タイトル通り「リアルな肌の着色術」に絞りきった良書
今回は、献本を頂いた書籍の書評。
端的に感想を言えば、お世辞抜きに凄い内容であった。
リアルな肌の着色術
上路市剛 (著), 藤田 祐一郎 (その他), 山田 優花 (編集)
顔に、自然な質感を。
特殊メイクの表現力で、CGキャラをアップデート!
リアルなキャラクター制作において重要なのは、人間の肌の色を理解し、それを自然に表現することです。
人間の肌の色とは、いったいどのような色なのか。
肌の色を構成する色素や光の反射などの「科学的観点」と「色彩学」から分析し、
特殊メイクの技術を組み合わせた着色方法を、Substance 3D Painterを使ったデジタルと、
絵具を使ったアナログの2つの手法で解説します。
本書を読めば、ワンランク上のキャラクター制作ができるようになり、
キャラクターによって様々な肌の色を表現できるようになります。
【ダウンロード特典】
Substance 3D Painterで使用できる実際のブラシデータ、全レイヤー付きフェイスデータ
著者について
上路 市剛
1992年大阪生まれ。2015年京都教育大学教育学部美術領域専攻卒業。
ハリウッドの技術を応用したリアリズム彫刻を主軸として作品を展開し、国内外で活躍。近年は「受肉/Incarnation」(Gallery MUMON、東京、2023)、「Border2.0」(GALLERY EN ウォール、京都、2022)などの個展を開くほか、北京や香港、シンガポールをはじめとした国外のアートフェアにも参加している。アーティスト活動と並行して、作品作りで培われた技術を教える塗装・義眼・彫刻セミナーなど、多数の講義を実施中。
- 出版社 : ボーンデジタル
- 発売日 : 2023/7/30
- 単行本 : 144ページ
- ISBN-10 : 4862465617
- ISBN-13 : 978-4862465610
- 寸法 : 25.7 x 18.2 x 1 cm
目次
- 第1章 肌の色の色彩学……6
- 第2章 肌の色の分析―科学的アプローチ―……16
- 第3章 混色シミュレーション……24
- 第4章 着色の実技:デジタル版……34
- 第5章 着色の実技:アナログ版……92
- 第6章 「透明感のある自然な表現」の美術史……128
リアリスティックに、人の顔の肌を塗る方法
本書は、人の顔の肌を、超リアルに色を塗る為の方法が、使うツール、考え方、やり方に至るまで基礎の基礎から完成に至るまで、デジタルとアナログの両方で用意されたハウツー本である。
人の顔の肌を、本物に見える様に塗るにはどうすれば良いか。

これだけを潔く突き詰めた内容は、かなり尖っている上に、内容自体も選択・整理が行き届いていて、書籍としての完成度が非常に高い。
どこまでも理論的に、学術的に、科学的に
本書の読む前の勝手なイメージは、完成形のリアルな肌感を出す為には、プロはどういう工夫をしているのか、そんなハウツーでも載っているのかと思った。
悪ければ創作現場で積み上げられた名も無き常識集、良くて芸大で教えられる基本技法集的な側面があってもおかしくないと構えて読み始めたが、内容は驚くぐらい理論的で学術的で科学的で、手癖や個人の感覚を出来るだけ廃し、誰でもステップを丁寧に踏んで、やり方を受け入れて行けば再現出来るまでに噛み砕かれ、ハウツー本の作りとしては、かなり良質な部類と言える。
その上で個人的に、絵を描く感覚との差があって驚いたのが、理屈に裏打ちされた色の置き方や重ね方の考え方の、実践への落とし込み方だ。

