場面をブロックにしろ!
ブロック管理だ!
物語をつくる上で表現媒体は関係ない。
映画、ドラマ、アニメ、漫画、小説、何でも大体同じだ。
聞くからに面倒だと感じる人もいるだろうし、下手な我流を恐れる人もいるだろう。
それでもやって貰いたいのが『物語のブロック管理』である。
これは、場面をビートやシーンやシークエンスと言う単位でブロックにして、ブロック単位で編集したり入れ替えたり組み替えたりと言った運用をする手法である。
これ、すっごい便利なのに、使ってる人(使いこなせている人)が意外と少ないのだ。
一人で作る時も、大勢で作る時も
ブロック管理は、使いこなすと「とにかく便利」だ。
ブロック管理の事を別の言い方で
- 箱起こし
- コンテ
- イメージボード
- シーンカード管理方式
等々と呼ぶが、やりたい事は大体同じだ。
脚本の「箱起こし」は、脚本をシーン毎のブロックで管理する。
「逆箱起こし」は、既存の完成作品を見て、それを箱に起こす事で脚本の勉強となる。
これは、非常に有効な勉強方法となる。
映画・ドラマ・アニメ監督等や漫画家が「コンテ」を切るのも、シーン毎のブロック管理である。
「箱起こし」と「コンテ」は、どちらも具体化を伴った物語の設計図なのだ。
シド先生とブレイク先生
ハリウッド映画の3幕構成の大家シド・フィールド先生は、14枚のカードを使ったシーンカード管理方式を紹介している。
書籍内での紹介は「5×3カード」だ。
5×3とは、カードの横縦比であり、書籍内では12.5㎝×7.5㎝ぐらいが丁度いいと言っている。
これは、シークエンスの数ピッタリのカードをブロック分けする事で、脚本全体を見える化する方式だ。

図を見ると分かるが、3幕構成は3つのアクトでストーリーを分けた物で、シークエンスで分けると言うのは、3つのアクトを更に14のシークエンスで分けた物と言う事になる。
つまり、映画と言う映像100分、脚本100項の尺に収まる物語の目安が14シークエンスなのだが、このシーンカード管理方式、まあ厳密にはシークエンスカードだが、は、箱起こしやコンテと似た効果を得られるだけでなく、正にブロックの様な運用が出来る。
これは、物理的な「カード」に書く事で、カードの入れ替えによってシークエンスの組み合わせを調和が取れた物になるまで組み替える事が容易になり、更にカード管理にした事で没案を分かり易く残し、アイディアとしてのストックと同時に思考のループに陥る危険から身を守る効果も得られる。
と言うのも、箱起こしでもコンテでも、同じブロック管理の効果は得られるが、カードとの違いは「入れ替える際、消す必要がある」と言う点だ。
没案や悩んでいる案との比較が「より容易に出来る」点で、シーンカード管理方式は有用なのだ。
一方で、セーブザキャットの法則で有名なブレイク・スナイダー先生は、シド先生と似たシーンカード管理方式をやはり紹介しているが、こちらは本当にシーンで分けてカード管理している。
ブレイク先生によれば、映像100分、脚本100項の尺に収まる物語の目安が40シーンだと言う。
40のシーンともなれば、直線に並べるよりもブロックで管理した方が、より利便性が高い事も分かると思う。
3アクトを14シークエンスに分けたシド先生方式よりも、40シーンに分けたブレイク先生方式の方が管理は難しくなるが、情報が具体性を持っていて、より内容がハッキリする。
更に、ブレイク先生はシーンカード管理方式に要素をプラスし、「+/-(感情のプラスマイナス)」と「><(ブレイク先生流『葛藤』記号)」を書く事を推奨している。
記号を用いるのは、小さなカード上で省スペースの為だ。
この2要素は、シーン毎の感情変化の上下と葛藤を記す事で、魅力的なシーンかどうかの判断材料となる訳だ。
- 感情が動かない=感動に繋がらないシーン
- 葛藤が無い=面白味の無いシーン
この2つの要素の見える化は、シーンの良し悪しの判断材料としても理にかなっていて、仮に入れたい似たシーンが2つあれば、より感動と葛藤が強いシーンを選ぶべきと分かる。
更に、感動の上下がシーンの前後としてプラスかマイナスがあまりにも連続していれば、そこには反対の感動操作を挟む必要がある事も想定出来る。
カードにある葛藤がセントラルクエスチョンと無関係ならば、そのシーンが本編に影響を与えていない事も事前に気付く事が出来るのだ。
両先生が教えてくれるシークエンスやシーン毎のカード管理だが、どちらが優れていると言う物でもない。
どちらも滅茶滅茶有用なツールであり、テクニックだ。
全体像を把握するならシークエンスカードをまずは作るべきだろう。
内容の具体化を行うなら、シーンカードにシークエンスカードを分けて行けば良い。
両方の手法をハイブリッドして使えば、カードの並べ替えだけである程度の物語の基礎を構築出来る。
ピクサーのブレイントラスト
個人単位のクリエイターによる作品のブロック管理だけでなく、大勢によるプロジェクトでこそブロックの見える化は、その効果を発揮する。
ピクサーを始めとした超一流の物語創造企業では、大部屋の壁にシーンやシークエンスを描いた紙を順番に並べてブレイントラスト(ピクサーの行うクリエイティブに重きを置いたブレインストーミング的会議)等を行う事は、一般的となりつつある。
その際、重要となるのは、
『誰にでも分かる様に見える化された上で、ブロック管理された状態の物語の設計図が、触れる形でその場にある』
と言う事だ。
その状態で無ければ、脚本の専門家でさえ当事者以外は、ちょっとした手直しも、ただの意見交換さえも、迅速に参加する事が出来ない。
だが、ブロック管理によって見える化されていれば、誰でも迅速な参加をする事が可能となる。
これは、物語の精度を急速に高める為には、かなり有効な手段なのだ。
手軽にブロック管理するには?
