創作では、派手な事件ばかりがドラマになるわけではありませんし、描きたい物がそう言う物ばかりでもない筈です。
- 朝起きる。
- 学校へ行く。
- 仕事へ向かう。
- 食事をする。
- 買い物をする。
- 帰宅する。
これらは、誰もが毎日、当たり前に繰り返している日常です。
しかし、優れた作品は、こうした何でもない日常でも、登場人物によって「特別な出来事」のように描くことが出来ます。
出来事は日常でも、登場人物にとっては非日常にすれば、そうなるからです。
非日常とは、「珍しい出来事」のことではなく、その人物にとって、慣れていない出来事を意味します。
つまり、世の大半の人にとって毎日やっている行為であっても、描く登場人物にとっては、
- 初めて経験する
- 心理的な負荷が大きい
- 失敗できない
- 感情が大きく揺れる
- 十分な経験がない
等であれば、それは演出的には非日常になります。
今回は、日常を非日常として見せる演出テンプレートを紹介します。
異物が社会に紛れ込んだり、ギャグ的にダメ人間を描く時などに、大活躍のテクニックになります。
① 「初めて」にする
もっとも簡単な方法が、これです。
- 学校へ行く。
- 会社へ行く。
- 料理をする。
全部、初日なら非日常になります。
- 制服を着るだけでも緊張します。
- 教室の扉を開けるだけでも勇気が要ります。
出来事は同じでも、経験値が変われば演出は一変します。
② 絶対に失敗できない理由を作る
普段の料理でも、「今日は恋人の両親に出す料理」となれば空気は変わります。
普段の挨拶も、「これが人生最後の面会」なら意味が変わります。
行動は同じでも、失敗のコストを上げるだけで非日常になります。
また、当事者が「失敗したくない、恥ずかしい」と極端に恐れるだけでも、それは非日常的となるのです。
③ 時間制限を設ける
朝食を食べる。
これだけなら普通です。
しかし、あと三分で電車が来るなら?
違ってきますよね。
歯磨き一つでも戦いになります。
人は時間に追われるだけで、日常動作がタイムリミットのあるイベントになります。
④ 情報不足にする
- 初めて訪れる会社。
- 知らない学校。
- 知らない街。
何が正解か分からない。
どこへ行けばいいか分からない。
だから緊張します。
普段なら何でもない行動でも、知識不足が非日常感を作ります。
⑤ 他人の視線を強調する
一人で昼食を食べる。
普通なら何でもありません。
しかし、周囲全員がこちらを見ている。
そんな気がするだけでも、その人にとっては非日常的です。
- ただの昼食時間。
- 発表会の日。
- 入学式。
- 転校初日。
視線が集まるだけで、集まっている気がするだけで、日常行動は特別な行動になります。
⑥ 小さな失敗を重大事件として扱う
コーヒーをこぼした。
本来なら拭けば終わりです。
しかし、
- 真っ白な礼服。
- 重要書類。
- 好きな人の服。
など状況を変えるだけで、「こぼす」という小さな失敗ごときも、大きな影響を与え、日常が大事件になります。
⑦ 五感を細かく描く
緊張している人は、五感がマニュアルモードに寄っていくので、必要以上に周囲を細かく認識します。
- 靴音。
- 時計の秒針。
- 制服の擦れる音。
- 汗。
- 匂い。
- 喉の渇き。
普段なら無視する情報が、大量に意識へ流れ込みます。
五感を増やすだけで、緊張を共有できます。
⑧ 思考を細分化する
慣れている人は、「ドアを開ける」だけで終わりかもしれない場面も、緊張している人は、
- ノックするか。
- 右手か左手か。
- 今入るべきか。
- 笑うべきか。
- 最初は何と言うか。
など、一つの行動を何段階にも分解して考えます。
思考量が増えるほど、非日常になります。
⑨ いつもと違う一点を作る
- 毎日通る通学路。
- 毎日乗る電車。
- 毎日使う玄関。
しかし今日は、
- 誰かが待っている。
- 花束が置いてある。
- 警察が立っている。
一つだけ違和感を置くだけで、日常が特別な空気になります。
それに意味を持たせれば、物語が動く仕掛けになります。
⑩ 本人だけが重大だと思っている
世界から見れば小さなことでも、本人には人生最大の出来事だったら、それは非日常的です。
- 告白。
- 面接。
- 受験。
- 退職届。
- 初出勤。
- 卒業式。
他人は普通に生活しています。
しかし主人公だけは、まるで世界が止まったり、孤立したり、崖っぷちなように感じています。
この温度差が、強い非日常感を作ります。
共通するもの
ここまでのテンプレートには共通点があります。
それは、人物から「余裕」を奪うことです。
慣れている人は、出来事以外にも意識を向けられます。
しかし慣れていない人は、目の前の一つの出来事で頭がいっぱいになります。
だから、
- 視野が狭くなり、
- 思考が増え、
- 失敗を恐れ、
- 音や匂いまで意識し始めます。
読者は、その状態を通して「これは特別な出来事なのだ」と感じ取ります。
それが読者にとって日常的で、取るに足らない事だとしてもです。
日常を非日常にするのは、事件ではなく人物
大きな事件を起こさなくても、物語は始められます。
- 入学式。
- 初出勤。
- 引っ越し。
- 初デート。
- 親への報告。
- 友人との別れ。
どれも現実では珍しくありません。
それでも当事者にとっては、一生に何度も経験することではなく、その瞬間は強く記憶に刻まれます。
だから、読者もその緊張や期待に共感できます。
日常を非日常として描くとは、無理に日常を大げさにすることではありません。
その人物にとって、その日常がどれほど特別な意味を持っているのかを描くことです。
事件の大きさではなく、人物の経験、感情、立場、そして余裕の有無が、日常をドラマへと変えていきます。
だからこそ、優れた作品では、朝の挨拶一つ、教室へ入る一歩、玄関のドアノブに手をかける瞬間ですら、読者の記憶に残る名場面になり得るのです。
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