物語とは、構造物?
物語には、始まりがあって終わりがある。
始まりと終わりの間には、何があるのか?
もしかしたら、あなたは「とてもじゃないが簡単に説明出来る様な単純な物では無い」と思っているかもしれない。
だが、それは物語について、少なくとも「構造と言う観点」で深く理解出来ていないだけで、実は非常にシンプルな物だ。
物語には、決まった型がある。
それは例えるなら、洋服の型、建物の構造設計、数学の計算式ぐらいの明快なルールや条件、作法が定められている。
もし、あなたが「ストーリーテリングには明快なルールが無い」とか「文学は数学と違って表現に無限の可能性がある」と考えているのであれば、それは科学の時代に魔法を信じ続けている様な、時代遅れの認識だと言わざるを得ない。
構造を考えずに物語を作ると言うのは、かなり難しい。
考えないで構造物を構築するには、経験やセンスが必要になるからだ。
型紙も無く服を作ろうとしたり、設計図も無しに建物を建てようとしたり、複雑な計算に必要な公式を無視して答えを導く様な物なのだ。
物語とは、明快なルールの基で作られる事で機能する、高度な構造物だ。
この記事では、物語の構造について図を交えながら解説したい。
構造をシンプルに理解する
物語の構造を理解するには、パーツで分けるのが有効な手段の一つだ。
パーツで分けると言って、どう分けるのが良いだろうか?
建造物であれば柱や壁紙、床板、天井と言ったパーツに分ける事も出来る。
だが、物語でいきなり構成物や素材と言った分け方をするのは、あまり得策ではない。
では、建造物を別の方法でパーツ分けをするなら、何が分かり易いか?
最も単純な分け方としてあるのは、部屋単位だろう。
玄関、廊下、居間、寝室、便所、洗面所、風呂場、等と言った部屋単位で分けるのだ。
こういった物は『機能を別とするユニット単位での分割』が分かり易い。
それを物語に当てはめると、プロローグやオープニングと言った風に、物語が進行していく段階毎に分け、エンディングやエピローグまでを分割する事が出来る。
この物語の初めから終わりまでを機能毎に分けた一覧は「ストーリーパラダイム」と呼ばれ、物語の規範として、昨今のストーリーテリングの現場では常識として扱われている。

パラダイム自体は、様々な表現が昔からされている。
日本人に馴染み深い『起承転結』も、パラダイムの一種である。
パラダイムの多様性については、
の記事が参考になるだろう。
パラダイムは、物語の進行段階を機能の別れた部屋に分けた物と言える。
つまり、部屋毎の配置と機能の法則が分かれば、構造的な理解はぐっと深まると言う訳である。
ここからは、少しずつ物語の機能毎の部屋を、まとまりで見ていくとしよう。

上の図は、物語のパラダイムもとい、部屋を幾つか順番に並べた物だ。
図の部屋には、明確な機能があり、部屋毎に別の部屋との因果関係があることが分かる。
プロローグと日常の時は、物語の前提を説明する前振りの部屋だ。
その後にある切欠の時で、物語が本格的に動き出す。
あらゆる物語の中で、切欠の時に何かが起き、悩みの時、決意の時、試練の時を経て、ミッドポイントと呼ばれる区切りで一段落する。
切欠の時から試練の時までは、ひとまとまりのセットで扱われ、順番も固定である。
しかし、ここで一つの疑問が湧く。
短編作品なら、これで良いかもしれない。
だが、長編作品では、部屋が少ないのでは無いか?
その際、部屋を大きくすれば良いと考える創作者も中にはいるが、それはやはり得策ではない。
物語として大きくするなら、一例として下の図の様に部屋を追加するべきである。

ミッドポイントと呼ばれる一区切りに至らせず、図の様に物語を進めていくのが、基本である。
一筋縄で物語が終わらない事を基本として考えた方が、実用的な構造になるので、こちらの方が必要な考えが含まれた構造図なのだが、あまり見る事がないのが不思議でならない。
図を見ると、もう一度同じ機能の部屋が同じ順番で配置されているのが分かるだろう。
だが、部屋の機能は同じでも、そこで繰り広げられる内容は別物で、物語はしっかりと前に進む事になる。
機能は同じだが、中身は別物なのだ。
そして、もう一度同じ機能の部屋が配置される場合、それ以前の部屋は、まとめて「前提」として新しい部屋では扱われる事になる。

そして、またミッドポイントに物語が辿り着かなければ、再度新たな部屋が追加される事になる。
こうやって、部屋のセットを追加する事で、過去の部屋は次々と次の部屋では前提と言う過去となり、物語は前へ前へと進み続ける。

物語は、ミッドポイントと呼ばれる「主人公の準備が整う一区切りのパート」に至るまで、延々と部屋を追加する事で前に進んでいく。
100分程の作品だと、バランス的にも部屋は3回程度追加される事が多い。
だが、中には細かい部屋を大量に追加したり、並行して置いたりとバリエーションがある。
しかし、バリエーションは多様でも、部屋のセットや順番は固定であり、ユニットとして一括りで運用される事は変わらない。
そして、ミッドポイントに辿りついたなら、次は別の機能を持った部屋が追加される事となる。
これも、セットや順番が固定された部屋だ。

