昔話を分析・解説
今回のテーマは「白ヘビ」。
白ヘビ
引用:青空文庫
https://www.aozora.gr.jp/#main
著者:グリム兄弟
翻訳:矢崎源九郎
プロローグ
いまからずっと、むかしのこと、あるところにひとりの王さまが住んでおりました。
その王さまのかしこいことは、国じゅうに知れわたっていました。
とにかく、王さまの知らないことは、なにひとつないのです。
どんなにないしょのことでも、空をつたわって、王さまのもとに知れるのではないかと思われるほどだったのです。
日常の時
ところで、王さまにはかわった習慣がひとつありました。
それは、まい日お昼の食事がすんでからのことでした。
食事のおさらがすっかりさげられて、その場にだれもいなくなりますと、ひとりの信用のあつい召使いが、いつもきまって、なにかもうひとさらもってくることになっていたのです。
けれども、それにはふたがしてありますので、その召使いでさえも、おさらのなかになにがはいっているのか知りませんでした。
それに、王さまはひとりきりにならないうちは、けっしてふたをあけて、食べようとはしませんので、だれひとりその中身を知っているものはありませんでした。
こうしたことが、長いあいだつづきました。
切欠の時、悩みの時、決意の時
ある日のこと、おさらをさげた召使いが、どうにも中身を知りたくなって、そのままそのおさらをじぶんのへやにもっていきました。
召使いは扉を注意ぶかくしめてから、ふたをとってみました。
と、なかには一ぴきの白ヘビがはいっています。
召使いはそれをひと目見ますと、どうしても食べてみたくなりました。
そこで、白ヘビをほんのすこし切って、口にいれました。
ところが、どうでしょう、それが舌にさわったとたん、窓のそとから、やさしい声で、ふしぎな、ひそひそ話をしているのがきこえてきたではありませんか。
そばへいって、耳をすましてみますと、それはスズメたちがあつまって、野原や森で見てきたさまざまのことを、たがいに話しあっているのでした。
つまり、この召使いはヘビを食べたおかげで、動物たちのことばがわかるようになったのです。
危機の時
さて、ちょうどこの日に、お妃さまのいちばん美しい指輪がなくなりました。
ところでこの召使いは、どこへでも出入りをゆるされていましたので、この男がぬすんだのではないかといううたがいがかけられました。
王さまは召使いをよびだして、きびしくしかりつけました。
そして、もしあしたまでに犯人の名をいうことができなければ、おまえを犯人と考えて罰するぞ、と、おどかしました。
絶望の時
召使いが、じぶんに罪のないことをいくらもうしたてても、どうにもなりませんでした。
召使いは、しかたなくそのままひきさがりました。
召使いは、不安と心配で胸をいためながら、中庭におりて、どうしてこの災難をのがれたものだろうかと、いっしょうけんめい考えていました。
契機の時
そのとき、ふと見ますと、そばの小川の岸にカモたちがのんびりならんで、やすんでいました。
カモたちは、くちばしで羽根をきれいにそろえながら、うちとけた話をしていました。
召使いは立ちどまって、その話にじっと耳をかたむけました。
その話というのは、けさはどこをぶらつき歩いたとか、すてきにおいしいえさを見つけたとかいうようなことでした。
そのとき、一羽のカモが顔をしかめて、
「どうも腹のなかがおもくるしくてしかたがない。お妃さまの窓の下にあった指輪を、あわてて、いっしょにのみこんじまったんだ。」
と、いいました。
解決の時
それをききますと、召使いはすぐさまそのカモの首ったまをひっつかみ、台所へもっていって、料理番にいいました。
「こいつを、ひとつ殺してくれ。よくふとってるぜ。」
「よしきた。」
と、料理番は、手でカモのめかたをはかってみました。
「よくまあ、ほねおしみをせずにふとったもんだ。もうずいぶんまえから、焼き肉にされるのを待っていたんだな。」
料理番がカモの首をちょんぎって、はらわたをだしてみますと、はたして、胃ぶくろのなかにお妃さまの指輪がはいっていました。
こうして、召使いは、じぶんに罪のない証拠を、王さまにわけもなく見せることができました。
切欠の時
