【分析】ガールズ&パンツァーに見る成功する物語論 その2

ガルパンは良いぞ!

2012年の初回放送から長い間ファンを楽しませ続けている、アニメーション作品ガールズ&パンツァーの最終章第二話の劇場上映が、先日始った。

テレビシリーズ、コミカライズ、ノベライズ、ゲーム化、劇場版、劇場シリーズと着実に世界を広げ続けている作品だが、何が他の作品と違うのだろうか?

今回も引き続き、ガールズ&パンツァーを題材に、成功する物語の条件について考察していきたい。

設定スライドによる利点の差

ガールズ&パンツァーは、タイトルの通り美少女と戦車が主な題材となっている。

モチーフテーマは「戦車」だが、前回書いたように「戦争→スポーツ」と言う風に設定をスライドさせ、戦車が持つ欠点を消し、利点だけを残す工夫が施されている。

これは「尻相撲」を「遊び→スポーツ」に昇華した「競女!!!!!!!!」と言う作品と近い。

尻相撲の場合は、設定的に遊びからスポーツへの昇華と言う上向きのシフトだ。

一方で、戦車の場合は、実践からスポーツへの下向きのシフトとでも呼ぶべき設定のスライドが行われている。

この設定シフトの、上向きと下向きの差は、かなり大きい。

それはモチーフテーマの規模や歴史が関係してくるからである。

上向きの「遊び→スポーツ」と言うシフトは、自然な設定であるし、それだけで面白そうではあるが、競技としての歴史形成が「これから」と言う欠点がある。

一方で、下向きの「実戦→スポーツ」と言うシフトは、競技以前の歴史形成が「既にある」と言う利点を持つ。

遊びの場合は、文化はあるが詳細な歴史も無ければ、偉人も存在しない。

実戦の場合は、詳細な歴史もあり、偉人も存在する。

これが、モチーフテーマとして、圧倒的なアドバンテージを持つ事になるのだ。

モチーフテーマの含有情報量

戦車をモチーフテーマにして、戦車だけを扱うのでは、余りにも勿体無い。

ガルパンのクリエイター達は、その事を十二分に承知していた。

戦車を設定としてマクロな視点で見てみよう。

  • 時間軸では、戦車の歴史がある。
  • 空間軸では、戦車を持つ国がある。
  • 行動軸では、戦略的戦車戦、開発競争、偉業・失敗談等がある。

次は、戦車をミクロな視点で見てみる。

  • 時間軸では、実際の戦闘の流れがある。
  • 空間軸では、運用する搭乗員や、戦車部隊の陣形が見える。
  • 行動軸では、戦術的戦車戦、操縦、偉業・失敗談等がある。

つまり、戦車を「戦う兵器」とだけ捉えるか、「人々が研ぎ澄ませてきた歴史ある乗り物」として扱うかと言うだけで、そこにこもる情報量に差が生まれる。

ガルパンのクリエイターは、本気で戦車を愛している。

だからこそ、ただの道具ではなく、マクロもミクロも知り尽くしたいモチーフとして見る事が出来た。

そして、戦車と言うモチーフは「ミリタリーオタク」と言う人種を生み出すに足るだけの情報量を内包していた。

これらの事実から分かるのは、

  • メジャーなオタク・マニアを生み出す、情報量を持った歴史あるモチーフは強い
  • 欠点を消し、利点を残せる設定の追加、『相似性』のある「設定のスライド」が出来れば、一般層にも十分通用する

と言う事だ。

ステレオタイプとグループ

ここまででガルパンは、基本設定を固める時点から、かなり優秀だと言う事が分かった。

ここからは、少しずつだが詳細な設定にも触れていく。

まずは、キャラクター設定である。

ガルパンの登場人物は、とにかくキャラが立っている。

そして、やたらとキャラ数が多い。

主要な味方だけで32人、ライバルも主要キャラだけで13人もいる。

1クール+OVAのキャラ数とは思えない量だ。

だが、覚えられるし、覚えやすい。

そこには、一定の法則がある。

それを順に説明しよう。

まず、ライバル校は、第二次世界大戦参戦国をモチーフとしていて、各国の特色を持っている。

  • 気品あるイギリス軍(3人)
  • 明るいアメリカ軍(3人)
  • 陽気なイタリア軍(3人)
  • 冷徹なソ連軍(2人)
  • 真面目なドイツ軍(2人)

