目次
ファンタジー・ミュージカル・ブラックコメディ
ネットフリックス配信アニメ「ケンタウロスワールド」を最後まで見たので、感想をば。
想定外に、マジに名作だった件。
傑作!
ケンタウロスワールドとは?
登場キャラクターの一人グレンデール役を演じてもいる、監督兼原作者のメーガン・ニコール・ドング(Megan Nicole Dong)による、ミュージカルアニメーションである。
人間の世界とケンタウロスの世界の命運をめぐった、善と悪の戦いが一見して繰り広げられる、ちょっとブラックなファンタジー作品である。
シーズン1あらすじ
人間の世界から物語は始まる。
魔王が率いる異形の軍勢、ミノタウロス軍によって危機的状況にある、人間の世界。
軍馬のホースは、相棒のライダーと共に重要なアイテムを回収する任務中、ミノタウロス軍による襲撃に遭い、アイテムを持ったまま崖から転落してしまう。
絶体絶命の中で、光に包まれたホースが目を覚ますと、奇妙な場所で、奇妙な生き物達と出会う。
そこは、魔法が支配するケンタウロスの世界で、完全な異世界だった。
魔法の効果でホースは自分が人の様に言葉を喋り、人の様に振る舞える事に驚くが、ライダーと再会する為に、一刻も早く戦場に戻ろうと考える。
ケンタウロス達に話を聞くと、元の世界に戻るにはケンタウロスワールドに5人いるシャーマンに相談するのが良いと言う。
ホースはライダーと再会するため、ケンタウロスの仲間達と共に、虹の道を辿って元の世界に戻る為の旅に出発する。
ホースはライダーと再会出来るのだろうか?
シーズン1は、ある意味ホラー
本作は、5人の個性豊かなケンタウロスと共にケンタウロスワールドを脱出する為にホースが旅をしていく、旅物語だ。
構造的には「オズの魔法使い」を想像すると、イメージしやすいだろう。
ホースがドロシーで、ケンタウロス達がライオン、ブリキの木こり、カカシ、と言った具合だ。
そんな話のどこがホラーなのかと言うと、なんと、ケンタウロスワールドは、何らかの条件でケンタウロスワールドにいる人を、ケンタウロスワールド色に染めてくる性質を持っているのだ。
本作の面白い所は、人間世界とケンタウロスワールドで、絵柄も物理法則も、全然違う所にある。
スパイダーバースで様々なスパイダーマンが絵柄や作風を超えて同居した様に、人間世界はリアルな世界なのに対して、ケンタウロスワールドは荒唐無稽なのだ。
で、ホラーなのは、ホースが帰る為の旅の途中で、徐々に勝手にケンタウロスワールドに身体が毒され、リアルな軍馬から、徐々にビーチボールに手足が生えた様な丸みのある形状になり、人語を喋り、人の様な挙動が出来、たてがみはクルクルで、泣けば虹色の涙が流れ、尻尾は別人格を持ち、デフォルメが全体的に利いた上に、魔法まで使える、ケンタウロスワールド仕様に変異していってしまうと言う点である。
喋れるや、魔法が使えるのは便利だ。
だが、この見た目が勝手に変わっていくと言う恐怖は、ポップで可愛らしい変化にアニメーションを通していれば見えるが、冷静に考えてみると、滅茶苦茶怖い。
ビジュアルが勝手に変わっていく怖さが想像出来ない人は、朝起きたら虫になっていたと言うフランツ・カフカの「変身」を想像して欲しい。
全くの別物でなくても、現実に生きてて自分だけ2次元の漫画やアニメ風の見た目になってしまったら、周囲の人になんて説明すれば良いか悩むのは、なんとなく想像出来るのでは無いだろうか。
シーズン2あらすじ
シーズン1の旅を通してケンタウロスワールドの住人として変わり果てたホースだったが、人間の世界に戻れる様になり、ライダーとも再会し、ライダーにあるがままの姿を受け入れて貰い、種族を超えた深い絆を再認識する。
しかし、異世界のポータルを開いた事で、封印されていた魔王・虚無の王が復活し、ケンタウロスワールドと人間の世界は危機的状況に陥ってしまう。
そこで、ホースはケンタウロスワールドで虚無の王に対抗する軍勢を結成する為に残り、ライダーは人間の世界で虚無の王に対抗する為に危険を知らせる事を約束し、二人は再び別れる。
ホースはケンタウロスワールドをまとめ上げ、ライダーと共に虚無の王を倒す事が出来るのだろうか?
