物語のペース配分
物語の中には、様々な流れがある。
今回は、その流れを「長さ」「区切り」そして「パラダイム」と言う視点から解説する。
この記事を読めば、様々なコンテンツの中にある物語のペース配分の実態や、共通点が見えてくる筈だ。
物語の長さの単位
まず、物語の長さの単位は、その表現媒体によって大きく異なる。
以下、およそだが
- 脚本120ページ=120分(1ページ1分)
- 長編映画1本=120分(OP・EDを除く)
- ドラマ3話×40分=120分(OP・ED次回予告を除く)
- アニメ6話×20分=120分(OP・ED次回予告を除く)
- マンガ3冊×180ページ=540ぺージ(本編のみ)(約2~4ページ1分)
- 小説1冊×原稿用紙300枚=120,000文字(読書毎分600文字平均なので200分かかる)
程度が相場となっている。
2023年5月25日追記:色々な物語に見る話の「長さ」についての再考察【調整と謝罪など】内にて当記事の訂正を行っています。数字の目安をアップデートしているので、併せてどうぞ。
脚本の長さ
脚本の『1ページ1分目安』のルールは有名で、脚本をベースに作られるアニメ、ドラマ、舞台、映画、等は、自動的にこのルールに影響を受ける事になる。
その上で、放送枠、公演時間、上映時間の問題があり、そこに当てはまる様に物語は作られる。
劇場映画であれば、分かりやすいように上記では120分としたが、100分の上映時間が形式的には理想に近いとされている。
アニメ映画や子供向け作品になると90分、60分と時間が短くなり、短編作品になれば40分や20分になってくる。
この時間の問題は「製作費(長い程高くなる)」「枠(長い程一日に流せる本数が少なくなる)」「視聴者層(長い程子供の集中力には辛い)」等の複合的な要因によって決まってくる。
漫画の長さ
- 週刊少年ジャンプの手塚賞(ストーリー漫画部門)なら31ページ、赤塚賞(ギャグ漫画部門)なら15ページ、19ページ、31ページから選んで投稿できる。
- 少年サンデーの小学館では、ストーリー漫画32ページ前後、ギャグマンガ16ページ前後、4コマ漫画10本以上と言う形式指定だ。
- 週刊少年マガジンは、 50ページ以内(4コマの場合は20本以上)と言う規定だ。
- 週刊少年チャンピオンは、ストーリー漫画40ページ以内で枚数自由。ギャグ漫画16ページ前後(多少のページオーバーは認めます)。4コマ漫画12本以上を目安としますが、基本的に自由となっている。
投稿時のルールは、読み切りや短編に求めるルールで、これが連載になるとまた異なり、単行本1冊が180ページ程度(160~200ページ)で、掲載時の1話の分量は作品のジャンル等によって異なるが、週刊誌であればギャグは7、8ページと短めで、ストーリー重視の物は16~20ページ程度と倍近くなる。
出版社の違いで長さが変わる様に、週刊誌以外の月刊誌や季刊誌では受ける制限が変わってくるし、少年誌以外の青年誌、少女誌、等によっても長さは変わってくる。
アニメ化による変換
漫画がアニメ化されると、単行本とアニメの話数に相関関係が生まれる。
例えば、映画化も決まった「鬼滅の刃」は、テレビアニメ26話で単行本6巻のボリュームだ。
これは、
- アニメ1話20分×26話=520分
- 漫画1巻180ページ×6冊=1080ページ
※厳密に計測してないのでおよその数字。
と言う事になり、シーンの動き、セリフ、アニメ化に際しての演出等によって誤差は出るが、およそ2ページで1分と言う計算で物語が進んでいる事になる。
比較として、少女漫画「君に届け」の場合は、テレビアニメ25話で単行本7巻のボリュームでアニメ化された。
- これは、およそ2.5ページで1分の計算になる。
少年漫画「ブリーチ」の場合、長いのとアニメオリジナルが沢山ある為に初期の話で比較するが、アニメ20話(死神代行編)で漫画8巻(70話)がアニメ化された。
- これは、およそ3.3ページで1分の計算になる。
「彼方のアストラ」の場合は、初回と最終話が1時間スペシャルだったのでテレビアニメ14話相当で全5巻をアニメ化している。
- これは、およそ3.7ページで1分の計算になる。
「ヘルシング」の場合は、一話40~50分のOVA10話で全10巻を6年以上かけてアニメ化すると言う特殊な手法がとられた。
