「ジャミラ」と「アルジェントソーマ」で考える物語作り

あなたは「アルジェントソーマ」を知っているだろうか?

「アルジェントソーマ」とは、2000年にテレビ東京の深夜アニメ枠で放映されていたサンライズ制作のリアルロボットアニメである。

テレビ未放映の特別編を入れた全26話で、主演声優は保志総一朗と桑島法子が担当。

  • 原作・原案・監督:片山一良(THEビッグオー)
  • 脚本:山口宏(新世紀エヴァンゲリオン)
  • キャラクターデザイン:村瀬修功(新機動戦記ガンダムW)
  • メカニックデザイン:山根公利(カウボーイビバップ)
  • 音楽:服部克久(無限のリヴァイアス)

と、この様な豪華クリエイターの手によって作られた作品と聞けば、未視聴の人も興味ぐらい湧かないだろうか?

この作品、放映当時は深夜アニメだった事もあり、限られた層にしか見られなかったのだが、google検索のサジェストでも出てくるがウルトラマンの『ジャミラ』のエピソードと似ている事で話題となった事がある。

実際、アルジェントソーマは、ジャミラと似た構造の物語と言って良い。

今回は、かなり近い同じ構造の物語を比較して、物語を俯瞰的に解説する。

なお、この記事は「ジャミラ」と「アルジェントソーマ」に関する壮大なネタバレを含むので、ネタバレ前に視聴したいと言う人は後で読もう。

ジャミラとは?

まずは、ジャミラの軽い説明を。

と言ってもWikipediaのあらすじ引用だ。

元々は、宇宙開発競争の時代に「某国」が打ち上げた人間衛星に乗っていた宇宙飛行士「ジャミラ」であり、正真正銘の「地球人」であった。

事故に遭って水のない惑星に不時着し、救助を待つ間にその環境に身体が適応して皮膚が粘土質に変化した結果、ずっと欲していた水を不要として生きられる怪獣と化した。

国際批判を恐れて事実を隠蔽し、救助を出さずに自分を見捨てた母国に復讐するため、修理・改造して自由に姿を消す機能を搭載した宇宙船で地球へ帰還する。

要人を乗せた旅客機を宇宙船で次々と墜落させるが、科学特捜隊に宇宙船の位置を見破られて撃墜され、その姿を現す。

最大の武器は、口から吐く100万度の高熱火炎と、インド象の5千倍の腕力。

前述の適応ゆえに火には強いが、水が最大の弱点となっている。

アラン隊員を介して「ジャミラが元は人間だったという事実を公表せず、あくまでも1匹の『怪獣』として葬り去れ」というパリ本部からの命令を受けた科学特捜隊による人工降雨弾攻撃には苦しみながらも耐えるが、ウルトラマンのウルトラ水流には耐えられず、這いつくばって国際会議場の万国旗を潰し、赤ん坊の泣き声に似た断末魔の叫びを発して絶命する。

その後、国際会議場の傍らには墓標が建てられるが、それを見たイデ隊員は「犠牲者(ジャミラ)に対する人間のエゴにすぎない」と唾棄している。

と言うのが、ウルトラマンにおける怪獣ジャミラのエピソードである。

見た事が無くても、あの特徴的なビジュアルで知っている人も多いだろう。

筆者の幼い頃等は、シャツの首の穴から顔を出してジャミラゴッコをする人が、結構いた。

話を戻そう。

この物語のポイントは、

  • 宇宙飛行士が怪獣化
  • 事件の事実を隠す
  • 怪獣化した状態で地球に帰還
  • 事情を知らない正義の味方に攻撃される
  • 衝撃の事実が暴露される

ここら辺だろう。

 

アルジェントソーマのあらすじ

一方で、物語構造が同じアルジェントソーマは、どんな物語だろうか?

