日本産ドラマコンテンツの底力を感じる力作
「全裸監督」とは、ビデオオンデマンドサービスであるネットフリックスで独占配信されている日本のドラマである。
主演は、「闇金ウシジマくん」「勇者ヨシヒコ」等のドラマ作品で有名な、ドラクエ5ではビアンカ派の『山田孝之』さんだ。

ドラマタイトルの通り、これは「全裸監督」が主人公の物語だ。
全裸監督とは、つまり「アダルトビデオの監督兼俳優」と言う役柄を一つ表している。
「日本のアダルト業界」がモチーフで、主人公は実在する伝説のAV監督「村西とおる」だ。
物語は「実在の人物の伝記をベース」に構成されているのだ。
その為、モデルになった役割の人が実在したり、時代考証の整合性が始めからある程度担保されている為、時代感を感じるリアルなドラマに仕上がっている。
一部、パラパラを踊っているシーンや、凝縮された新宿等の演出はあるが、当時を知らない人には昭和後期から平成初期にかけての雰囲気は伝わるだろう。
また、男女差別的な表現が見られると憤り、嘆いている人もいるかもしれないが、昭和後期の日本を尖らせて表現したら、そう見える事は容易に想像できるし、このドラマが表現したいポイントは、そこでは無い事は予め断っておく。
今回は、そんな話題作「全裸監督」を紹介する。
見どころ1:制作方式が特殊
日本では珍しいチームライティング方式で脚本が制作されているのも、注目すべき点だろう。
日本制作だが、作り方は少し海外ナイズされている部分があると言う事だ。
制作陣も、制作方式の日本での成功例になれればと気合が入っていたらしいが、どうやら大成功と言って良さそうである。
また、クオリティが高い事でお馴染みのネットフリックスオリジナルなので、製作費が潤沢なのか、セットや演出にもお金がかかっており、登場人物を演じる俳優陣もゲストを含めて豪華かつ、実力派揃い。
ワンクール等の制約も無いためか、一話一話の長さもバラバラで、シーズン1は全8話構成と言うのも特殊だろう。
つまり、日本の既存のドラマコンテンツの様な縛りから解放され、クリエイター・アーティスト・アクターファーストに近い環境で制作されているのだ。
見どころ2:地上波では描けない裏のエグイ世界
まず、この作品は、モチーフから見る人・見る環境を大いに選ぶ作品だ。
うっかり「話題だから」と家族と見始めると、レンタルした映画で流れる濡れ場に「みんなが静かになる」気まずい現象間違い無しなので注意が必要だ。
毎話の様に「女性のあえぎ声」「男女の裸」「性的表現」が、視聴者サービスでは無く、作品の必要性・必然性ゆえに登場する作品なのだ。
それだけで、人によっては視聴を躊躇するだろう。
だが、一方で作品のクオリティと言う面では圧倒的なレベルの高さを持っている事を、もう一度伝えたい。
私は、茶番では無いハイクオリティな連続テレビドラマを日本産で久しぶりに見た様な気さえして、非常に嬉しい気持ちになった。
モチーフ故に日本の地上波放送は難しい本作だが、クオリティ面では日本のゴールデンタイムに放送されているテレビドラマは、大いに見習うべき物がある。
モチーフは人を選ぶが、クオリティ面では、業界の人が本当に作りたかった骨太なドラマに仕上がっているのだ。
脚本家や監督達は表現から逃げず作品を遠慮なしに描き切り、俳優陣は体当たりの演技と言っても良い素晴らしい演技を見せてくれる。
性器の直接描写は一切無いが、そこに描かれているのは、リアリティ溢れる昭和アダルト業界の裏側なのだ。
その為、日本ドラマが好きな人にはモチーフで好き嫌いしないで、環境を整えての視聴を薦めたい、そんなドラマである。
地上波では流せない事も、インターネットの世界では出来るのだ。
見どころ3:物語が最高に面白い!
