契機の時の役割について
ここでは、パラダイムのパート毎に深く役割を語っていく。
今回は「契機の時」について。

契機の時とは?
言い方は、何でもいい。
- 契機の時
- 契機
- 実績
- 帰路
- 光の選択
- プロットポイント2
- フェイズポイント2
- 第二ターニングポイント
- メンターの導き
- 気付きの時
- 価値観の再構築
- 決意と選択
- 悟りの時
- 再起の時
- 自己欺瞞からの脱却
と、様々な表現が出来る。
図、ブレイク・スナイダーの脚本パラダイム「ビートシート」では、第二ターニングポイントのパートだ。
まあ、ここでも呼び方は、やはり重要ではない。
あなたがイメージしやすいシックリ来る表現を、個人単位でなら使えばいい。
パラダイムの他のパートと同じく、各呼び方で意味合いが微妙に変わる所もあるが、大事なのは物語に置いて「構造的に見て、どの様な役割や機能があるパートなのか」と言う事だ。
一般的な認識では「絶望していた主人公が立ち上がり、問題に再度取り組む」姿を描くパートだろう。
これまでの物語の流れをパラダイム的に見ると、
直前にあった絶望の時に、失った物を想いながら主人公が徹底的に打ちのめされた筈だ。
契機の時では、絶望の暗闇の中を彷徨う主人公の前に小さな光が差し込む事となる。
これまでの暗かったり、鬱屈とした展開が、一気に前向きな雰囲気に変わる。
物語の中で希望が死んでいなかった、まだ残っていた事が示されるパートであり、クライマックスへの入口として必要不可欠な要素でもある。
契機の時の役割
絶望の時に主人公が見ていたのは、危機の時に失ってしまった大切な物だ。
だが、絶望の時に全てを失う事は決してない。
絶望の時に残った大切な物が、主人公には必ず残される。
絶望の時に奪われなかった物こそが、主人公に小さな希望を与える物となる。
契機の時は、絶望の時を乗り越えた主人公が希望に気付き、立ち上がる姿を描く。
つまり、絶望の時に失った物を認識させ、契機の時には残った物を認識する事で、物語と言うステージ上で主人公が使える手札を全て提示する役割がある。
契機の時に必要な物
試練の時に、主人公は拠点、仲間、道具を手に入れた。
危機の時が来ると、それらの大半が失われる。
絶望の時に、失った物の大きさに希望が失われたかに思える。
だが、契機の時が来ると、様々なきっかけによって主人公は全てが失われた訳では無い事に気付く。
そう。
残された希望に気付くきっかけが、主人公には必要なのである。
きっかけは、何か?
そこで登場するのが、仲間やメンターやライバルと言った存在である。
つまり、主人公が希望に気付くには、他人の助言や助力が必ず必要と言う訳である。
例えば、
アニメ映画「アラジン」では、絶望の時にアラジンは雪国へと魔法で飛ばされてしまうが、その最後の希望となったのは、一緒に飛ばされてきた魔法の絨毯や友達の猿の存在だった。
アニメ「コードギアスR2」では、ルルーシュが黒の騎士団を失った時に残ったのは、かつて自身をスパイしていたが後に寝返ったロロと言う忠臣だった。
漫画「ベルセルク」では、蝕と呼ばれる異形の神と怪物の宴に巻き込まれ、全てを失った主人公だったが、ヒロインと共に髑髏の騎士に救われる事になる。
海外ドラマ「シリコンバレーシーズン1」では、テッククランチでの製品発表を前に敗北が確定的となった後に、主人公は仲間達と真面目に馬鹿な話をしていて、その馬鹿話がまさかの結果をもたらすヒントとなる。
映画「アイアンマン」では、今にも心停止で死にそうな主人公に最後に助けの手を差し伸べたのは、いつも作業を手伝ってくれていたポンコツなロボットハンドであった。
絶望の時に、主人公は大半の物を失い、あるいは失いそうな状況に置かれ、一人では成す術がない。
しかし、主人公には必ず希望が残されている。
希望は、必ず『他者』で無ければならない。
主人公の事を好きだったり、必要としていたり、重要だと考えている、そんな『誰か』が、主人公に希望を与えなければ、魅力的な物語にならない。
主人公を見守っていて手を貸してくれる事もあれば、ずっとそばにいたのに気付かなかったなんて事もある。
どんな形でも構わないが、主人公は誰かの助けによって希望に気付き、絶望の時に気付いた自身の欠点への気付きと合わせる事で、完璧な存在となる。
何でも出来ると言う意味ではなく、問題を解決する準備が、本当の意味で整うのだ。
契機の時は、別の形の決意の時
パラダイムに「決意の時」と言うパートが前にあったのを覚えているだろうか?
