構成テーマのバランス
前回も、引き続き「新世紀エヴァンゲリオン」を軸にして、トップクラスのヒット作品と要素を比較してみた。
今回は
の続きだ。
これまでで、
- ロボットモノでは、主人公が専用機のロボットに乗った方が良い=描く作品ジャンルには一定のルールがある。
- 世界系設定はヒットの妨げにはならない
- 日本では日本が舞台か、実在しない異世界が舞台の方が受け入れられやすい
- 見た目に見苦しくない少年少女が主人公である方が受け入れられやすい
- バトル要素がある場合、誰や何と戦ってドラマが起きるかが重要
- ヒット作では、明確なキャラクターグループが作れる
- 主人公の動機が、主人公が善人の場合はチャンスでもトラブルでも、必ず「誰かの為」で、自己犠牲的な側面がある
- 自己中な理由で行動する主人公は、相応の報いを受ける(調子に乗って破滅する、ドラえもんののび太くんみたいに)
- 登場人物から受ける印象がバラバラになる様に、性格設定をされている
- 好まれる「主人公」「ライバル」「ヒロイン」等の性格属性と組み合わせがある
に加え、
- 主人公が自ら明確な目的を持って行動するタイプの物語以外では、目的や目標を定めたり命令をしてくれるキャラが存在する
- 主人公の手本や見本となるキャラが多くの作品に登場している
- 技術・知識的に主人公に足りない「物・技能・情報」等を補ってくれるキャラがいる
等の条件が分かってきた。
今回は、テーマを掘り下げて、条件を洗い出して行く。
作品をテーマの構成物で比較する
「新世紀エヴァンゲリオン」は、どんな話なのか?
使徒と呼ばれる怪獣からエヴァンゲリオンと呼ばれるロボットが地球を守る話、と言う風に言える。
これは、つまり、
- 「怪獣」対「ロボット」
であると同時に、
「ウルトラマン」の様な
- 「怪獣」対「巨大ヒーロー」
の巨大ヒーローを、ロボットに変えた物と言う事が出来る。
これは更に、それ以前に、既に普遍的となった作品に遡っていく事が出来る。
例えば、「ゴジラ」の様な
- 「怪獣」対「軍隊」
と言う風にだ。
人側だけでなく、敵側も変える事が出来て
- 「宇宙人」対「軍隊」(宇宙人侵略モノ)
- 「敵軍」対「軍隊」(戦争モノ)
- 「自然災害」対「軍隊」(災害モノ)
の様に、モチーフとなるテーマを変える事で、イメージがガラリと変化する。
こうして考えてみると、「新世紀エヴァンゲリオン」を構成する
- 「怪獣」対「ロボット」
と言うモチーフテーマの構成は、非常にシンプルで分かりやすく見える。
だが、これは、それ以前に
- 「怪獣」対「巨大ヒーロー」
みたいな構成が既存作として一般的になっていたから受け入れられたテーマと言える。
つまり「ウルトラマン」「ゴジラ」の様な、既存作品によって「怪獣モノ」「ロボットモノ」みたいなテーマセットとして普遍性が予め無ければ、視聴者は「新世紀エヴァンゲリオン」を見ても、簡単に受け入れる事が難しいと言える。
想像して見て欲しい。
「ウルトラマン」や「ゴジラ」の存在も「巨大ロボ」の概念も無い時期に、乗って操縦する巨大ロボットと怪獣が戦う世界初出の作品が仮に「新世紀エヴァンゲリオン」だったら、どこからともなく現れる巨大怪獣と巨大ロボットが戦うと言う発想に、どこまで付いて行けただろうか?
恐らく、大半の人は慣れないハードでパンクなSF作品を読むような状態になって、すんなり話に入っていけないと言う現象が起きる筈だ。
これは以前、動画72『第一回ロボットアニメの歴史:1952年~1979年編』内でも触れたが、作品を創作すると言う事は、アップデートに他ならない。
そういう前提があるから起きる現象だ。
普遍性と新規性の両方を兼ね備えた状態の作品だけが、焼き直しでは無い新しさがあるが、初めて目にした人が受け入れられる共通点も同時に持った存在に成り得る。
この「テーマセット」によって、テーマに予め一定の普遍性が無ければ、大ヒットを目指すのは、一気に難しくなる。
テーマサイズで比較する
テーマには、サイズがある。
大きなテーマか小さなテーマかは、概念の階層や、テーマの人気度によっても変わってくる。
トル | ベース・モチーフテーマ(大) | ベース・モチーフテーマ(中) | ベース・モチーフテーマ(小) | コンビネーション・モチーフテーマ |
新世紀エヴァンゲリオン | 怪獣 | ロボット | ||
ラブライブ!サンシャイン!! | 甲子園 | アイドル | ||
おそ松さん | 日常 | 日常×ギャグ | おそ松くん | その後/時事ネタ |
進撃の巨人 | 侵略 | 巨人 | ||
化物語 | 推理 | 妖怪 | ||
魔法少女まどか☆マギカ | タイムスリップ | 魔法少女 | ||
ユーリ!!! on ICE | 師弟スポーツ | フィギュアスケート | ||
機動戦士ガンダム SEED | ロボット | ロボット×戦争 | ガンダム | 別世界・別視点/遺伝子操作 |
マクロスF | ロボット | ロボット×アイドル | マクロス | その後・別視点/怪獣 |
コードギアス 反逆のルルーシュ | 革命 | 特殊能力 | ||
機動戦士ガンダムUC | ロボット | ロボット×戦争 | ガンダム | その後・別視点/宝探し |
けいおん! | 部活 | バンド | ||
Fate/Zero | バトルロイヤル | バトルロイヤル×英雄 | Fate | 前日譚・別視点/自主参加 |
上記の様に、およそだが各テーマを入れてみた。
見ると分かるが「おそ松さん」「ガンダムSEED」「マクロスF」「ガンダムUC」「Fate/Zero」のモチーフが小さいモチーフで、それ以外は大きなモチーフで構成されているのが分かる。
小さいモチーフとは、具体的で範囲が狭いと言う意味だ。
中ぐらいのモチーフを仮に設定したが、これが本来の終着点のモチーフサイズであり、大きなベースモチーフテーマと、掛け合わせるコンビネーションモチーフテーマを合わせた状態が、中ぐらいと言える。
なぜ、大きいモノ同士を掛け合わせると小さくなるのか意味が分からない人の為に補足すると、二つのテーマを合わせたテーマの範囲は、
これが