王さまはじぶんのあやまっていたことをつぐなうために、なんでも願いをもうしでるがよい、と召使いにいいました。
そして、この宮中でいちばん名誉のある位につきたければ、それもかなえてやろうと約束しました。
悩みの時、決意の時
召使いはそれをみんなことわって、ただ一頭の馬と、旅行のためのお金とをおねがいしました。
世のなかを見物して、しばらく世間を歩きまわってみたいと思ったのです。
この願いがききいれられますと、召使いは旅にでかけました。
試練の時
ある日のこと、とある池のそばをとおりかかりました。
ふと見ますと、三びきの魚がわなにかかって、水をほしがって、さかんにぱくぱくやっていました。
世間の人たちは、魚は口がきけないのだといいますが、召使いの耳には、魚たちがこんなみじめな死にかたをしなければならないのを、なげきかなしんでいるのがきこえました。
召使いはなさけぶかい男でしたから、すぐに馬からおりて、つかまっている三びきの魚を、水のなかへはなしてやりました。
魚たちはよろこんでピチピチはねまわり、頭を水のおもてにつきだして、
「あなたのことは、けっしてわすれません。かならず、たすけていただいたご恩がえしはいたします。」
と、召使いにむかってさけびました。
試練の時
召使いはまた馬をすすめていきました。
しばらくすると、足もとの砂のなかで、なんだか声がするような気がしました。
耳をすましてみますと、それはアリの王さまがぶつぶつ不平をいっているのでした。
「なんとかして、人間どもがのろまな動物のからだをふみつけないようにしてくれないものかなあ。そうれ、またまぬけな馬のやつが、あのおもいひづめで、なさけようしゃもなく、わしの家来どもをふみつぶしおるわい。」
それをきいて、召使いがわき道へよけてやりますと、アリの王さまは召使いにむかって大きな声でいいました。
「あなたのことはわすれません。きっと、ご恩がえしをいたします。」
試練の時
それから、また道をすすんでいきますと、やがて森のなかへはいりました。
ふと見ますと、おとうさんガラスとおかあさんガラスが巣のそばに立っていて、子ガラスたちを巣からほうりだしているではありませんか。
「でていけ、このろくでなしども。」
と、おとうさんガラスとおかあさんガラスがどなりました。
「もうこれいじょう、おまえたちに腹いっぱい食べさせることはできない。おまえたちは、もうそんなに大きくなっているんだから、じぶんたちで食べていくことぐらい、できるはずだ。」
かわいそうな子ガラスたちは地べたにころがって、小さなつばさをばたばたやりながら、泣きさけびました。
「ぼくたちなんか、まだどうすることもできない子どもだのになあ。ひとりで食べていけなんていわれたって、まだとぶこともできやしないや。ああ、このままうえ死にするよりほかはない。」
これをきいた人のいい召使いの若者は、馬からおりて、剣をぬいて馬を殺し、それを子ガラスたちのえさにやりました。
子ガラスたちはすぐにピョンピョンとんできて、おなかいっぱい食べました。
そして、
「あなたのことは、けっしてわすれません。きっと、ご恩がえしをいたします。」
と、さけびました。
こうなっては、召使いの若者はじぶんの足で歩くよりほかはありません。
危機の時
さんざん歩いたあげく、ようやく、とある大きな町へやってきました。
町なかの往来は、おおぜいの人で、ごったがえすようなさわぎでした。
そこへ、ひとりの男が馬にのってやってきて、こうふれまわりました。
「お姫さまがおむこさまをさがしていらっしゃる。だが、お姫さまに結婚をもうしこもうと思うものは、むずかしい問題をひとつとかねばならぬ。もしもそれがうまくゆかぬばあいには、命はないのじゃ。」
いままでも、たくさんの人たちがこれをやってみたのですが、ただいたずらに命をうしなうばかりでした。
ところが、この若者は、お姫さまをひと目見るなり、そのすばらしい美しさに目がくらんでしまいました。
そして、あぶないこともすっかりわすれて、王さまのまえにすすみでて、お姫さまをいただきたい、と、もうしでました。
若者は、さっそく海べにつれていかれました。
絶望の時
そして、若者の目のまえで金の指輪が海のなかにほうりこまれました。