しかし、ブロック管理をするにしても、実際にはどうすれば良いのか分からないと言う人もいるだろう。
箱起こしは、エクセルや専用のシートで行うのが一般的だ。
コンテは、基本的に専用の用紙に行う物だ。
では、本題のブロック管理は?
シーンやシークエンスのカード管理は?
実際に行う際、広い机や壁があるのなら、数行の文字を書き込める程度のカードを買ってくるか、紙を切って作ればいい。
14枚か40枚を一目瞭然に並べられるなら、実際は更にスペースは必要となるがブロック管理は十分に出来る。
紙は、画鋲で貼っても、磁石で貼っても良い。
あなたが一人なら、冷蔵庫に磁石でくっつけても構わない。
形式は、あなたが表現するメディアに合わせよう。
視覚的なメディアなら、カードにキーとなる絵を描いても構わない。
文字媒体のメディアなら、カードに簡潔な文章を書いていこう。
慣れないと、きっとシークエンスとシーン、下手をするとアクトやビートが混ざる事があるかもしれない。
最初は、それで良い。
ブロックの大きさが違い過ぎると気付いたら、大きなブロックなら小さなブロックに分ければ良いし、小さすぎるブロックなら大きなブロックにする為に要素を足してやれば良い。
慣れてくると、ブロックの大きさを気にしながらブロックを大量生産出来るようになる。
そして、ブロックを組み替えて理想的な物語の流れを模索する事も、割とすぐに出来るようになる。
ブロック毎にグループが見える様になれば、色分けしたりシールでも貼ってやれば更に管理は楽になる。
14枚のシークエンス、40のシーンを作るのに、何倍ものカードを使う事になる筈だ。
その、余ったブロックは?
捨てても良いし、勿体無いと思ったらいつか使うアイディアとして残しても良い。
この、アイディアとして残せるという事も、一部の創作者には助かる利点だ。
残ったアイディアを実際に使う事は、実は、あまり無い。
としても、残せる安心感によって、捨てる事に躊躇が無くなる。
これは、その時はアイディアとして入れたいが、入れると全体のバランスが悪くなる場面で、自制するブレーキとして機能する。
本当に良いアイディアなら必ず使う場面は再度訪れるし、良いアイディアだと思い込んでいるアイディアなら、そのまま一生使う事も無く、完成した作品も余分が無いスッキリした物となる。
捨てる為に残せる形にするのだ。
アナログはちょっと……と言う人の為に
実際のカードで無くても、ブロック管理は可能である。
例えば、エクセルの一行をブロックに見立て、一列を通し番号にすれば?
通し番号で並べ替えを行えば順番は瞬時に修正される事になるし、あなたがエクセルをマスターしているなら高度な計算で自動化を図ろうとしても構わない。
エクセルの良い所は、列に余裕がある為横に並べてのブロック比較も出来るし、感情や葛藤の専用列も作る事が出来る。
コピー、カット、ペーストも思いのままだ。
例えば、パワーポイントの一枚をブロックに見立てたら?
シートの順番を入れ替えれば、それだけで順番を変えられるし、順に見て行けばシーンやシークエンスの流れをスライドショーとして確認できる。
パワポの良い所は、ブロックを一枚に見立てる場合は、余白に余裕があり、アナログなカードならA4程度のボリュームをスッキリと管理出来る点にある。
例えば、ワードならブロックは、どこを見立てたらいい?
