ガチで、吐き気をもよおす邪悪
ネットフリックス配信ドラマ「ダーマ― モンスター:ジェフリー・ダーマ―の物語」を見終えたので、感想を。
連続猟奇殺人鬼が主役の物語だけあって、グロと胸糞展開テンコ盛りの、良いドラマ作品でした。
あらすじ
ゲイバーで引っかけた男に「金を払うから写真を撮らせて欲しい」と、いつもの様に部屋に誘い込んだジェフ。
しかし、部屋を包み込む謎の悪臭と、ジェフリーの只ならぬ雰囲気、刃物を突き付けられた事から隙を見て男が逃げ出してしまう。
ジェフの部屋に男が呼んだ警察が男と共に来ると、そこからは大量の死体が見つかる。
抵抗虚しくジェフは逮捕され、事件が明るみに出る事で、様々な見えていなかった事実が次々と明るみに出始める。
マジで救いようが無い怪物
劇中、ジェフリー・ダーマ―が逮捕されて物語が動き出すが、過去を振り返る形でジェフの原体験や家庭環境等も描かれる。
そこには、誰もが身近さを覚える様な、対人関係が下手で思い込みが激しい子供がいて、親が喧嘩ばかりしている家庭環境があって、幼いジェフが恵まれたとは言い難い環境で育った事が描かれている。
興味を示したと言う事で生物の解剖や剥製作りを父親に教えられたり、大きくなって行き場が無くなったからと軍隊に入れられ医学知識を得たり。
後の連続殺人事件に繋がる因子とでも言えそうな切欠が描かれるのだが、それが原因で殺人に手を染めたと言う訳では無く、それは殺人を効率的にして、事件を肥大化させた一因に過ぎないと言う風に描かれている。
ジェフは、子供の頃から思い込みが激しく、感情的で、嘘つきで、自己中心的なのだが、周囲の人々の前では気の弱い青年を演じつつ、時々空気の読めなさと共に狂気が漏れだす、そんな人物として描かれている。
普段気弱に見えるが、一度キレさせれば何をするか分からないと言うタイプだ。
そして、自己中心的であるが故に思い通りにならない事に対して、諦めや、周囲への責任転嫁によって、鬱屈とした日々を過ごし、更に、同性愛に対して風当たりが強い時代にゲイだった事で、家族との間に言えない秘密を抱え、否定し拒否され続ける事で、社会不適合に拍車がかかっている。
ジェフの環境は程々に悪く、ジェフを立て直そうとした父親の判断がことごとく裏目に出て、そこに自己中心的な性格が加わり、個別では大事件に繋がらないモノが、負のピタゴラスイッチが上手にハマり込む事によって、ジェフを着々と怪物へと育ててしまう。
そんなジェフだが、逮捕時には自分は死刑になって仕方が無いと語っているが、本質的に反省と言う物をせず、出来ないまま淡々と自己中心的な言動を最後まで貫き通す。
その姿勢によって、個人の資質や環境が幾重にも合わさって生まれた怪物と分かっていても、ジェフに対して同情の余地は驚くほどに無い。
本当に救うべき人は、救いたい姿をしていないと言う理論がドンピシャな、父親が必死に救おうとした結果、最悪の化物が生まれたと言う皮肉な状況は、父親目線だと気分が悪くなるだろう。
怪物を助長させた環境
劇中でもシッカリ目に描かれるが、ジェフが一見無害そうな白人だった事と、被害者がアジア系や黒人ばかりで、当時のアメリカが人種差別が根深かった事で、問題が大きくなっている状況は、グロテスクだ。
ジェフは何度もミスを犯し時に逮捕までされているのに、最後に逮捕されるまでは殺人罪で捕まらずに済み、通報されても黒人が多く住む地域だった事で近隣住民からの通報が無視され、被害が延々と拡大していった事実があり、それは当時は社会問題にもなっている。