王さまは若者に、この指輪を海の底からひろってくるようにといいつけて、さらにつけくわえて、こういいました。
「もしもおまえが、指輪をもたずにあがってきたら、波のなかで命をおとすまで、なんどでもつきおとされるのだぞ。」
みんなはこの美しい若者を気のどくに思いましたが、やがて、若者をたったひとり海べにのこして、いってしまいました。
契機の時
若者が岸べに立って、どうしたものかと考えこんでいますと、とつぜん、三びきの魚がこっちへむかっておよいできました。
見れば、それは、まぎれもなく、いつかたすけてやった魚たちです。
まんなかの魚は口に貝をくわえていましたが、それを若者の足もとの波うちぎわにおいていきました。
若者がその貝をとりあげて、あけてみますと、そのなかに、金の指輪がはいっているではありませんか。
若者はよろこびに胸をはずませて、それを王さまのところへもっていきました。
そして、約束のごほうびがいただけるものと思って、待っていました。
危機の時
ところが、気ぐらいの高いお姫さまは、若者がじぶんとおなじ身分のものでないことをききますと、若者をさげすんで、そのまえに、二ばんめの問題をとかなければならない、と、注文しました。
お姫さまは庭におりていって、キビのいっぱいはいっているふくろを、十ふくろも草のなかにまきちらしました。
「あの男に、このキビを、あしたの朝、日がでるまでに、すっかりひろいあつめさせなさい。ひとつぶでもたりなかったら、だめですよ。」
と、お姫さまはいいました。
絶望の時
若者は庭にすわりこんで、どうしたらこの問題をやりとげることができるだろうかと、いっしょうけんめい頭をひねりました。
けれどもなにひとつうまい考えがうかんでこないのです。
若者はすっかりしょげかえって、夜あけに死刑の場所へひかれていくのを待っていました。
契機の時
ところが、朝のさいしょの光が庭にさしこんだときには、どうでしょう、十のふくろがひとつのこらず、すっかりいっぱいになってならんでいるのです。
しかも、ただのひとつぶもかけてはいないのです。
それはこういうわけでした。
いつかたすけてやったアリの王さまが、夜のうちに何千というアリの家来をひきつれてやってきたのです。
そして、この恩をわすれない動物たちは、キビのつぶをせっせとひろいあつめては、ふくろのなかにつめてくれたのでした。
お姫さまはじぶんで庭へおりてきて、若者がいいつけられたことをすっかりやりとげているのを見ますと、びっくりしました。
危機の時
けれども、お姫さまの高慢ちきな気持ちはこれでもまだおさまらず、こんどはこんなことをいいだしました。
「あの男は、たしかにふたつの問題はときました。でも、〈命の木〉からリンゴをひとつとってこないうちは、あたしの夫にはなれません。」
若者には、命の木がどこにあるのか、見当もつきません。
絶望の時
とにかく、旅にでて、足のつづくかぎり、どこまでも歩いていこうと思いました。
といっても、その木を見つけるめあては、まるっきりないのです。
若者は、はやくも三つの国をとおりすぎました。
ある晩のこと、とある森のなかにはいりこんで、木の下にこしをおろしてねようとしました。
契機の時
そのとき、枝のなかでガサガサいう音がしたかと思うと、金のリンゴがひとつ、若者の手におちてきました。
それといっしょに、カラスが三羽まいおりてきて、若者のひざにとまって、いいました。
「わたしたちは、うえ死にしそうになっていたところをたすけていただいた三羽の子ガラスです。大きくなって、あなたが金のリンゴをさがしていらっしゃることをききましたので、海をわたって、命の木のはえている世界のはてまでとんでいき、そのリンゴをとってきたのです。」
解決の時
若者は、よろこびいさんでかえりました。
美しいお姫さまのところへ金のリンゴをもっていきますと、さすがのお姫さまも、こんどばかりはいいのがれることができなくなってしまいました。
エピローグ
ふたりはその命のリンゴをふたつにわけて、いっしょに食べました。
すると、お姫さまの心は、若者をすきに思う気持ちでいっぱいになりました。
こうして、ふたりは、つつがなくしあわせに、たいそう長生きをしました。
解説
なぜ「白へび」なのだろうか?