ページで分けるでも、区切りに『*』や『-』で線を引いても良い。
ただし、ワード系のソフトはブロック管理にはあまり向かない。
出来ない事は無いが、順番の入れ替えや比較の点で他のソフトに、どうしてもかなわない印象だ。
変わり種で例えば、マインドマップなら、ブロックを枝に見立てたら?
枝をブロックとすると、マインドマップは実はかなり管理しやすい。
順番を入れ替えるのも楽だし、枝を分ければ要素もいくらでも足せるし具体化も出来る。
ただし、マインドマップの場合は、そこから文字を抽出する際にコツが必要になり、別の形式に転用する事を考えるなら向いていない。
それはパワポでも言える事だが。
以上の点から、ブロック管理をデジタルで行うなら、エクセル系のソフトが誰でも使える一般性もあり、便利である。
これらのソフトは、フリーソフトもあるし、必要機能が制限されているなら買ってしまっても本来の用途に使えるので買うのも手だ。
スマフォ・タブレットとパソコン間でクラウド管理出来る物も最近は多く、場所を選ばない点も便利である。
もちろん、アナログとの兼用も悪くない。
終わりに
管理の仕方は自由なので、紹介した手法以外で、例えば他の独自に使い慣れたソフトを試しても良いし、専用のソフトを作ったりしても構わない。
ここで重要となるのは、物語をブロックと言う要素で『手軽に管理出来る』環境を構築する事だ。
書ける字数が大幅に制限されるが、英単語暗記カードみたいな小さな物を使ったって構わないのだ。

上記図の様に事細かに記して管理しても良い。
パワポで作った図だが、この様に、ある程度は穴埋めでカードを量産する事も出来る。
横のパラダイムと見比べれば、そのシークエンスに当てはまるシーン、あるいはシークエンスなのかを考えながら作業できるし、パラダイムにチェックを入れればそのままシークエンスの判断も後で出来る。
しかし、要素が多くなれば内容の具体化は出来るが、反面管理が難しくなり、結果煩雑になるので、初めは要素をかなり絞った方が得策だ。
シーンを想像出来る「イメージ」や主人公の「行動」がブロック化出来れば、最初は十分である。
その後で「感情の上下要素」と「葛藤するポイント」の有無をシーン毎に探したり、そのシーンがどのシークエンスか、テーマに即しているか等を判断すれば良い。
慣れてくるとアクト、シークエンス、シーン、ビート、ショットと各カードを作ったブロック管理も可能となり、そこまで来るとブロックを構築する時点で「アクト1、日常シークエンス、○○シーン」と言う風に作る事が出来るようになる。
ナンバー | シークエンス | シーン | 感情上下 | 葛藤 |
1 | プロローグ | シーン1 | 上 | |
2 | 日常 | シーン2 | 上 | |
3 | 日常 | シーン3 | 下 | |
4 | 日常 | シーン4 | 上 | |
5 | 切欠 | シーン5 | 下 | |
6 | 切欠 | シーン6 | 下 | |
7 | 悩み | シーン7 | 上 | |
8 | 悩み | シーン8 | 下 | |
9 | 決意 | シーン9 | 上 | |
10 | 決意 | シーン10 | 上 | |
11 | 試練1 | シーン11 | 上 | |
12 | 試練1 | シーン12 | 下 | |
13 | 試練1 | シーン13 | 上 |
上記表に入れたシークエンスやシーンが正解と言う事では無いので悪しからず。
あくまでもイメージしやすいようにと言う一例だ。
更に列を増やして具体的シークエンスや具体的シーンを簡潔に書き入れたり、行を増やして40シーン程度にしてやれば物語の全体像をシーンで見る事が出来る。
この技法に慣れるには、ブロック管理を実際に行う他に道は無い。
上にも書いたが、「逆箱起こし」で既存作品を分析しても良いし、既存作品を「コンテ」や「脚本形式」にしたりしても良い。
名作からエッセンスを掴むのは、有効な練習手段だ。
上手い物を真似るのは、練習の基本である。
そうやって体得した技能は、その物語に足りない要素を洗い出す際も大いに役立つ。
人によっては「解決(クライマックス)」ブロックが余っていたり「試練(2幕前半、起承転結の承)」や「悩み」「決意」「絶望」「契機」等のブロックが枯渇している事が、瞬時に判明する。
「日常」「切欠」「解決」のブロックに過剰なレパートリーがあったり、余っていても、他のブロックが無いと物語として成り立ちようが無い。
以上。
諸々と説明した様に、ブロック管理は、使いこなせば超便利な創作ツールとなる。
この記事を読んで興味を持った人がいたら、是非、肩ひじ張らずに、気軽に試してみて欲しい。
また、
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