【レビュー】アニメーションの基礎技術を徹底図解「ポーズ・モーション・アニメーション!」【書評】

簡単に上達する道は無いが、確実に上達する道はある

今回紹介する本は「ポーズ・モーション・アニメーション!」と言う新刊だ。

主にアニメーター向けの基礎技術書である本作は、アニメーションと言う物をタイトル通りに「ポーズ・モーション・アニメーション」に分けて考え、48作例と12原則を用いて徹底的に解説している。

専門書らしく大判、フルカラー、192ページのボリュームを持ちながら、本体価格が2000円と求めやすい設定なのには、読む前から少し驚いた。

印象としては、3000円ぐらいが本来の価格帯の本だ。

それでは、肝心の内容に早速触れていきたい。

アニメーションの基礎技術を徹底図解「ポーズ・モーション・アニメーション!」

森江康太  (著), 丹原亮 (著), 東孝太郎 (著), MORIEInc. (著) 

<内容>

7割の基礎を制する者は、アニメーションを制す!

NHKスペシャル「恐竜シリーズ」、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』タイトルバック、日清食品 カップヌードルCM「HUNGRY DAYS」シリーズ、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』、『映画ドラえもん のび太の新恐竜』、ヨルシカ『春泥棒』ミュージックビデオなどなど。

多くの著名作品を手がけたアニメーション監督・森江康太氏率いる3DCGアニメーションのプロフェッショナル集団、MORIE Inc. 

その国内トップクラスのアニメーション技術を、豊富な図版を用いて初学者にもわかりやすくまとめたのが本書です。

「動き」の過程を「ポーズ」「モーション」「アニメーション」に分類し、汎用性の高いオリジナルの作例を用いて解説しています。

ディズニーが提唱するアニメーション12の基本原則についても、プロ目線で完全レクチャー。

さらに、全作例の完成ムービーと、一部のMayaデータ(リグ付きキャラクターアセット、アニメーションデータ込み)とFBXデータを、無償配布します。

3DCGアニメーターはもちろん、作画アニメーターやイラストレーターなど、「動きのある画」にまつわる全方位のクリエイターにとって役立つ情報が満載です。

表紙イラストを手がけたのは、漫画家の浅野いにお先生!

作例で用いられているMORIE Inc. オリジナルの3DCGキャラクターがイラストのモチーフになっています。

Amazon引用
  • 大型本 : 192ページ
  • 出版社 : ボーンデジタル (2021/3/30)
  • 言語: : 日本語
  • 発売日 : 2021/3/30
  • ISBN-13 : 978-4862465030
  • ISBN-10 : 486246503X
  • 商品の寸法 : 25.7 x 18.2 x 1.5 cm
  • サイズ:B5 変形判、フルカラー

技術原理主義者の為の基礎技術書

最初に目次を載せておくと、

CHAPTER 1「ポーズ」
1-1:立っているポーズ
1-2:動きのある立ちポーズ
1-3:座っている
1-4:寝ている
1-5:歩いている
1-6:走っている
1-7:飛んでいる
1-8:ぶらさがっている
1-9:押している
1-10:引っ張っている
1-11:物を持っている
1-12:投げている
1-13:殴っている
1-14:蹴っている
1-15:握っている
1-16:剣を振っている
1-17:個性を出すポーズ

CHAPTER 2「モーション」
2-0:モーションの心構え
2-1:歩き(ノーマル)
2-2:幸せそうな歩き
2-3:コミカルな歩き
2-4:忍び足の歩き
2-5:怒った歩き
2-6:悲しそうな歩き
2-7:走り
2-8:楽しそうな走り
2-9:慌てている走り
2-10:スキップ
2-11:コミカルな走り
2-12:慎重な走り
2-13:歩きと走りの違い
2-14:歩いてきて止まる
2-15:止まっているところから歩き出す
2-16:座る
2-17:椅子から立ち上がる
2-18:落下
2-19:乗る(スケボー)
2-20:物を持つ
2-21:ジャンプする
2-22:殴る
2-23:蹴る
2-24:剣を振る

CHAPTER 3「アニメーション」
3-1:驚く
3-2:滑り落ちる動き
3-3:物を押す・引く
3-4:重い物を扱う
3-5:スケボー
3-6:剣を振る
3-7:格闘アクション

