既存作品分析

【勝手に】「竜とそばかすの姫」が抱えている8つの問題を解説します。

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どうして「竜とそばかすの姫」は、雰囲気アニメになってしまったのか?

アマプラ追加されたので見ようと思ってて、ようやく見ました。

ツッコミどころが多い作品だったので、どうして、そうなってしまったのかを客観的に解説する。

竜とそばかすの姫(2021)

<内容>

自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴(すず)は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。母の死をきっかけに歌うことができなくなっていた。曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、<As(アズ)>と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けた<As>としては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。数億の<As>が集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に–。

1:尺に対し詰め込み過ぎ

本作は、、

  • 事故で母を亡くした少女の再生

に加え、

  • 突然、力を手にしてしまった一般人(一種のヒーロー)

もプラスし、更に

  • 美女と野獣

を大半の構造とモチーフに使っている。

完成品の基本構成としては、

  1. 事故で母を亡くした少女の再生
  2. 突然、力を手にしてしまった一般人(一種のヒーロー)
  3. 美女と野獣
  4. 突然、力を手にしてしまった一般人(一種のヒーロー)
  5. 事故で母を亡くした少女の再生

と言った感じで入れ子構造となっていて、一番外側が主題で、中に行くほど副題となる。

つまり、事故で母を亡くした少女が、トラウマを抱えたまま生きていたある日、突然力を手に入れてしまい、その最中で竜と出会い、竜を救う中で母を亡くしたトラウマを克服するまでの話と言える。

物語の芯の部分はシッカリしているのだが、問題となっているのは、入れ子構造になって明確な優先順位がついているテーマが、劇中では平等に扱われ、テーマがブレた状態になっている事だ。

その為、竜の正体を探り救うシナリオの山、ヒーローとして力を行使するシナリオの山、母親の様に人助けをする事で死を乗り越え少女が前に進む山、と山場自体は多いが、尺が無い為にまとまりが無く見える状態になってしまっている。

2:「起・承・転・結」が「起・結」になっている構成

上記した様に描きたい事ファーストで、2時間の尺を使っているので、尺内でテーマの肝となる描きたいシーンを描く為に、起承転結の承をバッサリ切り捨てているのも特徴となってる。

その為、十分な前振りが出来ておらず、結果的に起承転結の転が機能不全を起こしている。

同時に承をカットしつつ、物語を結に持って行く為に、登場人物の行動やセリフが不自然となり、描きたい絵を優先した為に、他の殆どで玉突き事故を起こした様な状態だ。

  • 母の死:コーラス倶楽部の主婦5人組
  • ヒーロー:椅子の人、マドンナ、幼馴染、カヌー部
  • 竜:竜と、AIや弟

と、それぞれ本来は必要な承があって、初めてラストの関係性があり、協力を取り付けられるのだが、関係を健全に描けているのが椅子の人のみなのに、全員が同じノリで関わってくる事で視聴者は「え?」となると言うわけだ。

これはキャラクターとの関係以外に事件の解決にも関わっていて、アバターを捨ててリアルな姿で歌って受け入れられる展開や、竜を救出する方法が敵を睨みつけるだけな展開など、とにかく承が疎かになっているので突然の展開になっているので、本来なら承の部分で獲得した仲間や武器を使って解決しなければならないラストに何も用意が無いので睨みつけるだけとなってしまっていると言える。

承が無い事で上記もしたが、転が機能不全になっている弊害も大きく、実は支えてくれている主婦5人が協力してくれても突然過ぎて驚きが小さく、意外性に繋がっていない。

3:表現的な違和感

上記した行動やセリフの違和感は、作品世界に入り込む没入感を阻害している。

竜に対してベルが「あなたは誰?」と何度も聞くが、その時点でそれを気にする様な出来事は無い。

クライマックスでベルが本当の姿で泣きながら歌う事に人々が共感して涙を流すのも唐突だ。

竜がベルに心を許すのも唐突だし、劇中で起きる大事な変化やカタルシスは、みんな唐突に見えてしまう状態にある。

これは承をカットした事で起きる弊害の一つだ。

他にも、竜の痣の描写がマントにされているのも、分かりやすさ優先で自然さは二の次となっている。

4:歪な世界

とにかく悪意ある第三者をこれでもかと描いている本作は、変な所でリアリティがあり、現実よりも科学が進んでいるが、人が嫌らしく見える世界となっている。

これは主人公の置かれた状況や、主人公の性格、そして監督が感じている世界の一部でもあるだろう。

生き辛い世界だからこそ、U(劇中登場するメタバース)が提供する第二の人生が魅力的で、だからこそUの中に入っても所詮は現実と地続きで、嫌な世界が広がり続けている。

なのだが、主人公がアバターを捨てて自分としてログインすると、世界が主人公に掌を返す。

主人公のマインドが変わって見ている世界が変わったのかもしれないが、描写不足によって世界が主人公に対して優しく、都合が良い反応を突然返す様になって見える事で、世界が歪んで見えると言う事だ。

5:解決すべき問題が見えづらい

同監督のデジモンやサマーウォーズでも描かれたその他大勢による主人公への声援が力になる展開をやるには、あまりにも尺が足りておらず、その声援も声援でしか無く、問題を解決する力となっていない。

