テーマもモチーフも定まらない全ての人へ
2019年1月26日、サイバーコネクトツーの松山洋氏が「週刊少年松山洋」にて『描きたいものが無いんです』と言う記事を掲載した。
この手の質問は、私も良く受け取る。
この記事、Twitterのリツイートで流れてきて、個人的には賛同も共感も出来た。
「やるだけ」「なんでもいい」「描くしかない」「とにかく描け」
結局は、クリエイターは作品をつくるしかない。
前に進む行動を、し続けるしかない。
そんな熱いメッセージが感じ取れる記事なのだが、私は記事の中に出てくる質問者さんを知らない為、ここで少し考えてしまう。
「足掻いている」クリエイターの卵が「描きたい物が無い」「どうしたら良いアイディアが浮かんでくるのか?」と聞いてきた時だ。
返事として「なんでも良いから描け」は、真理の一つであり、愛がありつつも、少し乱暴では無いだろうか? と……
そこで「とにかく作れ」と言う真理を語る前に、そこに至る道を、真理や感性では無く理論立てた説明で、勝手ながら別の形で質問に答えようと思った次第である。
「伝える価値」と「着想」
まず「描きたい物が無い」と言う状態にも色々ある。
ストーリーのテーマが決まってない、心に響くモチーフが無い、劇的なアイディアが無い、場面が思い浮かばない……
人によっては「何か作らないといけない」のに「何にも浮かんでこないし、何から手を付けたらいいのか分からない」と言う人もいるだろう。
個別に解決法は違うが、これらの悩みの源流にあるのは「伝えたい事」と「発想」である。
「伝えたい事」があれば「伝える価値を感じる描きたいもの」が無い状態からは脱出できる。
つまり「描きたいものが無い」状態からの、脱出が出来るわけだ。
この連載記事シリーズを参考にして貰えれば、伝えるべき価値を定義出来ていないと、描きたい物が分からない状態になるのも理解出来ると思う。
次に「発想法が分からない」のであれば、「着想地点」を定める所から始めれば良い。
そこから発想を広げる事で、どこかで価値を感じるアイディアにぶつかる筈だ。
を参考にして貰えれば、着想地点の多様さが分かる筈だ。
多くの場合「伝えたい価値」と「着想」を決める事で「描きたいものが無い」状態は解消出来る。
どれが良いのか分からない
次の問題は、伝える価値や着想は分かるが、どれから選べば良いか分からないパターンだ。
これには、明確な答えがある。
まず、無限の選択肢から正解を探すのは、無理と言う事実を認識するべきだ。
あなたがマクスウェルの悪魔でもない限り、未来を正確に予想する事は不可能である。
次に、あなたが「伝えるべき価値」を感じる物以外を、選択肢に入れるべきではない。
価値をあなたが実感出来ない物を、あなたが人に実感させると言う事は、それだけで難易度が跳ね上がる。
以上の事実から分かる事は、どれが良いかは分からないが、あなたが伝えるべき価値を感じている事以外に、最初から選択肢は無いと言う事だ。
激しく当り前の事に思えるが、ブームだからと興味が無いジャンルに手を出す、いわゆる「客に媚びた選択をする」事がクリエイターには良くある。
興味が無かったジャンルの中に「伝えるべき価値」を感じたり、汲み取る事が出来れば良いが、そうでない事も多い。
大人数で動かすプロジェクトになると「誰かがきっと価値を感じている筈」と全員が思い込んで、実は誰一人価値を理解しておらず、そのまま大爆死する事は、実際に多い。
全員が、何らかの「伝えるべき価値」を感じ、共有出来ていない物に、明確な価値は宿らないのだ。
だから、それが正解かは分からないが、少なくとも「伝えるべき価値」だけは、アイディアの中に持たなければならない。
気付きは、自分で起こせ!
