出来事によって破滅する事を避ける為か、良い出来事によって欲望を満たす為か、どちらかの動機に大別する事が出来る。

つまり、損をするか、得をするか、そのどちらかが無ければ、人間は動く事は無い。

更に、大半の人間とは変化を恐れる物で、タイムリミットが無いのであれば、動機があってさえも、出来る限り行動しない。

だからこそ、タイムリミットは必要不可欠だ。

タイムリミットと言う時限爆弾を身体に巻き付けられないと、作者がどんなに叫んでも、主人公は自分から重い腰を上げてはくれない。

必要な物を既に持っている場合は、言わずとも分かるだろう。

大金が必要なのに大金を持っているのでは、物語が終わってしまう。

きっかけの時に必要になる物は、セットアップ時の主人公にとって入手困難である必要がある。

尚、青い鳥方式と呼ばれる「本当に大事な物は主人公が既に持っていた」類の物語の場合は、主人公が大事な物を持っている事に気付いていない状況を構築する必要がある。

必要な物を持っているが、クライマックスまで気付けない事で物語が成り立つわけだ。

以上の要素、

  • セットアップの良し悪しと、反対の良し悪しを持った出来事の発生
  • 悲劇までのタイムリミットの認識
  • 手に入れるのが困難な必要な物の認識

がセットアップ後に主人公を襲い、きっかけの時が訪れる事で、主人公には強烈な動機が発生し、行動を起こす準備が始まる。

そう、この時点では、主人公は動く準備をするだけで、まだ動き出す事は出来ない。

動き出すのは、次のパートに持ち越しなのだ。

きっかけの時をもたらす物

ヘラルド、と言う言葉を聞いた事があるだろうか?

きっかけの時を語る上で、欠かせない要素である。

ヘラルドとは、使者等とも呼ばれ、物語の中では主人公にきっかけの時をもたらす存在として知られている。

使者と呼ばれているが、誰かの使いの時もあれば、そうでない時もあるし、人でさえない時もある。

ヘラルドには、大きく分けて

  • セレモニー(形式的イベント)
  • アクシデント(偶発的イベント)
  • エンカウント(敵対遭遇)
  • ヘラルド(友好的遭遇)

と言う四種類がある。

ヘラルドの中にヘラルドがあるのは、表現の問題だ。

四種類を内包する親ヘラルド、四種類の内の一つの子ヘラルドとでも思って欲しい。

セレモニーは、冠婚葬祭等の形式的なイベントだ。

結婚式や葬式から物語が始まるパターンは、非常に多い。

儀式と言う人為的な一区切りが、主人公に何らかの変化のきっかけを与えるパターンだ。

葬式で故人の子供を引き取って育てる様な子育て物、なんて聞けば何作か思い出したりしないだろうか?

アクシデントは、偶発的イベントと言っているが、要するに事故だ。

災害やテロに巻き込まれる物語で、多くの場合に主人公は生き残りをかけた努力や戦いを強いられる。

エンカウントは、アクシデントと似ているが、より個人的だ。

アクシデントは自然現象や、何か大きな目的を持った敵対者によって置かれた環境自体が危険地帯となる。

一方で、エンカウントの場合は、危険なのは環境ではなく、主人公や、主人公が守らなければならない誰かであったりと、敵対者に見られている状態だ。

ジョーズ等のモンスターはアクシデント寄りだが、追ってくる殺人鬼はエンカウント寄りと言う感じだ。

最後に、(子)ヘラルドは、先にも書いたが使者が主人公に訪れるパターンだ。

多くの場合、依頼や重要な知らせと言う形で主人公にきっかけの時を教えてくれる。

探偵、弁護士を扱った物語の大半は、依頼者と言うヘラルドによって事件が舞い込む事になる。

この様に、きっかけの時を主人公に届ける物は、物語の形式によって見ても結構違ってくるので、作ろうとしている物語に合ったヘラルドを選ぶ事が重要となる。

きっかけの時とテーマの関係

当然ながら、きっかけの時はテーマと関係している。

ここで言うテーマは、ストーリーテーマだ。

ストーリーテーマは、主人公の行動によって表現される物だ。

きっかけの時とは、その行動を起こす始まりきっかけでもある。

つまり、ストーリーテーマと主人公を向き合わせる入口であり、まさしく冒険への誘いの時なのだ。

セットアップ時にテーマが明確なら、きっかけの時の出来事はテーマと密接だろう。

だが、稀にテーマが見えてない時に、きっかけの時が突然過ぎる場合がある。

セットアップと関係の無い、唐突な事件や事故を配置してしまう失敗パターンだ。

必ず、セットアップと連動し、テーマへの入口として機能する様に意識しなければならない。

きっかけの時を作るタイミング

きっかけの時は、セットアップと密接に関わり合うパートだ。

セットアップと出来るだけ近いタイミングで構築し、日常から事件の発生までの流れで一気に、読者や視聴者に興味を持たせられる様に気を付けなければならない。

セットアップと反対の「良し悪し」と言う属性を持っているので、セットアップ構築が苦手な人は「最初の事件orチャンス」として、きっかけの時を構築すれば、セットアップで必要な要素を逆算出来るだろう。

もう一つ、きっかけの時は、大どんでん返しや、重要な伏線を仕込むのにも大いに役立つパートである。

最初の事件やチャンスに、大きな陰謀が含まれていたなんてパターンは、よくあるが非常に魅力的で、強力な武器になる。

物語の全体像が出来ているのであれば構わないが、出来ていない状態で順に構築していく場合は、後で直す事も考慮して構築するなんて技もある。

終わりに

きっかけの時を考えてみて、どうだったろうか?

この記事で、あなたの「きっかけの時」観が何かプラスに変化したのであれば、嬉しい限りである。

セットアップで提示した要素の収束地点と言う事で、苦手な人もいるかもしれない。

だが、足りない要素を満たす事が出来れば、これまで適当に書いていた時よりはワンランク上のきっかけの時を構築出来る筈だ。

次回は、「悩みの時」について解説したい。

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