コラム

【天才の創作法】「自分の外にある、この世にまだない面白いを探す/庵野秀明」

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天才の真似は出来ない?

2021年3月22日、NHK放送の人気番組「プロフェッショナル仕事の流儀」のスペシャルにて、シン・エヴァンゲリオン劇場版、シン・ゴジラそして、シン・ウルトラマンを手掛ける庵野秀明監督の特集がされた。

シン・エヴァンゲリオン劇場版を作るのに密着する4年の中で、絵コンテを使わずに、セットや模型を使ってカメラで面白い画を探しながらプレビズ(Pre Visualization)を作る手法にチャレンジする姿が記録されたりと、非常に濃密な72分だった。

見ていて感じたのは、面白い作品を作ろうと向き合う姿勢の凄まじさだ。

その基本は非常にアーティスティックなのに、あくまでも作る作品は一級のエンタメを目指すクリエイター的な物も両立させようと、今なお足掻き続けている監督の創作者としてのハングリーさは、凄いの一言だ。

使い慣れた創作法を自ら封じてまで、全く新しい物を生み出す為に工夫を凝らしいく姿勢は、人によっては理解し辛いかもしれない。

そこで、「天才」なんて表現をすると、それだけで当人には怒られてしまいそうだが、少なくとも世間的には天才と思われている可能性が高い、凄いクリエイターが創作する時に使った手法や考え方を、あくまでも外から分かる範囲や本人達のインタビュー等を参考にして、紹介していきたい。

今回は、庵野秀明監督だ。

「自分の外にある、この世にまだない面白いを探す」

ドキュメンタリー中で触れられた創作手法は、どれも非常に面白いものが沢山あったので、未視聴の人は是非、実際に映像の方でも確認して貰いたい。

そのドキュメンタリーの中で、監督は「自分の中の面白い物」では無く「自分の外にある面白い物」を自分の作品に取り入れようと、悪戦苦闘する姿が描かれている。

この「自分の外」にテーマやモチーフ、答えを探すスタイルは、非常に面白い。

多くの創作者にとって創作は「自己表現」の側面がある。

なので「内省」して、自分を掘り下げ、その中で「表現するべき価値ある物」を探し、どうにか形にしようと創作活動に励む。

外を見る場合でも「何か面白そうなものは無いか」とか「何か世間でウケそうなものは無いか」とか、自分の目的に沿った物を探そうと、アンテナを立てて外を見る事になる。

監督の場合も、最終的には「自己表現」的な側面は作品内に存在するし、監督の五感を通して脳と言うフィルターで「良い」と感じる部品を組み上げる事で作品を作っている。

だが、その作品を組み上げるパーツ探しが「自分の外」を模索するのだが、仲間と言う他人(スタッフを始めとした周囲の人)の手によって作られる無数の試作品を見ながら「本当に面白い物」を探すと言うアプローチが取られていた。

つまり「自分の外」にある物として他人の手で無数に試作する事で、それまでこの世に存在しなかった面白い物を探して、全く新しい作品を作ろうと言う試みをしていたわけだ。

これを、監督自身はノープラン、絵コンテをあえて自ら作らず試作したプレビズや資料から素材を探したり新たに作ったりする事で、見た目の設計図の段階から行っているのだ。

その結果、選び抜かれた生まれたばかりの面白い物だけで構成される事になった作品は「自分の外」にあった、面白い物で作られていた。

自分の頭の中にあるアイディアや、世の中の既にある面白い物を使っても作る事が出来ない作品になるのは、間違いないと言えるだろう。

この手法の難しさ

だが、これは、庵野監督の様なポジションにいないと、中々に難しい手法だ。

アイディアのブレスト(brainstorming)ならピクサーのブレイントラストが有名だが、アイディア第一主義に見えて、庵野監督の取った手法は監督第一主義である。

監督のセンスに全幅の信頼を置けているからこそ出来る、この人に任せれば間違いない状態で無いと怖くて出来ない。

そうでなくても、この手法は難しい。

まず、仲間にアイディアを形にして貰い、その大半を「面白く無い」と、一旦捨てる判断をしていかなければいけないからである。

そもそも、この試みに付き合ってくれる仲間の存在が重要だ。

仲間の出すアイディアのレベルによって、完成品のクオリティには差が出てしまうからだ。

優秀な仲間を持っていて、更にアプローチに付き合ってくれる関係性が出来ていて、その上で更に自身のセンスに一定の自信があって、周囲もそれを認めている、そんな状態でようやく初めて出来る手法と言える。

余談

ドキュメンタリーの中で鶴巻和哉監督(フリクリ、トップをねらえ2、新エヴァ劇場版等を監督)を始めとする、超一線級の仲間達の目が疲れで死んでいく様は、この手法のハードさを伝えるのには十分だった。

だけど、ドキュメンタリーで見ている分には可哀そう過ぎて、創作者としては笑えないんだけど、相当面白かった。

せめて、生みの苦しみを笑いに昇華したい。

あと、ラストのプロフェッショナルの番組名否定は、斬新で笑えた。

未視聴の人は、見てみよう。

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