良質な短編ホラー集
ネットフリックスオリジナルドラマ「ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋」を見たので、感想をば。
各話感想
エピソード1/ロット36
公式引用
- <内容>
- 借金返済のため、レンタル倉庫の中身を買い取って金目の物を売りさばく事にした男。
- だが、その中に保管されていたあるものが、恐ろしい事態を引き起こす。
オカルトを信じない男が、レンタル倉庫にあった悪魔召喚の本を高値で売る為にフルセットを揃えようとする話。
強欲は身を滅ぼすって話。
悪魔のデザインが良い。
因果応報、人には優しくって話でもある。
エピソード2/墓場のネズミ
公式引用
- <内容>
- 新たに埋葬された金持ちの墓に目をつけた墓泥棒。
- 目あてのものを手に入れるため、迷路のような地下トンネルを進むが、その行く手にネズミの大群が立ちはだかる。
借金返済のため、墓泥棒をする墓の管理人が、死んだばかりの金持ちの金歯と埋葬品を狙って墓を暴くと、死体を埋葬品ごとネズミが巣穴に引きずり込んでしまって、それを奪いにネズミの巣穴を探索する話。
これも、強欲は身を滅ぼすって話。
ネズミの巣穴が思いもよらぬ場所に繋がっていて、そこで恐怖体験に襲われる。
物凄く綺麗に予想通りの結末だが、これで良いって気持ち良さ。
ネズミ嫌いな人にはトラウマシーン満載。
エピソード3/解剖
<内容>
森の中で見つかった遺体の捜査にあたるベテラン保安官は、古くからの友人である検視官に連絡をとり、一連の奇妙な出来事の真相解明を依頼する。
公式引用
主人公は検視官で、鉱山で起きた事件被害者と犯人の死体を検死する中で、恐ろしい事態に見舞われる事となる話。
直球な、エイリアンによるパラサイトの話なのだが、エイリアンVS検視官のバトルが静かながら、末期癌で余命半年の検視官が腹座り過ぎ強過ぎで意表を突いてくる。
と言うか、余命半年だからって、あの決断は普通出来ない。
バトルの結末は納得だし、綺麗な終わりで、一番好きかも。
エピソード4/外見
<内容>
人付き合いが苦手なステイシーは、職場に溶け込むためにちまたで人気のローションを試してみることに。
肌に合わないローションを使い続けるうちに、彼女の身に思わぬ変化が起こり始める。
公式引用
不条理で奇妙なタイプのホラー。
外見に自信の無いステイシーが、美肌ローションを使う様になってから肌がアレルギーで腫れるのに、脅迫観念の様にローションを使い続ける様に声が聞こえ、ローションが人型になってステイシーを誘惑してくるので、余計に肌が荒れると言う状況に置かれ、現実か妄想か曖昧な状態で、ローションが効くと信じるステイシーが生まれ変わろうとする話。
剥製作りが趣味のステイシーには、あるがままのステイシーを愛してくれる良き夫がいるが、ステイシーは夫よりも職場に溶け込みたい強迫観念から狂っていく。
非情に気持ち悪い終わり方。
ちょっと考察
劇中、前半でステイシーは自ら生物を殺し、剥製にして飾ると言う趣味が描かれている。
職場の同僚に手製の剥製をプレゼントした事でドン引きされていたが、ステイシーにとって剥製作りと言う行動は日常の一部である。
これは、ステイシーにとって自身も含めてタイトル通り「外見」が重要と言う事を表している。
剥製と言う外見のみだろうと美しい存在こそ、ステイシーにとっては実は理想なのだ。
後半、ローションで美しくなって職場の同僚に溶け込みたい強迫観念で狂ってしまったステイシーも、職場の同僚の様にだけでなく、剥製の様に自身の外見を美しくしたいわけだ。
そんな彼女の手によって、愛してくれた夫が殺され剥製にされてしまうと言う衝撃展開があるが、実はステイシーにとっては日常の延長にある感覚なのかもしれない。
夫はステイシーが狂うまではステイシーのあるがままを受け入れていた。
ステイシーと折り合いをつけて生活をしていたが、実は、外見に対して異常な執着を持っていたステイシーにとって、性格だろうが内臓だろうが、中身は実は重要では無い。