- これは、およそ4ページで1分の計算になる。
この何ページ何分は漫画の場合、絵やセリフの動画や音声への変換、内容の整理、構成、演出、等によって決まる為、かなりのバラツキがある。
それでも、ここから見える事は、読み切り漫画の31ページや50ページ指定は、動画に変換した際、10分~20分相当の作品がイメージとして求められていると言う事だ。
その収まりを意識しているだけで、読み切り作品のペース配分は人によっては、大きく変わってくる。
小説の長さ
小説は、長編で8万~12万字、短編で6千~1万2千字ぐらいが目安になっている事が多い。
これも漫画と同じで出版社や雑誌によって大きく異なるが、10万文字前後が文庫1冊相当になる一つの目安だ。
コミカライズ・アニメ化・映画化による変換
絵の無い文字媒体でライトノベルを中心に、メディアミックスに際して行われるのがコミカライズとアニメ化だ。
コミカライズは、活字では作品を読まない人にまでコンテンツを手に取る裾野を広げ、アニメ化は視聴環境がある人に、更に高い確率で見て貰えるチャンスを作る役割がある。
その際、
- 長編映画1本=120分(OP・EDを除く)
- アニメ6話×20分=120分(OP・ED次回予告を除く)
- マンガ3冊×180ページ=540ぺージ(本編のみ)(約2~4ページ1分)
- 小説1冊×原稿用紙300枚=120,000文字(読書毎分600文字平均なので200分かかる)
と言う、最初の方で載せた目安で変換が行われる事が多い。
勿論、繰り返すが作品によってバラツキは存在する。
だが、これを意識すると、10万文字が他メディアになった際のイメージがしやすいと思う。
小説家が本一冊書くと言う事は、アニメの半クールか、劇場作品一本、あるいはコミカライズ3巻までの一段落までを描くイメージが必要と言うわけだ。
小説「狼と香辛料」の場合、文庫1冊がアニメ6話・コミック3巻までの分量でメディアミックス展開された。
※狼と香辛料は、単行本1冊でおよそ20万文字程度あるので、薄い単行本2冊分である。
一方で、小説「ブギーポップは笑わない」の場合、文庫一冊がアニメ3話・コミック2巻・映画109分と、どれも映像化に際して駆け足感があった。
余談となるが、小説「とある魔術の禁書目録」の3期は、14巻から22巻までの9冊を僅か26話に超圧縮すると言う荒業を使ったが、あれはさすがにやり過ぎである。
物語の区切り
物語には、区切りが存在する。
連続モノであれば話数で、1冊の本であれば章や節等で分けられる。
この区切りには、ルールが存在している。
区切りには、基本2つある。
- 解決(劇中の目的を果たす)
- 引き(新しい困難が発生する)
主に、この2種類が区切りに置かれ、それで話が進んでいく。
漫画では、ページをめくらせる為に「引きのコマ」が来ると良いタイミングがあるし、連続ドラマやアニメでもエンディングの直前は解決か引きが来る筈だ。
裏を返せば、これら以外で区切ると「ここで?」と言う気持ちに見る者がなってしまう。
例えば、金曜ロードショー等のCMを挟む映画番組では、この仕組みを理解している人がCMを入れれば映画は非常に見やすくなるし、無理解な人が15分おきに適当にCMを入れれば映画は気持ちの悪いブツ切り状態となる。
ここで「パラダイム」にもかかる問題が出てくる。
物語のパラダイム
脚本術に沿って作られた洋画に特に多いが、例えば100分や120分の映画は4等分で区切る事を想定して作っている事が良くある。

図を見れば分かるが「第一幕、第二幕前半、第二幕後半、第三幕」と4等分で考えて脚本を作ると、各幕を25分か30分のペース配分で考える事になる。
3幕構成に馴染みが無い人は「起承転結」に置き換えて考えても良い。
この、幕の境目には、必ず物語の区切りが訪れる事になる。
テレビ放映時には、良いCMスポットと言うわけだ。
だが、開始15分時点でCMを入れるのは、得策ではない。
映画に限らず、優秀な物語は情報量が最も多いのが冒頭であり、見る者の心を掴む為の仕掛けが用意されているのがプロットポイント1等とパラダイムでは呼ばれている最初の大きな区切りにある。
つまり、映画のテレビ放映で開始20~25分時点までは、ノーカットで流した方が確実な没入を得られると言う事だ。
それから、ピンチポイント1・2、ミッドポイント、プロットポイント2もCMを入れやすい箇所だ。
