動機、付け?
動機と言う言葉は、なんとなくなら誰でも聞いた事がある言葉だと思う。
ニュース番組や推理小説なら「犯人の動機は何だ?」なんて使われ方をする。
物語の感想で「動機が弱かった」とか「動機に共感出来た」なんて言われ方も普通にある。
しかし、動機について深く考えた事が無い人の方が、世の中には多いと思う。
「動機とは?」なんて考えても、何も良い事が無さそうだからだ。
だが、ストーリーテリングに関わるクリエイターは、動機について真面目に向き合い、言語化出来ずとも理解出来ている必要がある。
今回は、物語に必要な動機について解説していく。
そもそも動機とは?
動機とは、
- 人が行動を始める為の機能
を指す。
行動する為の、機能だ。
動機付けは、
- 動機を人に紐づける事
を指す。
動機を付ける事で、人は初めて行動できるのだ。
また、英語では「動機付け」を「モチベーション」と表現する。
行動とか機能とか分かりにくいが、要するに、だ。
- 人が行動を起こすには、必ず理由がある。
と言う前提を覚えて貰いたい。
その理由こそが、動機だ。
当り前の事だが、その認識が曖昧だと話にならない。
動機の種類
動機には、いくつか種類がある。
難しそうに見えるかもだが、単純な物なのでサクッと覚えて欲しい。
内発的動機付け
これは要するに、好奇心・興味・関心・夢と言った「人の中にあるモチベーション」だ。
物語においては、自己実現型の物語で重要視される。
自己実現型物語には「シンデレラ」等がある。
お城の舞踏会に出たいという「夢」をモチベーションに、シンデレラはドレスを作ったりと言った行動を起こす。
外発的動機付け
これは要するに、義務・懲罰・強制・危機と言った「人の外にあるモチベーション」だ。
物語においては、自己犠牲型の物語で重要視される。
自己犠牲型物語には「ロードオブザリング」等がある。
魔王サウロンの復活という「危機」をモチベーションに、フロド達旅の仲間は指輪破壊の旅と言う行動を起こす。
達成動機付け
これは、上二つとは少し違い、人は条件が重なった状況に置かれると、より高水準の達成を意識するというモチベーションになると言う物だ。
条件とは、達成度合いが評価(点数付け等)が可能と言うのが第一である。
例えば、ゲームをして一回目が「30点」だったとする。
同じ形式のゲームをもう一度する場合、一回目よりも「より良い点」を取ろうと自然としてしまうと言う感覚は分かると思う。
これは、結果の評価を比べる物が多いほど、如実に表れる。
比べる物として、過去の自分の実力以外に、全国平均、友人との差、等の比較要素を想像すると、このモチベーションの感覚は、より深く理解出来る筈だ。
この達成動機には、上二つの内発的・外発的動機付けも内包されているのにも気付くと思う。
例えば、より良い点を取りたいという内発的動機と、人と比べ悪い点は取りたくないという外発的動機と言った具合にだ。
物語においては、主人公の変化でなく、練度上昇に向きやすい為、メインの動機として扱われる事は少ないが、劇中の小目標に向かう際等には使う事が出来る動機である。
必要動機
ここからが本題だ。
「必要」と言うラインを満たしていないと、動機不足が原因で不自然な納得性の低い物語が出来上がってしまう。
必要動機のラインとは、葛藤を乗り越えるパワーである。
葛藤を超える力
面白い物語の中には、必ず葛藤が登場する。
それも、強い葛藤だ。
この葛藤という物は、主人公が行動を起こすのを躊躇させる。
悩ませ、二の足を踏ませ、はじめの一歩を踏み出す事を阻害する。
その強い葛藤を乗り越える力を持たない動機は、役に立たない。
動機を変えず葛藤も変えないで、弱い動機と強い葛藤のまま物語を前に進めようとする創作者が時々いるが、それをすれば「動機が弱い」と見られ物語の勢いは極端に弱まる事になる。
例えば「シンデレラ」で、お城の舞踏会、出て王子様に見初められれば結婚も夢じゃない、と言うモチベーションは、かなり強力である。
家では冷遇されているシンデレラが、人生の一発逆転のチャンスに賭けるに足る、そういう設定だ。
もしこれが、村の広場でのお祭り、出て男を引っかければ結婚出来るかも、と言うモチベーションなら、弱く感じるだろう。
恐ろしい継母に逆らおうと思わないかもしれないし、その前に継母が「まあ、お祭りに行くぐらいなら」と止めないかもしれない。
また、継母が恐ろしくない場合も、無理に家を出る必要が無い為に動機が弱まる。
そうなれば、物語として成立しないのは明らかだ。
動機とは、危機や報酬を吊り上げれば良いと言う物では無い。
シンデレラでは、辛い環境にいたからこそ城の舞踏会と言うモチベーションが効いている。
ロードオブザリングでは、平和な村にいたからこそ魔王の復活と言うモチベーションが効く。
フロドが住む村が元々絶望的に荒れ果てていたら、魔王の復活を阻止してまでして世界を守ろうなんて考えないだろう。
つまり、主人公はモチベーションによって動かざるを得ない環境に身を置く必要があるのだ。
この必要動機の正解は、葛藤を乗り越える力の有無にある。
葛藤が大きければ、動機もパワフルでなければならない。
登場人物が弱ければ、弱いほどに動機は力強く無ければ、その重い腰を上げさせる事が出来ない。
だからこそ、モチベーションと身を置く環境に大きなギャップが必要になる。
だが、それだけでは足りない。
動機には、もう一つ「納得感」が必要となる。
納得感
動機には、一定の納得感が必要になる。
つまり、登場人物にとっては強烈な動機と言う「言い訳」は通用しない。
要するに、動機を知った人が納得出来るかどうか、これが重要だ。
例えば、多くの物語では「仲間の為に」と言う動機で行動する。
これは、現在友達が一人もいない人でも理解出来る。
同意出来なくても、納得出来る動機と言う事だ。
これは、全く共感出来ない動機に対しても、言える事だ。
例えば、バットマンのジョーカーの犯行動機は、大半の人が共感出来ないが納得出来る。
ジョーカーの狂人的なキャラクターを含めた人となり、バットマンとの勝負に対するこだわり、犯罪への美学が描かれている事で、ちゃんと納得感があり、理解出来る。
納得感の欠けた動機を持ったキャラクターの事を、人は好きになれない。
それは逆に、行動動機に納得感があるキャラクターであれば、どんな悪人に対してでも一定の愛着が湧く事を意味する。
この納得感の有無は、キャラクターが理不尽さでは無く、独自の論理によって行動している事への証明でもある。
人は、善人でも悪人でも、理不尽なだけのキャラクターの事は、好きになれないのだ。
終わりに
物語の動機には、何が必要かと言う話でした。
タイトルの通り、
- 葛藤を乗り越える力
- 納得感
が必須要素であり、これらが備わった動機なら納得性の高い物語を構築する事が出来ます。
- 葛藤を乗り越えられない動機
- 納得感が無い動機
- 葛藤が無く、動機も無いが、なぜか行動する登場人物
が出てくる物語は、ギャグにもなりません。
不条理な物語であっても、筋が通っているなら、葛藤も動機も必ず存在します。
それらが存在しないと、そもそも登場人物が動くはずが無いからです。
それでも動く物語は、ある種の理不尽に支配されています。
作者の都合によって人形の様に登場人物が演技をするだけ、と言う理不尽です。
この記事が、これから世に出る物語の「動機付け」の向上に役立てば幸いです。
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“動機付けには「葛藤を乗り越える力」と「納得感」が必要と言う話” への1件の返信