そんな彼女を見抜けなかった夫は、本性を表したステイシーによって剥製にされ、ステイシーは美しい外見を手に入れ、美しい外見の職場の同僚に溶け込み、求めてやまなかった外見だけを整えていった。
そう言う意味では状況的バッドエンドだが、ステイシー的にはハッピーエンドだ。
だが、あの世界観の中で唯一本当にステイシーの中身を愛して心配してくれていた夫の中身だけを捨てたステイシーにとっては、外見だけが整った剥製の様な空虚な世界が完成したに過ぎず、狂ったステイシーも何かが間違っている事に本心では気付いているからこそ、ラストの複雑な表情の笑いが出たのでは無いだろうか。
「外見」と言うエピソードは、外見に執着する故に剥製好きなステイシーが、性格最悪だが剥製の様に外だけ美しい同僚に溶け込む為に自身の外見を剥製の様に美しくする為にローションを求め、自身は剥製の様に美しい外見を手に入れ、それを邪魔した夫を剥製にして邪魔をしない夫に変え、外見だけが整った剥製の様な中身に詰め物が詰まった人生を手に入れる物語と言える。
一見すると不可解、不条理、理不尽な物語だが、外見に取りつかれた女が狂う物語と考えると色々見えてくる。
エピソード5/ピックマンのモデル
<内容>
リチャードという内向的な男と出会い、その恐ろしい絵に心ひかれた美術学生のウィル。
だがやがてその絵は、ウィルの現実感に多大な影響を及ぼし始める。
公式引用
呪われた家系のリチャードという男が描いた絵が呪われていて、それを見たウィルの人生が狂っていく話。
気持ち悪い絵が動いて見える演出が素敵。
呪いの絵の影響を受けた周囲が狂っていく様が怖く、予想も期待も裏切らない綺麗なバッドエンド。
エピソード6/魔女の家での夢
公式引用
- <内容>
- 死別した双子の妹と再会する事だけを願って生きてきた研究員は、特別な薬の力を借りて、妹の魂が存在するかもしれない不思議な世界に足を踏み入れる。
死んだ妹との再会を願っていた兄が、薬の力で異世界で妹の魂と再会出来るが、そこは魔女が支配していて、魔女のいる世界から妹を救い出そうとする話。
ハッピーエンドで終わると言う予告をして始まるが、ハッピーエンドの定義を問いたいバッドエンド。
恐ろしい魔女が思ったよりもザコなのは意外だったが、ネズミ男が厄介でもっと意外。
エピソード7/観覧
<内容>
謎めいた大富豪の邸宅に招かれた、それぞれが異なる才能をもつ4人の男女。
一生に一度の経験が出来るという話だが、彼らの好奇心が恐怖へと変わるのにそう時間はかからなかった。
公式引用
謎の大金持ちに集められた様々な分野の専門家、学者、小説家、超能力者、音楽家の4人が、大金持ちが手に入れたと言う謎の奇妙な形の石の調査を頼まれる話。
石は隕石らしいが、あらゆる測定検査を受け付けずに詳細が一切分からないが、音楽家が大麻の煙を石に誤って吸わせてしまい、石が割れて中から出て来た怪物に次々と人が殺されていくモンスターパニック。
人が溶けたり、弾けたり、乗っ取られたりと、ちょっとグロい。
エピソード8/ざわめき
<内容>
大きな悲しみを抱えながら、調査旅行に出た鳥類学者のナンシーとエドガー。
周囲に何もない一軒家で寝泊まりをすることになるが、その家にはつらくて恐ろしい歴史が隠されていた。
公式引用
鳥類学者の夫婦が、なぜか鳥が集まる古い家で鳥の鳴き声を録音したり調査していたら、声が聞こえたり怪奇現象が起き、妻のナンシーだけが気付いていく話。
家の前の住人の幽霊やら、亡くした娘のエヴァの幻覚やら、ナンシーの鼓膜と視覚にダイレクトアタックをかましてきて、エドガーにはノータッチなので心霊現象の遭い方としては嫌らしい。
8エピソードの中で唯一のハッピーエンド。
終わりに
1話1時間の短編集だが、各話それぞれに味があって、けっこう面白かった。
ホラーとか、デル・トロ・ワールドが好きなら楽しめる筈。
8エピソードの中では「解剖」が好きだったかなぁ。
ホラー作品としては検視官が超々有能で、普通のホラーに出ると話を成立せなくさせるタイプのキャラで、地味ながら格好良かった。
短編ならでは、だね。