連載漫画1話目比較「武装錬金」「僕のヒーローアカデミア」「鬼滅の刃」「呪術廻戦」

構造で見る漫画のテクニック

映画脚本では、ハリウッド流のパラダイムに沿って作れば大きな間違いは起きないかもしれない。

だが、脚本と小説が別物であるように、漫画と言う表現形態もまた、別物である。

しかし、メディアが違っても、同じ物語を描く媒体である事に変わりはなく、漫画には漫画独自のパラダイムが存在している。

今回は「武装錬金」「僕のヒーローアカデミア」「鬼滅の刃」「呪術廻戦」と言う4作の有名作品を、パラダイムで比較し、その中で使われているテクニックを紹介していく。

予告をしていた「パワーのない主人公がパワーを与えられる系」の作品となる。

各作品のAmazonリンクを設置しておくので、単行本が手元にない人はサンプルを利用して実物を見ながら見ると、より分かりやすくなるはずだ。

もちろん、手元に単行本がある人は、それを見るのが手っ取り早いだろう。

武装錬金(2003)

「るろうに剣心」で有名な作者による、現代を舞台にした特殊能力バトルモノ。

仲間想いの熱血主人公が、クールなヒロインによって第二の命を与えられる事で、錬金術の世界に足を踏み入れて闘いに巻き込まれていく。

ページ 起承転結 三幕構成 パラダイム ページ開き コマ数 内容
1 1幕 プロローグ、これからどうなる 5 夢だ
2         見開き
3         見開き
4     プロローグ 5 危ない
5     プロローグ 5 オレが殺された
6     プロローグ 7 大丈夫そうね
7     日常の時 5 翌日
8     日常の時 5 恐るべしオレ
9     日常の時 6 急げ
10     日常の時 5 まひろちゃん
11     日常の時 7 セーフ
12     切欠の時 5 危ない
13     切欠の時 5 間一髪
14     切欠の時 6 大丈夫カズキ君
15     切欠の時 6 待て
16     切欠の時 5 見つけた
17     切欠の時 7 ホント
18     切欠の時 5 オレもだ
19     切欠の時 6 やるよ
20     切欠の時 5 おっと、予鈴だ
21     切欠の時 7 お兄ちゃん
22     悩みの時 6 なんだコレ
23     悩みの時 6 やっと終わった
24 2幕 危機の時 6 どこへ行く
25     危機の時 6 まあそれはどうでもいい
26     危機の時 8 それは昨日
27     危機の時 9 確実に殺す
28     危機の時 4 わああああ
29     危機の時 6 夢じゃない
30     危機の時 3 どうなっているんだ
31     危機の時 4 ホムンクルス
32     危機の時 5 戦え
33     危機の時 5 無理だ
34     絶望の時 5 巻き込んだ
35     絶望の時 6 逃げろ
36     絶望の時 5 ゴクン
37     絶望の時 4 返せ
38     絶望の時 4 調子に乗るな
39     契機の時 6 戦え
40     契機の時 6 回想、聞こえる
41     契機の時 5 興味が湧いた
42     契機の時 7 戦う力
43 3幕 解決の時 4 武装連金(覚醒)(クライマックス)
44     解決の時 5 なんだこれはいったい
45     解決の時 3 命返してもらうぞ
46     解決の時 3 なぜ貴様如きが
47     解決の時 2 君の性格そのまんまだな
48     解決の時 2 バルキリースカート
49     エピローグ 5 思い出したよ
50     エピローグ 7 違う
51     エピローグ 5 それを聞いて一安心
52     エピローグ 6 少し気に入った
53     エピローグ 5 新しい命武装連金
          計270、平均5  

事件に巻き込まれた主人公がヒロインによって特別な力を与えられる展開の1話。

このパターンの作品で有名なのは「ウルトラマン」等があるだろう。

武装錬金の場合、「試練の時(準備をするタイミング)」が存在せず、冒頭で遭遇した危険が「危機の時」に最接近し、危険の中で「悩み、決意」すると言う流れによって、半ば強制的に非日常の世界に誘われると言う形だ。

僕のヒーローアカデミア(2014)