ピンチポイントとプロットポイントは引きで、ミッドポイントと最後の決戦やクライマックス後が解決の時だ。
テレビではCMの入れ方一つで、映画への没入度が変わってしまうのだ。
様々なエンターテイメントのパラダイム
一話完結、短編、読み切り、連載、様々な形態があるが、物語のジャンルやカテゴリーによってもパラダイムの区切り方は変わってくる。
例えば、パラダイムで言う結末まで物語をまとめる場合と、ミッドポイントで終わる場合、プロットポイント1で終わる場合など、実はかなりのバリエーションがある。
短編の場合、結末まで描くのは難易度が上がる。
自然な形でパラダイムを満たして、主人公に決まったページ数で目的を果たさせなければならないからだ。
だが、ミッドポイントまでの物語だと、難易度は半分だ。
目的達成ではなく、目標達成と言う途中経過まで描けば形になる為だ。
プロットポイント1までの物語であれば、更に難易度が半分に下がる。
これは、最初の事件と、それに関する冒険や自己実現への誘いを魅力的に描けば、それで良いからだ。
連載作になると、毎話解決で終わる結末までの話を書くか、ミッドポイントまでを繰り返すか、パラダイムの構成は短編以上に多様性を持つ。

上のパラダイム表を見て貰うと「決意の時」で終わるか「試練の時」で終わるか「解決の時」や「エピローグ」まで行くかで、物語は全然変わってくる。
アニメ「ドラえもん」の場合、僅か10分のAパートBパートでそれぞれ「日常の時」から「解決の時」までを描き切る。
アニメ「鬼滅の刃」や「僕のヒーローアカデミア」の1話は20分経つエンディング直前の時点で「決意の時」に差し掛かるプロットポイント1で綺麗に「引き」、2話に続く。
海外ドラマ「シリコンバレー」は、1話30分程度で毎回「解決の時」まで行くか、その直後に「悩みの時」が再び訪れ「引き」を作って次の話に繋げる。
海外ドラマ「ドクターハウス」や「パーソンオブインタレスト」の様な一話完結のドラマ作品の場合は、40~50分程度ある1話の中で「エピローグ」までを描き切る。
映画「アイアンマン」から始まるMCU作品は、映画1作毎にエピローグまで描きながら、エンディングで次回作の「引き」を入れる手法が有名だ。
機能でゴールを選ぶ
描く物語のパターンに合った表現方法を選ぶのが、ここでは重要となる。
少し専門的な話になるが、物語の筋よりも感情装置としての機能を優先した物語を描く場合は、時にエピローグや解決の時よりも決意の時やミッドポイントをゴールに設定した方が効率的な場合がある。
例えば、ギャグ(楽)、ホラー(恐怖)、切ない系(哀)、胸糞系(怒)、感動系(喜)、エロ系(興奮)、等に特化した物語は、描きたいシーンによって呼び起こしたい感情が刺激できて「解決」か「引き」で話がオチればシンプルにまとまる。
これは、SNSやサイトに載っている短編作品や4コマ漫画にも当てはまる。
また「ポプテピピック」の様に、あえて「解決」でも「引き」でも無い所で区切る事で、何とも言えない気持ちにさせるテクニカルな作品も存在する。
なので、こういった感情措置としての機能に特化したジャンル限定の専門誌に掲載されている作品には、ストーリー性が一見弱い作品が結構ある。
だが、それは解決まで描く物語としての機能よりも、特定の感情を刺激する物語の機能に特化した結果と言える。
おわりに
「長さ」「区切り」「パラダイム」が、エンターテイメントの媒体やジャンルによっても変わるが、そこには一定の法則がある事が分かったと思う。
開始30分で物語が動き出すような作品は今の時代では遅すぎるし、4分の1の時点で主人公が何らかの決断をしないといけないとしたら投稿用の読み切り漫画の尺が30ページなら7ページまでに基本的な説明は全て済まさなければならない。
ホラーやエロに特化した作品の中には解決を目指さずにオトした方が、感情装置として機能的かもしれない。
この記事が、どんな形でも創作の役に立ったり知的好奇心を満たす助けになれば幸いである。

※2023年5月25日に、一部内容の訂正記事を書いています。色々な物語に見る話の「長さ」についての再考察【調整と謝罪など】こちらも、本記事を読まれた場合は、併せてお読みください。
“色々な物語に見る話の「長さ」「区切り」「パラダイム」について” への2件の返信