大規模開発でこそ使えるゲーム用3DCG背景の作り方
今回は、献本を頂いた書籍の書評。
面白そうだからって書評を引き受けたんだけど、届いてから400ページの大ボリュームだった事に気付いて白目になっちゃった。
背景アーティスト導きの書
榊原 寛 (著), 横井 祐子 (著), 横井 亮太 (著), 橋本 竜 (著), 齋藤 彰 (著), 岸本ひろゆき (著), もんしょ (著), 加藤 諒 (編集)
この本は、ゲームにおける背景制作における制作フローを解説した本です。
国内外のゲームタイトルに携わったことのある著者が執筆しており、大規模な制作環境において、より効率化された制作の考え方や他のアーティストやエンジニアとの関わり方を解説しています。
1章:制作パイプライン
2章:モデリング・テクスチャリング
3章:地形と植生
4章:レイアウト
5章:プロシージャル
6章:周辺チームとのコラボレーション
7章:グラフィックス最適化
- 出版社 : ボーンデジタル
- 発売日 : 2023/9/15
- 単行本(ソフトカバー) : 400ページ
- ISBN-10 : 4862465692
- ISBN-13 : 978-4862465696
- 寸法 : 25.7 x 18.2 x 3 cm
著者X(見つけられた物のみ)
詳細目次
- 目次……ⅲ
- 著者について……ⅶ
- 前書き……ⅸ
第一章 制作パイプライン……1
- はじめに……2
- プリプロダクション……5
- 写真資料収集、現地取材……6
- コンセプトアートの作成……9
- 小さいテストシーンでアートクオリティベンチマークの確立……9
- 各種検証シーン作成……11
- パイプラインの検証と各仕様、ガイドドキュメントの作成……13
- Vertical Slice……34
- アセットリストの作成……38
- 本制作:モデリングとレイアウトから完成まで……51
- まとめ……59
第二章 モデリング・テクスチャリング……61
- はじめに……62
- 準備……64
- コンセプト・プランニング……65
- ブロックアウトとモジュール……68
- モデルとテクスチャのプランニング……73
- モデリング……75
- テクスチャリング……97
- マテリアル作成……108
- ライティング……111
- ポリッシュ……114
- LODモデルとコリジョンモデル……115
- まとめ……115
第三章 地形と植生……117
- はじめに……118
- 地形制作の概要……119
- 地形に応じたマスク情報の作成と活用……122
- アセットの自動配置……123
- タイルとLOD……125
- 作例……130
- 要素分解と事前の設計……132
- ベース地形の立ち上げ……133
- ロケーションの考え方……147
- アセットの自動配置……155
- アセット作成関連……158
- まとめ……165
第四章 レイアウト……167
- はじめに……168
- レイアウト作業の流れ……169
- ドラフトレイアウト……170
- アルファレイアウト……189
- ベータレイアウト……202
- ポリッシュ……219
- まとめ……219
第五章 プロシージャル……221
- はじめに……222
- プロシージャルについて……222
- プロシージャルのメリット……223
- プロシージャルのデメリット……225
- プロシージャルモデリングについて……232
- プロシージャルモデリングワークフローの設計……232
- プロシージャルビルディングモデリングワークフローの実装……235
- ビル自動生成ワークフローの構成……244
- 三分割の実装……249
- 特殊等分割の実装……273
- さらなる拡張……282
- 作例紹介……288
- まとめ……300
第六章 周辺チームとのコラボレーション……301
- はじめに……302
- ゲーム開発チームの全体像……302
- 各チームの概要……303
- 背景レベルを作成する際のチーム編成と関わり……309
- 技術仕様策定・エンジン機能・ツールリクエストの策定時のチーム関係……317
- まとめ……322
第七章 グラフィックスの最適化……323
- 最適化の手順……324
- 最適化の注意点……327
- ボトルネックの特定……328
- CPUの最適化……334
- GPUの最適化……351
- テクスチャの最適化……373
- これからの技術……384
- まとめ……388
今後10年役立つ3DCG背景の教科書を目指した、良い導きの書
本書は、大規模開発の中で培われた主にゲーム用の3DCG背景の制作フローを事細かに解説した書籍だ。
7人の執筆者達はAAA級作品(サイバーパンク2077、CODWWⅡ、リーグオブレジェンド、グランツーリスモ、等)の制作にそれぞれ関わった経験があり、それぞれの現場での経験を踏まえた上で、本書を読むアーティストが入る各現場に適応可能な遊びの部分(使用ソフト、規模、社風、等)を残した上で、3DCG背景アーティストの仕事を効率的にクオリティアップさせる為の、普遍的で統括的な教科書である。

本書は、各現場に当てはめられる様にと作業の末端、詳細なハウツーやテクニックをツール毎に具体的に等は、あまり記載されていない。
MAYAでもblenderでも、アンリアルエンジンでもunityでも他のソフトでも良いが、そう言ったソフトを最低限扱える事を前提とした上で「大規模開発下の3DCG背景の制作フロー」がどういった物かを詳細に解説している。

美麗な3DCG背景をゼロから作る手取り足取りのハウツーではなく、ゲーム用等の美麗な3DCG背景を作る時に「個人が、どう手を動かして実際に作れば良いか」よりも「チームを見据えて、どう作る計画を策定し、作った物を管理すると良いか」と言う向きが強い。

この辺の本書へ期待する部分を誤ると、人によっては内容の一部しか自作に反映出来ないなんて事は起き得る事が予想されるので、その点だけは注意が必要だ。
要は、初心者向けの本では無く、独学や現場で3DCGソフトにある程度触れていたり、背景を作る準備が出来た人が、更にレベルアップを図るための本と言える。
基本から高度な事まで、知識や知見が満載の一冊
専門書ゆえに専門用語は多いが、専門用語についても難しい物には解説があるので、なんとなくでやって来た人であっても読むには困らないだろう。
その状態で、基本的な部分から高度な技術やテクニック、出来るには出来るがやり方が正しいか怪しくなりがちな事の効率的なやり方や考え方等が沢山、整理された状態で記載されている。

なので、実際に作っていて「これってどうすれば良いんだろう」と言う悩み困りを抱えている人にとっては、タイトル通り導きの書となる筈だ。

自動配置や自動生成で自分のやり方や考え方は大間違いでは無いか、アセット管理は、パラメータは、メンバーとの連携は、最適化は、イテレーションと手戻りのバランスのとり方は、そもそも見本ページのパイプラインに知らない工程があるぞ、等と言った事に、本書は答えを示したり、道筋を示してくれる。

本としての評価は?
本体4,500円、定価4,950円と一見値は張るが、書籍自体のページ数が目次等を入れて約400ページの大ボリュームである。
どのページも見本ページの様にブロック毎に情報が見やすくも大量に、カラーかつ図版もそれなりに使って記載されているので、記載される内容の量と質に対して書籍価格を高いと感じる事は無いだろう。
今現在、3DCG背景アーティストを本気で志したり、その道で上を目指している全ての人に手に取って欲しい、そんな書籍である。
目次を見て、見本ページを見て、これこそ自分が求めている本だと感じた人には、是非手に取って貰いたい。
3DCG背景アーティストを導く現状最新の教科書なので、需要にマッチした人であれば、間違いなく幸せになれる筈だ。
このレビューが、本書の購入する際の参考になれば嬉しい限りである。
詳細目次を見てピンと来たら、きっと助けになる筈。
本書発行元リンク:株式会社ボーンデジタル