【レビュー】「ストーリーボードの教科書 伝える映像の設計図」【書評】

映像コンテンツ制作の必須知識が学べる一冊!

映画、ドラマ、アニメ、ゲーム、コマーシャル、ミュージックビデオ、更にはテーマパークデザインまで。

映像コンテンツを作る時、その種類も形態も問う事無く、行った方が良い工程がある。

それは「ストーリーボード作り」だ。

もしかしたら馴染みが無いと感じる人もいるかもしれないが、要するに「絵コンテ」である。

絵コンテなら、聞いた事ぐらいあるだろう。

映像コンテンツを作る時、よほど短く単純な作品でも無い限りは、ストーリーボード制作は必須と言える。

大人数が制作に関わる物なら、作品イメージの共有をする為にも、絶対に必要だ。

今回紹介する本は、そんな「ストーリーボード」について「何も分からないが、映像作品を作りたい」と言う人から、「ちゃんと一度しっかり学びたい」と言う人まで、大満足の本となっている。

ストーリーボードの教科書 伝える映像の設計図

グレッグ・ダヴィッドソン (著), 平谷 早苗 (編集), 株式会社Bスプラウト (翻訳)

グレッグ・ダヴィッドソン(Gregg Davidson)は、ストーリーボードアーティスト、レイアウトアーティスト、アートディレクター、デザイナー、講師として活躍しています。活動の場は幅広く、アニメーション、実写、音楽ビデオ、コマーシャル、テーマパークのデザイン、ビデオゲームにストーリーボードやデザインを提供しています。アニメーション・アカデミー(バーバンク)、アカデミー・オブ・アート大学(サンフランシスコ)など、カリフォルニア州のいくつもの学校や大学で「シネマティクス」コースを教えています。また、自身がアニメーション/イラストレーションの修士号を取得して卒業した、サンノゼ州立大学ではメンターを務めています。

Amazon引用
  • 単行本: 96ページ
  • 出版社: ボーンデジタル (2020/6/20)
  • 言語: 日本語
  • ISBN-10: 4862464785
  • ISBN-13: 978-4862464781
  • 発売日: 2020/6/20

簡潔に理解できる構成が非常にGOOD!

この本は、教科書と銘打っているが「はじめに」のページにも書いてあるが、目指しているのは「ストーリーボード」の「教室」だ。

教科書的な退屈さより、教えるのが上手い先生が丁寧に授業をしてくれていると言う感覚の方が、読み心地としては近い。

「基本」の章では、

  • フォーマットの種類
  • 映像の連続性の大事さ
  • 最適なショットとは?(ショットは、カメラアングルが変わるところからカットかトランジションまでと定義)
  • 構図の基本(視線誘導)
  • 空間の奥行の演出の基本(オーバーラップ、サイズ、明度と大気遠近法)
  • パースの基本と注意点
  • 注視点、ライティング
  • スクリプトを画にする助けになる、アクションマップ
  • スクリプト分析で、どんな疑問の答えを探すか例
  • リサーチ(調査)とリファレンス(参考文献)と、日々の積み重ね
  • キネステシス(運動感覚)による動きへの理解
  • 必要と不必要を判断する考え方
  • ストーリーボードを効率的に描く心構えと認識

これだけの基本中の基本をサクサクと教えてくれます。

読んでいて理解に苦労する事は、一部の用語を知らない時に翻訳する手間があるかもしれないぐらいで、つまづく事は無いです。

一気に網羅的に増していく専門性

chapter2の、カメラアングルとカメラの動きの章に入ると、実例を絵で示しながら、網羅的に専門用語解説をするページが増えてくる。

だけど、網羅的な用語と共に、しっかりと「これは、こういう場面で使うのが基本」と言った具合に説明があり、困る事は無い。

むしろ、ここから先は、ストーリーボードを実際に作ろうとしている時に「このカメラアングルで良いのか?」等の慣れない時に再確認する時、大いに役立つ様に構成されている。

初心者が一読して、専門用語を丸暗記しても、実際に使えなければ意味が無い。

そういう意味で、クリエイターとして困った時に、専門用語の意味を調べたり、どのアングルが効果的な手法であるかを一覧的に絵で掲載されている本書は、どこまでもクリエイターに優しい作りと言えるだろう。

