スクリプトドクター視点・構造診断
導入
本作は完成度が高い。
結末には賛否両論あるだろうが、大ヒットした事実は間違い無く、クライマックスまでは多くの読者が間違い無く楽しんでいた。
にもかかわらず、
・話がブレて感じる
・焦点が定まらなく感じる
・軸が掴みにくく感じる
等と、感じられる事があります。
これを脚本の弱さとか、練り込みの甘さと捉える向きもありますが、ちゃんと読み方が分かると、そこには一貫したルールが見えてきます。
本記事では、その構造を分析し、解読していきます。
記事はnoteの方にもあるので、どうぞ。
https://note.com/monogatarukoubou/n/nf0afe5034347?sub_rt=share_pb
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第1章:おもしろい設計思想
本作の特徴の一つに、主人公が物語の中心にいないことが、結構多い事があります。
通常の物語は、主人公=物語を動かす装置である事が多いです。
しかし本作で主人公は、物語の中心から外れても、物語が進む様に設計されています。
つまり、主人公は、物語を主体的に進める役だけではなく、全体的に見ると俯瞰して状況の意味を読む役、つまり語り部や狂言回し、あるいは舞台装置です。
ここが、主人公が選択し行動し物語を切り開く、いわゆる普通の作品と違ってきます。
主人公は愛する人を殺した真犯人を追い事件を終わらせる事を一貫した目的としていますが、それだけだと本作は事件の謎を追うだけで終わってしまいます。
そこで、謎を解き明かす為の情報を手に入れる為に、芸能界に入って情報を探る中で、副次目的として様々なエンタメに関わり、物語的には必須では無い問題を解決しようと介入していきます。
第2章:作品のメインが物語のサブと言う構造
通常の脚本は、主人公の選択→メインストーリーでの状況変化、という因果で主に進みます。
しかし本作では、
事件は、メインストーリー外から発生します。
・業界構造
・他者の欲望
・社会の視線
が先に動き、主人公は、メインストーリーを進める為と言う理由で、それを一旦解析する側にいます。
この構造では、物語の進行は強いのに、主人公主体の推進力が弱く感じられるわけです。
要は、面白い脱線こそが作品的にはメインの部分があり、メインストーリーを真面目に追ってしまうと気になる部分が出て来てしまうわけです。
第3章:この作品の本当の主役
本作の主役は、ある意味で特定の人物ではありません。
描いているモチーフが持つ構造そのものと言えます。
具体的には、
・芸能界の消費構造
・ファン心理の再生産構造
・虚像の流通システム
等こそが、物語の中心にあります。
登場人物は、その構造で立ち回り、通過していく存在として置かれています。
つまり本作は、人物ドラマであると同時に、芸能界と言う社会構造ドラマと言えるでしょう。
ここを大きく読み違えると、物語が散漫に感じられるわけです。
第4章:なぜ違和感が生まれるのか
大抵の視聴者は無意識に、主人公の意思が世界を動かす物語を期待します。
しかし本作では、世界の構造があって、その上を人物が動いていきます。
ここの認識が、特定の人物こそ主体と傾いていると、
・軸が見えない
・話が拡散している
という印象を生みます。
しかし実際には、物語の軸は最初から一貫しています。
それは、例えば、虚構がどのように消費されるかみたいな物です。
テーマとして、一貫した物が見えると、ビターエンドだとか、メインストーリーの詰めが気になるとかにも、見えてくる部分があります。
結論:この作品の正体
本作は、主人公の復讐劇であり、ヒロインの成長譚でもありつつ、その実はエンタメ業界の構造を裏表で暴露し皮肉った作品みたいに言えるでしょう。
主人公が変わっていく物語と言うよりは、世界の構造が人物を変えてしまう物語です。
この設計を理解すると、本作はむしろテーマに真摯に向き合った結果である部分があると分かります。
キャラクターが愛され過ぎてしまった事で、世界の構造が人物を変えてしまったと言う帰結よりも、純粋にハッピーエンドを望むファンが増え過ぎた事が本作の予想していなかった誤算、だったのかもしれません。



