物語を作る時、多くの人はまず「面白い設定」や「魅力的なキャラクター」から考えます。
- どんな世界なのか。
- どんな能力があるのか。
- どんな敵が登場するのか。
それらは確かに重要です。
しかし、設定を増やしても物語が動かないことがあります。
その原因は、物語を「要素の集合」として作ってしまい、「価値を生み出す仕組み」としての設計を、していない、出来ていないからです。
企業が商品を作る時、単に性能の良いものを作れば成功するわけではありません。
重要なのは、
- 誰に提供するのか。
- どんな価値を提供するのか。
- どんな仕組みで届けるのか。
- その結果、何を得るのか。
という構造です。
これはビジネスモデルの基本ですが、物語を商品として見れば物語作りにも十分応用できます。
なぜなら、物語もまた「価値を提供する仕組み」だからです。
ビジネスが顧客の問題を解決する仕組みなら、物語は登場人物や観客の中にある問い、感情、欲求に対して変化を提供する仕組みです。
つまり、
- ビジネスモデル=価値交換の設計図
- 物語モデル=価値変化の設計図
として考えることができます。
目次
第1階層:「誰に価値を提供するのか」
まず考えるべきなのは、「この物語は誰に向けたものなのか」ということです。
ビジネスでは、顧客を決めるところから始まります。
- 高齢者向けの商品なのか。
- 若者向けの商品なのか。
- 企業向けの商品なのか。
対象によって必要な価値は変わります。
物語でも同じです。
ただし、物語の場合、「顧客」は二種類あります。
1. 劇中の顧客
つまり、変化を受け取る登場人物です。
主に主人公になります。
主人公は、
- 何を必要としているのか。
- 何に困っているのか。
- 何を失っているのか。
ここを明確にします。
例えば、「世界を救う勇者」という設定だけでは、物語の基本設定こそ分かりますが、まだ曖昧です。
必要なのは、「なぜ、この人物が世界を救う必要があるのか」みたいな具体性です。
- 故郷を失ったからなのか。
- 罪を償うためなのか。
- 守りたい人がいるからなのか。
主人公の欠落や欲求が決まることで、物語の対象が決まります。
2. 現実の顧客
これは、つまり観客や読者です。
物語は主人公だけのために存在しているわけではありません。
主人公を通して見る物語は、読者や観客にも価値を提供しなければなりません。
例えば、
- 非日常を体験したい
- 感動したい
- 問題解決の快感を得たい
- 人間理解を深めたい
- 自分の悩みを重ねたい
など、色々な機能、そして価値があります。
同じ「冒険物語」でも、
- 爽快な勝利を楽しませたいのか。
- 苦難を乗り越える感動を届けたいのか。
- 人間関係の変化を通して何かを見せたいのか。
目的によって構造は変わります。
つまり物語設計では、「主人公が何を求めているか」だけではなく、「読者は何を受け取るのか」も考える必要があります。
第2階層:「どんな価値を提供するのか」
対象が決まったら、次に考えるのは価値です。
ビジネスでは、「顧客のどんな問題を解決する商品なのか」を考えます。
物語では、「主人公や観客にどんな変化を提供するのか」を考えます。
主人公への価値提供
主人公には、物語開始時点で、何らかの欠落があります。
それは、能力不足とは限りません。
- 社会的な欠落かもしれません。
- 人間関係の欠落かもしれません。
- 精神的な欠落かもしれません。
こういった欠落を、選択と行動の末に埋める、埋めようとする行程を見せる事が物語には、必須です。
その上で、練られた物語の多くは、表裏一体の設定が練られていたりします。
表面だけでは途中で予想が出来ますが、裏面があると先を読み切る事が難しくなります。
例えば、表面的な目的として「敵を倒したい」があったとして、その裏側にある本質的な目的として「自分を許したい」とか「誰かを守りたい」みたいな構造があるとします。
そうすると、主人公が劇中で表面的に求めているものと、表面的には目立たないが本当に必要としているものが重なっているが少し違う状態になります。
欠落を成長によって埋めるとは、この場合は、敵を倒せる様になる事が表面にありますが、実際は裏に、自分が許されるだけの罪滅ぼしを完遂出来る様になる事や、守りたい人が幸せに生きられる状態に世界を変える等が必要となってきます。
観客への価値提供
観客にも、物語を見る事で価値を得られる理由が必要です。
例えば、
- 謎が解明される快感
- 勝利を見る爽快感
- 人間関係が変化する感動
- 世界を知っていく楽しさ
- 哲学的な問いへの答え
など、実に多彩です。
物語とは、事件を起こすことではなく、その事件によって何らかの価値を届けることが重要で、それが設計されていないと、あると思って作ってみたが抜けているなんて事があり得ます。