ジャミラと同じくWikipediaのあらすじを引用する。

2059年、地球はエイリアンの襲来で多大な被害を受けた。

人類は軍隊を再編し、対エイリアン特殊部隊「フューネラル」を組織する。

大学生のタクト・カネシロは、あるきっかけで恋人マキ・アガタが師事するアーネスト・ノグチ教授のエイリアンの死体をつなぎ合わせた実験複合体フランクの蘇生実験に立ち会うことになる。

実験によってフランクは蘇生したが、施設を破壊して逃亡。

マキやノグチ教授は死亡し、タクトも重傷を負った。

逃亡したフランクはある森でハリエットという少女と出会い、その場に襲来したエイリアンから彼女を守る。

フューネラルに捕獲されたフランクとともに、ハリエットはフューネラルの管理下に置かれることとなる。

恋人マキを失い、自らも重傷を負ったタクトの前にある男が現れ、復讐か忘却か選択を与える。

愛する者を奪った者への憎しみから復讐を選択したタクトは、それまでの自分を捨て、リウ・ソーマという新たな名を得てフューネラルに配属される。

どうだろうか?

全く別の物語に感じると思う。

 

ジャミラがエイリアンに、フランクがウルトラマンに、フューネラルが科学特捜隊に当てはまるが、ハリエットと言うヒロインとリウと言う主人公は、ウルトラマンに該当するキャラクターは見当たらない。

 

リウは、恋人のマキをフランクに殺された復讐者であり、ハリエットはフランクと心を通わせる少女で、その関係は美女と野獣。

さらに、マキとハリエットが面影が似ている事で、リウがハリエットをマキと重ね、今度こそ守る為に奮闘する物語でもある。

 

アルジェントソーマとジャミラの比較

では、アルジェントソーマを、少しジャミラのあらすじに寄せてみよう。

元々は、オデュッセウス号に乗っていた宇宙飛行士ユーリ・レオーノフが「エイリアン」であり、正真正銘の「地球人」であった。

ペンローズツイスターホールと呼ばれる超空間の入口調査で事故に遭い、宇宙を漂流した時、謎のエネルギーに接触した結果、地球に帰る手段としてユーリはエイリアンの肉体を得た。

同じ頃、オデュッセウス号の事故の事実を、軍は隠蔽。

エイリアン化の弊害によって帰巣本能のみの存在となったユーリは、複数の身体を得てエイリアンの集団として地球へ帰還する。

ユーリ帰還の事実は隠され、エイリアンの襲来事件として軍が出動しユーリと衝突。

しかし、帰還の邪魔をする全ての物を自動排除する存在となったユーリ達は、強力な重力制御と熱制御能力によって都市を壊滅させてしまう。

事実を隠したい軍の上層部は、エイリアンとなったユーリが自動的に向かう「我が家」を巡礼ポイントと呼称し、そこに辿り着くと「何か」が起きる事を恐れて徹底抗戦し、エイリアンを排除する事を決める。

しかし、ユーリが変化したエイリアンの集団は、第一陣だけでは無く、無数に存在していた為、人類は長期にわたる巡礼ポイントの防衛を余儀無くされる事になる。

軍内部ではオデュッセウス号事件を告発しようと暗躍するユーリの親友ロレンスと、事件を闇に葬りたい軍上層部の争いが、水面下で起きていた。

やがて事実が明るみになるが「エイリアンが元は人間だったという事実を公表せず、あくまでも『エイリアン』として葬り去る」という軍からの命令を受け、帰巣本能だけとなっているエイリアンと化したユーリを前に、対エイリアン特殊部隊フューネラルと、エイリアンの継ぎ接ぎ「フランク」は迎撃する事しかできない。

その後、事態は大きく動き、軍は想定外の事態に追い込まれる。

帰巣本能が大きく膨れ続けた結果、星ほどの質量があるエイリアンが地球に向かっていたのだ。

エイリアンが地球近辺に到達すれば、その質量が生み出す重力によって地球が亡ぶ危機が迫る事に。

 

どうだろう?

