幸不幸値の上下と感情移入度で感情を操ろう
物語を作る時、幸不幸値の変化を意識して描くと、途端に面白くなる事がある。
今回は、幸不幸値の変化で、どうして物語が面白くなるのかを解説する。
シーンごとの「ラッキー」と「アンラッキー」のコントロールが肝
物語を描く際パラダイムを意識せずとも、シーンの中には感情の上下だけでなく、そこで起きた出来事が主人公にとって「幸福」か「不幸」かの要素が自然と入ってくる。
これは、単純に考えて見ると、
- 幸不幸どちらでもない
- 幸福
- 不幸
- 不幸中の幸い
- 幸福だが試練を伴う
の、5種類に分類できる。
5種類の幸不幸値の上下によって、連動する形で見ている方の感情も上下する。
- 幸不幸どちらでもない=変化無し(→)
- 幸福=快感、高揚、等(↑)
- 不幸=不安、沈滞、等(↓)
- 不幸中の幸い=安堵、等(↓↑)
- 幸福だが試練を伴う=期待、等(↑↑)
主人公に感情移入して追って行ける作品は、主人公が感じる感情値と視聴・読者が感じる感情値が、主に連動して動く。
それによって共感が呼び起こされる部分がある為、感情移入のし易さは非常に重要となる。
自分と重なったり、大事な存在と重なるキャラクターには、この「正」の幸不幸値と感情の連動が起きる事になる。
なので、主人公がラッキーとアンラッキーの連続に見舞われる事で、制作者側は作品を見る者と主人公の(あるいはシーンの中心人物の)感情を自在にコントロールする事が出来る。
シーンを支配する感情変化の推移をジェットコースターの様に操りたい場合、幸不幸値と感情移入度によって、どの様な感情変化が起きるかを意識出来ると、非常に管理が楽になる。
もう一つ説明しないといけないのは、「負」の、幸不幸値と感情の連動だ。
不幸が蜜の味に、幸福が苦味に変わる時
作品で描かれる感情の上下と、見る者が感じる感情の上下が一致しないと、真逆の事が起きる。
例えば、感情移入が極端にし辛いキャラクターの幸不幸値の上下の場合は、
- 幸不幸どちらでもない=変化無し(→)
- 幸福=不安、沈滞、等(↓)
- 不幸=快感、高揚、等(↑)
- 不幸中の幸い=残念(↑↓)
- 幸福だが試練を伴う=厄介(↓↓)
と、逆方向に感情の上下が働く事になる。
この、「正」「負」の両面を操る事で、感情操作の主導権を握れると言える。
幸不幸の上下一方が連続すると言う事の意味
幸不幸値と感情移入度を把握し、感情の上下をコントロール出来る様になったとする。
その時、注意して欲しいのは、値の上下は、一方だけを連続するのは良くないと言う事だ。
上下一方が連続すると、感情の変化が徐々に起きなくなる。
「限界効用逓減の法則」の様に、連続すればするほど、その感情上昇下降の効果は減衰していく。
その状態に慣れる事によって「基準値の変化」を引き起こしてしまうのだ。
連続した幸福や不幸の平均値が、基準値となると、更に同じ幸不幸の変化が連続しても、基準が比例して上昇下降するので、余計に起こせるギャップ小さくなっていく。
例えば、初めて車を買ったり、子供を授かった時の幸福と、二台目や二人目、それ以降で感じる幸福度では、明らかな減衰が起きるのと同じ事だ。
過度な連続を避けるのは、この減衰効果にブレーキやリセットをかける為である。
また、幸福や不幸の一方が連続すると言う事は、直前の状態よりも確実により幸福か、より不幸になっているわけで、そうなると上下どちらも不連続よりも、どうしたって数値的ギャップが小さくなるのも、不利と言える。
連続の多用は、マイナスの方が多い。
変化無しも、多用厳禁
また、変化が無いのも多用しない方が良い。
変化が無いと言う事は、そのキャラクターにとって毒にも薬にもならないシーンと言えるので、見ている方からすると退屈となる。
基本は、上下。
ジェットコースターで、上りも下りも加速も無い区間が長いと、退屈に思う事と同じである。
「不幸中の幸い」は強い味方
物語を作る時、幸福の描写は、パラダイムのターニングポイントとなる場所以外で多用すると、すぐに「ご都合主義」と捉えられてしまう。
一方で、不幸の描写は、いつ起こしてもテーマに沿っていれば試練として処理できる。
つまり、不幸を描く事は、物語の基本である。
だが、多くの物語で、それを見ている人は、主人公が幸せを掴むのを期待している。
しかし、幸福は多用できない。
そこで役立つのが「不幸中の幸い」である。
いつでも、何度でも起こせる「不幸」とセットで、「不幸」と遭遇しなければ得られなかった「幸福」を混入する事は、ストーリーテリングの作法としては、合法だ。
名作では、この「不幸中の幸い」を常に意識している。
例えば、恋愛漫画の王道に「第一印象最悪の出会いから運命的な大恋愛」と言うパターンがある。
これは、紛れも無く「不幸中の幸い」だ。
あらゆる作品の中で輝きを放つ「不幸中の幸い」を意識すると、驚くべき部分が「不幸中の幸い」で構成されている事に気付くだろう。
「幸福だが試練を伴う」展開こそ、主人公の成長に繋がる
ただの幸福には、物語を爆発的に面白くする効果は薄い。
主人公がチートを手に入れて、大成功をおさめて行っても、上記した様に幸福の上昇率は減衰していって、すぐに飽きられてしまう。
だが、更に得をする為のプラスの大変さである「試練」は、物語を爆発的に面白くする。
同じ様に主人公がチートを手に入れても、それを使っても困難な問題を解決しようと立ちはだかる試練を試行錯誤をして、クリアした結果に幸せを掴む事をイメージすれば、効果の大きさは分かりやすいだろう。
物語で主人公を成長させるのは、試練だ。
幸福を伴う試練とは、更なる幸福を手に入れる為に、必要な苦難である。
何も得られない苦難は、試練では無い。
問題と向き合わないといけない点では、非常に面倒だが、幸福に繋がる試練に挑むのはとてもスリリングで、見ている人は非常にワクワクする。
また、ただの幸福と違って、幸福に条件がある事で「不幸中の幸い」と同じ様に、使う場を選ばない。
例えば「RPGで目的の物を見つけたが、手に入れるには人助けが必要」とかは、これに該当する。
終わりに
今回は、「幸・不幸」の変化を意識すると物語が面白くなるのは、どうしてかを解説した。
キャラへの感情移入が、どうして重要なのかも理解が深まったかもしれない。
この記事が、創作のヒントになれば幸いだ。