絵を描く時の「壁」を「階段」に変える堅実な一冊!
ストーリーを語るには、「声」で「文字」で「動き」でと多彩な手段があるが、今回紹介する本は「絵」を描く事でストーリーを伝える為のテクニックが紹介された本だ。
勘違いしないで欲しいのは、ストーリーを語るのに、声も言葉も動きも要らないと言っている訳ではない。
一枚の絵だけで「ここまで語れる」と言う事を示し、その具体的な方法を、出し惜しみなく教え、ストーリーテリングのレベルを上げてくれると言う物になる。
だが、絵が急に上手くなる「魔法」を期待するなら、それは期待しすぎだ(あれば、いくら出しても欲しいよね)。
でも、確実に上達する「堅実なテクニック」を習得したいのであれば、きっと期待に応えてくれる一冊になるだろう。
これは、壁を階段に変えて、確実に登らせてくれる、そういう類の本だからだ。
ストーリーを語るドローイングの秘訣:ボールペン、鉛筆、デジタルで描く
マルコス・マテウ=メストレ (著), 平谷 早苗 (編集), Marcos Mateu-Mestre (その他), 株式会社Bスプラウト (翻訳)
マルコス・マテウ=メストレ(Marcos Mateu-Mestre)は、ビジュアルコンセプト、アナログのアニメーションレイアウト、グラフィックノベルの分野で活躍するアーティストで、長編アニメーションの業界で30 年の経験を重ねています。
クレジットされた主な映画作品は「バルト」「プリンス・オブ・エジプト」「サーフズ・アップ」「ヒックとドラゴン2」。長編映画の制作においては、主にドリームワークス・アニメーションおよびソニー・ピクチャーズ アニメーションの作品に参加し、デザインおよび映画としてのフレームの構図、ライティング、ビジュアルコンティニュイティなどといった側面を専門に扱ってきました。
その経験は、世界的ベストセラーとなった「クライマックスまで誘い込む絵作りの秘訣」「パースによる絵作りの秘訣 vol.1、vol.2」に著されています。映画制作への参加の傍ら、ドローイング、イラストレーション、ビジュアルストーリーテリングのテクニックの指導を10年以上続けています。現在、ロサンゼルス在住。
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- 大型本 : 136ページ
- 出版社 : ボーンデジタル (2020/9/21)
- 言語: : 日本語
- 発売日 : 2020/9/21
- ISBN-13 : 978-4862464859
- ISBN-10 : 4862464858
- 商品の寸法 : 28 x 21.6 x 1 cm
タイトル通り、ボールペン、鉛筆、デジタルで描くためのハウツーが基本
「もっと観たい」と思わせる絵作りの最短コース!
見たままに描くことと、感じたままを描くことのギャップが埋まる1冊。景色、人物、動物単体の描き方から、さまざまなシチュエーションの構図まで。
ストーリーの”その瞬間”にふさわしい絵づくりは、モノクロのラフスケッチからはじまります。コミック、イラスト、コンセプト、ストーリーボードなど、ストーリーを伝えるためのすべての絵作りに役立つエッセンスを映画業界のレジェンドが教えます。
-何を
-なぜ
ーどのように
描くと、どう伝わるのか!?思考から、ドラフト、仕上げまで。名手マルコスがじっくりと全過程を披露します。
■使う画材(ペン、鉛筆、デジタル)ごとに、特徴を解説します。特徴を知り、それを組み合わせることで最適かつ最良の結果が得られます。
■写真や現実の景観、モデルをリファレンスとして、ドラマチックに、生命感のある絵に仕上げていく過程を基本からじっくり解説します。
■「伝えるべきこと」をビジュアルで明快に伝える方法とその練習方法を指南します。
本書は「Framed Drawing Techniques: Mastering Ballpoint Pen, Graphite Pencil, and Digital Techniques for Visual Storytelling」(Design Studio Press刊)の日本語版です。
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と、本書の説明にある様に、内容は、どこまでも論理立てて説明され、かなり具体的です。
章としては、
- ドローイング全般に関する考察
- Chapter 1:ボールペン
- Chapter 2:グラファイト鉛筆
- Chapter 3:デジタル手法
- Chapter 4:グレースケール
- 未知の大地への日々の旅
- 著者インタビュー
- 索引
と言う構成で、チャプターの中で更にいくつかのパートに分けられています。
本書を読んで「モチベーションを持って実直に実践」すれば、確実に絵は上手くなります。
同著者の他の本
これら、あるいは、どれか一冊を持っている人に言いたいのが、この本も、いつもの感じと言う事。
間違いなく良書なので、その点は安心して欲しい。
役に立つテクニックや気付きを与えてくれる言葉が書いてあるのも、間違いない。
あとは、本書のコンセプトが、読み手のあなたにマッチしているかだけだ。
