連載漫画1話目比較「ヒカルの碁」「DEATH NOTE」

構造で見る漫画のテクニック

映画脚本では、ハリウッド流のパラダイムに沿って作れば大きな間違いは起きないかもしれない。

だが、脚本と小説が別物であるように、漫画と言う表現形態もまた、別物である。

しかし、メディアが違っても、同じ物語を描く媒体である事に変わりはなく、漫画には漫画独自のパラダイムが存在している。

今回は「ヒカルの碁」「DEATH NOTE」と言う2作の有名作品を、パラダイムで比較し、その中で使われているテクニックを紹介していく。

予告をしていた「パワーのない主人公がパワーのある相棒と出会う系」の作品となる。

各作品のAmazonリンクを設置しておくので、単行本が手元にない人はサンプルを利用して実物を見ながら見ると、より分かりやすくなるはずだ。

もちろん、手元に単行本がある人は、それを見るのが手っ取り早いだろう。

ヒカルの碁(1999)

日本中で囲碁ブームを巻き起こした大人気作品。

囲碁界最強と言われた幽霊に取りつかれた少年が、囲碁の世界に足を踏み入れる物語。

ページ 起承転結 三幕構成 パラダイム サブパラダイム ページ開き コマ数 内容
1 1幕 プロローグ、これからどうなる 切欠の時 4 これなんかいいんじゃないか
2           見開き
3           見開き
4     プロローグ 切欠の時 4 いーのいーの
5     プロローグ 切欠の時 6 血のアト
6     プロローグ 悩みの時 7 私の声が聞こえるのですね(相棒)
7     プロローグ 悩みの時 3
8     プロローグ 悩みの時 4 現世に戻る
9     プロローグ 悩みの時 5 誰だお前
10     日常の時   4 う~
11 1幕 切欠の時   6 ほう、歴史の問題ですか
12     悩みの時   6 さい、変な名前
13     悩みの時   4 回想、平安、囲碁(特技)
14     悩みの時   6 どっちが勝ったのさ
15     悩みの時   6 ズルしたんだ
16     悩みの時   5 そなた今
17     悩みの時   6 見苦しい静まれ
18     悩みの時   4 私は負けました
19     悩みの時   4 じゃあおまえは幽霊みたいなモンか
20     悩みの時   5 なぜなら私はまだ
21     悩みの時   4 神の一手を極めていない(プロットポイント)
22     悩みの時   3 はう
23     悩みの時   4 おべ
24     悩みの時   5 はぽお(リスク)
25     決意の時   6 わかったよ
26 2幕 試練の時   5 勝手に話しかけるなっつーの
27     試練の時   4 ジーちゃんに勝ったら千円くれる?(悪用)
28     試練の時   5
29     試練の時   6 さっはじめようぜ
30     試練の時   5 でもじーちゃんそんなに強ーの
31     試練の時   7 ハンデなんかいらねーよ
32     試練の時   4 そんなに嬉しいのか
33     試練の時   7 サイ、はい
34     試練の時   9 あっちゃ
35     試練の時   6 半年後にまたこいや(失敗)
36 1幕 切欠の時   5 悪かったな
37     悩みの時   6 なあサイ
38     決意の時   5 ハア
39 2幕 試練の時   6 ほあ
40     試練の時   6 プロ
41     試練の時   6 石取りゲーム
42     試練の時   6 あらあかりちゃん
43 1幕 切欠の時   6 弱い者いじめ
44     悩みの時   6 慈悲の無い
45     悩みの時   4 もう我慢できません(プロットポイント)
46     決意の時   5 まかせろよ
47 2幕 試練の時   7 失礼をば
48     試練の時   7 キャー(ミッドポイント)
49     エピローグ   6 サイって知ってる?
50     エピローグ   5 囲碁の歴史上一番強い人は
51     エピローグ   3 江戸時代の本因坊秀策(クライマックス)
            計258、平均5  

基本的に、切欠、悩み、決意、試練のパートを繰り返す事でテンポ良く進む構成の1話目。

嫌われる性格設定のヒカルと言う未熟なキャラクターを成り立たせる為に、サイと言う強烈な魅力のあるメンターが相棒となり、導く事で読者の離脱を抑えている。

クライマックスにサイの正体と、その真の実力を示唆する描写を入れる事で読者に期待をさせるが、それを主人公が知らずにいる事で物語を上手にコントロールしているのも重要なポイントだ。

DEATH NOTE/デスノート(2003)

世界中で大ヒットし、国外でも映画化を果たした大人気作品。

死神のノートを巡る、天才達の勝負が見所。

 