シーズン2は、ある意味、架空戦記
旅を終えたかに見えたホースだったが、今度は、共に戦場で戦う仲間を集める為に、ケンタウロスワールドの各所を巡る事になる。
シーズン1では帰る為と言う目標だったのに対して、シーズン2では強い味方を集める為に旅をし、行く先々で様々な問題を解決していく。
復活した虚無の王は様々な生物を融合させてキメラを作り、大勢のキメラ達を従えて人間の世界もケンタウロスワールドも手中に収めようと動き出す。
物語の進行途中は、ケンタウロスワールドでの仲間集めに苦心する一行と、虚無の王を人間の世界で調べ抵抗していくライダーの二視点で話が進み、最終決戦で両軍が虚無の王の軍勢を前に合流しての、大合戦に繋がっていく、かに見える。
しかし、そこはケンタウロスワールド。
合戦は思わぬ方向に展開が逸れていき、虚無の王と、真の黒幕を倒す事に成功し、物語は大団円を迎える。
正しくポリティカルコレクトネスが機能している、珍しい作品
本作は、ポリコレ的な要素があるが、そこに作品を面白く無くす要素は無く、むしろ作品の面白さに貢献さえしつつ、テーマとも完璧な合致をしていると言える。
ケンタウロスワールドは、正に手本とすべき、見本となる、これまでにあった大半のポリコレ作品が足を向けて寝られない傑作である。
ケンタウロスワールドは、完璧にポリコレを使いこなしている。
今まで見た事が無いレベルで、完璧な使いこなしだ。
世のポリコレを使った作品にこだわる人は絶対見るべきだし、世のポリコレ作品に名作無しと思っている人にも見て欲しい。
ポリコレ要素があっても、名作は作れる。
これまでの作品が、ポリコレの使い方が下手だった証明が、この作品の存在と言える。
一貫した、テーマとメッセージ
本作には、面白い仕掛けが、いくつもある。
まず、人間の世界とケンタウロスワールドだ。
人間の世界は、見た目に整っていて、アニメの絵だが、ケンタウロスワールドに比べると写実的だ。
一方でケンタウロスワールドは、見た目に子供向けのカートゥーンの様で、記号的と言える。
次に、ケンタウロスワールド内で、様々な動物の特徴を備えたケンタウロスを通して、様々な表現を自然に入れ込んでいる。
要は、動物をモチーフにする事で、動物の備えたイメージや特徴を持ったキャラクターを大量に自然に登場させているわけだ。
この相反するテイストの2つの世界と、ケンタウロスワールド内の多様なケンタウロス達が接触し反応し合う事で、ヘテロセクシュアルとLGBTQとか、多様な人種や性別、性格等によって起きる様々な問題を間接的に描写している。
その際、一貫して本作は、正しく多様性を受け入れる事によって世界は良くなり、多様性を否定したり受け入れを拒む先に待つ事で世界は住みづらくなる事を、メタファーを通して描き出そうとしている。
虚無の王と姫、ホースとライダー、それぞれの親愛
本作の大仕掛けの一つが、ラスボスである虚無の王と、人間の姫の恋物語に始まる悲劇だ。
ここは、特に物語の核心に触れるので、作品をネタバレ無しで楽しんで見る気が少しでもある人は、注意。
昔、実はケンタウロスワールドと人間の世界が繋がっていて、交易していた時代があった。
虚無の王は、元々は鹿のケンタウロスで、世界を繋ぐポータルの管理者だった。
ある日、彼は人間の世界の姫と恋に落ちる。
しかし、人はケンタウロスを差別していて、姫とケンタウロスが結ばれる事は、社会の目が許さない。
そこで、彼は、自分に魔法をかけ、ケンタウロスを人と鹿の二人の自分に分離してしまう。
人は姫と結婚するが、鹿の方も姫を愛していた。
鹿が人の自分に元に戻っても姫は受け入れてくれるかもと相談に行くと、人の自分は姫を失いたくない思いから、鹿を幽閉してしまう。
鹿は長年の幽閉生活で狂い、身体は腐り落ちるが、どちらかが生きている限りは苦しみを共有しつつも生命も共有していて、死ぬ事も出来ず、呪われた存在になってしまう。
虚無の王となった鹿は、人の自分と一つに戻る事より、世界の破滅を望む様になり、あらゆる生き物を融合させてミノタウロス軍団を作り、世界を戦乱の渦に巻き込む。
しかし、姫への愛は消えておらず、虚無の王は次元の狭間へと封印されて、物語の始まり時点に至る。