海外でも大人気の、現ジャンプを支える作品の一つで、ヒーローになる為の学校を舞台とした作品。

ページ 起承転結 三幕構成 パラダイム ページ開き コマ数 内容
1 1幕 プロローグ、これからどうなる 5 これが齢4歳にして知った社会の現実
2     日常の時 1 傍観者
3     日常の時 1  
4     プロローグ、これからどうなる 6 世界観説明
5     日常の時 3 オタク少年(特技)
6     日常の時 5  
7     日常の時 4 キャニオンカノン
8     日常の時 6 頑張ります
9     日常の時 5 教室
10     日常の時 6 かっちゃん再登場
11     日常の時 6 いじめ
12     日常の時 7 やってみないとわからない(特技)
13     切欠の時 7 強盗発生
14     悩みの時 6 私が来た、ノート爆破
15     悩みの時 6 ナード君
16     悩みの時 7 屋上からダイブ
17     悩みの時 5 回想
18     悩みの時 6 諦めた方が良い
19     悩みの時 7 無個性
20     悩みの時 6 僕もなれるかなあ
21 2幕 危機の時 5 ヴィラン
22     絶望の時 7 嫌っ
23     契機の時 5 もう大丈夫だ少年(メンター)
24     契機の時 4 スマッシュ(プロットポイント)
25 1幕 切欠の時 6 オールマイト
26     切欠の時 6 待ってまだ聞きたい
27     悩みの時 5 ってコラコラ
28     悩みの時 7 俺の道にいたのが悪い
29     悩みの時 6 個性が無くてもヒーローになれますか
30     悩みの時 5 あなたみたいに
31     悩みの時 5 しぼんだ
32     悩みの時 7 5年前の傷
33     悩みの時 5 プロは命がけ
34     悩みの時 8 まさか
35   切欠の時 4 ヴィラン再登場
36     切欠の時 4  
37     切欠の時 5 あの時だ
38     切欠の時 6 わかってたから必死こいてたんじゃないか
39     切欠の時 5 あいつ何で
40     悩みの時 7 僕のせい
41     悩みの時 2 誰かヒーローが
42     決意の時 1 駆けだす(プロットポイント)
43 2幕 試練の時 5 止まれ止まれ
44     試練の時 6 何で出た
45     試練の時 4 君が助けを求める顔してた
46     試練の時 5 ザワ
47     試練の時 3 プロは命がけ
48     試練の時 1 スマッシュ
49     試練の時 6 ブオ
50     試練の時 6 これがオールマイト
51     エピローグ 7 言う通りだ
52     エピローグ 5 少年
53     エピローグ 8 私は動かされた
54     エピローグ 3 君はヒーローになれる(ミッドポイント)
          計279、平均5.1  

見ての通り、主人公が1話目の大半で悩み苦しんでいる事が特徴としてある。

苦しんでいる主人公と対照的に、これから主人公が踏み入れる事になるヒーローの世界が同時に描かれる事で、場面には常に「動き」と「華」があり、読み心地は驚くほど良い。

悩みのシーンも大きく3つに分けて見られ、それがテンポを良くしているのも特徴だ。

区切りが明確にある事で冗長にならず、しっかりと物語が前進していると言う訳だ。

そして、苦しみ抜いた末に、主人公の行動によって、最も尊敬する人から最も欲しかった言葉を引き出して終わるラストシーンは、大きなカタルシスと感動を読み手にもたらす効果を発揮している。

更に、ラストシーンから2話以降に「期待」をしっかり抱かせる事に成功しており、強烈なフックは続きを読みたくてたまらなくさせる筈だ。

1話目の完成度としては、全ての少年漫画の中でも非常に高い位置にある。

鬼滅の刃(2016)

