キャラクターの生き残り戦略
この記事では、キャラクターが社会の荒波を生き残る為に、どういった条件に気をつければ良いかを考察していきたい。
キャラクターの生まれる背景
キャラクターは、様々な背景で生み出される。
強烈な印象から実在の人物に自然発生する物、芸能、物語の登場人物、ブランド的なシンボル、最近では代弁者やアバターとしても利用される。
その無数のキャラクターを比べて、こう感じた事は無いだろうか?
なんだか似ている
「あのキャラと、このキャラは似ている」
見た目が似ている?
それとも、見た目は全然違うのに、似て感じる?
それらの理由は、キャラクターの構成要素に由来する物が大きい。
例えば「ツンデレ」と言う精神(メンタル情報)的なキャラクターの性質は、キャラクターのカテゴリーとして確立していると言って良い。
「頑固おやじ」「セレブ奥様」「ギラギラした経営者」「チャラい学生」「ませた少女」挙げて行けばキリがない。
他にも、似てると感じる要素がある。
「髪の色」等の肉体(フィジカル情報)的なキャラクター性質でも、受ける印象はキャラクターのカテゴリーに影響を与える。
また「名前」と言った個人(パーソナル情報)的なキャラクター性質でも、カテゴリーは変わるし、「高校生」と言った何者(キャリア情報由来のパーソナル情報)的な物も、大きな影響がある。
こう言った構成要素から受けるカテゴリーの印象は、比較的単純で、非常に分かり易い。
これらキャラクターの構成要素の組み合わせや選択肢が膨大な数である事で、キャラクターの種類も膨大な数となる。
だからこそ、これら構成要素の組み合わせは「著作権」で守られる事になっている。
膨大な数の要素の組み合わせ結果が「オリジナリティ」であり、既にある組み合わせの人気にあやかろうと似せる事で「オリジナルの組み合わせ」が好きな人を騙す行為は、時に卑怯な行為とみなされ、犯罪として処理される事さえある。
それだけ、人気のある組み合わせには、価値があると言う事だ。
創作者は、人気が出そうな、あるいは自分が気に入った組み合わせでキャラクターを創作する。
キャラクターは、世に出すまでは、どれぐらい受け入れられるか分からない。
だから、多くの創作者は、既に人気の組み合わせを部分的に模倣する。
そうする事で、無限の選択肢がある中で、似たキャラクターが生まれ続けると言う循環が生まれる。
キャラクターを受け取る側の人は、それぞれ思考が異なるため、キャラクターのどこが好きになるかは、大きく変わってくる。
見た目の場合、その見た目が育まれた文化的背景の区分(萌え、少年漫画、少女漫画、青年漫画、劇画、アート、写実的か等)や、リアリティ(納得感)ではなくリアル(現実的か)の許容量(写実的かデフォルメか等)によって、真っ先にふるいにかけられる。
表現に触れた瞬間に受ける印象によって、多くの場合、受け入れるか拒否するかが判断されると言う訳だ。
性格設定で「異性にだらしない」や「暴力的」等があるだけで、そのキャラクターは人を選ぶ性質を持つ事になる。
それは、創作者自身皆、肌で分かっている為、似たキャラクターが似た表現で量産される事になる。
その中で、要素の過剰化、肥大化、単純化、簡略化、等が発生し、徐々に型となって行く。
創作者の癖も、文化的背景の区分も、この市場が求めるデザインや自身の気に入った要素を強調した過程で固定化されていく。
こうして、短い期間の間に、膨大な数の似た表現で創られた、似たキャラクターが生まれ、多くは消えて行く事になる。
先に、世に出たキャラクターが必ず生き残る訳でもなく、人気イラストレーターや人気漫画家、人気小説家、人気脚本家、人気声優が係わっても、あっさり消える時は消えてしまう。
せっかく産み落としたキャラクターが生き残る為には、創作者は何を気をつけなければならないのだろうか?
生き残る為に、健全な模倣への道
模倣によって似た系統のキャラクターが供給過多になるから、椅子取りゲームが激化する。
場合によっては、訴えられるリスクもある。
それならば、模倣を辞めれば良いのだが、模倣する物には人気がある要素が存在する筈である。
パクリにならない模倣が出来て、人気の要素だけ転用したい。
しかし、どこからが、または、何をしたら模倣になるのだろうか?
これは「発想の原点」と「差別化」が大きくかかわってくる。
例えば、キャラクターの「発想の原点」が、かなり具体的だったとしよう。
「『艦コレ』みたいなキャラクターが人気らしい! 真似するぞ!」
と言った具合だ。
分かると思うが、この発想の原点は、リスキーである。
『戦艦少女R』『アズールレーン』『アビスホライズン』と言った作品を知っているなら、後発の作品は真似と受け取られる事にのなった事は記憶にあると思う。
だが、抽象度を段階的にあげて行くと、初期の発想に幅が生まれる。
『艦コレ』を『艦船の美少女擬人化』と言う抽象度に変えるだけで、似ているが違う物を考える余地が生まれる。
上位概念をさらに探っていけば、発想の幅は広がっていく。
『船の女性擬人化』
『乗り物の女性擬人化』
『乗り物の擬人化』
『人間が作った物の擬人化』
どこを抽象的にするか、そして、どこを具体的にするかが重要な所だ。
『艦コレ』を発想の原点にそもそも持ってきたのは「人気がある」からだ。
だが、抽象化の中で「人気」に関わる要素を削いでしまっては、模倣する意味がなくなる。
そこで考える。
艦船の中でも、戦艦をモチーフにしている。
戦争や戦闘に関わっている道具と言う物に人気があるのでは?
