物語とは何か。
これは創作界隈では、まあまあ良く語られる問題だ。
まず前提として、「物語」の定義は、切り口や視点ごとに異なる部分がある。
理由は単純で、
- 切り口や視点ごとに目的が違う
- 観測対象が違う
- 重要視するものが違う
ためだ。
これを学問で見ると、
- 数学は「構造」を見る
- 心理学は「認知」を見る
- 経済学は「行動」を見る
- 文学は「表現」を見る
などと考える事が出来て、結果「物語」の意味も変わる。
今回は、それを学問ごとに考察してみる。
目次
文学・文芸学
人間経験の表現
一般的な定義の一つかもしれない。
- 人間の感情
- 葛藤
- 選択
- 生
等を描くもの、と言う捉え方。
ここでは、
- 文体
- 主題
- 表現技法
などが重要視される。
つまり文学において物語とは、人間を描く技術と言える。
物語論・ナラトロジー
構造物
ここでは感情より、
- 誰が
- 何を
- どう語るか
の構造が重要となる見方が出来る。
プロップやグレマス、キャンベル等が有名だろう。
これでは、どんな物語でも、
- 試練
- 帰還
などの形にパターン化してパーツを判断し、構造的な評価を可能とする。
つまり、物語は分解可能な構造体と言える。
言語学
情報伝達形式
言語学では、
- 主語
- 時制
- 因果
- 文脈
などが重要となってくる。
特に重要なのは、時間順序と因果の接続だ。
単なる出来事列ではなく、
- 「だから」
- 「しかし」
- 「その結果」
が必要になる。
つまり、意味を持った時系列と言える部分がある。
記号論
記号システム
ここでは、
- キャラクター
- モチーフ
- 色
- 演出
など全てを「記号」と捉えられる。
例えば、
- 白=純粋
- 王冠=権力
- 傷=過去
- 左右=有利不利や時間の流れ
など。
つまり物語は、記号を使った意味生成の成果物と見れる。
心理学
認知整理
人間は現実をそのまま、客観的に事実100%として理解できない。
そこで脳は、
- 原因
- 結果
- 意味
を後付けして整理する。
つまり、脳内で世界を理解するための圧縮形式こそ物語で、人生を自分の物語として語るのもこれになってくる。
認知科学
予測装置
脳は常に、次に何が起きるかを、大なり小なり予測している。
物語は、
- フリ
- 回収
- 裏切り
によって予測を操作する。
つまり、未来予測エンジンと言えるかもしれない。
神経科学
報酬系刺激
物語を見ると、
- 緊張
- 解放
- 共感
が発生する。
これは脳内報酬系と、深く関係する。
特に、
- 期待
- 不安
- 解決
の波が重要で、カタルシスが大きいほど、快感が大きくなる。
つまり、その点で見ると物語とは、脳を刺激するパターンと言える。
哲学
意味生成
哲学では、
- 人生とは何か
- 善悪とは何か
- 自己とは何か
を扱う。
多くの物語は、表現によって「何か」を共有可能な形にする。
これは、書き手の世界を共有可能な形にし、「何か」意味を与える行為である。
宗教学
共同体神話
宗教では物語は、
- 世界観
- 規範
- 禁忌
を共有するために使われる。
神話はその代表で、勧善懲悪やヒーローが物語として持て囃されるのも、この部分がある。
つまり、集団を成立させる共有幻想と言う見方が出来る。
社会学
社会的ルールの共有
社会には、
- 成功者像
- 恋愛観
- 正義
などの“社会物語”が存在する。
人はそれに従って、あるいは追い求めて、行動する。
つまり、社会を動かすテンプレートと言う側面がある。
政治学
正統性装置
国家や政治は、
- 英雄譚
- 被害史観
- 建国神話
等を利用する。
理由は単純で、人は論理だけでは動かないからだ。
これはつまり、人を動員するための感情装置として物語は使われる事があると言う事だ。
経済学
期待形成
市場は無機質な数字だけで動かない。
- 「これから伸びる」
- 「危険だ」
- 「革命が起きる」
という、物語で動く。
つまり、未来期待の共有によって、物語の一部とする事で、経済は動いている部分がある。
マーケティング
ブランド価値
商品自体より、
- 背景
- 世界観
- 理念
が売れる、と言われている。
つまり、商品に意味を付与する技術が、商品に物語を持たせる技術と言える。
法学
因果整理
裁判では、
- 誰が
- なぜ
- どうしたか
を時系列で整理する。
つまり、責任を定義するための構造として、物語は利用されている。
歴史学
過去の編集
歴史は単なる事実列ではなく、必ず、
- どこを強調するか
- 何を省略するか
が起きて、そこで内容が変わる。
過去への意味付けこそ、歴史であり、そこには物語の構造が必ず入ってくる。
数学
状態遷移
数学は、意味や感情を、基本として扱わない。
しかし、その基本的な構造を見ると、
- 初期状態
- 変換
- 結果
と言う変化は、非常に物語的だ。
証明も、
- 仮定
- 展開
- 結論
という流れを持つ。
つまり、ルールに基づく変化の記述は、構造的には物語と相似性を持っている。
物理学
時間変化
物理では、
- 状態
- エネルギー
- 相互作用
等によって世界が変化する。
これは極めて物語的な部分がある。
つまり、宇宙の状態変化は、それだけでも数学と似た物語性を持っている。
生物学
適応と生存
生物は、
- 生き残り
- 繁殖し
- 進化する
を、長い目で見れば基本繰り返す。
つまり、環境との闘争記録が、そこにあり、それを伐り出せば、それは物語性を持っている。
情報科学
情報圧縮
現実は情報量が多すぎる。
一方で物語は、
- 必要な情報だけ残し
- 因果で接続する
と言う部分を持つ。
つまり、理解しやすいデータへの圧縮が行われていて、それは情報圧縮と言える。
AI・機械学習
パターン予測
AIは大量のデータから、
- 次に来る展開
- 典型パターン
を学習し、生成する。
つまり、これは高頻度の遷移の連鎖と言うパターン模索による、模範的正解の抽出行為であり、この形は物語が持つ王道のパターンと似た部分がある。
ゲーム理論
選択分岐
ゲーム理論では、
- 相手の行動予測
- 最適行動
- 利得
が重要となる。
物語もまた、選択による結果の変化が伴う部分がある。
おわりに
こうして見てきて、学問ごとの違いはあるが、共通点もある事がなんとなく分かったはずだ。
ほぼ全分野で、
- 状態
- 変化
- 因果
- 選択
- 意味
が、物語的に見ると中核にある。
つまり物語とは「変化に意味を与え、共有可能にした構造物」と言えるのかもしれない。
また、あらゆる物の中に物語や、物語と似た構造の物がある事も、物語の理解の助けになるかもしれない。



