ストーリーアドバイス事例紹介
私の所には、物語に関する様々な相談が来ます。
このコーナーでは、過去に実際にあった事案をベースに、良くある失敗と対処法を紹介していきたいと思います。
あくまでも紹介する事例は、特定の個人を名指すのでは無く、実際の例を挙げても良くある失敗パターンとして紹介いたします。
どんでん返しの失敗「ひっくり返ってるのに驚かない?」
物語を創る上で、どんでん返しは重要な要素です。
ですが、仕掛ければ何でも良いと言う訳ではありません。
実際にあった相談をベースに説明します。
こんな相談者様
その相談者様、商業デビューはまだでしたが出版社の担当さんはついていて、個人で同人誌を精力的に作っていると言う漫画家さんでした。
絵は上手く、pixiv等に絵を投稿すればファンの方からすぐに評価して貰える様な方です。
商業デビュー用の短編作品の制作で悩み、匿名で相談に来られました。
こんな御相談
相談者様からの要望は、物語が今一つ面白くならないが、理由が分からないと言う相談でした。
24ページ短編マンガ作品の内容は、現代日本を舞台にした学生の恋愛物でした。
こんな分析
読み終えると引っかかる部分にすぐに気付きました。
喧嘩したカップルが仲直りする物語だったのですが、仲直りの切欠を与えるキャラクター(主人公と恋人の共通の友人)が、実は暗躍していたと言う様なオチです。
この暗躍していたキャラクターは、喧嘩の切欠を作り、仲直りの切欠も作っていました。
つまり、マッチポンプな訳です。
相談者様の作品は、
- 主人公が恋人と喧嘩してしまう。
- 友人に相談する。
- 助言に従って行動し、仲直りする。
- 実は喧嘩の原因が友人だった。
大まかに言えば、この様な物語でした。
相談に乗ってくれた友人と言うキャラクターが、実は暗躍していたと言うどんでん返しです。
相談者様は、暗躍しているキャラクターがいる事で「実は」と言う「どんでん返し」を作りたかったと言う話でした。
物語を創る上で、どんでん返しを作りたかったから、暗躍するキャラクターを仕込んでいたと言う事です。
ですが、このどんでん返しは、十分には機能していませんでした。
それは、暗躍していたキャラクターのマッチポンプの「理由」も「動機」も劇中では描かれていなかったからでした。
- 主人公が恋人と喧嘩してしまう。
- 友人に相談する。
- 助言に従って行動し、仲直りする。
- 実は喧嘩の原因が友人だった。
この後に読者が思うのは、
- 友人は、何をしたかったのだろう?
と言う残された謎であって、仲直りして良かったと言うハッピーエンドの余韻には意識を完全には向けられません。
ここで話が終わっている訳です。
これでは、「実は喧嘩の原因が友人の仕業だった」と言う衝撃の事実に対して「なんだって!?」と驚いた後に、疑問が残ってしまいます。
どんでん返しとは、それまで起こっていた劇中の出来事の見え方が、たった一つの情報でガラリと変わる物です。
そう言う意味では、どんでん返しは機能する筈でした。
ですが、実際に読んでみると、驚きよりも疑問が残るのです。
相談者様が抱えていた物語の問題は、劇中でマッチポンプを「なぜ」行ったのかが描かれていない事でした。
暗躍していたキャラクターの動機や目的が見えなかったのです。
それによって、暗躍していたキャラクターの行動が相談者様の作りたい物語にとって都合の良い行動になってしまい、読者にとって物語としてモヤモヤとしたモノを残す事になっていました。
こんな解決
この事例で問題解決に必要な事は、暗躍するキャラクター、つまり探偵物で言う所の「犯人」に相当するキャラクターの「動機」を描く事が必要である事を理解する事です。
相談者様は、劇中の学生同士の悪ふざけと言う軽いテイストで押し切れないかと考えていたのですが、それなら悪ふざけと言う動機を描く必要があります。
どんでん返しを描く上で、どんな情報を隠す事で「実は」を描くかを優先して考えていると、時々忘れてしまう人がいます。
描きたいのは、主人公と恋人の危機と再生です。
そちらを優先して描く事で、満足してしまい、犯人の動機なんて舞台装置はどうでも良くなってしまうのです。
ですが、情報を隠していた人物(犯人に相当するキャラクター)がいる物語の場合は、「なぜ」隠していたのかも考え、描く必要が出てきます。
ミステリーで想像すると、犯人の動機が分からないで終わっては、読者が肩透かしを食らう訳です。
完全解明せずとも、匂わせない読者は動機を推測さえ出来ません。
動機の無い犯行を描くとしても「動機が無い」事を描く必要があり、それを忘れると「なぜ?」が残り続けます。
このどんでん返しに関わる「なぜ?」に答えないでいると、どんでん返しが本領を発揮できず、機能不全を起こすと言う訳です。
まとめ
どんでん返しを考える時に「実は」を考えるのと一緒に「なぜ?」そんな事に、といった「原因」も一緒に考えるようにしましょう。
それだけで、どんでん返しの機能不全を防ぐ事が出来ます。