擬人化も、綺麗、カッコイイ事に人気の秘密がある筈だ。
そうやって、抽象度を調整する。
『人が作った戦いに関わる物の、美人擬人化』
すると、具体的だった時には出なかった発想が出来る様になる。
ここで別の似た物を組み込む事で、差別化がはかられる。
銃器の擬人化、日本刀の擬人化、城の擬人化、等々挙げればきりがない。
少なくとも、パクリにならず人気がある程度担保されたキャラクターを考える事が出来そうだ。
別の道『他所から持ってくる』『思わぬ物をかける』
模倣にも良し悪しがあり、模倣にも強みと弱みがある。
発想を抽象化して人気要素を残し、別の似た物を組み込んで差別化するだけでは、どうしても近いキャラクターになりがちである。
そこで、次に紹介するのは『他所から持ってくる』と言う方法だ。
これは、先に少し書いた文化的背景を、大きく跨ぐ事で可能となる。
今でこそ「アイドル」をモチーフにした作品は数多くあるが、最初にアニメ、ゲーム、漫画等で「アイドル」をモチーフとして『他所から持ってきた』のは、革命だった筈だ。
他所で人気の担保が確保された要素をベースに、キャラクター化するのは非常に合理的だ。
先に挙げた『艦コレ』は、擬人化元のモチーフを艦船と言う『他所から持ってきた』事で、戦艦の人気要素が好きなファンを取り込み、大きな成功を収めている。
合わせて『思わぬ物をかける』と言う手法も『艦コレ』を始めとした作品では使われている。
『艦コレ』登場以前にも、戦艦のゲームは存在したし、戦う美少女のゲームも存在していた。
それらを足した事で、強力な相乗効果が発揮され、人気が出るポテンシャルの獲得するに至った。
2018年、話題をさらったテレビアニメ『ゾンビランドサガ』も、アイドルとゾンビと言う『思わぬ物をかけ合わせ』つつも、上質なアイドルアニメでありながらゾンビ要素を非常に上手く使い、覇権とも呼べるアニメと化した。
思わぬ物を掛け合わせる時に注意したいのは、最低限、片方の要素で人気を担保されている事だ。
出来れば、人気のある要素同士で掛け合わせた方が、成功率は上がる。
だが、消えない為には、まだ足りない。
安易な人気の出る要素だけで生き残れるほど、甘い世界ではないのだ。
強固な足場を!
キャラクターにとって、足場は非常に重要である。
足場とは、言わば世界観だ。
ここで、世界観と聞いて「世界の設定」を考えてしまう人がいる。
それは、必ずしも正解に繋がっていない時がある。
どういう事か?
キャラクターにとって必要な世界観とは、実に単純な物で、「そのキャラクターの役割と動機」があれば、それでどうにかなる。
ここで、語り部や主人公とか、仲間とか、メンター、ヘラルド、敵、ライバルみたいな物語上の役割を与えるだけでは、不十分だ。
必要としているのは、キャラクターが「具体的に何をしようとしているか、したがっているか」である。
これが無いキャラクターは、綿密な世界観の舞台に放り出されても、綿密な設定があっても、裏設定があっても、動き出さない。
逆に、これがあるキャラクターは、綿密な世界観が無くとも、活き活きと動かす事が出来る。
そして、大勢のキャラクターが具体的な役割と動機を得れば、その絡み合いによって世界観は、必然性や納得感に従って自然生成される事さえある。
世界観と聞いて「世界の設定」を登場人物の足場として作ろうとすると、その上でキャラクターが世界と影響を与え合って息づいている事実を忘れてしまう事があり、キャラクターは役割を与え損ねられ、動機も無いまま、強いだけ、可愛いだけ、みたいなキャラクターとして無意味な存在になる時があると言う訳だ。
これは、非常に勿体無い事だ。
キャラクターの数だけ、物語が存在している事を忘れ、一つの物語に大勢を配置する事で起きる事故なので、本当に気をつけて貰いたい。
まとめ
新しいキャラクターを創る
- 模倣するなら、抽象的な発想から具体化に持っていく。
- 他所の業界から持ってくる。
- 思わぬ物を掛け合わせる。
キャラクターが動き出す為に
- 具体的な役割と動機、やりたい事を与える
サバイバルする為の方法を網羅するには、この記事だけでは至らないが、それでも役立つ情報があれば嬉しく思います。
後は、キャラクターを生み出した創作者が、キャラクターを動かし続ける事。
これだけで、生存率は大きく上がるでしょう。
ですが、最後のキャラクターを動かし続けると言うのが、一番難しいのかもしれません。