有名どころで、医学を象徴するマークは、ギリシャ神話のアスクレピウスの白へびの杖がモチーフになっているし、聖書ではアダムとイブに知恵の木の実を食べる様にそそのかすのは蛇である。
そんな感じで蛇は、大昔から「知恵」を象徴する生物だからかもしれないが、この物語においてどうして「白い蛇」なのかは正確には分からなかった。
まあ、とにかく、王様だけが食べる事を許された秘密の白へび料理をコッソリ食べた召使いが、動物の言葉が分かる様になる事で、この物語は動き出す。
冒頭で「王様の知らない事は何一つない」「信用のある召使い」と言う設定がすぐに矛盾する構成は、ご愛嬌だ。
王様に泥棒と疑われるが、白へびを食べて身に着けた動物の会話を理解出来る能力によって冤罪を晴らし、ネガティブなイベントをバネにしてポジティブな旅に出る展開は、ワクワクするだろう。
旅に出てからが後半戦かつ、本番だ。
旅先で困っている動物達を助ける事で、後に命がけの危機的状況に自ら飛び込んでしまう主人公は、恩返しと言う形で生き延びていく。
ここも、主人公が「情け深い」設定が登場するが、すぐに矛盾するが、気にしていては読めないのが昔話である。
指輪を飲み込んだカモを躊躇なく殺す事を選んだ情け深い主人公が、魚を助け、蟻を踏まない様に気を付け、3羽の子ガラスが飢えないように自分が乗っていた馬を殺す。
もっと他に助け方あったんじゃない?
まあ、この売った恩が、後に主人公を助ける事になる。
完全に自業自得で姫と結婚出来るチャンスに飛びついた主人公は、助けた動物の助けによって姫と結婚する権利を獲得する。
行き当たりばったり過ぎる主人公の無計画さに絶句する所だが、本作のヒロインである「高慢ちきな姫」と結婚して王になるのだが、完全に姫の人間性より身分に価値を感じているあたりで、共感がし辛い主人公だ。
だが、この物語は、中々に良いオチが待っている。
この物語を読んだ人は「命のリンゴ」と言う謎アイテムを食べる事で、お姫様の気持ちが変わった展開を、どう解釈しただろうか?
ぶっちゃけ、これは「洗脳」である。
だが、待って欲しい。
よ~く、読み返して欲しい。
『ふたりはその命のリンゴをふたつにわけて、いっしょに食べました。 』
と言う文を読んで、気付いた人は気付いただろう。
洗脳的な効能によって、人が変わったのは姫だけではないのだ。
つまり、白へびを盗み食いし、カモを容赦なく殺し、子ガラスの為と言って突然乗っていた馬を殺して、高慢ちきな姫が美人だと言う理由だけで結婚しようとした主人公は、高慢ちきな姫と共に自らの無計画故に消えたのだ。
実は、この物語は「最低な主人公とヒロインが消えた」と言う意味で、真にハッピーエンドと言えるわけだ。
良く出来てるよね。
同系統の物語について
動物の言葉を理解出来る様になる事で、問題を解決する術を手に入れる物語は、世界中に存在する。
「ドリトル先生」は代表的だし、日本昔話には「ききみみ頭巾」と言う物語がある。
どれも、何らかの方法で「動物と会話が可能になる」と言う特技を手に入れた主人公が、がんばる物語だ。
良くある「聞耳頭巾」や「聞耳棒」等のアイテム式になると、それを使っている間だけあらゆる生物の会話が聞こえる様になる。
「ききみみ頭巾」では、植物の声も聞こえる様になると言う上位互換の設定だった。
アイテムのもたらされ方は、蛇、狐と言った頭が良いイメージの生物や、龍や鬼と言った神霊によって与えられたり、借りられたり、盗む事が多い。
この、アイテムによって特殊能力を得るタイプの物語と言う、より上位概念で物語を見ると、類似作品にジム・キャリーの名作コメディ映画「マスク」等も入ってくるようになる。
マスクでは、北欧神話のロキの力が込められた呪いの仮面によってスーパーパワーが得られていた。
比較して見ると、面白いだろう。
余談
タイトルの「白へび」は、正直微妙だ。
仮に、能力を使う為には白へびの力を借りたり、毎回白へびを食べないといけないなら、納得出来る。
しかし、この物語では白へびを一度食べたら、その能力は消える事が無い。
王様はくり返し食べていたというのに主人公は一口で良いのだから、その辺の設定はしっかりしておくべきだろう。
タイトルにある「白へび」が登場するのが、最初のほんの一瞬なのだ。
「スパイダーマン」のタイトルが「遺伝子操作蜘蛛」ぐらいの微妙さがある。



