昔話の構造利用
パラダイムで見る昔話「 ルンペルシュチルツヒェン」等【名前当て勝負】の記事で、軽く触れた遠く離れた同構造の物語。
「ルンペルシュチルツヒェン」を「千と千尋の神隠し」にになるまで設定を変えていく流れを実験的にやってみる。
一応だが断っておくと、「千と千尋の神隠し」が本当にこうやって作られたなんて事は、まず無いだろう。
あくまでも、昔話をヒントにして、どうやって全く別の作品を形成してくのか、その考え方を見て行きつつ、そのゴールに「千と千尋の神隠し」を持ってきただけと考えて貰いたい。
前回の補足
【千と千尋の神隠しにルンペルシュチルツヒェンがなるまで】昔話を利用した物語創作・その1【設定スライド】で、設定スライドを行う事で、作品の見た目を別物に変えるテクニックを紹介した。
テクニックを使って物語の構造に関わる部分をスライドさせると、構造から変える必要が出てくるが、表現に関わる部分は、いくらスライドさせても物語の構造が変わらず、強固な物語構造を維持できる。
- 登場人物の視点人物、主人公
- 行動が変化するジャンル
は、変更すると物語構造が変わってしまう最たる物だ。
物語は、主人公の問題解決行動によって構造が決まってくる。
つまり、主人公が変わると、構造は全く別物になるので、変更先の構造を持った物語を参考にするか、ゼロから構築する必要が出てくるわけだ。
例えば、「探偵」を扱った物語で、視点を探偵から犯人に変えたら、全く別物の物語になるのを想像すると分かりやすい。
なので、設定スライドを使う時は、出来れば主人公を別のキャラクターに変えるのは、慣れないうちは避けた方が良いと言える。
で、本題となる今回だが、前回のテクニックで、物語がどの様に変わったのかを、まずは見よう。
設定スライドで変わった物
前回、
- 舞台
- 時代
の2点を、現代日本に変える事で、現代日本における、身近さが大きく担保される事になった。
昔のドイツを舞台にしたままだと、日本でのウケは、大きくは望めない。
馴染みがあるモチーフの方が、見る人は知っている分だけ考えずに内容を理解出来るのでハードルが低くなるからだ。
ルンペルシュチルツヒェンを現代日本で行う場合、想定できる設定のスライドは、
- 粉屋→サラリーマン、事業主、等
- 王様→親が逆らえない存在
- 金の糸→お金、黄金、等
- 出来なければ死→払えなければ破滅
- 小人→小鬼、妖怪、等
- 対価の一人目の子供→大事な存在
と、仮に変更できる。
ここで、恐縮だが少しイメージして欲しい。
現代日本を舞台に、ある日、主人公である娘は、親の借金の形に借金取りに連れ去られてしまった。 親の作った借金を返さないと、酷い目に遭わせると脅されてしまう。 ジャンルとして大人向け要素を強めるなら、風俗店で働かされたり、全年齢要素を意識するなら、性的な要素は排除して違法な児童労働や犯罪を強制される様な状況に陥る。 しかし支払い能力が無い状態で、主人公は支払いを迫られても、途方に暮れるだけだ。 そんな時に、幻覚でも見ているのか、妖怪が目の前に現れ、主人公に語り掛けてくる。 今の状況から助けて欲しいなら、助けてやらないでも無い。 ただし、タダじゃない。 ゲームをすると誓って貰う。 もしゲームに勝てば、その時はチャラにしてやる。 だが、もしお前がゲームに負ければ、その時は魂を頂こう。 ゲームの内容は、私の名前当てゲームだ。 主人公は、迫るタイムリミットのせいで、ゲームを受ける事になってしまう。
と、設定の一部を日本に適応出来る物に変えたのがイメージ出来ただろうか。
実際に作り込む際は、更に設定を具体的にする事で、各設定が決定していく。
現時点では、どんな風に出来るかを仮案でシミュレーションしている程度にして、先に進む。
どうせ、設定の多くは、ビビッと来るまで何度も練って変わって行くからだ。
今回は、この設定に更に変更を加えていく。
設定逆転
設定スライドは、別の座標に一点を変える事で、全てをバタフライエフェクトの様に変えるテクニックだった。
設定逆転は、劇中の設定を一点反転させる事で、関連する設定先も連鎖変更するテクニックだ。
このテクニックを使う際に、気を付けたいポイントは、主人公の行動に注目し、問題解決行動の一点は変わらない様にデザインする事だ。
そうする事で、やはり物語の構造自体は保持したまま、別物の作品へと昇華出来る。
設定スライドは見た目を大きく変えるが、設定逆転は関係性を大きく変化させるので、作品から受ける印象が、ガラリと変わるのが大きな特徴にある。
今回の物語は、切羽詰まった主人公が無理やり小人に名前を当てないと破滅する約束を守らされる事で、名前探しをする物語と言える。
つまり、問題解決行動のコアは、名前を探す事にある。
それを変えずに設定を反転させると、例えば、
- 妖怪の名前を見つけると妖怪が困る→妖怪の名前を見つけると妖怪が助かる
と言う設定反転を加える事で、名前当て勝負を挑んでくる存在が、主人公に理不尽な勝負を挑むのではなく、主人公に助けを求める物語に変える事が出来る。
すると、
現代日本を舞台に、ある日、主人公である娘は、親の借金の形に借金取りに連れ去られてしまった。 親の作った借金を返さないと、酷い目に遭わせると脅されてしまう。 ジャンルとして大人向け要素を強めるなら、風俗店で働かされたり、全年齢要素を意識するなら、性的な要素は排除して違法な児童労働や犯罪を強制される様な状況に陥る。 しかし支払い能力が無い状態で、主人公は支払いを迫られても、途方に暮れるだけだ。 そんな時に、幻覚でも見ているのか、妖怪が目の前に現れ、主人公に語り掛けてくる。 今の状況から助けて欲しいなら、助けてやらないでも無い。 ただし、妖怪は自分の事も助けて欲しいと言う。 もし私の名前を思い出させてくれれば、その時は自由にする約束をしよう。 だが、もしお前が私の名前を思い出させる事が出来なければ、その時は、それまでだ。 主人公は、迫るタイムリミットの中、妖怪の名前を思い出す手伝いをする事になってしまう。
等に出来る。
どうだろう。
物語の中で名前を探すと言う問題解決行動は変えずに、妖怪を敵から協力者へと変更する事が出来た。
この調子で、他の部分も反転させていく。
反転させるのは、元の物語の中で良くないと感じた部分が、より良くなる設定を反転させると効果的だ。
「千と千尋の神隠し」で、特に大きな設定逆転要素は、
- 人の世界に妖怪が来る→妖怪の世界に主人公が行く
と言う、根本的な舞台設定の反転だ。
これによって、誰も見た事が無い世界になっているのが分かるだろう。
終わりに
今回は、この辺で。
こんな感じで、ワンステップずつ近づけていくので、その変化を体験してもらえたら、と思う。
今後も紹介していくプロセス群を別の物語に対して独自に実行すれば、オリジナル作品を生み出す方法を一つ手に入れた事になる、かもね。
個別でも、テクニックは役立つ筈。
使う時の注意点だけでも、覚えて帰って欲しい。
じゃあ、またね。