かなり似た物語だと言う事が分かったと思う。

 

そして、ジャミラと同じ視点で見ると、アルジェントソーマの元のあらすじに出てくる登場人物が、あまり出てこない。

 

だが、アルジェントソーマの中に存在するジャミラと同じ構造の物語は、バックグラウンドに存在している。

主役であるリウ・ソーマことタクト・カネシロの視点は、ウルトラマンの中には、やはり存在しない。

先にも書いたが、リウ・ソーマは、ウルトラマンの世界で言えば、ジャミラに恋人を殺された被害者の一人で、ジャミラを怪獣として憎む復讐者だ。

 

更に、ジャミラの「ウルトラマン」に該当する存在が、アルジェントソーマでは「フランク」と呼ばれるエイリアンの継ぎ接ぎであり、フランクは名前の通り「フランケンシュタイン」がモチーフとなっている。

エイリアンから作られた人造エイリアン「フランク」のポジションは、ウルトラマンと言うよりは、ハリエットを守る美女と野獣の野獣その物だ。

 

今度は、アルジェントソーマの世界を、ジャミラで改変して考える。

大量発生したジャミラの破片を繋ぎ合わせて作った記憶喪失のジャミラが、少女に言われるままにジャミラを倒して地球を救おうとする。

その裏に、ジャミラによって恋人を殺された復讐者が絡み、記憶喪失のジャミラを殺そうと目論む中で、全ジャミラの正体に近付いていく。

某国がジャミラを怪獣として亡き者にしようと科学特捜隊を使うが、星サイズの特大ジャミラが観測されて、某国どころか地球が詰みそうになる。

と言う話だと言えるだろう。

 

アルジェントソーマは、良い感じにジャミラだ。

似ている。

しかし、決定的に違う所がある。

アルジェントソーマは、パクリでは無く、ジャミラの物語をモチーフとして作る意味が確かに存在している名作だ。

 

その意味とは、どこにあるのか?

 

ジャミラ救済の物語

アルジェントソーマとジャミラが似ているのは分かった。

アルジェントソーマは、設定が似ているが、ジャミラとは大きく違う。

 

一つは、元人間の意識の有無。

ウルトラマンでは、ジャミラは復讐心から大暴れして、かなりの被害を出す。

その後、怪獣として処理され、非常に後味が悪い。

一方で、アルジェントソーマは、エイリアンが大暴れする所までは同じだが、エイリアンは邪魔な物を自動迎撃をしているだけで、そこに悪意はない。

つまり、アルジェントソーマでは、エイリアンの非を無くし、事実を隠ぺいした軍上層部が本当の悪として設定されている。

これは、ジャミラを救う為の第一歩と言える。

どうせ救済するなら、気持ち良く助けたい相手であって欲しい。

 

二つ目は、真実を暴露しようと動く友人の存在。

ジャミラは、宇宙飛行士と言う、言ってしまえばエリートで、英雄の立場でありながら、国に切り捨てられた存在だ。

一方で、アルジェントソーマでは親友のロレンスが軍内部で暗躍する事で、事件を暴露し、友を助けようと奮闘する姿が描かれる。

この設定によって、ユーリが見捨てられた訳では無いと言う救いになる。

 

三つ目は、帰還の理由だ。

ジャミラは、復讐の為に帰ってくる。

一方で、エイリアンは、家に、正確には「妻のクローカ」の所に帰りたい一心で地球を目指す。

ジャミラが復讐心から暴れるのに対し、エイリアンは家に帰る邪魔をする全てを自動排除する。

アルジェントソーマでは、第一次遭遇戦、つまりエイリアンが地球に初飛来した時点で、クローカは巻き添えを食らって死亡してしまう。

クローカに会うために地球に帰って来たのに、それが原因でクローカを殺してしまうと言う、切なくも絶望的な状況にエイリアンとなったユーリは置かれる。

この、余りにも衝撃的な事実の判明に、ユーリに同情しない人はいないだろう。

 

四つ目は、隠ぺい工作を働いていた者達の末路だ。

ジャミラでは、某国が罰せられる事は無い。

責任者は逃げ切り、見捨てられた上にウルトラマンに殺されたジャミラには、申し訳程度の墓標が建てられるだけだ。

一方でアルジェントソーマでは、暗躍していたロレンスによって責任者は追い詰められる事となる。

更に、秘密を守る為にエイリアンを殺し続ける事自体に無理が来て、全ての真実が暴露される。

エイリアンの巨大化は、星サイズを退けた後には、銀河系サイズにまで巨大化し、太陽系を飲み込む程にまで巨大化してしまうのだ。

 