日本経済を動かすレベルの人気を獲得しながらも、綺麗に完結した稀な作品。

ページ 起承転結 三幕構成 パラダイム ページ開き コマ数 内容
1 1幕 プロローグ、どうしてこうなった 4 妹を医者に
2       1 見開き
3         見開き
4     日常の時 5 何者か
5     日常の時 5  
6     日常の時 6  
7     日常の時 5  
8     日常の時 5 匂い(特技)
9     切欠の時 6 三郎爺さん(ヘラルド)
10     切欠の時 5  
11     切欠の時 5  
12     悩みの時 6 家族の死(プロットポイント)
13     悩みの時 5  
14     悩みの時 5  
15     決意の時 3 妹を医者に
16     決意の時 6  
17 2幕 試練の時 6 暴れる妹
18     試練の時 6  
19     試練の時 5  
20     試練の時 6 妹が鬼に
21     試練の時 6 特技で対処
22     試練の時 6  
23     試練の時 6 涙する妹(ミッドポイント)
24   危機の時 4 襲撃
25     危機の時 4 誰だ
26     危機の時 4  
27     危機の時 8 妹を守る
28     危機の時 4 奪われる妹
29     絶望の時 5 交渉
30     絶望の時 6  
31     絶望の時 5  
32     絶望の時 5  
33     絶望の時 5  
34     絶望の時 5 土下座
35     契機の時 3 生殺与奪の権を(メンター)
36     契機の時 4  
37     契機の時 5  
38     契機の時 4 泣くな、怒れ
39 3幕 解決の時 4  
40     解決の時 4 やめろ
41     解決の時 3 投石
42     解決の時 5 愚か
43     解決の時 3  
44     解決の時 6 ドクン
45     解決の時 3 ブンブン
46     解決の時 4
47     解決の時 6 ドガ
48     解決の時 6 しまった、食われる
49     解決の時 4
50     解決の時 5 守る動作(プロットポイント)
51     解決の時 3 ドン
52     解決の時 5
53     エピローグ 3 猿轡
54     エピローグ 5 起きたか
55     エピローグ 5 ぼー
56     エピローグ 5 行くぞ
          計263、平均4.6  

物語の構成としては、非常にスタンダード。

媚びた演出がある訳でも無いのに、主人公と妹の強い絆がまっすぐに描かれていて、1話目から兄としての主人公のキャラが立っていて、好感度が高い。

エピローグの引きは弱めだが「メンターが1話目から名言を言う」「特徴的な見た目のキャラ」等の、名作の要素が既に見て取れる。

禰豆子が可愛いのもポイントが高いよね。

呪術廻戦(2018)

記事執筆現在(2020年10月)にアニメ放映中の作品。

ページ 起承転結 三幕構成 パラダイム ページ開き コマ数 内容
1 1幕 プロローグ、これからどうなる 4 百葉箱空っぽです
2         見開き
3         見開き
4     日常の時 6 コックリさん
5     日常の時 7 クリオネ
6     日常の時 4  
7     日常の時 7 テッテレーン
8     日常の時 6 マダニ
9     日常の時 7 コモーン
10     日常の時 2 死体でも埋まってんのか
11     日常の時 6 砲丸投げ
12     日常の時 5  
13     日常の時 3 世界記録越えの身体能力(特技)
14     日常の時 6 俺の勝ち
15     切欠の時 7 凄いなアイツ
16     切欠の時 6 おいお前
17     切欠の時 7 お前の両親の事だが(メンター)
18     切欠の時 6 お前は強いから人を助けろ
19     切欠の時 5 爺ちゃん?
20     切欠の時 6 爺ちゃん死にました
21     悩みの時 6 悪いがあまり時間が無い
22     悩みの時 6 魔よけ?
23     悩みの時 6 毒で毒を制す
24     悩みの時 7 だから先輩が持ってるって
25     悩みの時 5 そいつ死ぬぞ(プロットポイント)
26     悩みの時 6 人の指?
27     悩みの時 5 本物?
28     悩みの時 6 この圧は
29     悩みの時 6 何あの怪物
30     悩みの時 6 じゅるるる
31     悩みの時 5 食っていいぞ
32     決意の時 7 俺は何にビビってる?
33     決意の時 6 見つけた
34     決意の時 5 まにあわねぇ
35     決意の時 2 飛び蹴り
36     決意の時 4 爺ちゃんは正しく死ねたと思うよ
37 2幕 試練の時 7 これが呪い
38     試練の時 7 お前怖くないんだな
39     試練の時 7 その一部だ(ミッドポイント)
40   危機の時 7 逃げろ
41     危機の時 5 マダニ襲撃
42     危機の時 5 おい
43     危機の時 6 クソ頭回んねぇ
44     危機の時 7 人を助けろ
45     危機の時 5 駄目だ
46     絶望の時 6 呪いは呪いでしか祓えない
47     契機の時 7 あーん
48     契機の時 6 馬鹿やめろ
49 3幕 解決の時 3 パンチ(クライマックス)
50 1幕 切欠の時 3 ゲラゲラゲラ
51     切欠の時 7 受肉
52     切欠の時 2 素晴らしい
53     切欠の時 7 返せ
54     悩みの時 4 呪いとして祓う(プロットポイント)
          計289、平均5.3  

