まったく、これだから嘘つきは
私は、電話があまり好きでは無い。
0120からの電話なら、平然と無視する事もある。
携帯電話の着信に番号ならまだしも、非通知と表示されたら出る事は無い。
そんな私の所に、同じ番号から何度も電話がかかってきた。
0120始まり。
あまりにもしつこい為、根負けして出てしまった。
これが、そもそもの間違いだった。
私「もしもし」
相手「○○様のお電話で間違い無いでしょうか?」
私「はい……」
相手「実は、○○様がご契約のインターネット回線がお安くなる事をお知らせしたくお電話を差し上げました」
私「はぁ……」
営業電話だな、とすぐに分かった。
感じの良い若い男性の声が、丁寧に営業を始める。
相手「この度、ご契約されている回線を取り扱っているキャリアとプロバイダーの方で変更があり、お客様の使っている契約内容が変わり、プロバイダー料金を抜いた1500円ほど安い金額での提供になりました」
私「はい? どういう意味ですか?」
相手「はい、お客様の方では今まで通りお使い頂いて、料金が今後安くなると言う事をご契約者様に認識して頂く為の、今回のお電話となります」
私「よくわからないんですけど、何もしなくても勝手に1500円安くなると言う話の認識で正しいですか?」
相手「はい、お客様は何もする必要はございません」
この時、私はインターネット回線を契約しているキャリア側の方で提供しているサービスの契約内容に変更でもあったのかと勘違いをさせられた。
相手が伝えて来た情報は「今まで払っていたプロバイダー料金を払わなくてよくなった」「私は何もしなくてもよい」「勝手に1500円安くなる」「今まで通りインターネットが使える」と言う事しか伝えて来なかったからだ。
私「そうですか」
相手「つきましては、インターネットのルーターだけ交換する必要がありますが、それは業者がお伺いして30分程度で設定まで終わります」
私「あ、そうですか」
相手「お時間は大丈夫でしょうか?」
私「あ、まあ、はい」
相手「では、10分以内に業者の方から電話が行きますので、引き続きご対応頂ければと思います。○○の○○(会社と担当者名)がお電話差し上げました」
マニュアル通りの丁寧な営業電話が切れると、すぐに業者から電話がかかってきた。
私「はい、もしもし」
相手2「○○(さっきの会社)からご依頼を受けました。○○様のお電話でお間違い無いですか?」
私「はい」
声質が違うが、また若い男性だ。
丁寧な案内が始まると、私は徐々に引っかかりを覚え始めた。
相手2「工事の件ですが、いつがご都合がよろしいでしょうか?」
私「工事!?」
相手2「1ギガから2ギガの光回線に変えるのに、工事をする必要があるんです。料金はかからないので、その点はご安心ください」
私「は、はあ」
回線の速度が速くなって、安くなるなら、まあ良いかと思いつつ、話を聞く。
相手2「プロバイダーの変更に当たって、お客様の方でしがらみはございませんか?」
私「は? な、無いと思いますけど」
相手2「それなら良いんです」
私「ちょっと待って! しがらみって、逆にどんなパターンがあるの?」
相手2「ご家族やお知り合いにキャリアの関係者様がいる場合は、キャリア変更で問題が発生する事が」
私「キャリア変更!? プロバイダーでしょ!?」
相手2「いえ、ですが、無料で回線が早くなるご案内ですので、しがらみが無ければお客様には不都合は無いかと」
確かに、まあ、その通りなのだが、釈然としない。
一個前の電話は、情報を伏せていた部分が多々あるし、嘘をついて次の電話にリレーのバトンをまわしているのは、間違い無い。
電話口の担当者に自覚がどこまであるかは知らないが、客も自分も得をする為には嘘は必要悪だと思っている奴が仕切っているのは間違いない。
この時点で、私の中で営業電話をしてきたプロバイダー会社への心証は良いとは言えない。
だが、1500円毎月安くなり、回線が早くなると言う情報は、魅力的である。
相手2「問題無ければ工事の日取りを決めたいのですが」
私「……じゃあ、今月の〇日は?」
相手2「はい、大丈夫です。お時間は?」
私「……〇時の都合がいいです」
相手2「はい大丈夫です。あ、最後に、無料工事は2ヶ月無料のサービスパックのお試しをして頂く事と引き換えなので、そちらは工事終了後に解約のお電話をしてください。引き続き、別の者がお電話を差し上げるので、ご対応頂ければと思います。この度はご丁寧なご対応ありがとございました」
私「え!?」
無料工事の為には、スマートフォンに要らないアプリをインストールする代わりに安くする方式みたいな無用なサービスとの一時契約がついて来ると後出しで言われ、また電話を待つ。
釈然としないが、電話一本かけるだけらしいしと、電話を睨んだ。
すぐにかかってくるので出ると、当然だがまた別の若い男性が出て来た。
相手3「最終確認となります。〇日の〇時に工事業者がそちらに伺います。1日目の工事を終えた段階で業者の担当者の方と2日目の工事のご相談をお願いします」
私「待って! 一日で終わらないの!?」
相手3「はい。2日目の工事が終わって1週間以内に回線が完全に切り替わります。無料工事特典を受ける為のサービス入会の取り消しは、工事終了後、月をまたいでからお願いします。プロバイダー変更の必要書類はお送りしてから2ヶ月以内にご返送をお願い致します」
3回目の電話はあっさり切れた。
この時、電話が終わって湧いてきたのは、料金が安くなる事やネットがどうやら早くなる事への喜びなどでは無い。
1本で済みそうな電話を3本に分けている体制、情報を小出しにし、いざとなれば全体として平然と嘘をつく姿勢に憤りしか湧いてこない。
そして、契約を確保すれば、後は別の者にパスと言う丸投げをするだけで、役割をこなしているが、誰も責任を感じてさえいない。
生き残り戦略なのは分かるが、私はこんな事しているプロバイダーに最後まで生き残って貰いたいとは思わない。
嘘をつく以上、自動音声より質が悪い。
電話を3回に分けているのも、前の担当者に文句を言おうが現担当者に文句を言おうが「自分の管轄外」と言えば嘘では無いと言えると考えているのが透けて見える。
確かに、「2回の工事」と「2ヶ月以内の契約書返送」と「月をまたいでの解約電話」といった自分でやる事を最初から明かされていたら、面倒に思って契約しない人は相当いるだろう。
そこで編み出した情報の小出し戦法なのだろうが、それを良しとする企業の姿勢が、後になって自分達の首を絞める事を経営陣は理解すべきであると言わざるを得ない。
私はこのちっぽけな憤り体験をしながら、プロバイダー会社(が直接やってるとは限らないが)もやってる事は魔法少女まどかマギカの「きゅうべえ」と変わらないなと思いつつ、きゅうべえの営業戦略は現実にも通用するものだと身をもって思い知ったのだった。
きゅうべえ的姿勢で営業に励んでいる人達には、
こちらの映画で、きゅうべえの末路を他人事では無く見届けて欲しい。