決意の時には、主人公はメンターによる後押しによって、問題やチャンスに向き合う姿勢を獲得した。
一方で契機の時は、主人公は再び誰かの助けによって、問題やチャンスに向き合う姿勢を取り戻す事になる。
そこに差があるとしたら、気付きを与えてくれる存在のスタンスだ。
決意の時は、目的達成と言う利害関係が多くの場合発生している。
だが、契機の時は、必ずしも利害関係がある訳では無い。
むしろ、そこにあるのは純粋な主人公への同情、愛情、友情、支援、応援と言った様な感情である。
だから、決意の時と契機の時では、感動の大きさが違う。
試練の時を通して育てた主人公と『誰か』の関係性が証明されるのだ。
そこには、物質的でない『絆』が存在する。
だから、このパートは、支援してくれるキャラクターの事が好きになる確率が高いという意味でも、超重要なパートとなっている。
例えば、
映画「アイアンマン」では、契機の時の活躍によって、ロボットハンドの事が好きになった人は多いだろう。
アニメ「コードギアス」では、ロロの株がストップ高になっていた。
アニメ映画「アラジン」の魔法の絨毯も、一層好きになった筈だ。
あなたの好きな作品に照らし合わせると、きっとイメージしやすいと思う。
危機の時に、敵が主人公の認識の外側から不意打ちを食らわせてきた。
契機の時は、敵の認識の外側から、誰かが主人公への支援をする事で事態が動き始める。
目的でなく愛によって動く『誰か』による助言や助力なので、このパートで活躍する誰かは、時に生きている必要も、その場にいる必要もない。
アニメ映画「ライオンキング」や「アーロと少年」では、既に亡くなっている主人公の父親の幻(あるいは幽霊)が気付きを与えてくれた。
絶望の時の後なら契機の時は、どこでも良い?
絶望の時の直後は、事態が激変している為、すぐクライマックスに突入する事も多い。
すると、契機の時は、すぐにやってきたり、少し遅れてやってくる事もある。
アニメ「ドラゴンボール」では、悟飯が子供時代の劇場版では、決まってピッコロさんが助太刀にやって来て美味しい所を持って行く。
アニメ「ヒーローアカデミア」の劇場版では、危機の時に力及ばず敵を逃してしまったデクのフォローを駆け付けたオールマイトがする事で戦闘が継続し、そのままクライマックスに突入していく。
バトルがメインの少年漫画等では、危機の時と契機の時の距離が近く、絶望の時が短い事も多いので、物語が暗くならないパターンも多い。
- ピンチになった
- 頑張ったけど目標まで一歩届かなかった
- と思ったら、頑張ったおかげで次に繋がった
と言う風に、テンポ良く物語が進む事で、絶望の時で物語の勢いを失わないで済むのだ。
この、絶望の時が瞬時に過ぎるパターンは、主人公の精神的な欠点によらない、単純な力不足等による失敗や敗北を覆すシーンで使える技だ。
主人公の精神的な欠点による失敗等のシーンで適応しない様に気を付けよう。
そうしないと、いつまでも主人公が成長する事が出来ない何て事になる。
他に、別のパターンの例で、
映画「ガタカ」では、刑事に追われたり、ヒロインに正体がバレそうになる危機の時に対して、主人公は相棒と共に自力でピンチを乗り越えてしまい、その時点では絶望しない。
本当のピンチは、宇宙飛行士になる道を断たれる事であり、それがフィナーレ直前のタイミングに来る抜き打ちのDNA検査なのだが、そこで主人公は「精一杯やり切った」と強がり、達観した絶望の時を迎える。
だが、いつも検査をしている医師が、小粋な事をしてくれる事で、危機を脱する。
「ガタカ」は、そういう意味で構造的に変則性を持っているが、必要を満たした素晴らしい脚本と言えるわけである。
「ガタカ」ホント好き。
契機の時を作るタイミング
契機の時は、基本的にクライマックスに突入する為の入口のパートである。
試練の時に手に入れた物から危機の時に何を奪い、絶望の時に奪った物を認識させ、契機の時に残った物を認識させる必要がある。
契機の時に認識した「気付き」や「希望」こそが、クライマックスで活躍する最大の武器になる。
そう考えると、クライマックスで活躍させたい仲間や道具から契機の時を考える逆算パターンと、試練・危機・絶望・契機と順当に並べた要素を選ぶ積み重ねパターンでの構築がしやすいだろう。
終わりに
契機の時を考えてみて、どうだったろうか?
この記事で、あなたの「契機の時」観が何かプラスに変化したのであれば、嬉しい限りである。
次回は、「解決の時」について解説したい。
絶望を乗り越えて成長した主人公が、いよいよ本当の問題との直接対決に挑むパートだ。