パラダイムで見る昔話「アリとキリギリス」

昔話を分析・解説

今回のテーマは「アリとキリギリス」。

アリとキリギリス

引用:LIBRAL [ライブラル]

著者:イソップ(アイソーポス)

プロローグ、日常の時

ある夏の暑い日、一匹のキリギリスが草の上で日光浴をしていました。

「なんていいお天気だ」と彼は言いました。

「お日さまは輝いているし、食べる草は山ほどある。」

キリギリスは朝の間ずっと草を食べ続け、もうこれ以上食べられない程お腹がいっぱいになりました。

「ようし!」と彼は言いました。

「演奏の時間だぞ」

彼は後ろ脚を羽にこすりつけてブンブンと大きな音を奏で始めました。

「なんてすばらしいんだ」とキリギリスは言いました。

「これぞ、キリギリスの奏でる最高の音楽というものだ」

切欠の時

すると、「その音やめてくれないか」と通りかかったアリが言いました。

「なんだって?」とキリギリスが聞くと「僕は今仕事中なんだ」とアリが言います。

「その音は頭が痛くなるんだ」

「君は僕の演奏が気に入らないのかい?」とキリギリスが聞くと、「ああ、確かに」とアリが言いました。

「どちらにせよ、音楽について議論している時間は僕には無いんだ。忙しいからね」

「忙しい?」とキリギリスが言いました。

「いったいどんな用事で忙しいって言うんだい?こんな素敵な朝に!」

「食料を運ばないといけないのさ」とアリが言いました。

悩みの時

その時、キリギリスはアリが大きなトウモロコシの穂を引きずっていることに気づきました。

「そいつはえらく重そうだな」とキリギリスは言いました。

「いったいそれをどうするつもりなんだい?」

「これを巣に持っていくのさ」とアリが言いました。

「なんのために?」

「冬のための食糧さ」とアリが言いました。

「冬に向けて準備が必要だからね」

「なんで?」とキリギリスが言いました。

「冬なんかまだまだ先じゃないか。冬は……冬にならないと来ないんだし。今は夏だろ?なんで冬の心配なんかするんだ?」

「僕らはいつも冬の心配をしているのさ」とアリが言いました。

「夏の間中、冬の食糧を集めているんだ。アリはいつだってそうしてるのさ」

決意の時

「キリギリスはそんなことはしない」とキリギリスは言いました。

「僕たちキリギリスは、夏の楽しみ方を知ってるのさ、食べて…寝て…かっこいい音楽を奏でて…最高だろ!僕たちキリギリスは、どう生きるべきかを知ってるんだ」

「わかったよ」とアリが言いました。

「好きにすればいいよ」

「おい、行くなよ、アリ君、一緒に遊ぼうぜ」

「駄目だよ」アリが言いました。

「言っただろ。僕にはやらなきゃいけないことがあるんだよ。」

そう言うとアリは、トウモロコシの穂を引きずりながら畑を横切って行きました。

「好きにしろ!」とキリギリスは大声で言いました。

試練の時

「知るもんか、僕にだってやらなきゃならないことはあるんだ。この草を食べたり、お日さまの光を浴びたりして楽しむのさ、だからもう二度とアリなんかとつまらないおしゃべりはしないからな。アリってのはなんて愚かな生き物なんだ!」とキリギリスは叫びました。

危機の時

冬になりました。

キリギリスは寒くて寒くて、飛び跳ねることも、音楽を奏でることも出来ません。

そしてとてもお腹がすいていました。

彼は1日中食べ物を探して回りました。

そして、あのアリに会いました。

「やあアリ君」キリギリスは震えながら言いました。

「僕を覚えてるかい?」

「ああ」とアリが答えました。

「寒いね」とキリギリスは言いました。

すると「僕の巣の中はとても温かいよ」とアリが言いました。

「食べ物も見つからないんだ」とキリギリスが言うと、「僕たちはたくさん持ってるよ」とアリが言いました。

「僕たちの貯蔵庫は、種やトウモロコシでいっぱいだよ。春が来るまで僕たちは何の心配もしなくていいほどたくさんの食料があるのさ」

「たくさんの食料?」とキリギリスは言いました。

「なぁ…君…僕はあの時、わかっちゃいなかったんだ。君だけが頼りなんだ…」

「君は言ったよね、アリはなんて愚かな生き物なんだって」とアリは言いました。

「本気で言ったんじゃないよ。ただの冗談だったんだ。なあ、頼むよ!トウモロコシを1、2本だけでいいんだ。分けてくれよ。食べる物がなんにもないんだよ」

絶望の時

「悪いね」とアリが言いました。

「手に余る程物が沢山あるうちに蓄えてさえいれば、困ることにはならなかったんだよ」

そしてアリは、もう二度とキリギリスに会うことは無いだろうと思いながら、温かい巣へと戻っていきました。

解説

元は「キリギリス」では無く「セミ」や「コガネムシ(センチコガネ)」がモチーフだったが、世界中を巡る中で馴染みのある虫に変わりながら伝わっていった事で、日本では「キリギリス」で広まったらしい。

結末にもバリエーションがあり、原作だとキリギリスは死んでしまうが、後の時代に作られた物では、アリがキリギリスを助け、キリギリスが心を入れ替えて働き者になったり、ハッピーエンドパターンもある。

パラダイムの特徴を見ると、やはり面白いのは、まるでジョークの様な、夏から冬への場面転換だろう。

話を膨らませるとすれば「試練の時」で、アリとキリギリスの立場を対照的に描き、キリギリスがミッドポイントでは正しいかの様に描かれた直後、危機の時で一気に立場が逆転する事で明暗が反転する様に劇的に描かれるだろう事が想像できる。

物語のメッセ―ジとしては「働き者」や「先に備えた人」は冬が訪れると報われ、「怠け者」や「刹那的に生きる人」は冬が訪れると報いを受けると言う、分かりやすい物。

この「冬」と言う物は、季節だけでなく「危機的状況」等も含み、「備えよ常に」と言う、勤勉な真面目さの大切さを説いている。

構造的には大分違うが、ホラー映画や「ターミネーター2」とか、最近だと「ゴジラシンギュラポイント」みたいな系統の作品で、日常の世界では変人扱いされていた登場人物が、突然訪れる危機的状況で大活躍する展開は、非常に熱い。

サラ・コナーとか、おやっさんこと大滝吾郎とかね。

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