試練の時の役割について
ここでは、パラダイムのパート毎に深く役割を語っていく。
今回は「試練の時」について。

試練の時とは?
言い方は、何でもいい。
- 起承転結の承
- 序破急の破
- 三幕構成の二幕
- お楽しみパート
- 試練の時、仲間との出会い、敵対者との遭遇
- 実験と準備の時
- 試練と準備の時
- ピンチポイント1
- 苦境、助け、成長と工夫の時
- 秘密の世界
- 二重生活の始まり
- サブプロットの始まり
- ミッドポイントまで
- ターンポイントまで
と、様々な表現が出来る。
図、ブレイク・スナイダーの脚本パラダイム「ビートシート」では、お楽しみのパートだ。
まあ、ここでも呼び方は、やはり重要ではない。
あなたがイメージしやすいシックリ来る表現を、個人単位でなら使えばいい。
パラダイムの他のパートと同じく、各呼び方で意味合いが微妙に変わる所もあるが、大事なのは物語に置いて「構造的に見て、どの様な役割や機能があるパートなのか」と言う事だ。
一般的な認識では「主人公が実際に問題に対処する姿」を描くパートだ。
この「試練の時」と言うパートだが、ここから物語が本格的に動き出す事になるので、物語にとって重要なパートである。
当然、必要不可欠だ。
試練の時の役割
決断の時に、主人公は選択する事で責任を自ら背負った。
責任を自分の意志で負ったからには、今度は責任を果たさなければならない。
主人公は、向き合う事になった問題を解決する為に、責任感を持って、それを果たし、成し遂げようと行動を起こす。
だが、主人公は、問題を解決する力を、この時点では持っていない。
力を持っていないなら、どうすれば問題解決を成し遂げられるだろうか?
持っていないなら、力を手に入れれば良い。
その為には、準備が必要である。
つまり、試練の時とは、主人公が問題解決をする為の準備をするパートなのだ。
試練の時に必要な物
決意の時に、どんな形であれ主人公はメンターに出会った筈だ。
試練の時には、メンターの教えに従ったり自分で考えて、試練を乗り越える準備をする必要がある。
準備には、
- 拠点
- 仲間
- 道具
が原則として必要となる。
- 拠点は、新しい世界に踏み出した主人公が、当分の間を安全に過ごす為の場所を指す。
- 仲間は、多くの場合は目的を同じくしていないが、目標を同じく出来る存在を指す。
- 道具は、主人公が目標達成に必要なアイテムを指す。
例えば、
映画「スターウォーズ」では、酒場で出会ったハンソロとチューバッカを仲間に加え、ミレニアムファルコンと言う船を得る。
ミレニアムファルコンは、必要な道具であると同時に、拠点でもある。
海外ドラマ「ブレイキングバッド」では、主人公がスカウトしたメンターでもある相棒のジェシーと共に覚醒剤製造の為に道具集めをする所から始め、中古のキャンピングカーを拠点とする。
キャンピングカー型の覚醒剤生成所も、やはり拠点であると同時に道具でもある。
アニメ「コードギアス」では、ゲットー大虐殺の中、奪ったロボットを仮拠点に、仮の仲間としてレジスタンスを、無線と言うアイテムで操る事で戦況を撹乱する所から主人公の反乱が始まる。
補足で、コードギアスの場合は主人公が天才キャラクターの為、この時点ではメンターに頼らない。
その結果として、天才性とリーダーシップを視聴者に印象付ける事になる。
これら要素は、主人公が目的に近付くほどに変化するモノである事も忘れてはならない。
拠点も、仲間も、道具も、その時の状況と必要な物で変化する物だ。
また、最初の拠点、仲間、道具は、往々にして大きな存在感を持つ事が多い。
その点も踏まえて、デザインするのが良いだろう。
更に、それら手に入れる為のエピソードとしてサブプロットが動き出す事もある。
要するに「協力してくれ? なら条件がある」とか「こいつを譲ってくれって? なら一つ頼みごとを」とか、そういった目的達成に必要な目標達成の為に、必要な要素を満たす為のエピソードや、仲間キャラクターを掘り下げる独立したエピソード等の事だ。