いつか、パズルがピタリとハマる様に、風呂やトイレや散歩中等に『ナイスアイディア』が下りてきて、明るい道が開ける時が来ると、信じて待っているなら、それは止した方が良い。
アイディアとは、脳に蓄積した無数の情報の掛け合わせである。
アイディアとの向き合い方の記事が、参考になるだろう。
思わぬ掛け合わせに気付く事を、人は「気付き」とか「ひらめき」とか、そんな言い方をする。
ロマサガやサガフロの様に、頭の上に電球が光る瞬間。
「気付き」から良いアイディアを思いつく事は、確かにある。
だが、それだけを待っていては、何も作れない。
条件がそろってからでないと動けないのは、動けないのと一緒だ。
そんな姿勢ではライバルクリエイターと競争などできない。
不完全でも動かないと、前には一ミリも進まない。
アイディアを生み出す情報の掛け算は、無意識だけでなく、意識もして、両意識でするべき事だ。
そこで、冒頭の愛ある言葉「とにかく描け」が来る。
とにかく作ると、意識してアイディアを出さざるを得ない状況に、自分を追い込む事になる。
これは、そういう意味での真理だ。
だが、シンプルな言葉だけに、注意点もある。
がむしゃらに作るだけだと、目的と手段が逆転する事があるのだ。
作る事が目的になっては、ダメだ。
作った物が目的を果たす機能を備えていて、そこに初めて価値が刻まれる。
漫画なら、漫画を描く事が目的では無く、ましてや有名人になったり金儲けを目的にしても、クリエイターとしての目が曇る。
漫画の機能は、読者を楽しませる事だったり、作者が伝えるべき価値を感じているメッセージを読者に伝える為にある。
ゲームでも、そうだ。
作る事で情報の掛け算や、クリエイティブな研鑽を積む事は出来るが、それは目的では無い。
ゲームをプレイして、プレイヤーが楽しんだり、クリエイターが伝えたり共感させたい事を伝える事が、目的である。
つまり、創作物の目的を見据えて、とにかく作る事こそが重要になるのだ。
がむしゃらに、作る為に作っては、いけない。
何の為に作るのか、その目的を忘れると、思わぬ時間のロスをする目に遭う事は覚えておこう。
正解は分からないが、確率は上げられる。
情報の掛け算を意識して行う事が大事なのは分かった。
だが、あなたが価値を感じたとしても、それが世の中で評価されるかどうかは別問題だ。
ここで、怖くなる事がある。
受け入れられなかったらどうしようと、不安になる。
だが、その不安は、気持ちは理解できるが、乗り越えるしかない。
その際、ただ受け入れるには、抵抗がある人もいると思う。
そこで示したいのが、正解に近いかを計る指標がある事だ。
「アイディアが沢山あって困ってる時、どうしてる?」優先順位の付け方の話
この記事で、アイディアの良し悪しについて触れている。
簡単にピックアップすると
- 新しさはあるか
- 時代性に合っているか
- 客観的に見ても良いか
- 主観的に見ても勿論良いか
ここら辺の要素が満たされていれば、そのアイディアは悪くない筈だ。
そしたら、ヒットするか大ごけするか何て、やってみるまで誰にも分らない。
仮に、クオリティが高くても受け入れられない事だってある。
「とにかく描け」を実行して、世に送り出して、反応をみるしか、正解を知る術は無い。
だが、裏を返せば「新しさが無い」「時代性に合ってない」「客観的に見て理解出来ない」「主観的に見ても良さが分からない」物で「とにかく描け」を実行しても、その先には暗い結果しか待っていない確率は、極めて高い。
例に出してアレだが「ドラゴンクエストユアストーリー」は、監督の主観で「どんでん返し」と言う良さしか無く、大ヒットしたが大バッシングも起こした。
作っている最中は、4要素が揃っているとクリエイターは思っていたのだろうが、市場に出したら全然揃っていなかったなんて事、プロでもあるのだ。
しかし、不安になって作らないのは、よろしくない。
ユアストーリーの例なら、ドラクエファンからすれば迷惑千万だが、クリエイターとしては「とにかく作る」を実践している点で「作らない」人よりかは万倍マシなのだ。
終わりに
基本は、手持ちのアイディアの中から最良を選び、とにかく作る事である。
その際、
- アイディアが無い→情報収集と情報の掛け算でアイディア量産する
- アイディアで、どれが良いか分からない→正解は分からないが、明らかに悪い物からは選ばないようにする
あたりの要素を気を付けて「とにかく行動する」事で、きっと道は開けるだろう。
この記事が『描きたいものが無い』が「頑張ったけど、とにかく描けなかった」と言う不安症の人が「伝えるべき価値」を自覚して行動出来る事の、少しでも助けになれば幸いである。
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