連載漫画1話目比較「鋼の錬金術師」「D.Gray-man」

構造で見る漫画のテクニック

映画脚本では、ハリウッド流のパラダイムに沿って作れば大きな間違いは起きないかもしれない。

だが、脚本と小説が別物であるように、漫画と言う表現形態もまた、別物である。

しかし、メディアが違っても、同じ物語を描く媒体である事に変わりはなく、漫画には漫画独自のパラダイムが存在している。

今回は「鋼の錬金術師」「D.Gray-man」と言う2作の有名作品を、パラダイムで比較し、その中で使われているテクニックを紹介していく。

予告をしていた「パワーのある主人公が目的の為に旅をしている系」の作品となる。

各作品のAmazonリンクを設置しておくので、単行本が手元にない人はサンプルを利用して実物を見ながら見ると、より分かりやすくなるはずだ。

もちろん、手元に単行本がある人は、それを見るのが手っ取り早いだろう。

鋼の錬金術師(2001)

ページ 起承転結 三幕構成 パラダイム ページ開き コマ数 内容
1 1幕 プロローグ、これからどうなる&どうしてこうなった 3 もってかれた
2       1 見開き
3         見開き
4     日常の時 2 ラジオ放送
5     日常の時 4 食事
6     日常の時 5  
7     日常の時 5  
8     日常の時 4 (特技)
9     日常の時 5 これでいいかな
10     日常の時 6 オレが鋼の錬金術師
11     切欠の時 5 ロゼ登場(ヘラルド)
12     切欠の時 5 死せるものを復活
13     悩みの時 8 教主様登場
14     悩みの時 5 良い子だロゼ
15     決意の時 6 あいにく無宗教
16     決意の時 6 人体の構成成分
17     決意の時 5  
18     決意の時 5 傲慢(決意の再確認、プロットポイント)
19 2幕 試練の時 6 教主様の奇跡
20     試練の時 6 法則が
21     試練の時 6  
22     試練の時 4

ビンゴだぜ(ミッドポイント)

23   危機の時 6 教主の悪だくみ
24     危機の時 5  
25     絶望の時 4 面会(敵との接触)
26     絶望の時 4 撃たれる弟
27     絶望の時 7 捕まる
28     契機の時 4 生きてる弟
29     契機の時 2 反撃
30     契機の時 5 空の鎧(プロットポイント)
31     契機の時 7  
32 1幕 切欠の時 4 真実を見る勇気はあるかい?
33     切欠の時 7  
34     切欠の時 7 賢者の石
35     切欠の時 5 さがしたぜ
36     切欠の時 5  
37     悩みの時 6 うはははは
38     悩みの時 5 彼女の言葉(契機の時の気付きの利用)
39     悩みの時 5 私をだまして
40     悩みの時 9 可能かもしれん
41     決意の時 5 ごめんなさい
42 2幕 試練の時 7 キメラ
43     試練の時 6 武器錬成
44     試練の時 6 だが甘い
45     試練の時 4 なんちって
46     試練の時 5 あいにくと
47     試練の時 5 グゥオオオ
48     試練の時 3 よく見ておけ
49     試練の時 5 これが人体練成を
50     試練の時 4 鋼の義肢
51     試練の時 1 鋼の錬金術師
52     試練の時 1 ド三流(1話クライマックス、ミッドポイント)
         

計251、

平均4.8

 

2話に分けた全編後編で構成される最初のエピソード。

50ページ目でミッドポイントと共にタイトル回収も行うと言う、あまりにもカッコよすぎる構成で、少年誌向けの作家はマジで見習いたいお手本の様な作品。

1話目でパラダイムがコンパクトに2巡目に入るのも、物語に起伏を作るのに役立っているし、テンポの速さにも貢献している。

伏線や前振りを短いスパンで回収していくのも、分かりやすさに貢献しており、作画の上手さ・見やすさも手伝って対象年齢を広げて「読みやすさ・分かりやすさは正義」を体現していると言えるだろう。

D.Gray-man(2004)