ホースとライダーが探す事を命じられた特殊なアイテムはポータルの鍵で、それを命じ手に入れようと狙っていた将軍こそ、人間の世界から姿を消した姫の結婚相手で、全ての黒幕、虚無の王の半身と言うどんでん返しが待っている。
作品全体が終始コミカルでブラックなノリながら、虚無の王と姫のロマンスは真面目でおふざけは無く、姫の種を超えた純愛と、愛した相手が闇堕ちし止めなければならない苦悩は、シリアスだ。
この、ケンタウロスと人、被差別民と差別民、庶民と王族、と言う、誰の目にも許されない大恋愛が、人種の違い、性別の違い、立場の違い、と言った物のメタファーとして機能し、作品全体を通して、とても強いメッセージを発信している。
圧倒的な上位者と言う立場の姫は、誰の目も気にせずにあるがままを愛し合う事を望む。
しかし、圧倒的な下位者と言う立場の鹿ケンタウロスは、周囲から自分や姫に向けられる視線を恐れ、そんな目で見られない様に自分を大改造し、あらゆる過去を封印して世間が望む姿で生きる事を決意する。
だが、その結果、嘘によって鹿ケンタウロスは人間世界の将軍となり、姫と結婚までするが、切り捨てた過去が延々追いかけてきて、最後は全てを失ってしまう。
一方で、ホースはライダーの事を種族を超え親友として愛し、ケンタウロスワールドによって軍馬からみょうちくりんな馬に変えられてしまったが、姿形が変わってしまってもホースはライダーに受け入れられ、最終的にライダーは人間の世界を捨てケンタウロスワールドでホースと共に暮らす事を選び、ホースの様に身体がケンタウロスワールド色に染まっていく事さえ受け入れる。
この2組は、それぞれ種を超えた情愛で結ばれた存在として描かれ、結末の違いは、見た目の差を受け入れたか否か。
それも、所属したい世界の人と違うと言う事を受け入れるべきは、他人では無く、まずは、本人と言う事だ。
虚無の王は、人間の世界に所属したくて、無理やり人間になる事を選び、破滅した。
ホースは、最初は人間の世界に所属したかったが、ライダーに受け入れて貰った事でケンタウロスワールドも受け入れる事が出来、人の世界も救い、どちらも選べる状態で最終的にはケンタウロスワールドにライダーと共に残る事になり、幸せを勝ち取った。
マイノリティである場合、他人に受け入れて貰う事が大変な様に思えるかもしれない。
だが、本作では、マイノリティとなった場合は、一貫して、”まず” あるがままの自分を自分で受け入れ、そんな自分を受け入れてくれる群に所属する事こそが幸せに繋がると訴えている。
作品内では、マイノリティとなり、他人に受け入れて貰えないケンタウロス達も描かれ、その場合も一貫して、あるがままの自分を受け入れてくれる群を探し、自分を自分が認める事の大切さを説いている。
このメッセージは、過度な説教臭さは無く、笑いと切なさが常に意識され、綺麗にエンターテインメントに溶け込んでおり、見ていると誰でも自然と受け取る事が出来る様に配慮されている。
登場キャラクター
人間の世界メイン
- ホース:人間の世界でライダーの相棒の軍馬で、主人公。性別は女性。強く勇敢だが、ケンタウロスワールドから帰るために旅をするうちに、身体が変化していき戸惑う事に。固有魔法は、ジョークを言う尻尾と、他人の中に入って過去の記憶を見る事で、他人に入っている間は入られる人は停止してしまう。
- ライダー:ホースの相棒の少女で、優秀な戦士。将軍に命じられ、謎のアイテムを集める任務についていた。
ケンタウロスワールドメイン
- ワマウィンク:アルパカのケンタウロス。群のリーダー。女性。ダンディな人魚の産卵同人誌を密かに描いている。幼い頃に村をミノタウロス軍に滅ぼされた過去があり、家族を守る事に固執している。固有魔法は、球状の魔法障壁。
- ダープルトン:キリンのケンタウロス。男性。穏やかで優しいが、どこかズレた所がある。固有魔法は、首を伸ばせるのと、身体の柄を変える事が出来る等。後に、グサーリの養父となる。泳げない。
- グレンデール:ジェレヌクのケンタウロス。女性。原語版では監督が声優を務めている。窃盗癖がある。固有魔法は、腹の収納ポータルで、何でも入れる事が出来て、盗品を溜め込んでいる。脱獄や自己啓発セミナーを主催する等、謎の才能がある。