だが、その環境を産み出した人々、主にアメリカの警察官が差別的な上に力を持っている事で、問題を大きくするのに貢献した警察官達は軽い処分で済んでいる。
ジェフの犯行は最悪の行いだが、ジェフは懲役900年で刑務所に入り、獄中で他の囚人によって撲殺される事で、ある意味で罪の清算を強制されている。
しかし、ジェフを野放しにした警察官達は、落ち度をまるで自分が被害者の様な態度で認めず、軽い罰で許されている事で、ジェフ以上にヘイトが残る存在となっている。
最終的に、ムカつき度は相当高い。
近隣住人や被害者
本作は、ジェフ以外の視点でも事件を掘り下げられるのだが、近所のオバチャンが、一貫して真面で良い人として描かれていて、本当に不憫である。
事件現場のアパートが取り壊された後に期待した物が作られなかったりは被害者が勝手に言っているだけなので仕方が無いのかもしれない。
だが、事件が落とした影の濃さが半端じゃ無く、当時はどうする事も出来なかったとしても、置かれた状況があまりにも辛い。
ジェフが逮捕されても死んでも、スッキリしないまま、喪失感やトラウマが一生消えない人生が待っていると考えると、救いが無さ過ぎる。
加害者家族
ある意味で原因の一因となってしまった父親や母親、そして祖母が中心で描かれるが、こっちも被害者とは別ベクトルで辛い。
特に、父親は、諸にジェフに悪い影響を与えた事が確定的なので、間接的に関わってしまった感がヤバイ。
それでも、17人を殺して食べると言う愚行を犯した息子を最後まで愛そうとした父親は、歪んでいる部分はあるかもしれないが、父親としては善い人になろうと努めた様に描かれ、作中の中では、同情の余地があるし、魅力的な部分がある人物として描かれている。
被害者を逃がす事に成功したお婆ちゃんとか、時々ファインプレーをする物の、マネキンを捨てたからジェフがホンモノを求めてしまったと考えると、切欠の一つと言うか、被害者を増やす事にも貢献してしまっているから、なんとも辛い。
お婆ちゃんも、ジェフを自分の価値観で真面な人間にしたかっただけで、その点では、微妙な役どころだし、いやはや。
トニーのエピソード
オチをある意味で知っている上で見ていても、もしかしたらと期待させるトニーのエピソード。
耳が聞こえないゲイの青年で、モデルを目指し、男遊びをせず真実の愛を捜していると言う人物なのだが、劇中ではトニーの善性によってジェフが人生で父親以外から初めて愛を感じ、変われそうな予感を示す。
その時点で既に連続殺人の快楽に溺れているジェフは、殺したい欲求に必死に抗い、一度は睡眠薬や隠し持ったハンマーを収め、普通の恋人の様な態度を見せる。
しかし、最後には欲求に抗えず……
全10話の中で、被害者を入念に描く事で、絶望感が特に大きいが、無音の世界や構成上の見せ方が上手く、よく出来たエピソードであった。
綺麗に、皮肉な結末だが……
ジェフは、お婆ちゃんに何度も教会に誘われるが、悪魔崇拝の方に興味深々で、コミックのエド・ゲインに影響を受けたり、教会の事はお婆ちゃんの態度と共に好きでない。
なのだが、最終話で殺人ピエロのジョン・ゲイシーが信仰に目覚め救われた事を聞いて、ジョンの処刑日に、皆既日食をバックに洗礼を受ける。
そんな出来過ぎた話あるかって言う、まるで魔王誕生的な演出でジェフは罪を許され楽になろうとするが、最終的に同刑務所にいる敬虔なキリスト教徒の囚人によって「許されるわきゃないだろ」と、苦しむ様に撲殺される事で人生に幕を下ろす。
洗礼を自己中心的な「許されて楽になりたい」と言う理由で行ったのを切欠に、それが原因で撲殺されると言う結末の皮肉さは、助走がしっかりして「こいつが殺すんだろうな」が分かる形でお膳立てされ、非常に綺麗な物。