こうなる

だから、大テーマを二つ合わせたら、中テーマとなると言う話。
わかる、かな?
もっと分かる様に、別の例を出す。

図が、また使いまわしで恐縮だ。
ちなみに、この図は緑が「ゾンビランドサガ」で青が「AKB0048」でオレンジが「アイドルマスターゼノグラシア」で黄が「超時空要塞マクロス」のモチーフテーマサイズをイメージしている。
「おそ松さん」「ガンダムSEED」「マクロスF」「ガンダムUC」「Fate/Zero」等の作品のテーマサイズは、図で見るなら中サイズ(緑、黄)と、最小サイズ(青、オレンジ)の間の大きさをイメージして欲しい。
このテーマサイズが大きいほど、多くの人に訴求しやすい。
反対に、テーマサイズが小さいほど、広く訴求し辛くなるが、逆に特定の人にのみ深く刺さる可能性が出てくる。
「AKB0048」が「マクロス×AKB48」と言う具体的過ぎるモチーフテーマのサイズによって、マイナー作品となったのは、ここまでの話でイメージ出来ると思う。
では「アイドルマスターゼノグラシア」の「アイマス×ロボット」と言う、「AKB0048」よりはサイズが大きくなりそうで、「おそ松さん」「ガンダムSEED」「マクロスF」「ガンダムUC」「Fate/Zero」等の作品とモチーフテーマの構成が近そうな作品が、なぜ大ヒットしなかったのか?
それには、まず、古く、有名な作品ほど、モチーフテーマのサイズは大きくなる事も忘れてはいけない。
時代が新しい物よりも、古い物の方が馴染みがあり、マイナーで無名な物よりも、メジャーで有名な物の方が多くの人にとって馴染み深いのは、感覚で分かるだろう。
つまり、ヒット作を狙う場合は、モチーフテーマのサイズを、ある程度大きくしておく必要があると言える。
そうしないと、多くの人に見て貰う事自体が難しくなるからだ。
アイドルマスターの歴史は、ゼノグラシア放映時には、まだ浅かったと言える。
それともう一つは、物語構造を大きく変えている点に、ヒットを逃した問題があると言える。
「おそ松さん」「ガンダムSEED」「マクロスF」「ガンダムUC」「Fate/Zero」等の作品は、物語構造がベースにしている作品と同じか、かなり近い。
そうすると、前作や関連作品を見ていて、興味を持った人の期待に応える事が容易となる。
反対に、物語構造を変えるのは、かなり上手くやらないと大きな反感を買う事になる。
例えば、「アイドルマスター2」「アイドルマスターシンデレラガールズ」「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルオールスターズ」等の作品は、それまでの物語の流れを変える試みが、途中でされている。
- 一つのアイドルグループとして切磋琢磨してきた仲間が、別グループに行きライバルとなる
と言う様な展開だ。
これは、それまでのストーリーテーマ(主人公の問題解決行動の一貫性で表されるもの)と、しっかりリンクさせないと、物語の途中からストーリーテーマが変わると言う現象が起きてしまう。
これが起きると、古参の、そこまでのストーリーテーマを愛して追ってきたファン達からすると、望まない展開に映る。
ストーリーテーマの一貫性が、主人公の問題解決行動の一時的な変化で崩れて見える事による、違和感や拒否反応によるものだ。
極端な例えをすると、柔道をメインモチーフにしていた作品が、急に野球をメインモチーフに変えたら、その時点では柔道モノとして見ていたファンは戸惑うのは分かる筈だ。
終わりに
- モチーフテーマのサイズを、ある程度大きくしておくと訴求しやすい
- 物語構造を、途中や続編で大きく変えると反発を生む
と言うヒットの条件が見えてきた。
次回も引き続き、ヒットの条件を考察していきたい。
少しでも、ヒット作が生まれる事に貢献できれば幸いです。