と言った感じで、非常に分かり易い。

その上で、各校に隊長を含む主要キャラ三人前後が設定されていて、ユニットとして運用されている。

各ユニットのキャラクターは、所属する陣営の国イメージを持ちつつ、更に国イメージを具体化する特色が加えられている。

この基本的な設定の作法によって、ステレオタイプなキャラクター達は、キャラ数が多くとも簡単に覚える事が出来る。

各陣営のカラーが明確なので、キャラクターを追加するとしても、ブレる心配もない。

更に、登場は一陣営ずつなので、基本的に相手陣営の主要人物だけを新たに覚えれば物語について行ける様に配慮されている。

一方で、味方のキャラクターは、別のモチーフで描かれている。

それは、学校の中で形成されるグループ分けである。

  • クラスメイト(5人)
  • 生徒会(3人)
  • バレー部(4人)
  • 歴史マニア(4人)
  • 下級生(6人)
  • 風紀委員(3人)
  • 自動車部(4人)
  • ゲームマニア(3人)

こちらも、ライバル校と同じ作法で作られていて、グループとして覚えやすい。

どの陣営も、グループ単位で覚えるから、グループの誰とキャラクターを順番に覚えていく事もしやすく、キャラ数は多いが視聴者には優しい作りとなっている。

更に、風紀委員からゲームマニアまでのキャラは初期から登場こそしているが参戦は遅れる追加人員なので、最初に覚えなければならないキャラクターは5グループとなる。

このステレオタイプのグループ分けは、かなり重要な要素だ。

実質グループを覚えれば、所属キャラクターは後で覚えれば良くなるからだ。

全てのキャラクターを魅力的に

ステレオタイプのキャラクターは、覚えやすい。

だが、ステレオタイプのままでは面白くないし、陣営の特徴を強調するだけでは魅力的にならない。

ガルパンのクリエイターは、その事も熟知している。

ステレオタイプにグループの特色を足したキャラクター達には、全員特徴が付けられているのだ。

例えば、主人公の人生を変える重要なヘラルド「武部沙織」は、社交性の高い「最も普通の女子高生」と言うステレオタイプのキャラとして登場する。

彼女は、明らかに良い人間で、主人公の心の救いであり、恩人の一人だ。

だが、それだけでは、キャラが立たない。

そこで彼女には「恋に恋をする」と言う、乙女な特徴の強調が設定され、それが欠点として機能する。

恋に恋をしている思考に陥ると、無能となると同時に魅力的にもなる。

恋は出来ないが、その為に習得した料理の腕前は高く、恋に恋をしていない状態では、驚くほど優秀なキャラクターとして描かれる。

社交性の高さから徐々に通信方面に精通し、下級生の相談相手となったりと、得意不得意がハッキリし、そこには深みを持った「武部沙織」と言う固有のキャラクターが気が付けば存在している。

登場人物中、最も普通な女子高生だったのに、知れば知るほどキャラが立っていく。

そういう風に、キャラクターがデザインされているのだ。

だから、どんなに地味なキャラクターであってもガルパンのキャラクターは一定の魅力を確保出来ていて、欠点でも特技でも見せ場を一瞬でも与えられれば、その瞬間にキャラクターはグループでは無く一個人として認識して貰える様に設計されている。

更に、魅力をアップさせる施策がある。

それが、グループ内の人間関係である。

フォローし合える人間関係の重要性

大半のグループ内に人間関係が既に出来上がっている事は、強力な武器となる。

それは、キャラクターへの評価や扱いは、他のキャラクターから向けられる態度によって決まる部分があるからである。

つまり「武部沙織」が恋愛に恋愛をしている事で欠点を晒していると視聴者がスムーズに認識出来るのは、武部沙織の親友「五十鈴華」が毎回ちゃんと呆れるからである。

このグループ内の人間関係が、全グループに存在する為、ガルパンのキャラクターの掴みやすさは、非常に高くなっている。

そして、この人間関係には、もう一つ利点がある。

それが、キャラクターが他のキャラクターを慕う描写を入れられる事だ。

当たり前の事に思うかもしれないが、これは人間関係が出来上がっていて、かつ、良い人間関係のグループでないと出来ない。

ガルパンのキャラクターは、良い人間関係のグループにしか所属しない。

キャラクター同士が険悪な場合は、必ずグループの外に対してである。

だから、グループ内は常にポジティブであり、健全な人間関係を形成出来ている。

その描写は、視聴者に不快感を与えない。

それどころか、キャラクター同士がフォローし合う事で、嫌われるキャラクターを出さない。

嫌われる行動を取る、あるいは取らなければならないキャラクターがいても、そのキャラクターを良く知るキャラクターによるフォローが必ず入る。

また、キャラクターがピンチの時にキャラクター同士でフォローし合えば、そこには深い絆が感じられ、それは大きな感動に繋がります。

この、グループ内のフォロー描写は、ガルパンの大きな魅力だ。

更に、そのフォローの範囲は、劇場版ではグループの垣根を超える事となる。

終わりに

今回は、少し踏み込んだ設定構築への考察をしました。

この調子だが、引き続き考察していきたいと思います。

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