物語には「始まり」が必ずある。
だが、物語の始まりは、物語の「動き出し」とは少し違う。
物語を狙った効果を持って楽しんでもらう為には、「予備知識」が最低限必要であり、予備知識は物語の冒頭である程度以上は提示されなければ、見る人は物語についてもいけない。
なのだが、良く起きるのは、冒頭部分で「面白くない」と、物語を追う事を切られる事だ。
こうなってしまうと、その後に待つ物語がどんなに面白くても、その作品は見て貰えない。
そこで今回は、そんな悲しい事態にならない為にどうすれば良いかを説明する。
早さこそ力
物語の立ち上がりとは、3幕構成で言えば2幕、起承転結で言えば承、他の脚本パラダイムで言えば試練を描くパートを指す。
つまり、物語が立ち上がっている状態と言うのは、物語の主人公が非日常の世界に完全に身を置いて、問題解決行動を取り始めた時を指す。
そこまでの冒頭部分は、見ている人からすると、退屈な日常パートだ。
なので、退屈から脱する為に、一刻も早く試練に向き合わなければならない。
そこで、大事なのが「早さこそ力」と言う事になる。
小説でも、漫画でも、アニメでも、映画でも、それ以外の媒体でも、物語が自立出来る状態まで持って行くのは、素早いに越したことは無い。
予備知識の補充は必要最適、あるいは最小限に。
必要な知識は、最悪後で補充すれば良い。
出来るだけ早く、物語を見ている人が学ぶパートを脱し、楽しむパートに持って行く必要がある。
少し具体的な話をすると、30分アニメなら1話目、100分の映画なら冒頭の20分程度、連載漫画なら1話目の50ページ程度、10万文字単行本1冊分の小説なら冒頭2万文字程度。
誤差は多分にあるが、どの媒体でも、そのぐらいが見る人の集中力が続く長さだ。
その短い中で、物語の前提を説明し切らなければならない。
いわゆるセットアップと言う奴だ。
説明が十分なら、早ければ早い方が良い。
短い作品なら、全体の尺の4分の1程度で長くとも物語の立ち上がりは終わらせたい。
早さこそ正義、早さこそパワー、早ければ許される。
早くする為には、退屈なパートは短くするか、面白くするしかない。
興味こそ力
立ち上がりの早さがあれば、見て貰える確率は高まる。
だが、どうしても丁寧で長い冒頭部分が仕掛けや演出上必要だったり、表現としてこだわりたい事もあり得る。
早さで片付けられない。
そんな時は、立ち上がり切っていない状態の物語の中に、興味を引く物を散りばめる事だ。
いわゆるフックと言う奴である。
フックが引っかかると、物語の全貌が分からず、物語が自立していない状態でも、物語をある程度見て貰える。
フックが見る人の心に引っかかった状態を利用して、早さを使わずとも状況説明をする事が出来る。
基本のフックは、謎だ。
謎を提示し、その答えが知りたくて見ている人は付き合ってくれる。
他には、フックとして刺激がある。
強烈な刺激を与えられると、一定時間だが興味が引かれる。
爆発、スプラッタ、魅惑的な性、笑い、違和感、物語のテイストに合わせた、その作品で摂取できるご褒美の先出し、チラ見せによって、フックは機能する。
小さな物語
大きな物語を描く際、ダウンスケールした小さな物語を冒頭で描く事で、飽きさせずにセットアップを密かに行う事が出来る。
1話プロローグ部分が、まるまる一つのエピソードとして機能する作りにすると言う手法だ。
小さな物語として始まりから結末までを一旦描く事で、大きな物語はまだ何も始まっていなくても、小さな物語の中で物語が一度自立する事で退屈さが無く、小さな物語を通して学んだ予備知識が大きな物語に転用出来る事で、セットアップで出す情報のコントロールが出来る。
終わりに
と言う事で、物語の立ち上がりまで見て貰う為に取るべき基本を説明した。
早さか、興味か、応用して小さな物語を冒頭にするか、複数手法か、いずれかの手法を極めるか、離脱率が高い冒頭部分を、いかにして乗り越えるかには、工夫が必要だ。
面白くなるまで数話、せめて3話待って欲しいなんて事は、悠長に言っていられない。
出会い、楽しみ、嗜み、愛し、繰り返し接種し、消費し、人によってスタンスは違うが、世の中の作品数は増え続けていて、後に出る作品の方が前に出た作品と戦う必要があって工夫が、より必要なのだ。
物語を立ち上げるには、とにかく早い方が良い。
そうすれば、見た人が自分に合う作品かどうかの判断も正確に早く出来る。
素早く物語を動かすと言う視点が今まで無かった人は、自作の立ち上がりが早いか、遅いか、そもそも自立出来ているか、一度見つめ直すと、物凄い改善に繋がる事がある。
ぜひ、参考にしてみて欲しい。
あと「この場合は、どう?」とか、質問や相談があれば気軽にどうぞ。