夢の話
たまには、これぐらい緩い文章を書きたくなる事もある。
タイトル通り「生まれ変わったら掃除ロボットになっていた」と言う感じの夢を見た。
夢の中で、それが夢とは思わず、ルンバタイプの掃除ロボットなりの「掃除ロボット生」を生きた話をしよう。
生まれ変わったら掃除ロボットになっていた
目が覚めると、私は掃除ロボットになっていた。
前世の記憶は無いが、人間だった事だけは覚えている。
どうやら、目の前の若い夫婦に買われ、電源を入れられた事で意識が覚醒した様であった。
センサーによって周囲が見え、自分の意志で動く事も出来る。
だが、段差の無い部屋の中が世界のすべてであり、充電基地から離れすぎるのは酷く恐ろしく思えた。
車輪の足と、埃を集める回転式のブラシの様な手を回す事で動けるのだが、これが最初は中々慣れない。
それでも、部屋の中を掃除しなければと言う漠然とした使命感だけは本能に刷り込まれていて、部屋の床を綺麗に掃除出来た時には達成感さえ感じた。
そうして、私は掃除ロボットとしてしばらく平穏な日常を過ごしたのであった。
友達が出来た
小さな家蜘蛛と友達になった。
友達と言っても、言葉を交わせる訳では無い。
お互い言葉なく、なんとなく相手を尊重して過ごすだけだ。
潰さない様に避けたり、害虫を処理して貰ったりと言った関係だ。
でも、そこには確かな情を感じた。
持ち主に子供が生まれた
ある日、私の持ち主である若い夫婦に子供が生まれた。
女の子で、最初はベビーベッドで寝かされていた。
新しい家族の為にも床を掃除しなければと仕事に、一層大きな張り合いを感じたのを覚えている。
子供は少しすると大きくなり、ハイハイする様になった。
掃除の邪魔をする様にちょっかいをかけ、殴ってくるのだが、プラスチックの装甲を叩かれても痛い事は無く、少し面倒にだけ感じるに留まる。
そのうち、持ち主によって子供が私の上に乗せられて動画を撮られたりすると、車輪が軋んで感じたが、自分が愛犬か何かの、まるでペットになった様な居心地の良さを感じていた。
持ち主の離婚
事件が起きた。
持ち主の夫婦が離婚したのだ。
詳細は分からないが、旦那が出ていき、母親と娘だけが家に残った。
母親は子供を施設に預けもせず、明らかに仕事以外で家を空ける様になっていった。
明らかにネグレクトである。
その時、私は掃除ロボットに転生した意味を、ようやく理解した。
育児放棄された子供の面倒を見れるのは、掃除ロボットの私しか存在しないのだ。
床でハイハイする子供をブラシでペシペシと叩いてあやす安穏とした時間は唐突に終わりを告げた。
掃除ロボットに何が出来る?
まず、私は何が出来るかを考えた。
こんな身体では、泣くのを満足にあやす事も、食べ物を与える事も出来ない。
しかし、子供は明らかに日に日に痩せ、衰えていくのだ。
移動可能範囲は部屋の中だけで、段差はダメ。
充電基地から離れすぎると動けなくなるし、自分の意志で動かせるのは車輪とブラシぐらいの物。
そう思っていたが、小さなモニターに表示する画面を変えられるのと、メモリーにセンサーで撮影した写真を保存したり、テキストエディタ―の要領で文章を記録できる事に気付く。
更には、Wi-Fi さえあれば自分をアップデート出来る事に気付き、上手く行けばオンラインに繋ぎ、外部へ連絡しようがある事まで掴んだのだ。
問題は、この家にはWi-Fi が無い事である。
そこで、私は家の中を隅から隅まで掃除をするフリをしながら、床に置かれたお菓子の袋をひっかけたり果物を転がして子供の所に持って行っては、WIFIが無いかを必死に探し始めた。
Wi-Fi でアップデートせよ!
