悩みの時の役割について
ここでは、パラダイムのパート毎に深く役割を語っていく。
今回は「悩みの時」について。
悩みの時とは?
言い方は、何でもいい。
- 悩みの時
- 冒険への拒絶
- 変化へのためらい
- 誘いの拒絶
- 事件と日常による板挟み
- 変化せずに解決を模索する時
- 当事者になる事への抵抗
- 事なかれ思考
- 飛び込むしかない崖っぷち
と、様々な表現が出来る。
図、ブレイク・スナイダーの脚本パラダイム「ビートシート」では、悩みの時のパートだ。
まあ、ここでも呼び方は、やはり重要ではない。
あなたがイメージしやすいシックリ来る表現を、個人単位でなら使えばいい。
パラダイムの他のパートと同じく、各呼び方で意味合いが微妙に変わる所もあるが、大事なのは物語に置いて「構造的に見て、どの様な役割や機能があるパートなのか」と言う事だ。
一般的な認識では「主人公が問題に向き合って、あるいはチャンスを前にして、二の足を踏む姿」を描くパートだ。
この「悩みの時」と言うパートだが、直前のセットアップ&きっかけの時と密接に関わりがあるパートで、毎度の事ながら物語にとって必要不可欠な物だ。
プロローグ、セットアップで提示した要素が、きっかけの時の到来によって一気に動き出した。
急変する環境や状況に置かれ、主人公はリアクションを示す必要がある。
悩みの時とは、主人公がきっかけの時に起きてしまった出来事と、自分がしなければならない事に対して、リアクションを返すパートなのだ。
悩みの時の役割
リアクションと聞いて、何を思い出すだろう?
リアクション芸とか?
まあ、リアクションとは要するに、情報に対する反応である。
情報、ここでは「きっかけの時」に起きた出来事が変われば、リアクションも変わる。
登場人物が変わっても、リアクションは変化する。
共感出来て主人公らしい反応を描くのが、悩みの時の大事な役割である。
出来事による情報の提示と、それに対する主人公の反応は、ある種の対話とも言える。
きっかけの時に提示される出来事の内容は、主人公にとって初耳であり、初見だ。
切羽詰まっていたり、藁にもすがりたい状況とは言え、主人公は戸惑う。
戸惑うから、情報を整理しようと悩み始める。
そして、出来るだけ変化せずに、きっかけの時に提示された出来事を解決しようとする。
抽象的な説明だけでは、イメージが湧かない人も多いだろう。
例えば、
ゲーム「フェイトステイナイト」で主人公は、「きっかけの時」に聖杯戦争と言う魔法使いの秘密の争いに巻き込まれてしまう。
二人のサーヴァントと呼ばれる召喚された英霊の、秘密の戦いを偶然目撃してしまい、秘密を守る為に目撃者を消そうとするサーヴァントに命を狙われる事になる。
最初は良い日常だったのが、きっかけの時に敵対者とエンカウントしてしまった事で、最悪の事態に陥り、絶望的な緊急事態は主人公にリアクションを求める。
この緊急事態で、抵抗し、逃げ、力及ばず負けるのが、主人公のリアクションだ。
悠長に悩んでいる暇は与えられず、必死に悪あがきをする。
そして、抵抗も空しく殺されそうになる。
どうにか現状を維持しようと、主人公は抵抗する。
これが、フェイトの主人公のリアクションとなる。
海外ドラマ「ブレイキングバッド」の場合は、主人公は「きっかけの時に」癌の告知と余命宣告を受ける。
病気を一人で抱え込み、悩み、どうにか家族に遺産を残したいと一人苦しみ、自暴自棄になる。
まさしく、悩みの時を過ごすのだ。
これがブレイキングバッドの主人公のリアクションだ。
漫画「鬼滅の刃」では、主人公が出稼ぎから帰ると、家で待つ家族が鬼に惨殺された現場に遭遇してしまう。
絶望の中で、主人公は傷を負っているがまだ息のある妹を背負い、救う為に町を目指す。
だが、助けようとしていた妹は、鬼に変化し正気を失って主人公に襲い掛かってくる。
主人公は、鬼となった妹に食われそうになるが、食われまいとする以外に手がなく、と言って、決して殺す事も出来ない。
悩みの時は、主人公のキャラクターを浮き上がらせる。
追い詰められた緊急事態に、どういう反応を示すかによって、キャラクターの本性があらわになるのだ。
悩みの時に必要な物
では、ただリアクションを描けば、それで良いのか?
それだけでは、足りない。
悩みの時とは、主人公が解決すべき問題に対峙した「最初のリアクション」だ。
つまり、成長前の姿を提示する必要が第一にある。
ここでは「きっかけの時」から継続して、対比を作る為の「繰り返しモチーフ」を仕込む等の手法が有用となる。
繰り返しモチーフとは、劇中で象徴的に使われるセリフやアイテム、シチュエーションと言ったものだ。
本当に近いものでも、モチーフテーマとして統一された物でも良い。
主人公は、悩みの時に最善の手段を持ち合わせない為、その時点で最善策を打っても、問題の解決には至らない。
だからこそ、繰り返しモチーフとして別の場面で似たシチュエーションに遭遇させる事で、成長し解決策を持つ主人公を意識して対比表現する事が活きてくる。
悩みの時のリアクションの中身
悩みの時、主人公は遭遇した出来事にリアクションを返す。
その中身は、多様な様でいて、実は単純だ。
第一に、大半の主人公は常識的判断を行う。
- 事故に遭った、助けを呼ぼう。
- 殺人に遭遇した、警察に通報しなければ。
- 人が倒れている、助けなければ。
主人公の性格にもよるが、まず常識的判断によって、主人公が共感出来る人物である事を示すのが基本となる。
次に、
- 常識的判断が役に立たない
と言う事が判明する。
常識的判断で解決してしまっては、物語が終わってしまう。
物語の中で起きる出来事は、必ず常識外な要素が含まれている。
だからこそ、面白く、魅力的だ。
常識が通用しない状況で、主人公は状況によって選択を迫られる。
その時、主人公の思考は、まだ日常の世界から切り替えが出来ていない。
なので、未知への不安と戦う事となる。
ここで、
- リスクの計算
- 出来ない理由探し
- 行うべきでない理由探し
- 無理を通す為の手段探し
等と、日常に留まる妥当性を必死に探す事になる。
きっかけの時が訪れて危険やチャンスが目の前に迫っても、主人公は未知への不安を避けたり、日常にしがみつく。
自分の意志以外で、新しい事を人間は基本的にしたがらない。
リアクションを描く時は、その世界やキャラクターの持つ常識や日常を意識して描く必要があると言う事だ。
悩みの時を作るタイミング
悩みの時は、セットアップ&きっかけの時と密接に関わり合うパートだ。
日常があり、最初の出来事に遭遇しないと、何に悩んだり、変化に躊躇ったりする必要がるのか考える事が難しい。
よほど変則的なアプローチを試したい訳で無いなら、セットアップときっかけの時を構築した流れで考え始めるのが良いだろう。
終わりに
悩みの時を考えてみて、どうだったろうか?
この記事で、あなたの「悩みの時」観が何かプラスに変化したのであれば、嬉しい限りである。
ウジウジ悩む描写なんてと、苦手意識を持つ人もいるかもしれない。
だが、主人公に常識と日常と言う概念があり、不安を感じる平常な精神があるなら、必ず表現すべきパートだ。
面白い物語には、必ず「悩みの時」が訪れる。
次回は、「決意の時」について解説したい。
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