最初は、初心者の鬼門「脳と手の連携」から
この本の表紙を見て「こんなにカッコいい絵が描けるようになりたい」そう、思って手に取ったり、本書を調べている人もいるだろう。
いざ本書のレッスンが始まると、デッサンのハウツー本等でもよく見る「線の引き方」から、この本は始まる。
ここで、面倒さに心を折られそうになる人も、大勢いると思う。
でも、待って欲しい。
この本は、本当に、初歩の初歩の、初心者が意識していないけど「実は大事な要素」から、本気で、しっかり、かっちり、きっちりと教えてくれているのだ。
絵が上手い人が「出来て当たり前」だけど「初心者は意外と出来ない」事を、要素を分解して、分かりやすく教えてくれている。
で、だ。
面倒だと思ったら、そのパートを飛ばして次のレッスンに一旦行っても良いと、私は思っている。
その先で、自然に技術を会得したり、何かコツを掴めば、儲けものだ。
そういう進め方も、悪くない。
でも、多くの絵が下手な人は、そもそも「正しい線の引き方」を知らない。
「えっ? 線なんて、ペンでシャーッと描けば良いんじゃないの?」と思うかもしれない。
思ってても良い。
ただ、コツを掴めないまま「なんだか上手く描けない」と、絵が好きで描き始めて、続けていると気付く時がくる。
コツが、掴めていない事に気付ける状態に、なる時がある。
その時、この本の「飛ばしたページ」を見れば「正しい線の引き方」から、この本には、記してある。
絵を描く時の、効率的な線の書き順例まで、この本には載っているのだ。
「字」でなく「線」や「絵」の描き順(流れ)なんて、意識した事も無い人も多いのではないだろうか?
段階を踏んで、着実に、階段を
線の次は、面、面の次は立体、無機物と有機物、素材、キャラクターと、本書は、丁寧に階段を作って登らせてくれる。
さっきも書いたが、キャラクターに一旦飛んでレッスンを受けたって良い。
上手く行かなかったら、その前のページに、足りないテクニックが必ず紹介されている。
キャラクターも、顔、身体、髪の流れと、階段がある。
途中の階段まで自力で登れている人は、途中からテクニックを学べば最速でレベルアップ出来る。
完全な初心者も、最初のページから着実に階段を登れば、しっかりと絵が描けるようになる。
つまり、必要なのは、自分が何段目にいるのかを、強がらずに認めて学ぶ姿勢と言う事だ。
終始、そんな調子で、本書は表紙にある絵ぐらいのレベルまでは階段を用意してくれている。
もちろん、登り切るのは、超大変だろうけどね。
本としての評価は?
分かり易さ、使いやすさ、ページ数と内容のボリューム、書籍サイズ等を鑑みての結論ですが、定価2700円、税込2970円は、十分、適正価格でしょう。
本書は、ドローイングのハウツー本として、本当に階段の一段ごとに図で、絵で説明してくれている為、かなり分かりやすく、具体的です。
この「階段」をしっかり作る試みがあるハウツーは、初心者には、かなり助かる筈です。
最後に、気になった点、と言うか注意点を、いくつか。
こういうハウツー本では、良くある事だが、著者が、いとも簡単そうに描いている絵が、本書では触れられていない(触れるまでもない)経験や、修練によって、そのレベルにあるので、基本のテクニック紹介から一歩出ると、シンプルな線画で紹介されていた次のページに、ギッシリ描き込まれたイラストで「極めれば、紹介したテクニックだけで、こんな絵が描けるよ」が載っている。
それは、良い。
極めれば、こんな絵が描けるのは、凄いし、モチベーションにもなる。
でも、それを描くには、本書では紹介されていない、パースを学ばないとね、と言う事が時々ある。
しれっと、「パースによる絵作りの秘訣を参照・参考」とか出てくるので、持っていないなら無くて問題ないのだが、本をまたいだ解説があるので、その点は注意。
もう一つは、画材で章を分けて書かれている為、各章の内容のバランスが悪く感じる部分があった。
例えば、鉛筆でも十分に紹介できる内容でも、全体のバランスを取る為にデジタルやグレースケールで紹介する様なパターンだ。
これによって、テクニックが知りたいのに、肝心のテクニックがバラバラに掲載されるような形になっていて、あくまでも画材を主体で読まないと、一部、読みづらく感じる部分があった。
さらにもう一つ、気になった点があるとすれば、先述の通り、基本の基本から丁寧に、それも、ボールペン、鉛筆、デジタル、グレースケールと画材や手法を変えて解説してくれている。
なので、仕方がない事なのだが、実際に「ストーリーを語るドローイングの秘訣」に行くまでが長く、全体の分量からすると、基本的にチャプターの後半から本格的なテクニック紹介が始まる印象が強い。
しかし、これらは、最後の「索引」から「今の自分に必要なテクニック」を探せば良い問題なので、本の使い方の問題になるだろう。
今回は、文句を沢山書いた気もする。
だが、この本は「絵を描く時の壁を、階段にして登らせてくれる」と言う意味では、間違いなく、かなり良い本なので、絵のレベルアップを図りたい人は、一度手に取ってみて欲しい。
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