肝心の物語は、まだ主人公の村西が英語辞書の訪問販売をしていた時代から始まる。
そこから、様々な出会いを得て、村西は最初「ビニ本」と呼ばれる「エロ本」を売る所から、その「アダルト業界」のキャリアをスタートさせる事になる。
そこから、時代の流れに沿って村西はアダルトビデオ業界に足を踏み入れ、伝説を作っていく事になる。
そんな物語の基本構成は、「ウルフオブウォールストリート」「バリーシール」「ブレイキングバッド」「ウォ―ドッグス」「ロードオブウォー」と言った、クライムサスペンス寄りで、村西は自身の理想の表現の為に、様々な法律を破ったり、ギリギリを攻めて「性」を売り物にしていくのが基本だ。
つまり、アダルト業界を舞台にしているが、基本の構成は骨太な『犯罪ドラマ』なのだ。
だから物語は、
- 「理想の性表現を求める村西グループ」(主人公チーム)
- 「村西が邪魔なアダルト業界の重鎮グループ」(シーズン1の敵)
- 「ヤクザが仕切る裏アダルト業界グループ」(裏で暗躍、一番ヤバそう)
- 「アダルト業界を取り締まる警察グループ」(シリーズを通しての敵)
の4つ巴の争いによって進行する。
ブレイキングバッドを知っているなら
- 「ウォルター&ジェシー」
- 「ガスの巨大麻薬密売組織」
- 「メキシコカルテル」
- 「麻薬取締局」
を想像すると、物語の概要が一気に理解出来る筈だ。
見どころ4:キャラクターが魅力的!
物語に登場する人物も、みんな魅力的に描かれていて、その中でも魅力的なのは、やはり山田孝之演じる主人公の村西だろう。
劇中の彼は、ある経験から独自の美学を持つに至り、本物にこだわった性を表現しようと作品を通して奔走する事になる。
そんな美学と、独特な魅力を発揮する村西の周囲には、彼を慕う事になる仲間が集まり、物語中盤ではチーム村西とも呼ぶべき「サファイア映像」のグループが出来上がる。
この、村西を中心としたAV制作会社の雰囲気が、また魅力的に描かれている。
情熱的に仕事に向き合い、家族の様に食事を囲み、真の仲間と言う一体感に包まれているのだ。
他にもキャラの立った登場人物は多いが、村西の最初の仲間である満島真之介が演じる「トシ」は、ブレイキングバッドで言う「ジェシー」ポジションで、非常に危うく、見ていてハラハラする事は、まず間違いない。
あと、リリーフランキー演じる刑事の「武井」は、独特の存在感を放ち、敵対者であると同時に重要なトリックスターの役割を持っていて、見た人は印象に強く残るだろう。めっちゃ嫌らしい刑事で、かなり怖い。
他にも、村西の運命に大きく関わる事になるAV女優の「黒木」、強大な敵として立ちはだかるアダルト業界の重鎮「池沢」、裏から徐々に絡め取ろうと近づいてくるヤクザの「古谷」、ビデオショップメルヘンの「社長」等、魅力的な登場人物ばかりである。
見どころ5:テーマが明確!
物語のテーマとしては
- 「不快や汚くても真の姿を晒す方が良いか、否か」
と言う様なテーマで一貫している。
つまり
- 「性器は卑猥で不愉快だからモザイクで隠すべきか」
- 「脇毛は不潔に見えるから剃った方が良いか」
- 「性に関する話題は卑猥だから控えるべきか」
- 「性行為は人目にさらすべきでは無いか」
等が、テーマを表す出来事として描かれる例だ。
こと日本で生きて来た大人達からすれば、どれも身近なテーマで、考えさせられる事も大いにあるだろう。
村西達が行動を持って主張するのは、どんな事で合っても
- 「事実や真実は隠すべきではない」
と言う「アンチモザイク、下品上等」と言う姿勢であり、その姿は時に滑稽にさえ映るのだが、劇中の黒木を始め、村西の思想によって救われる人がいる描写も、また真に迫っている。
村西自身、物語冒頭では他の人と同じ様に人目につかない様に隠れてセックスをする普通の男として描かれ、それが物語が進むにつれて「たが」が外れ「隠すべきではない」と言う思想を行動に移すようになっていく。
逆に、敵が主張する「汚い物は隠すべき」と言う主張もまた、見栄を張っている見た目はモザイクに過ぎない意味で、ある種滑稽なのが面白い。
敵は思想通りに「隠れ、暗躍し、見た目は上品」に振る舞うが「裏は真黒」な連中ばかりで、テーマを完璧に表現しきっているのだ。
終わりに
日本に蔓延るモザイク文化の意味不明さは、もしかしたら本当に、劇中で描かれた様な「実は、既に意味の無い負の遺産」の名残なのかもしれない。
そう、思わせてくれる、どこまでも皮肉が効いた小気味良い作品である。
「建前・上品・事無かれ主義」が横行する日本においてこそ、この作品は多くの人に見られ、評価され、考える機会を与えうる、そんな重要な役割を果たせるだろう。
「全裸監督」は、既にシーズン2の制作も決定しているので、シーズン1の全8話(1話40分~50分程度)を見て2期に備える準備は出来ただろうか?
ネットフリックス独占配信なので、未加入の人は無料期間を利用して一気に見よう。
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