それが上の図の下に追加された「危機の時」「絶望の時」「契機の時」「解決の時」のセットだ。
ここでも物語の中の事件が解決しない場合、また「切欠の時」「悩みの時」「決意の時」「試練の時」の部屋のセットが追加され、これは再度、解決の時を経ての事件解決に至るまで続いていく。
つまり、物語とは
- 「切欠の時」「悩みの時」「決意の時」「試練の時」
- 「危機の時」「絶望の時」「契機の時」「解決の時」
の二種類の部屋のセットが、「解決の時」で物語の中の出来事が解決するまで、部屋を追加する事で前に進んでいくという、シンプルな構造をしているのだ。

そして、解決の時を経て、物語の中の事件が解決すれば、その時にはエピローグがようやく訪れ、物語は終幕を迎える事になる。

非常にシンプルで、面白味の無い解説だったかもしれないが、これが物語の基本構造である。
つまり、物語は問題が解決するまで、延々と2種類の部屋のセットを追加する事で前に進む物であり、数学の単純な公式で解を出すのと構造的には何ら変わらない。

なので物語は、構造の段階では「理論的」で「正解がある物」として具体的に扱う事が出来てしまう。
文章で言葉を綴ると言う一見曖昧な物に思えるかもしれない。
だが、物語とは理論的な構造体によって形作られているのだ。
構造がしっかりしていて機能不全を起こして無い事を前提に、その上でようやく表現と言うアーティスティックで芸術的な領分が輝く事になる。
そして、部屋毎の機能と言う分け方で物語の構造を理解出来たのであれば、現代の一般的なストーリーパラダイムの問題、と言うよりは分かりにくさも見えてくると思う。
それが、下の図だ。

三幕構成でも、起承転結でも、2種類の部屋のセット4つ目「試練の時」と「解決の時」が、パラダイムの区切りとして、セットから分断されているのが分かると思う。
その上、物語全体としてのパラダイムとしての「起承転結」と、各部屋毎の役割での「起承転結」があり、日本で物語全体のパラダイムとしての起承転結と部屋毎の起承転結を、曖昧に教えたり、自己判断やケースバイケースに委ねる事で、現場でも不要な混乱を生む原因となっている。
起承転結は、どこにでも当てはめられるが故に便利だが、パラダイムとして部屋の機能や、セットの機能を考える上では、余りにも曖昧だ。
どこにでも当てはまり過ぎて、理解出来ていないと混乱の原因になってしまうのだ。
私個人としては、「起承転結」それ自体は有用だと思うが、特に物語創作の初心者に対して起承転結だけを悪い意味で適当に教える日本の環境は、かなり劣悪だと思っている。
ハッキリ言って、生み出している混乱の方が大きく感じるぐらいだ。
だから、私は物語の構造を学びたいのであれば、三幕構成等の物語作りに特化したパラダイムを推奨している。
どのパラダイムが満点かは、人それぞれだが、少なくとも起承転結よりはマシに分かり易い筈だ。
あ……
一応、勘違いをしている人がいないとも限らないので言っておくと、三幕構成は、ただ一幕、二幕、三幕と分けた物では無く、ハウツーや解説を見れば分かるが「一幕には○○と○○と○○が必要で、他に~」とかなり細かく物語の必須条件がギッチリ詰め込まれた物だ。
ミッチリっぷりに難しいと感じる人もいるが、それは教科書を暗記しようとしているからで、大事なのは必要な情報を拾い上げる事だ。
起承転結以外のパラダイム、おススメです。
終わりに
物語の基本構造について、いかがだっただろうか?
二種類の部屋のセットが物語の大半を占めている事は、作品として物語を見ていても、気付かない人も結構いる事だ。
しかし、お約束の流れがある事は、みんな肌で感じていると思う。
それは、あなたが思い描いた作品の物語構造が機能していて、面白い作品であるほどに、構造がしっかりしているからに他ならない。
補足で、パラダイムの各パート毎の深堀記事
- ストーリーパラダイム解説「プロローグ」とは?
- ストーリーパラダイム解説「日常の時」とは?
- ストーリーパラダイム解説「切欠の時」とは?
- ストーリーパラダイム解説「悩みの時」とは?
- ストーリーパラダイム解説「決意の時」とは?
- ストーリーパラダイム解説「試練の時」とは?
- ストーリーパラダイム解説「危機の時」とは?
- ストーリーパラダイム解説「絶望の時」とは?
- ストーリーパラダイム解説「契機の時」とは?
- ストーリーパラダイム解説「解決の時」とは?
- ストーリーパラダイム解説「エピローグ」とは?
これらも、きっと参考になるだろう。
パート毎の役割や必須要素を、より詳細に記した物だ。
また、有名作のパラダイムを実際に見たいと思った場合は、
- 連載漫画1話目比較「ドラゴンボール」「ハンター×ハンター」「ワンパンマン」
- 連載漫画1話目分析「ワンピース」
- 連載漫画1話目比較「鋼の錬金術師」「D.Gray-man」
- 連載漫画1話目比較「るろうに剣心」「シャーマンキング」「テニスの王子様」
- 連載漫画1話目比較「NARUTO」「BLEACH」「青の祓魔師」「ブラッククローバー」「サムライ8 八丸伝」
- 連載漫画1話目比較「武装錬金」「僕のヒーローアカデミア」「鬼滅の刃」「呪術廻戦」
- 連載漫画1話目比較「ヒカルの碁」「DEATH NOTE」
等の記事が参考になるかもしれない。
応用術の宝庫なので実際の漫画と比較しながら見てみるのも良いだろう。
この記事が、物語を構造的に理解する助けになれば幸いです。

“図で見て分かる。物語の基本構造” への1件の返信