物語の構成としては、綺麗に終わらせずにフック(次回への引き)を強烈に意識した作りになっている。

上記3作と違う点としては「能力を主人公が自ら手に入れる事」「能力に人格がある事」等が見られる。

大抵の物語では、特別な能力は与えられる事の方が多い。

それは、特別と言う「秘匿性」「特殊性」「適性」等の要素によって、主人公が自ら獲得する側に回ると言う状況を、本作の様に整える必要がある為だ。

他に能力に人格ある作品は「アームズ」「寄生獣」「ナルト」「ワイルドアームズ2」等があげられ、共通するのは、ただの特殊能力よりも人格との交流や対決と言った要素が発生する為、面白い要素となる事の方が多いと言う事だろう。

4作比較

ページ 「武装錬金」 「僕のヒーローアカデミア」 「鬼滅の刃」 「呪術廻戦」
1 プロローグ、これからどうなる プロローグ、これからどうなる プロローグ、どうしてこうなった プロローグ、これからどうなる
2   日常の時    
3   日常の時    
4 プロローグ プロローグ、これからどうなる 日常の時 日常の時
5 プロローグ 日常の時 日常の時 日常の時
6 プロローグ 日常の時 日常の時 日常の時
7 日常の時 日常の時 日常の時 日常の時
8 日常の時 日常の時 日常の時 日常の時
9 日常の時 日常の時 切欠の時 日常の時
10 日常の時 日常の時 切欠の時 日常の時
11 日常の時 日常の時 切欠の時 日常の時
12 切欠の時 日常の時 悩みの時 日常の時
13 切欠の時 切欠の時 悩みの時 日常の時
14 切欠の時 悩みの時 悩みの時 日常の時
15 切欠の時 悩みの時 決意の時 切欠の時
16 切欠の時 悩みの時 決意の時 切欠の時
17 切欠の時 悩みの時 試練の時 切欠の時
18 切欠の時 悩みの時 試練の時 切欠の時
19 切欠の時 悩みの時 試練の時 切欠の時
20 切欠の時 悩みの時 試練の時 切欠の時
21 切欠の時 危機の時 試練の時 悩みの時
22 悩みの時 絶望の時 試練の時 悩みの時
23 悩みの時 契機の時 試練の時 悩みの時
24 危機の時 契機の時 危機の時 悩みの時
25 危機の時 切欠の時 危機の時 悩みの時
26 危機の時 切欠の時 危機の時 悩みの時
27 危機の時 悩みの時 危機の時 悩みの時
28 危機の時 悩みの時 危機の時 悩みの時
29 危機の時 悩みの時 絶望の時 悩みの時
30 危機の時 悩みの時 絶望の時 悩みの時
31 危機の時 悩みの時 絶望の時 悩みの時
32 危機の時 悩みの時 絶望の時 決意の時
33 危機の時 悩みの時 絶望の時 決意の時
34 絶望の時 悩みの時 絶望の時 決意の時
35 絶望の時 切欠の時 契機の時 決意の時
36 絶望の時 切欠の時 契機の時 決意の時
37 絶望の時 切欠の時 契機の時 試練の時
38 絶望の時 切欠の時 契機の時 試練の時
39 契機の時 切欠の時 解決の時 試練の時
40 契機の時 悩みの時 解決の時 危機の時
41 契機の時 悩みの時 解決の時 危機の時
42 契機の時 決意の時 解決の時 危機の時
43 解決の時 試練の時 解決の時 危機の時
44 解決の時 試練の時 解決の時 危機の時
45 解決の時 試練の時 解決の時 危機の時
46 解決の時 試練の時 解決の時 絶望の時
47 解決の時 試練の時 解決の時 契機の時
48 解決の時 試練の時 解決の時 契機の時
49 エピローグ 試練の時 解決の時 解決の時
50 エピローグ 試練の時 解決の時 切欠の時
51 エピローグ エピローグ 解決の時 切欠の時
52 エピローグ エピローグ 解決の時 切欠の時
53 エピローグ エピローグ エピローグ 切欠の時
54   エピローグ エピローグ 悩みの時
55     エピローグ  
56     エピローグ  

こうして並べると「僕のヒーローアカデミア」のパラダイムの特殊性が少し分かりやすいかと思う。

また、「呪術廻戦」のエピローグになりそうな部分を次の話のフックにしている構成も、連載だからこそ出来る面白い作りだ。

こうして、パラダイムをベースに作品を比較すると見えてくる物は、他にもたくさんある筈だ。

作品の作り方や見方の参考になればと思う。

関連記事と予告

と今まで来て、今回が「パワーのない主人公がパワーを与えられる系」の解説だった。

次回は、一区切り、最後の「パワーのない主人公がパワーのある相棒と出会う系」の解説で記事シリーズを一旦しめたい。

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