ページ 起承転結 三幕構成 パラダイム サブパラダイム ページ開き コマ数 内容
1 1幕 プロローグ、これからどうなる   2 エクソシスト
2           見開き
3           見開き
4     プロローグ、これからどうなる 日常の時 2 19世紀末
5     プロローグ 日常の時 7 呪われてるんだろここ
6     プロローグ 日常の時 6 何の音
7     プロローグ 切欠の時 7 うわー(主役がヘラルド)
8     プロローグ 切欠の時 5 捕まえた
9     プロローグ 悩みの時 7 ただの旅人です
10     プロローグ 悩みの時 8 変な子
11 2幕 プロローグ 危機の時 6 ギャアアアア
12     プロローグ 危機の時 4 チャールズ
13     プロローグ 絶望の時 6 これは
14     プロローグ 絶望の時 5 そんな、まさか噂は本当に
15     プロローグ 契機の時 5 悪魔?
16     日常の時   7 気がついたか
17 1幕 切欠の時   5 名前はアレンウォーカー
18     悩みの時   4 バッ
19     悩みの時   6 何のマネだこりゃ
20     決意の時   7 僕犯人知ってます
21     決意の時   5 エクソシストってご存知ですか?
22 2幕 危機の時   5 とりつかれてんだよこの教会は
23     危機の時   4 ウフフ
24   試練の時   5 今日は帰るの早いね
25     試練の時   8 でもすぐに減る
26     試練の時   7 ガッチャーン
27     試練の時   6 なんだ、そりゃ
28     試練の時   6 アクマとは兵器の名前です
29     試練の時   6 マルク義兄さんどうしたの
30   絶望の時   5 殺させて(ミッドポイント)
31     絶望の時   6 義兄さん
32     絶望の時   1 なによこれ
33     絶望の時   5 ドドドド
34     絶望の時   7 大丈夫?
35     絶望の時   7 アクマの血の弾丸です
36     絶望の時   6 助けられなくてごめんよ
37     絶望の時   6 義兄さんが殺されてた!?
38     絶望の時   8 撃て!
39     絶望の時   6 パン
40     契機の時   6 アクマは魂を内蔵した生きる兵器なんです
41     契機の時   4 アクマは機会と魂と悲劇を材料に産まれるんです(どんでん返し)
42     契機の時   5 クレア姉さんおめでとう(回想)
43     契機の時   6 両親を早くに亡くした私と姉さん
44     契機の時   7 神様はいじわるね
45     契機の時   3 信じるわ
46     契機の時   3 クレア
47     契機の時   4 呪ってやる
48     契機の時   5 はいこんばんワ
49     契機の時   7 なんてことを
50     契機の時   5 出来上がり(回想終了)
51 3幕 解決の時   6 これがあのクレア姉さん
52     解決の時   1 哀れな悪魔に
53     解決の時   1 魂の救済を(クライマックス)
54     解決の時   6 どうか安らかに
55     解決の時   5
56     解決の時   6 ありがとう
57     解決の時   3 千年伯爵
            計291、平均5.1  

「D.Gray-man」の場合、前述の「鋼の錬金術師」で言えばロゼのポジションにいる人物目線で物語が進行する。

こちらは、1話で物語を一区切りさせるために、クライマックスのバトルやキャラクター達の葛藤がかなり単純化されている。

前半に、わざと悪魔である事を明かすカットも、後のどんでん返しの為のミスリードとして機能している。

注目したいのは、敵対する悪魔の描写に最も力を注いでいて、敵の手先が同情すべき存在である事を丁寧に描く事で、主役であり、物語全体の主人公が果たすべき目的に対して共感を生んでいる。