物語が魅力的で面白くなり、展開として自然になるサブプロットを構築出来れば、物語の進行速度が遅くなる代わりに、物語世界の奥行きが増すだろう。
試練の時に目指すべき目標
拠点、仲間、必要な物を手に入れた。
だが、それで問題が解決する事は無い。
面白く魅力的な物語であれば、この時点で目的達成は、まずあり得ない。
まずは、目の前のトラブルから脱する事が第一である。
目的達成に必要な小さな目標を達成する事が、試練の時の一つ目の目指すべき地点なのだ。
そこで、主人公は小さな活躍をする事で、仲間やメンターに実力を認められる必要がある。
海外ドラマ「ブレイキングバッド」では、主人公は粗末な設備で高純度の覚醒剤を生成して見せる事で、相棒のジェシーから尊敬を勝ち取る事になる。
アニメ「コードギアス」では、主人公は高度な戦略と指揮能力によってレジスタンスを救い、小さな信用を得る事になる。
主人公は、目的達成に必要な能力を周囲に示し、その点でのみ認めて貰える様になる。
行動で結果を示した主人公の事を仲間は尊敬し、メンターは選んだ事が間違いでは無かった事を確信する。
小さな成功、小さな勝利によって、物語はミッドポイントへと到達する。
ミッドポイント到達までにトライアンドエラーで失敗と試行錯誤を繰り返す事もあるが、大抵は三回以内の失敗で一つのミッドポイントに辿り着く。
映画「アイアンマン」では、
- アイアンマンスーツのマーク1を開発して拉致された洞窟からの脱出の際、メンターを亡くす
- マーク2開発中に飛行テストで、調整ミスで痛い思いをする事になる
- マーク2のテスト飛行時に、凍結により墜落してしまう
- マーク3でのテロリスト退治の際、米軍機を誤って墜としてしまう
と、成功と失敗が常にセットで訪れる様にデザインされている。
米軍機を誤って墜とす際は、状況的に失敗ではあるのだがパイロットを救う事で成功に転じさせ、物語全体のミッドポイントとしてアイアンマンの完成を視聴者に提示している。
仮にアイアンマンがドラマシリーズなら、各話にミッドポイントとして小さな成功を配置する事になるだろう。
もっとも、ドラマに再構築するならエピソードを膨らませたり変更するだろうが……
この様に、構成によって単一エピソードとしてのミッドポイントと、全体としてのミッドポイントがあり、単一のエピソードのミッドポイントはミッドポイントと呼ばない事も多い。
ただ、ここで理解して欲しいのは、物語が入れ子構造になっていて、一部と全体で調和の取れた相似性を持っている事だ。
ここまでで、起承転結なら承が終わりに差し掛かり、三幕構成なら二幕の前半部分が終わる頃となる。

試練の時を作るタイミング
試練の時は、一幕と三幕が決まっている段階で考えると、非常にスムーズな構築が出来る。
結末に至るのに必要な要素を入れ、逆算によってドラマを構築すれば良くなるからだ。
だが物語として、魅力的な仲間との出会い、尊敬を勝ち取る活躍、そういった「お楽しみ」要素から考える場合も、十分にあり得る。
全体像が浮かんでいるのなら、印象的なシーンを先に考え、各目標地点に至る穴埋めで物語を構築する事も十分に可能だ。
だが、行き当たりばったりに描きたいシーンを繋げていく手法は、まとまった物語を構築したいなら推奨する事は出来ない事だけは伝えておきたい。
即興劇やアドリブでストーリーテリングをするのは、慣れていても難しいアプローチとなる。
終わりに
試練の時を考えてみて、どうだったろうか?
この記事で、あなたの「試練の時」観が何かプラスに変化したのであれば、嬉しい限りである。
起承転結の起があんなに長く、中身が詰まっていたので拍子抜けしたかもしれないが、起に詰まっているからこそ承は要素をプラスするだけで構築出来る事を忘れてはならない。
つまり、新しい必須要素が追加されただけで、起が前提としてある構成なのだ。
次回は、「危機の時」について解説したい。
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