第3階層:「どんな仕組みで届けるのか」
価値は存在するだけでは、なんとなくアピールしたぐらいでは中々届きません。
ビジネスでは販売経路があります。
- 店舗なのか。
- インターネットなのか。
- 営業なのか。
- 口コミなのか。
物語にも届け方があります。
それが主人公へは構成であり、観客へは市場やメディアの選定です。
主人公を運ぶ構成
例えば同じ設定でも、
- 「主人公は元英雄だった」と最初に説明する場合。
- 「村で静かに暮らす人物」として描いた後、過去を明かす場合。
読者が受け取る印象、そして価値も変わります。
物語では、何を描くかではなく、いつ、どの順番で、どの方法で届けるか、も非常に重要になります。
届ける手段には、
- セリフ
- 行動
- 戦闘
- 日常描写
- 回想
- 謎
- 象徴的な出来事
等があります。
構成とは、無暗に情報を隠す技術ではありません。
物語を消費する際、提供情報の価値が最大化される順番に届ける為の設計です。
物語を運ぶ媒体
どんな作品で、誰が興味を持ち、価値を受け取った際に価値が最大化するか。
それが分かっていても、媒体選びをミスる事は良くあります。
媒体選びで重要なのは、媒体を徹底的に知る事です。
例えば、漫画雑誌の掲載を目指すなら、掲載したい漫画雑誌を徹底的に好きになり、知り尽くしましょう。
映画でもSNSでも投稿サイトでも同じです。
媒体を好きになれば、媒体に合った形に物語を自然に整える事も、そこまで苦ではない筈です。
第4階層:「何を得るのか」
最後は結果です。
ビジネスでは利益であり、物語では報酬です。
しかし、物語の報酬は単純ではありません。
主人公が見せる変化
主人公が得るものには、
- 財宝
- 地位
- 名誉
- 仲間
- 真実
- 自由
- 許し
- 自己理解
等々があります。
重要なのは、上で触れたように、最初に欲しかったものと、最後に必要だったものは違ってもいいということです。
むしろ、その違いが物語に深みを与える事も多くあります。
- 復讐を求めた人物が、未来を選ぶ。
- 名誉を求めた人物が、大切な人との関係を選ぶ。
- 力を求めた人物が、力以外の価値を知る。
この変化、精神的な成長によって、物語のメッセージ性が強まります。
観客の感情変化
物語とは、感情変化装置の側面があります。
つまり、主人公を通してジェットコースターみたいに感情を上下させられる事こそ、物語によって得られる価値の大部分と言えます。
- 主人公を通した成功によって、全能感や課題クリアの快感を感じる
- 大事な人に守られて死なれ失意と感謝、尊さを感じる
- 死人と再会して伝えられなかった言葉を伝えられ報いや救いを感じる
- バカな選択と行動の末に痛い目を見るのを笑って見る
どんな感情変化の仕掛けが物語にあるか、この設計は、かなり重要になります。
ビジネスモデルキャンバスから見る物語設計
ここまでの4階層を、さらに細かく分解するとビジネスモデルキャンバスと対応も、恐らく出来ます。
| ビジネスモデル | 物語モデル |
|---|---|
| 顧客セグメント | 主人公/観客 |
| 価値提案 | 主人公の変化/読者への体験 |
| チャネル | 構成・演出・情報提示/媒体 |
| 顧客関係 | キャラクターの変化/感情の変化 |
| 収益 | 主人公が得る報酬/ |
| 主要リソース | 能力・経験・仲間・設定/ |
| 主要活動 | 主人公の行動/ |
| 主要パートナー | 仲間・協力者・敵/ |
| コスト構造 | 犠牲・代償/ |
つまり物語全体は、
- 「誰かの問題を発見し」
- 「価値ある変化を設計し」
- 「適切な方法で届け」
- 「変化した状態を獲得する」
という構造になると言えるでしょう。
設定作りの前に、物語の価値モデルを考える
設定は物語の材料です。
しかし材料だけでは料理にはなりません。
必要なのは、材料を使って何を届けるのかという設計です。
物語を作る時は、「どんな世界にするか」だけではなく、
- 「誰に」
- 「どんな価値を提供し」
- 「どんな仕組みで届け」
- 「何を得るのか」
等を考える事も重要です。
これらを明確にすると、キャラクター、事件、世界観、結末が、物語の内外で同じ方向を向き始めます。
誰かの不足に対して、フィクションの中で価値ある変化を起こし、その変化を、不足している人が受け取り、不足を埋めたり、そのヒントを得る、そう言う仕組みと見る事が出来れば、物語を見る人を無視して創作する事は出来ないでしょう。
まあ、あくまでも試みですので、この記事の続きは、またそのうち興が乗ったらと言う事で。
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