- ズリアス:シマウマのケンタウロス。男性。ナルシストで、ショービジネスに精通している。固有魔法は、髪の毛を自在に形を変えて操れると言う物と、自分は動けて自分以外にダメージが入る時間停止。
- チェド:小鳥のケンタウロス。男性。喧嘩腰で口が悪く、馬のケンタウロスに恨みと憧れを持っている。固有魔法は、8秒だけ顔のみイケメンになれる。実はズリアスの事が……
ケンタウロスワールドのシャーマン達
ケンタウロスワールドに5人いると言われるシャーマン。
- ウォーターベイビー:カバのケンタウロス。ワマウィンクの友人。固有魔法は、変身とワマウィンクと色違いのシールド。シーズン2でも大活躍。
- ツリーシャーマン:双子の木のケンタウロス。固有魔法は、本当の願いを望まない形で叶える。
- ジャケット裁判長:ホシバナモグラのケンタウロス。裁判長でもある。ジョークが好き。
- ジョニー・ティータイム:猫のケンタウロス。ティーカップに入っていて、見た目は可愛い。固有魔法は、空中浮遊と目からビーム。
- クジラタウロス・シャーマン:クジラのケンタウロス。いつも涙を流している。固有魔法は、体内に空間があり、そこでディナーショーが繰り広げられている。
ケンタウロスワールドの住人
- ジェブリー:イチジクの木のケンタウロス。ずっと盗まれたジャケットを探している。
- クマタウロス:熊のケンタウロス。歴史学者で、フィギュア制作が趣味。
- なぐさめのダグ:モグラのケンタウロス。実は影の主役。
- スプレンディブ:虎のケンタウロス。コンテストのチャンピオン。後にズリアスと付き合う事に。固有魔法は、ズリアスと同じ。
- マンボウ人魚:マンボウのケンタウロス。本名の発音が難しい。ジェフィカと言うアルパカのケンタウロスと付き合っている。
- グサーリ:原語版ではStabbyと言う名前で、ナイフなどで刺すと言う意味。名前の通り、背中にナイフが刺さったトカゲのようなミノタウロス。本名はフィリップ・J・ボーンクランチ。シーズン2でダープルトンによって義理の息子として無理やり同行させられる。
- マランジェラ:馬のケンタウロス。やばい貴族。シーズン2で登場
- マウスピース:ペリカンのケンタウロス。ホース達の旅を密かに見守っていた一人で、なぐさめのダグの大ファン。シーズン2で登場。
- クランディ:鳥のケンタウロス。インフルエンサー。シーズン2で登場。
- コールドタウロス:雪の世界の生き物のケンタウロス達。シーズン2で登場。
人間の世界の住人
- 将軍:人間の軍を率いる指揮官。髭のイケメン。シーズン2で登場。
- ベッキー・アップルズ:将軍からライダーに与えられた、ホースの代わりの馬。恐ろしいぐらい有能だが、凄さのベクトルが軍馬では無くアサシンとか、そっち。シーズン2で登場。
- ミノタウロス:半獣の存在。虚無の王によって人と生物が合成されたキメラ。
重要キャラ
- 虚無の王:鹿の頭骨の様な、巨大なクリーチャーでミノタウロス軍を率いる封印されし魔王。ラスボス。
- 謎の女/人間の世界の姫:虚無の王を封印した魔法使いで、行方不明の人間の世界の姫。今でも虚無の王の事を愛している。固有魔法は短距離テレポート。
終わりに
本当に面白かった。
個人的に、爆笑シーン満載だったし、どのキャラも甲乙つけがたいぐらい最後は好きになっていた。
グレンデール、ダープルトン&グサーリ、なぐさめのダグ、辺りは、マジで大好き。
まずビジュアルで見ない判断する人多そうだけど、そりゃ、勿体無さ過ぎる。
ミュージカルに対して好き嫌いあるけど、これは、ミュージカルが多少苦手な人でも結構楽しめると思う。
ホースが、ミュージカル嫌がりながら、徐々にケンタウロスワールドに染まって抗えなくなっていく苦悩とか、本当に笑えるから。
OPの「ケンタウロスワ~ルド、わ~(ペチッ)」も、段々癖になってくる。
と言うか、蹄から生まれる小さな分身が、速攻で発狂したり、まさかの利用法とかメタなツッコミとか、もう、何が何やらって感じで、攻めてていいよ。
大団円だし、最終話のエンディングも最高。
超おススメ。
アドベンチャータイムとか好きな人なら、かなり高い確率でハマれる。
2シーズン全18話で綺麗に完結しているのが、短く惜しく感じるよ。