なのだが、本編は終わらず、父親と母親によるジェフの脳味噌を火葬するか研究機関に寄付するかの争いに延長し、火葬に落ち着くのだが、どこまでも歯切れが悪いと言うか、実話ベースの話と言う事もあり、区切りにどれもスッキリ感が無い。
終わりに
ドラマとしては、非常に良く出来ていたし、大変楽しめた。
グロ描写が一部きついが、スプラッタとかゴアよりも、嫌な想像をさせる方向での見せ方の上手さの方がきつさをアップさせているだろう。
人肉調理とかが、食事中に見たくない感じ。
とは言え、内臓とか解体とか溶解とか生首とか、気分悪くなる描写は満載だし、基本的に胸糞展開の連続なので、見る人は相当選ぶ作品と言える。
主人公が、バカなサイコパスだが、行動力と周囲の愚かさに助けられて大犯罪者みたいになってしまったと言う感じなのだが……
知れば知るほどに、食人鬼と恐れられたカリスマ連続猟奇殺人鬼の魅力が”削がれ”ていき、ジェフリー・ダーマ―と言う冴えないクソ野郎が顔を覗かせてくるのは、アイドルやアイコンと化したジェフリー・ダーマ―を、ドラマ作品の主役にすると言うコンテンツ消費をしつつ、その表面を覆っていた虚構の仮面を引っ剥がそうと言う姿勢が見え、そう言う意味でも良い殺人鬼主役ドラマだったと感じた。
学校、職場、ゲイバー、刑務所、あらゆる場所で「あいつ空気読めないし、ヤバいヤツだから近寄らんとこ」って扱いや出禁を周囲から受けるが、大体自業自得と言う人の生き辛さは、見てて辛い以上に「こんなヤツいたら近寄らないだろ普通」しか感想が出て来ないのと同時に「知り合いに心当たりがある」って、誰もが感じる属性だ。
なので、ジェフが特別と言うよりは、誰もが負のピタゴラスイッチがハマり、殺人の初体験に成功してしまったら、ジェフの様になる可能性を秘めていると見る方が、メッセージ的には自然だろう。
ジェフは特別で、生まれつき狂っていて、そこに危険な性質が乗って軌道修正しないまま怪物となったのでなく、どこにでもいる普通の範疇に入る「生きるのが下手な人」の誰もが、こうなる可能性が実は、あると言う話だ。
その人達とジェフに差があるとしたら、殺人に発展する手段で問題を解決しようと言う発想の有無だろう。
ジェフは、一貫して「自分の思い通りになる他人」を求め、最終的に人の頭にドリルで穴をあけて酸を流し込んで脳を破壊するオリジナルロボトミー手術をする事により、思い通りになるゾンビ人間を作ろうと実験していた。
普通の人は、他人が思い通りにならない事を受け入れ相手に合わせて自分も動くか、言葉や力や金等で従わせる事を覚えるものだ。
ジェフほど突飛な事をせずとも、他人が思い通りにならない事にイラついている人は、世の中大勢いるだろう。
その中には、未来のジェフがいる可能性は、大いにある。
その人を将来ジェフにするのは、本人だけでなく、周囲の環境が重要だ。
きっとジェフに必要だったのは、他人が思い通りにならない事が自然で、思い通りに動かしたい時はこうすれば良いと言う当り前の事を教えてくれる、ジェフ個人を見てくれる存在との殺人前の出会いだろう。
繰り返すが、ドラマ自体は人を選ぶが面白かった。
実在の殺人鬼の人生に興味がある人は見てみよう。
この記事だけだと語り切れないぐらい、他にも色々と描かれ、考えさせられるドラマである。
そういえば、シーズン2の制作決定って、別の殺人鬼って事?
ちなみに↓は、劇中でも登場した、ジェフの父親であるライオネル・ダーマ―の翻訳本。
プレミア価格になってるね。