本の中でも説明があるが、欲しい色を作るには、欲しい色になる様に、様々な方法で色を混ぜていく必要がある。
デジタルの場合は、数字を指定すれば欲しい色が分かっていれば瞬時に呼び出せるし、カラーパレットやスライダーでも色を自由に選べる。
多くの着色術本では、アプローチとして感覚や業界的に良いとされる色を指定して教えてくれる事で、それを言うとおりに置けば欲しい色や質感を作れるなんて物ばかりの印象がある。
しかし本書では、グリザイユ、グレージング、並置混色、捕色対比、暖色・寒色・中性色、色彩学、科学的肌色の正体分析による色素と反射、虹彩、等までを考え抜いた上で、科学的に人の目が本物と誤認出来るリアリティを肌の塗りに乗せると言うアプローチが取られており、イメージするなら、CMYK4色で刷られた単色の色レイヤーを重ねる事で、フルカラー印刷の色を導き出すのに近い手法を、デジタルでもアナログでも、人力でやってしまおうに近い手法が紹介されている。

理論的には分かるし、3原色を重ねたり並べたり混ぜて色を作ったり、ドットを並置混色で打つ事までは感覚的にも分かる部分がある。
だが、ある種のフルカラー印刷を手動で、レイヤー毎に、出力する的なアプローチを高いレベルで解説している書籍は私は初めて見たので、読んでいて素直に「マジですげ~」と感じたし、それを人の顔を塗ると言う切り口で分かりやすく解説しきっている点でも「ほえ~すげ~」と思った。

目次を見ると分かるが、前半(4分の1程度)の理論やツールの解説と後半の実践解説、オマケの美術史で構成されている本書だが、リアルな肌の着色に興味が無くても、前半部分だけでも読んで欲しいぐらいに内容が有用かつ充実している。
凄く良い。

ダウンロード特典のSubstance 3D Painterで使用できる実際のブラシデータ、全レイヤー付きフェイスデータだが、これは誰でもDL出来て確認出来るので、出来れば確認して欲しい。
中にPNGファイルがあり、Substance 3D Painterが無いアナログ勢でもPCやスマートフォンがあれば普通に画像を閲覧できると思うが、どんな風にレイヤーを分けて塗っていく説明が本書内でされるのかが、なんとなく完成品の付属物を見る事でイメージ出来る筈だ。
本書を読まずに見ても、なんのこっちゃだろうが、どういうアプローチを解説した書籍かは分かる筈だ。

これに、それぞれ色がついて、重なって、ドーンで、超リアルな人の顔の肌の塗りの完成である。
これを見ると「こんなの出来るかな?」「は?」「難しくない?」「自分に使えるの?」と尻込みするかもしれないが、それを出来る様に分かりやすく解説しているのが本書の中身だ。
本としての評価は?
本体価格3,300円、定価3,630円。
確認時は、電子書籍版は3,449円と、少しだけお得だった。
144ページで、内容の有用さと、大量の図版を考えると、十分値段相応の本と言えるだろう。
キャラクターの肌を超リアルに塗りたいと言う人であれば、お値段以上の価値が間違いなくある。
ただし、超リアルなライフマスクや人形、あるいは絵、CGモデル等の用意は、最終的には自分でしなければならないので、その点では注意が必要だ。
本書が提供してくれるのは、尖った部分では人の顔の肌をリアルに塗るテクニックの開示と伝授、汎用的な部分では肌の塗り方や色の作り方や向き合い方であり、表紙にある様な顔を「さあ塗ろう」と思ったのに、そちらが用意出来ないと塗る対象を探すのが難しいなんて事になりかねない。
また、当然の事だが、扇形の筆とエアブラシに加え必要な色の絵の具か、Substance 3D Painterに類するソフトウェアを持っていないと、やはり実践出来ないので、その点は用意がある前提か、用意する覚悟を持って挑もう。
読むだけで面白い内容だが、明らかに初心者向けの本ではなく、帯風の表紙デザインにもある通り「特殊メイクの表現力でCGキャラをアップデート」とある様に、キャラクターの肌の塗りをリアル寄りにアップデートしたい人向けの二ッチな本と言える。
その需要にマッチした人であれば、間違いなく幸せになれるだろう。
このレビューが、本書の購入する際の参考になれば嬉しい限りである。
本書発行元リンク:株式会社ボーンデジタル(リンク先にDLデータあり)