本当の姿で歌ったら、なんかみんな感動してくれた、だけに見えるわけだ。

そんな本作の解決すべき問題は、竜が抱えた問題であり、竜を救う為にみんなで力を合わせる物語の筈だ。

なのだが、竜は劇中、メタバースのアウトローで、ダークヒーローとして描かれ、抱えている問題が見えにくい。

見えやすくする為に痣のマントを羽織らされているが、例の如く承が欠けている事で、劇中の情報で竜がリアルで救うべき対象だと辿り着く展開に説得力が薄い。

6:描きたいスケールに対して事件も動機も葛藤も小さい

50億人が利用するメタバースを巻き込んでの大事件の様に描いているが、実際の事件は虐待を受けている子供を毒親から保護するだけで、世界規模の事件は劇中で起きない。

ベルと竜の凄く個人的な問題が主題となっている事で、舞台のスケールの大きさに比べて展開する内容も事件の真相への驚きも相応に小さくなっている。

7:クライマックスのカタルシスが小さい

主人公はベルとしてメタバースデビューした直後から、順風満帆に成功し力を持ってしまった。

以降は、歌によって成し遂げたい事があるわけでも無く、本当の姿を何となく受け入れられると言う事しか変化が無い。

また、先述した様に毒親を睨んで倒すと言う結末も、そこに説得力が無く、何のカタルシスも生んでいない。

8:劇中の行動と動機に納得感が小さく、メッセージ性も薄い

竜は自分勝手に暴れ、ベルは現実で歌えない歌をメタバース上では上手に歌える事で好きなだけ歌う。

問題は、その行動が、何を求めての行動かと言う話になる。

敵がメタバース上では自警団、リアルでは毒親ぐらいしか登場しない本作では、最初はトラブルに対する対処では無く、チャンスを求める行動を求められるが、主人公が歌で認められたのは強い欲望があっての事では無いし、竜が暴れるのは竜の問題解決に何も寄与していない。

自分が我慢すればと言って押さえつけられた竜の中のストレスを解放して暴れると言う設定だとしても、その設定を裏付ける設定が見えない事には、メタバース上の迷惑利用者にしか見えない。

要は、狙いや目的が無い、外弁慶に暴れまわるだけの不良少年でしかない様に見えてしまっているのだ。

登場人物が問題を解決しようとする行動こそ物語のメインテーマを紡ぎ、行動の積み重ねが物語のメッセージになる。

なのに、肝心の行動が問題の解決に繋がっていないので、本作のテーマは余計に見えづらい。

もしも、改善するなら?

本作は、個別に見ると素材も料理も悪くない。

問題は、カレー、ラーメン、焼肉を、どれかを主体にせずラーメンの焼肉とカレー乗せにする様な詰め込み方をしてしまっている点だ。

なので、手直しをする場合は、テーマの主体を一つ決める所から始めるだろう。

事故で母を亡くした少女の再生

主体をここに持ってくる場合は、水難事故で人助けの末に亡くなった母親のトラウマを乗り越える物語と割り切って全体を設計し直すと思われる。

その場合、ミッドポイントかクライマックスで、似た水難事故で人助けをしようとする存在、現設定では幼馴染が母代わりになっているが、より分かりやすく母親を想起させ主人公を立ち直らせようとするキャラクターを、成長した主人公が手に入れた凄い力と仲間との絆によって助けるとか、母親と同じ様に何かしらの状況で溺れそうな子供を助けて母親の気持ちが分かりそうになる等をメインの盛り上がりに設定する。

それを成り立たせる為の歌姫設定と、溺れそうな子供に相当する竜となり、CMで見るような美女と野獣を誤認させる表現は最低限に留めるだろう。

突然、力を手にしてしまった一般人(一種のヒーロー)

これを主体に持ってくるなら、冴えない女学生がメタバース上の有名人となって非日常の時間を過ごし、徐々に住み分けている日常が非日常に侵略される等の展開を主軸に持って来るのが一案としてある。

これが主題だからこそ、アバターの正体探しパートに、より大きな意味が湧いてくる。

恥ずかしいとか嫌だ以上の、正体がバレたら困る理由が欲しいと言う事だ。

そして、スケールの大きさが最も活きるシナリオは、恐らく、このルートだろう。

美女と野獣

美女と野獣の様に、歌姫と竜のロマンスを匂わせるなら、ストレートに美女と野獣の構造をなぞった方が良かっただろう。

竜は、なぜ嫌われ呪われた存在になり、タイムリミットまでに呪いを解かないと何が起こるのかと言う所を原動力に物語を前に転がす等出来る。

竜の行動理念や、被害者性、精神的欠点が分かりにくい事には、話に集中出来ないし、竜を愛する事も出来ない。

竜が諦めている所に、ベルが呪いを解く切欠となり、竜を呪われた存在として扱う人々が報いを受け、ベルとの絆と自己犠牲的な成長によって呪いの解けた竜は祝福を受ける方が王道に近い。

この場合、美女と野獣をモチーフに利用する部分と、あえて逆張りで予想を良い意味で裏切る展開の塩梅が重要となる。

王道は面白くしやすいが、ただの焼き直しになっては面白くない。

おわりに

改善出来るアプローチも方法も色々あるが、いずれにしても言える事は、詰め込み過ぎたまま小さくまとめるのでなく大事な部分を削ると言う決断をした事が大きな敗因だろう。

捨てる決断、分ける決断、何かしらの取捨選択をしなかった事で、本作は唐突な展開が連続する雰囲気は良いが脚本が破綻している状態となってしまっている。

そう言う意味では、テーマや要素の優先順位付けの大事さを知らせてくれる意味で、良い教材ともなり得る作品だと言える。

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