CHAPTER 4「基本原則」
4-1:スクワッシュ&ストレッチ:
4-2:予備動作
4-3:ステージング
4-4:ストレートアヘッド:/:ポーズ:トゥ:ポーズ
4-5:フォロースルー:/:オーバーラッピング
4-6:スローイン:/:スローアウト
4-7:運動曲線
4-8:副次的アクション
4-9:タイミング
4-10:誇張
4-11:実質感のある画
4-12:アピール

と言う構成で、アニメーションにおける基本となる作例を順に48例、その後にディズニーで提唱されたアニメーション基本原則を著者が徹底解説すると言う感じだ。

48例は、基本的に見開き2ページに1例を載せていて、重要な基礎や複雑な動きの解説になると4~8程度ページ数を割いての解説がされている。

サンプル画像引用

この様なページ構成を基本として、大体の画面が構成されている。

見た目にスッキリしていて、かなり見やすい構成がされている。

人によっては、シンプル過ぎて味気なく感じるかもしれない。

漫画家の浅野いにお先生の表紙絵に惹かれた人は、残念ながら内容としては全て配布サンプルデータでもある、このようなCGモデルで説明をされているので、その点は期待できない。

アニメーター手描きの絵は、160ページに掲載されている1点のイラストしかない。

これは、画集では無くアニメーションの技術書なので、上手い手描き絵を見たり参考にする為に買う事はおススメ出来ない。

あくまでも、アニメーターを目指す人に向けて書かれた、アニメーションの技術書であって、画集的な要素は無い。

【good】削ぎ落された中に濃縮された基礎技術の「結晶」

先に触れたが、本書は他の技術書に比べると、文字数も画面密度も控えめだ。

例えば、アニメーション技術書の名著「アニメーターズサバイバルキット」では、これでもかと言うほど画面内に所狭しと文字と絵が並べられている。

それは、基礎の基礎や膨大な作例から、アニメーションの基本を一冊に全て詰め込んでいるからと言う側面がある。

本書の場合は「動き」をポーズ・モーション・アニメーションに分解して考え、それらにしか触れていない。

その上で、ページ内でテーマの情報を出来る限り簡潔に解説しようとしている為、結果的にシンプルな構成になっていると言える。

これは以前紹介した「ストーリーボードの教科書 伝える映像の設計図」にも少し通じる部分がある。

細かな情報量の多さよりも、初心者が理解すべきツボを押さえ、分かり易さを取っている点だ。

「アニメーターズサバイバルキット」 等の技術書は、基礎全部乗せと言って良い。

だが、情報量もボリュームも多すぎて、隅から隅まで使いこなすのは、至難の業だ。

辞書と同じで一つ持っておきたいが難易度は高いし、広辞苑内の全文を読む人が少ないのと同じ現象が多くの人に起きる。

一方で、本書「ポーズ・モーション・アニメーション!」は、テーマが明確な上に、大事なポイントだけを「選んで」掲載している為、情報の海に溺れずに初心者が無理なく「アニメーションの動き」だけを確実に学ぶ事が出来る様に設計されている。