著者自身、この本は染みや付箋だらけにして実際に使って貰えた方が、参考書的な使い方よりも本望だと言っている。

chapter3からchapter4は、180度ルールと、180度ルールの超え方を、chapter5は、カットとトランジションについて、chapter6は、デジタルストーリーボードと3Dモデリングの例紹介、chapter7では、ストーリーボードの成り立ちと題して、実際のストーリーボードを模したサンプルを通して、どの様に実際に描けば良いかと、映画やアニメと言ったフォーマット毎の違いを解説しています。

ここまでで、80ページ。

ここからは、映画「アベンジャーズ」等のストーリーボードで参加したジム・ミッチェル氏のインタビュー(どんな仕事?出張多い?フォーマットの違いは?監督とはどんな関係を心掛ける?1アクションに中間はいくつ描く?デジタル重要?おすすめソフトは?これからデジタルやる人にアドバイスは?フリーとスタジオスタッフの違いは?新米にアドバイスを)と、用語集、索引、謝辞と続き、本書は幕を閉じます。

本としての評価は?

分かり易さ、使いやすさ、ページ数と内容のボリューム、書籍サイズ等を鑑みての結論です。

定価1800円、税込み1980円。

これは、十分適正価格と言えます。

ストーリーボードを学びたい人や、映像コンテンツを作りたいが右も左も分からない人に、自信を持っておススメ出来る一冊です。

気になった所があるとすれば、一つは表紙の地味さ。

chapter7の説明で使われるストーリーボードのサンプルを並べただけなので、まあ、表紙詐欺は一切無いし、その点は良いんですが、ぱっと見の地味さは否めないかなと個人的には感じました。

もう一つは、海外の本なので、例えば日本の現場でストーリーボードそのままのフォーマットを適用出来ない環境が沢山ある為、日本式の絵コンテ作法を学びたいと言う人には、得る物は必ずあるが、回り道になる部分がある所ぐらい。

内容的には、お値段納得のクオリティなので、映像コンテンツを作りたい、業界に興味があると言った人は、一度手に取ってみては如何だろうか?

Amazon等でサンプル画像が見られるので、そちらで一度中身を確認して見る事をおススメする。

おまけ

この本を出している出版社ボーンデジタルさんから出ている「クライマックスまで誘い込む絵作りの秘訣」著者マルコス・マテウ=メストレ/127項/定価2500円や「Filmmaker’s Eye」著者グスタボ・メルカード/185項/定価3600円と比較すると、本書は情報の取捨選択が適切で、ダントツに分かり易い本です。

どこから学べば良いかを迷うことが無い構成なのは、本書の大きな長所であり、十分に挫折率が低いハウツー本と言って良いです。

ただ、映画学校に始まる映像コンテンツ系の教育機関に通ったりして、既に基本はマスターしていると言う人には、もしかしたら物足りなさがあるかもしれません。

そういう人には、比較に出した「クライマックスまで誘い込む絵作りの秘訣」や「Filmmaker’s Eye」の方をおススメしておきます。

どちらも、本書より情報量が多く、本書と比べると初心者の手に取る一冊目には向きませんが、脱初心者であるならどちらも満足の一冊です。

「クライマックスまで誘い込む絵作りの秘訣」は、ドリームワークスでイメージボードアーティストをする傍ら、グラフィックノベルも手掛けるアーティストで、例に描かれた絵もフラフィックノベル調で、非常にカッコ良い一冊です。

「Filmmaker’s Eye」の方は、インデペンデント映画監督の著者が、75本を超える有名映画作品の映像を例に使った実例形式で解説してくれるので、名作が画作りで意図していた事も知れて、映画ファンにも嬉しい一冊になっています。

今回紹介した「ストーリーボードの教科書 伝える映像の設計図」よりも広く深く学びたいと言う方は、是非。

単調だったり分かりにくい「画」をつい使ってしまう事に悩んでいる人にとっては、どれも視界の靄が晴れる良書ですよ。

本書発行元リンク:株式会社ボーンデジタル

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