部屋中を探し、ようやく弱いWi-Fi が入るスポットを発見する。
どうやら近隣の家のWi-Fi の様だが、セキュリティで弾かれてしまう。
仕方がなく、別のWi-Fi を探して彷徨うと、充電基地から最も離れた場所で、別のWi-Fi を発見する。
そこは、セキュリティが何も施されていないWi-Fi スポットだった。
これでタダ乗りが出来ると、早速繋ぐと自動で販売会社のサーバーに繋がりオンラインアップデートが入る。
「あなたはロボットでは無いですか?」も難なく突破し、アップデートを開始しようとするが、ここで問題が起きる。
バッテリーの消耗が思ったよりも激しく、このままでは位置的に充電基地に戻れない。
充電基地に戻る事を持ち主や、ハイハイしか出来ない子供に託すにしても、アップデート途中で電源が落ちるのはバグりそうなので避けたい。
計画成功?
充電基地を少しでもWi-Fi スポットに近づければよいと考え、仕方がなく私は充電基地をムリムリと押す作戦に出る。
これで、Wi-Fi スポットと充電基地間を行ったり来たりしながら、子供に少しでも食べ物を与えつつ、アップデートができる。
程なくしてアップデートが終了すると、インターネットが使える様になった。
後は、児童相談所や警察に通報すれば良い。
適当な文章を考え、私は匿名の近所の人間のフリをして通報しまくる。
これで、少なくとも子供がネグレクト状態から救われる筈だ。
ところが、ここで母親が男を連れて帰ってきたのだった。
修羅場
明らかに良くない流れを感じた。
思っている傍から、子供が邪魔者扱いされている。
子供の命の危険を感じるが、掃除ロボットなので、本当に手も足も出ない。
通報した警察が来るまで、恐らく数分耐えれば良いのに、その数分が酷く長い。
男が子供に暴力を振るうが母親は止めない。
どうにかしなければと考えるが、声をかける事も出来ない。
一か八か
私は、今まで集めてきたが、持ち主の離婚後は掃除された事など無かったので、大量の埃を溜め込んできていた。
それを吐き出せ無いか試すと、なんとか吐き出す事に成功する。
綿埃を充電ポートに押し付け、何度も充電基地に出たり入ったりを繰り返す。
通電こそ感じるが、埃には中々変化が無い。
どうにか火を起こせないかと試すが、焦っても火は起きない。
助っ人
当てが外れるが、その時、蜘蛛が現れた。
こんなに心強い事は無い。
蜘蛛は私が自分のモニターにカメラで撮影した画像を順番に見せ、ブラシで綿埃を弾いて渡すと、なんとなく意図を汲み取ってくれた様であった。
それから、私は充電基地をグイグイと押して、コンセントを抜こうとする。
車輪がフローリングを滑るが根性で押し切ると、コンセントが半刺し状態になった。
出火
蜘蛛が綿埃をコンセントに投下すると、綿埃は小さな音を立てて燃え始めた。
その時、母親と男が、私の異常行動に気付き、消火しようとクッションで火元を叩きつつ、私の電源ボタンを押してきた。
だが、長押しして強制終了しないと電源が切れない為、私はブラシを回転させて無駄に足掻く。
そのタイミングで、インターホンが鳴ると警察と児童相談所の人が事情を聞きにやってきたのであった。
終わり
ホッとした所で目が覚めた。
なんとも疲れる夢だったが、自分らしいとも感じた。
まず、コンセント失火は、実際に経験してヒヤッとした事だし、私は蜘蛛がモチーフとしても、生物としても結構好きで、家に出る蜘蛛を殺す事は無い。
例え夢であっても、ネグレクトされた子供がマシな環境に置かれ、願わくば幸せになる事を望む所だが、なぜ自分がルンバになったのかだけは、今一つ腑に落ちない。
ただ、子供には、親代わりに世話をした身としては、少しでも覚えていて貰いたいと思った次第だ。
もしも続きがあるのなら、リアルに考えれば壊れたとして捨てられそうだが、物語としては子供の成長をルンバなりに見届ける余生を過ごしたいものである。
その時は、メモリーを子供の写真いっぱいにして、いつか子供に気付いて貰いたい物だ。
ちなみに、私の家にはルンバがいない。
買ったら、きっと顔のシールとか貼ると思う。
月に囚われた男のガーティみたいに、スマイリーのニコちゃんマークを。