なので、あらゆる細かい情報まで全部乗せのフルセットを求めている人には、物足りないだろうが、そう言う人はタイトルから察して欲しい。

一方でアニメーションの動きだけを『分かりやすく学びたい』と言う人にとっては、かなり良い本となるだろう。

本書のテーマの一つでもある、7割の基礎技術と3割の演出の、7割の基礎技術を高める事を念頭に置いた作りは、見た目以上の濃度がある。

【good】CGモデルの例が見やすい

アニメーションの技術書に、アニメーターの絵の上手さを期待する人は多いと思う。

ですが、本書では、その点を捨ててでも3DCGによるモデルでの解説に終始している。

結果的に、ラフな線が画面内から無くなり、例は絵が重なっていても非常に見やすくなってる。

何気に、モデルの「表情」に気を使っているのも、アニメーターとして本書を本気で執筆しているのが伺えて好感度が高い。

今年大きな話題となった某アニメの様な無表情でも身体の動きだけなら説明出来ますが、一線で活躍するアニメーション監督の人柄が見える。

【good】サンプルデータがある

本書は、デジタル作品が当たり前となった時代に合った取り組みとして、やろうと思えば実際のCGモデルを使ってアニメーションを学べる。

9ページに記載されたURLかQRコードを利用する事で、無料でデータを利用する事が出来るのだ。

データダウンロードページリンク:https://www.borndigital.co.jp/book/21243.html

Mayaデータなので環境的に利用できない人もいるかもしれないが、綺麗な絵が描けずともアニメーションを触って学べるのは良い点だろう。

サンプルデータと本書の例に使われているモデルが同じなので、本を見ながら練習すれば理解は、より深まる筈だ。

実際のアニメーションの動きを見て、触って学べる点は大きな利点だ。

静止画の羅列と、実際のアニメーションでは、受ける印象は大きく変わる。

※一部の有料コンテンツあり(バラ売りあり、フルセット定価37,100円、2021年4月中は3割引きの25,900円)。

※商品説明に書いてあるが、無料のアイテムは価格に「0」を記入しないとカートに入れられないので気を付けよう。説明を読まないと一瞬戸惑うぞ!

【good】4章の基本原則を読んだ後で、1章から見ると見え方が変わる

4章の基本原則は、アニメの神様ディズニーが提唱したアニメーションにおける基本中の基本の大原則だ。

これを、実例を交えて最後の方に掲載しているが、本書ではこの基本原則に忠実に例を作成している。

なので、CGモデルと言う手描きに比べて堅そうな本書の挿絵が、実は全て良質な作例であると4章を読んだ後に見直すと、嫌でも気付く様に出来ていると言える。

ここで基本原則を学ぶ事で「こんな事に気を付けているのか」に気付ける様になる仕組みがあるわけだ。

この4章の内容を、0章に持ってこなかった判断も、個人的には正しいと感じた。

座学や基礎理論から学ぶと、退屈で飽きやすいのが世の常だからだ。

最後に持ってくる事で、もっと学びたいと言うモチベーションを持った上で基本原則が入ってくるので、入り口で我慢して学ぶよりも脳に染み渡りやすい筈だ。

【good】アニメーター以外の絵描きにも有用

本書は、ポーズ・モーション・アニメーションと言う切り口で書かれている。

このポーズの項目は、動きのどの場面をポーズとして描くべきかを語っているわけだ。

動かす予定の無い漫画やイラストであっても、効果的なポーズが描けるかどうかは、非常に重要な関心事だ。

動きのある、躍動感のある、キーとなるポーズのコツを惜しみなく記載してくれている本書は、学ぶべき事が多いだろう。

【good】コラムも有用

  1. ポーズを学ぶなら○○がおススメ
  2. 道具の特性に気を付け活かす
  3. 演出的ポイント
  4. 無限の「面倒くさい」の果てに
  5. 12原則の相互関係

と、各章間にあるコラムですが、これらも気付きを与えてくれる内容で非常に面白く、為になる。

特に、 12原則の相互関係では、これまで学んだ「ポーズ・モーション・アニメーション」と12原則が合流して、これらが一つの技術体系として統合する解説は、非常に興味深い。

ただ、この統合する体系図は、最初の方にあっても良い気もした。

【bad】表紙と内容がチグハグ

表紙の手描きの絵に、手描きの題字。

帯にこそ「3DCGアニメーション制作会社」と書いてあるが、外観から受ける暖かみのある印象は手描きアニメーションだと勘違いさせるには十分だ。

3DCGよりも、この方が商品として栄えるのは分かる。

それでも、表紙に手描きイラストを使うのなら、挿絵に手描きイラストを増やすか、表紙にCGモデルを追加する等の根拠が欲しいのが正直な所だ。

これは、本書の数少ない気になる点だ。

本としての評価は?

分かり易さ、使いやすさ、ページ数と内容のボリューム、書籍サイズ等を鑑みての結論ですが、定価2000円、税込2200円は、十分、適正価格。

と言うか、最初にも書きましたが、技術書として見ると値段はかなり安い

でも内容は確かなので、アニメーションの動きを学びたい人にとっては、非常に手に取りやすい一冊だ。

本書は、動きのメカニズムにテーマを絞る事で、アニメーションの基礎を分かりやすく教えてくれる良書と言える。

この「簡潔な内容に洗練させて、絞った上で教える」と言うスタイルは、特に初心者には大いに助かる。

本書発行元リンク:株式会社ボーンデジタル

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