味方の描写を最低限にしつつも、魅力を光らせる為に、敵をどす黒く、被害者を飛散に描写すると言う構成だ。

2作比較

ページ 鋼の錬金術師 D.Gray-man
1 プロローグ、これからどうなる&どうしてこうなった プロローグ、これからどうなる
2  見開き 見開き
3  見開き 見開き
4 日常の時 日常の時
5 日常の時 日常の時
6 日常の時 日常の時
7 日常の時 切欠の時
8 日常の時 切欠の時
9 日常の時 悩みの時
10 日常の時 悩みの時
11 切欠の時 危機の時
12 切欠の時 危機の時
13 悩みの時 絶望の時
14 悩みの時 絶望の時
15 決意の時 契機の時
16 決意の時 日常の時
17 決意の時 切欠の時
18 決意の時 悩みの時
19 試練の時 悩みの時
20 試練の時 決意の時
21 試練の時 決意の時
22 試練の時 危機の時
23 危機の時 危機の時
24 危機の時 試練の時
25 絶望の時 試練の時
26 絶望の時 試練の時
27 絶望の時 試練の時
28 契機の時 試練の時
29 契機の時 試練の時
30 契機の時 絶望の時
31 契機の時 絶望の時
32 切欠の時 絶望の時
33 切欠の時 絶望の時
34 切欠の時 絶望の時
35 切欠の時 絶望の時
36 切欠の時 絶望の時
37 悩みの時 絶望の時
38 悩みの時 絶望の時
39 悩みの時 絶望の時
40 悩みの時 契機の時
41 決意の時 契機の時
42 試練の時 契機の時
43 試練の時 契機の時
44 試練の時 契機の時
45 試練の時 契機の時
46 試練の時 契機の時
47 試練の時 契機の時
48 試練の時 契機の時
49 試練の時 契機の時
50 試練の時 契機の時
51 試練の時 解決の時
52 試練の時 解決の時
53   解決の時
54   解決の時
55   解決の時
56   解決の時
57   解決の時

見ていて気付いた人もいるだろう。

前々回の記事で

  • 起の「切欠」「悩み」「決意」セット
  • 承の「試練」
  • 転の「危機」「絶望」「契機」セット
  • 結の「解決」

と言うセットで基本的に考えなければならないと言っていたのに、ちょいちょい

  • 「切欠」「悩み」で一旦セットの流れが止まったり
  • 「危機」が乱入したり
  • 「試練」や「危機」の場所が変則的な所にあったり

そんなパラダイムがある事を。

だが、これは何も間違いではない。

「悩み」があり「決意」や「試練」が無く、「危機」や再度の「悩み」が来たら、それは単純に、解消していない悩みが溜まっていると言う事になる。

つまり、セットを単純に「1セット」で運用するか「連結運用するか」で、構成も変わるし、印象も変わる。

「悩み」が積もりに積もって「決意」に至れば「決意」だけでカタルシスが得られる事もある。

だが「悩み」の描写がダラダラ続いては、読者がついてこれないと言う事が起きる。

そこで、物語に緩急をつけるために「悩み」を「悩んでいられない状況」にする「危機」の乱入等が発生する事がある。

もちろん「危機」も「解決」までのセットまで行かない場合は、「危機」が保留された状態で物語が進行する事になる。

つまり、セットとは、決まったワンセットではなく、構成をある程度自由に変えられるセットなのだ。

例えば『ハンバーガー』を想像して欲しい。

close up photo of a cheese burger
Photo by Rajesh TP on Pexels.com
  • 起の「下パン(切欠)」「具材(悩み)」「調味料(決意)」セット
  • 承の「上パン(試練)」
  • 転の「下パン(危機)」「具材(絶望)」「調味料(契機)」セット
  • 結の「上パン(解決)」

と、ちょっと頭の悪い想像をすれば、物語と言うハンバーガーが、決まったセットで構成されているが、同時に構成は自由に変えられる事が分かるのではないか?

この例えで言えば、「鋼の錬金術師」は1話の最後で肉汁滴るハンバーグが満を持して乗せられた所で終わるが、「D.Gray-man」は、上のパンでしっかり蓋をした所で1話が終わったと言えるだろう。

パンが続くのも、具材や調味料を延々と増やされるのも、やりすぎは良くない事も同時に分かる筈だ。

burger with spinach and cheese
Photo by Valeria Boltneva on Pexels.com

薄すぎたら食べ応えが無く、厚すぎても食べづらい。

適度なバランスがあって、これは美味そうだと思える訳だ。

ちなみに、具材や調味料の具体的な内容は、テーマやモチーフと言ったところだろう。

人は、自分が好きなハンバーガーを延々と食べ続けたいのだ。

また、これで物語に絶対の正解はないが、最適解がある事もより分かったと思う。

大事なのは、決まった「パラダイム」と言うセットで構成されている事では無くて、出来た物がちゃんと美味そうかと言う事だ。

「パラダイム」のセットから、あまりにも外れすぎると、結果的に美味くなさそうになるから、結局「パラダイム」も大事になるって事。

あれ、意外とハンバーガーで例えるの、悪くない?

今回は、ここまで!

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