以上の設定の違いによって、アルジェントソーマではジャミラと違い、敵味方に一定の報いがある。

悪い奴らは長年嘘をついてきたツケを払い、正義を信じて行動した者達は祝福を受ける。

 

アルジェントソーマは、一流のクリエイター達が本気で作った「ジャミラを救済する」壮大な物語なのだ。

 

「ジャミラ」→「アルジェントソーマ」式で物語を作るには?

このアプローチをするには、バッドエンドを探そう。

 

バッドエンドで終わった物語に対して「どうすれば救えるか」を考えるのだ。

 

ジャミラの場合、原因が「事故」と「隠蔽」から始まっている。

これは、物語として普遍的に使える設定の要素だ。

 

真相を暴く必要のある謎がある世界で、主人公が謎を暴くポジションにつければ、それで良い。

 

次は、どうしてバッドエンドになったのかを考える必要がある。

ジャミラの場合は、復讐者であるジャミラ自身に非が生まれ、切ないし同情も出来るが、加害者でもあると言う状況がバッドエンドに繋がっている一因と考えられる。

 

仮に、ジャミラが家に帰りたいだけで、攻撃も正当防衛だけだったら?

ウルトラマンは、それでもジャミラを殺す事が出来ただろうか?

 

バッドエンドの宝庫『ニュース』

救済の物語は、バッドエンドをどの様に回避するか考える事で生まれる。

既存の物語以上に大量のバッドエンドが存在する媒体が、ニュースである。

 

理不尽な事件、切ない事件、悲惨な事件、世の中には事件が絶えない。

 

多くの作家が、事件をモチーフに物語を創作している。

事実をリアルに描写するだけでなく、どうすれば救済できるか、逆に、どうすれば完全犯罪に出来るか、あるいは迷宮入りの事件のフィクション上での解決を試みる。

ジャミラの様なバッドエンド系の物語に思い至らなくても、ニュースサイトを見れば、そこはモチーフに溢れている。

 

ただし、モチーフにする事件は、慎重に選んで欲しい。

例えば、被害者が存在する現在の事件は、高確率で批判にさらされる。

モチーフにしただけでも、金儲けや創作に利用するデリカシーの無さを嫌う人は大勢いる。

最初に事件に触れて良いのは、事件の真実を追う者と、当事者だけなのだ。

現在進行形でネタに出来る事件は、風刺系等に限られるので、その点は気を付けよう。

そういえばロボット……

書き忘れていたが、アルジェントソーマはロボットが出てくるが、主役がロボットでは無い。

あくまでも、エイリアンとなった「ユーリ」が中心である。

 

その為、ザルクやトートと言う登場ロボット達には首が無い。

その正体は、エヴァの中身が使途と同じ様に、首なしのエイリアンを操縦していると言う代物である事が後に明かされる。(暴走もする)

 

また、ネーミングセンスが良く、組織名のフューネラルは葬式、ザルクは棺桶、トートは死神を意味する言葉なのだが、これはエイリアンがユーリと言う設定が判明した瞬間に、深い意味を持つ仕掛けでもある。

 

本当に名作だから、まだなら見よう。

 

個人的に好きなキャラクターは、ノグチ博士だったり。

余談:エンディングの宇宙飛行士の写真って誰?(ネタバレ)

https://livedoor.blogimg.jp/robosoku/imgs/1/9/1917ef49.jpg

エンディングで謎に主張してくる宇宙飛行士のおじさん。

ネタバレ無しで見ていると、ずっと「誰?」「何者?」となるが、この人こそ、「ユーリ・レオノフ」である。

ちなみに、DVDジャケットの11巻がロレンスで、12巻がユーリ&フランクだったりする。

この辺の、敵か味方か分からないキャラが実は、とか、最初から1話の劇中やEDでユーリの伏線を仕込まれていた事に気付いた時の感動も、この作品を名作にしている一因だろう。

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