セリフの考え方
今回も良いセリフを考える為の、基本を引き続き説明していく。
対立や葛藤が内包されているか
良いセリフには、対決や葛藤が含まれる。
物語とは、問題を解決する行動を描く事で、セリフは問題に関わる必要がある事は既に触れたと思う。
問題に関わると言う事は、そこには「解決が簡単に出来ない問題」が必ず存在している事を意味している。
すると、問題の解決に向けた行動上のセリフには、対立や葛藤が発生しなければ、不自然となるわけだ。
例えば「好きな人がいて告白したいが、自信が無い」と言う問題がある場合、自信は無いが告白し、成功させて恋人同士になりたいと言う願望が登場人物にある。
すると、その問題解決の為のセリフには、自信を強めたり、告白の成功率を上げるセリフが必要だと分かる。
好きな人がいるから告白出来てしまったら、そこには問題が無く、葛藤も対立も生まれず、面白みも無くなる。
「現在付き合っている人はいるか」「他に好きな人はいるか」「好きなタイプは」「趣味は」と言った情報を聞き出す事で、告白の成功率の高さをはかったり、成功率が上がる様に自分を変える切欠を得る事で話が進む。
そこで、面白い物語の場合は、目的に向かうまでのセリフのやり取りで、程よい葛藤や対立が発生する。
既に誰かと付き合っていたり、付き合っていないが言い寄られていたり、他に好きな人がいたり、好きなタイプと主人公のタイプが全然違ったり、思いも寄らない趣味を持っていたり。
メインの問題を解決しようと会話をする事で、新たな小さな問題が発生し、登場人物はセリフを駆使して情報を引き出したり実際の行動によって、その小さな問題を解決していかなければならない。
ここで、対立も葛藤も意識しないでいると、付き合っている人もいないし、他に好きな人もいないし、好きなタイプは主人公っぽくて、趣味も合うと言う、まるで運命の出会いみたいな整い方で描いてしまったりして、告白すれば成功するのが明らかな状態にしてしまう事がある。
だが、面白い物語にしたいなら「こんな状況から目的を本当に達成できるのか?」と、視聴者や読者に思わせる、何らかの対立や葛藤が必要になる。
推理モノでもバトルモノでも、冒険モノでも同じだ。
物語=主人公の問題解決行動が必須=問題があるなら葛藤や対立が起きる。
この原則がセリフの中にもある事を忘れない様にしよう。
感動や驚きがあるか
物語には、普遍性と新規性が必要と言う話を、過去の記事で何度かした事がある。
新規性とは、新しくする事で、それは良い意味で「変」にすると言う事でもある。
これはセリフにも当てはまり、物語を彩るセリフは、普遍性と言う当り前さも必要だが、新規性と言う面白さも同時に必要としている。
リアルで退屈なだけのセリフでは、物語は盛り上がらない。
リアリティがあって、魅力的なセリフを模索する必要があると言う事だ。
ウィット、ユーモア
皮肉だったり、トンチが利いていたり、言葉遊び、知的だったり、機転が利いたり、変わった視点からの言葉だったり。
ウィットに富んだセリフは、面白く、時に気持ちがいい。
ちょっとした会話の中で、小気味の良い捻りが利くと、セリフには一気に生気が宿る。
実際の会話では、センスや経験値を必要とするが、物語のセリフではじっくりと考える時間がある。
セリフを言う登場人物だからこそ飛び出すセリフに昇華出来れば、そのセリフは重みさえ持つ。
言われたく無かった事、言って欲しかった事
登場人物が置かれた状況で、現実では当たり障りのない事を言う人も少なくない。
だが、物語では、問題を解決する必要があり、問題と向き合う事が重要となる。
そうなると、耳に痛い事実は、時に読者や視聴者の心を深くえぐる。
その上で、本当に言って欲しかった事は、心に深く突き刺さる。
例えばアニメ「天元突破グレンラガン」では、兄貴分のカミナが自信を持てない主人公のシモンに対して
「お前が迷ったら、俺が必ず、殴りに来る。だから安心しろ!お前のそばには俺がいる!お前を信じろ!俺が信じるお前を信じろ!」
と言葉を投げかける。
自分に自信が無い主人公が、自信を持つ根拠を与えられ問題に立ち向かう重要なセリフだが、このセリフは自信が無くて追い詰められた人が身近な尊敬する人に言われれば、奮い立つ事が出来る「言って欲しいセリフ」だろう。
その状況下で、最悪と最高を、盛り上がるシーンでは見つける必要がある。
登場人物による分析、評価、価値の定義
物語の中で、登場人物達は、自分の考えや感想を述べる場面がある。
「お気持ち表明」であるのだが、これは物語においては、重要な役割を持つ。
例えば、他の登場人物の行動やセリフから、その登場人物を評価する事で、セリフの中で自然に登場人物を紹介する事が出来る。
ライバルキャラクターとの勝負の末に「お前の勝ちだ」と言わせたら、それは肉体的にも精神的にも、完全な勝利をしたと読者や視聴者に知らせる事に繋がる。
「お気持ち表明」を行う事で、言った側のキャラクター(価値観)と、言われた側のキャラクター(社会的評価)が同時に描けると言う事だ。
終わりに
今回も、基本の基本に触れた。
もしかしたら、たかがセリフと思っていた人もいるかもしれない。
しかし、物語のセリフは、意識・無意識を問わず、こう言った要素を内包し、とても考え抜かれ、あるいは深い見識や経験値をもとに、しっかりとデザインされている事が分かって頂けたのでは無いだろうか。