行動をデザインしよう
行動とは、アクションだ。
アクションと聞くと、アクション映画を想像するかもしれない。
だが、登場人物が行動しない物語は、存在しない。
そういう意味で、アクション映画は、派手なアクションの映画と言う方が正しい。
あらゆる物語に存在する「行動」だが、登場人物が行動を起こす事が「あまりにも当り前」ゆえに、その重要さを考えた事が無い人も多いと思う。
今回は、そんな行動が、物語の針路を決める重要な物だと言う事を説明する。
『有事の行動』が人物を表す
登場人物のイメージを決定づける物は『有事の行動』だ。
登場人物が、がどの様なキャラクター付けで、設定を持っていて、それまでに何をして、どういう考えを持っていようが、最も重要となるのは有事の行動である。
主人公が、それ以前にどんな人物として描写されていようが、有事、つまりアクシデント、セレモニー、エンカウント、ヘラルドのどれかとの遭遇時に、どういう行動を起こすかで、その本性が現れる。
暴きだされるのだ。
例えば、物語で主人公の目の前で事件が発生するとしよう。
善人のキャラクターなら、助けに駆け付けるだろう。
どんなに善人のキャラクター付けをしていようが、有事の行動が伴わなければ、そのキャラクターは、真の善人になる事は出来ない。
もし、大事な予定に遅刻しそうなのに、目の前で誰かが困っていたら?
大した事で無くても、葛藤が伴えば行動には重みが生まれる。
自身の予定よりも他者の幸せを優先させたり、両立を目指す人物として描かれれば、その登場人物は、お人好しや善人として描けるだろう。
有事の行動には、本性が現れる。
どんなに悪人として描いていても、有事の行動で善性を示してしまえば、その悪人には善性が備わっていると言う複雑なキャラクターとして描く事が出来る。
悪人が子供を助ければ、その悪人はただの悪人には戻れない。
戻るには、子供を助けた悪としての理由が後に明かされ、子供を善性から引き剥がさなければならない。
例えば、
小説「とある魔術の禁書目録」で一方通行(アクセラレータ)が打ち止め(ラストオーダー)を有事の際は大事にする為、一方通行がどんなに悪人として行動した所で、打ち止めとの絆を断ち切らない限りは悪人になる事が出来ない。
逆に、どんなに善人として描いていても、有事の行動で悪性や自己中心性を示してしまえば、ただの善人ではなく、度合いによっては悪人として描く事も可能だ。
普段は人気者で頭も良くてモテるキャラクターであっても、有事の際に逃げ出したり役に立たなければ、それがキャラクターの本性なのだ。
有事の行動デザイン
有事が訪れない物語は、存在価値が無い。
どんなに日常を描いているとしても、それは日常の中の有事である筈だ。
そもそも物語とは、有事の行動を描く物なのだ。
そして、何度でも書くが、有事の行動が登場人物の本性を表す。
この基本原理を理解していないと、淡々とした平坦で面白味の無い物語となる。
有事の行動をデザインするには、第一に有事のデザインが重要となる。
上でも触れたが、有事には4つある。
- 悪い事件:アクシデント
- 善悪の無い通過儀礼:セレモニー
- 悪い出会い:エンカウント
- 善悪の無い出会い:ヘラルド
基本的に、どれも何らかの都合の悪いイベントだ。
良い事であっても、都合が100%は良くない、何らかの条件が付いている。
だから、葛藤が生まれる。
有事は4つの種類から一つを選び、デザインする必要がある。
- アクシデント:事故、トラブル、等
- セレモニー:試験、夢の切符、等
- エンカウント:敵、悪人、ライバル、等
- ヘラルド:誘い、依頼、等
物語は、3幕構成で言えば1幕の後半で有事が発生する。
インサイディングイベントとは、有事なのだ。
そこで、何が起きるかによって、物語の方向性が決まる。
しかし、物語の進む方向が本当に決まるのは、発生した有事に対して主人公が起こす具体的な行動の決定からだ。
有事をデザインしたら、主人公の行動をデザインする必要がある。
例えば、
- アクシデント:救助や解決に向けた行動
- セレモニー:合格や到達に向けた行動
- エンカウント:逃げる、戦う、止める、等の敵の目的達成を邪魔する行動
- ヘラルド:共に目的に向かう、依頼達成に向けた行動
等が行動の選択肢として存在する。
ここまで見たなら分かると思うが、有事と行動は、ある程度だが対になる関係がある。
つまり、物語をデザインする場合、主人公の行動が決まっているなら、起きるべき有事は、既にある程度決まっていると考えて良い。
有事を先に思いついているなら、取るべき行動もある程度絞られていると言う事になる。
キャラクターを先にデザインして物語を考えている場合、そのキャラクターが活躍して輝ける有事か行動が分かっていれば、物語の方向性は決まったも同然だ。
ポイントが掴めたなら、登場人物、有事、行動をデザインすれば、どの様な物語に育てるべきかが分かる筈だ。
終わりに
- アクシデント:悪い事件、事故、トラブル、等/救助や解決に向けた行動
- セレモニー:善悪の無い通過儀礼、試験、夢の切符、等/合格や到達に向けた行動
- エンカウント:悪い出会い、敵、悪人、ライバル、等/逃げる、戦う、止める、等の敵の目的達成を邪魔する行動
- ヘラルド:善悪の無い出会い、誘い、依頼、等/共に目的に向かう、依頼達成に向けた行動
と言う、有事と行動の4種類の関係性が分かれば、物語の針路が見えるだろう。
大事なのは、有事の行動だ。
備えが十分でない有事の行動でこそ、登場人物の本性が見えて、物語の魅力は輝きを放つ。
とても大事な事なので、どうか忘れないで欲しい。