ページ 起承転結 三幕構成 パラダイム ページ開き コマ数 内容
1 1幕 プロローグ、これからどうなる 2 死神界、人間界
2         見開き
3         見開き
4     プロローグ 5 デスノート落としちまった
5     プロローグ 5 げかい
6     プロローグ 2 壮絶な戦いが始まる
7     切欠の時 7 ノート
8     切欠の時 6 デスノート
9     切欠の時 4 ははは(特技)
10     悩みの時 8 くだらない
11 1幕 日常の時 7 5日後
12     日常の時 7 欲しい物は手に入った
13     切欠の時 8 気に入っている様だな(相棒)
14     切欠の時 4 死神
15     決意の時 7 死神か
16     決意の時 7 待ってたよリューク
17     決意の時 7 俺はおまえに何もしない
18     決意の時 6 僕の物
19     決意の時 3
20     決意の時 6 代償って何もないんだな
21     決意の時 7 死んでからのお楽しみだ(リスク)
22     決意の時 7 何故落とした
23     決意の時 4 退屈だったから
24     決意の時 7 こっちにいた方が面白い
25     決意の時 8 退屈だったから
26     決意の時 7 待てよ(回想)
27 2幕 試練の時 6 殺しても良い人間
28     試練の時 8 やっぱり何も起きない
29     試練の時 8 死亡!?
30     試練の時 6 偶然て事も
31     試練の時 6 殺してみるか?
32     試練の時 4 まったく
33     試練の時 6 シブタク
34     試練の時 4 事故死
35     試練の時 6 どうなる!?
36     試練の時 1 ゴシャ
37     試練の時 6 本物だ(ミッドポイント)
38     試練の時 6 二人殺した
39     試練の時 7 世の中腐ってる
40     試練の時 5 精神力
41     試練の時 8 世の中を変えてやる(回想終了)
42 1幕 決意の時 5 なるほどね
43     決意の時 6 世の中にしらしめるんだ
44     決意の時 6 僕は
45     決意の時 3 新世界の神となる(目的)
46 2幕 危機の時 3 某先進国
47     危機の時 3 この事件、いくら私でも警察の手を借りないわけにはいくまい(ライバル)
          計254、平均5.4  

主人公と相棒の出会いの間に挟まれる回想の中で「試練の時」を描き、コラ画像等でも有名な「シブタクの事故死」と言う派手なミッドポイントシーンを入れる事で物語を盛り上げつつ、本当に描きたい「天才同士の戦い」に至るまでの準備を済ませてしまう第一話。

シーンとしては、学校→自室→回想→自室→ライバル側と言う場面の切り替えで進み、実は殆ど自室から動いていないのだが、回想やライバルLの登場によって場面に変化があって飽きない作りとなっている。

2作比較

ページ 「ヒカルの碁」 「DEATH NOTE」
1 切欠の時 プロローグ、これからどうなる
2    
3    
4 切欠の時 プロローグ
5 切欠の時 プロローグ
6 悩みの時 プロローグ
7 悩みの時 切欠の時
8 悩みの時 切欠の時
9 悩みの時 切欠の時
10 日常の時 悩みの時
11 切欠の時 日常の時
12 悩みの時 日常の時
13 悩みの時 切欠の時
14 悩みの時 切欠の時
15 悩みの時 決意の時
16 悩みの時 決意の時
17 悩みの時 決意の時
18 悩みの時 決意の時
19 悩みの時 決意の時
20 悩みの時 決意の時
21 悩みの時 決意の時
22 悩みの時 決意の時
23 悩みの時 決意の時
24 悩みの時 決意の時
25 決意の時 決意の時
26 試練の時 決意の時
27 試練の時 試練の時
28 試練の時 試練の時
29 試練の時 試練の時
30 試練の時 試練の時
31 試練の時 試練の時
32 試練の時 試練の時
33 試練の時 試練の時
34 試練の時 試練の時
35 試練の時 試練の時
36 切欠の時 試練の時
37 悩みの時 試練の時
38 決意の時 試練の時
39 試練の時 試練の時
40 試練の時 試練の時
41 試練の時 試練の時
42 試練の時 決意の時
43 切欠の時 決意の時
44 悩みの時 決意の時
45 悩みの時 決意の時
46 決意の時 危機の時
47 試練の時 危機の時
48 試練の時  
49 エピローグ  
50 エピローグ  
51 エピローグ  

比較すると、構成が違う部分もあるが、基本的に「切欠」から「試練」の流れを繰り返す事でサクサクと物語が進んでいるのが分かる。

ちなみに、作画の小畑健先生は、「人形草紙あやつり左近」「ヒカルの碁」「DEATH NOTE」「BLUE DRAGON ラルΩグラド」「バクマン。」「プラチナエンド」と、原作者が違っても魅力的なバディものを描く事が多い。

超絶画力を見ていると、小畑先生本人が強力な相棒側のポジションに見えてくる。

終わりに

そして、今回の「パワーのない主人公がパワーのある相棒と出会う系」の物語まで見てきた。

ジャンプの人気漫画を中心に、20作品ほど扱ってみたが、面白い漫画には面白い漫画なりのパターンがある事や、連載漫画の1話だからこそ出来る手法なども見いだせたかもしれない。

そのまま自分の作品に適応したり、全てを参考にする事は出来ないと思うが、ヒット作に含まれたエッセンスを少しでも摂取する助けになれば本望だ。

20作品を横並びにエクセル等で見る事で、見えてくる物もあるかもしれない。

ジャンルが違っても、物語のパラダイムとして見ると共通点がある為、1幕の長さの目安や各パラダイムのテンポを掴むのにも役立つだろう。

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